表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金の魔女と銀の娘  作者: YoShiKa
1.金の魔女
1/123

●金の魔女



*



 人も動物も関係ないわ。



 だって、あなた達、みんな死んじゃうでしょ?



*






 その女──魔女は、まるきり少女のようだった。


 頼りない薄い体つき。ほっそりとした手足。発育途中らしい腰のライン。

 人形のように整った顔立ちは、あどけなさを残している。

 唇は、薄らと色付いた桃色。まだ、なだらかで幼げな膨らみを帯びている頬。

 年端もいかない少女そのもの――それが、テオドールが魔女に抱いた最初の印象だった。


 薄い身体が纏う白いワンピースが返り血に塗れてさえなければ、彼は眼前の少女を異端だとは思わなかっただろう。

 風に揺らぐのは、赤々と染まったワンピースの裾だけではない。

 斜陽を受けて美しく染まる金。腰にも届くほど長いその髪が、さらさらと揺れては落ちる。


『――あなた、何に怒っているの?』


 薄く色付いた唇から奏で出されるのは、見た目に反することのない少女らしい高い声だった。まだ甘くて不安定で、無邪気さを残している。しかし、口調に幼さは感じられない。

 テオドールは何も声を返さずに、僅かな違和感に対して眉を寄せた。


『あなた達が花を手折ることと何が違うの? あなた達が獣の皮を剥ぎ、魚を食べるようなものだわ』


 金色の瞳を細めて笑った少女は、生々しい血が滴る手を持ち上げた。

 つい今し方まで生きていた身体から溢れた赤色だ。

 口の中を切ったのかと思うほど、生臭い鉄のニオイが鼻につく。


 少女は、魔女は、ただ穏やかに微笑んだ。


『あなた達だって、人を殺すでしょ? 戦争や懲罰やあだ討ちだ――理由なんて、いくらでも作ることが出来るわ。同じことよ』


 少女がゆっくりと腕を振るう。その動きに応じて飛び散った赤色が、周囲に落ちた。

 ひと瞬きの間に、少女が纏うワンピースに純白が戻る。

 ほっそりとした手も、赤に染まるどころか濡れてさえいない。

 一歩を踏み出したその足先が捉えたのは、地面ではなく空中だった。まるで見えない階段を踏んで進むかのように、少女は易々と空を歩く。


『私ね、退屈していたの』


 空中を歩く少女は、他愛のないことのように告げた。

 それこそ、まるで森で花を摘む理由を述べているかのようだ。

 テオドールは、先を失った剣の柄を握り締めた。


『だから、この村でひとりだけ残してあげるのよ』


『追いかけてみて』


『これはお遊び』


『あなたと私の鬼ごっこよ』



 剣の柄が、手の中から滑るように抜ける。

 乾いた音を立てて地面に落ちる音が耳に届くものの、テオドールは動けない。

 今まさに、家族の敵が消え去ろうとしているのに、足裏は地面に縫い付けられたかのようだ。

 動けない。動かない。


 空中で小さく跳ねた少女は、まるで白い煙となって消えたかのように、その姿を掻き消した。


 それはひと瞬き──たった一瞬の出来事だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆評価、ブックマーク、感想など、励みになります!◆ ◆よろしければ、下の★から評価を入れて頂けると嬉しいです◆

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ