狂愛 side.Y
最近不安に思うことがある。
彼女……小野寺紗耶は本当に私のことが好きなのか。
なんでだろう。前までは彼女の好きという言葉が飛び上がるほど嬉しくて、毎日が楽しくて仕方が無かったのに。
夢から一気に覚めたような、そんな感覚。
私が無理やり彼女にそう言わせているだけで、彼女の本心ではないのではないか、という不安。
思い返せば全てが強引であった。
高校二年生の時に彼女を好きになり、一度は振られ、距離を置かれたものの、諦めきれずにずっと執着に彼女のことを追っていた。
私と離れた後の彼女の人間関係、高校卒業後の生活。全て知っていた。
あの駅前での再会も偶然のことではない。
家が近いのも、全て計算されたものであった。
偶然に見せかけた、必然。
彼女と私はこうなる運命であった。
いや、そうなるように私が仕向けた。
彼女を私だけのものにできた時はとても嬉しかった。彼女が私だけを見てくれる。私だけに好きだと言ってくれる。それで充分だった。それで満足だった。
けれど最近、それだけでは満足できなくなっている。人間の欲というのは本当に底が知れない。
彼女の心までもを私のものにしなければ気が済まない。
これは、賭けだ。
命懸けの、賭け。
勝っても負けても私は死ぬ。
もし、賭けに勝ったとしたら。それ以上に幸せなことは無い。その瞬間、私はこの世界の誰よりも幸せになれるだろう。
もし、負けたら。それは仕方の無いことだ。今まで自分のしてきたことを考えれば負けるのが当然。その時は、負けを認めて潔く死のう。
そんなことを考えながら家に帰った。彼女の待つ家に。
彼女に問う。
「私と一緒に死ねるか。」と。
彼女は「死ねる。」と答えた。
予想通りの答え。彼女は私の言うこと全てに同調する。そんな言葉ではもう満足できない。
その後、一通りのコトを済ませた。
絶頂に達し、意識が途絶え、スヤスヤと気持ちよさそうに眠る彼女の首の首輪を外す。
翌朝、それに気づいた彼女はやはり困惑していた。
彼女は私に言われるがまま、出かける準備を済ませ、手を引かれるがまま、私についてくる。
私が今立っているのは崖の縁。
勝負の時だ。
「ここに来ても、この状況でも、私と一緒に死ねるって言える?」
と彼女に問う。
正直な所、負けると思っていた。
けれど彼女は、自由になった身で、この状況で、彼女を散々ひどい目に合わせた張本人の私に対して、スラスラと愛の言葉を述べた。
驚いた。
予想外の結果に私は何も言葉が出てこなかった。
好き。やっぱり私は彼女のことが好きだ。
やっぱり私だけのものにしたい。ずっと一緒にいたい。
そんな気持ちを込めて彼女の名前を呼んで両腕を広げた。
彼女は勢いよく飛び込んできて、そのまま、落ちた。真っ逆さまに。
2人で抱き合って、キスをして。
賭けだとか、勝負だとか、私はバカバカしいことを考えていたんだ。
彼女は私のことを愛していた。
こんなに幸せなことはない。
私は今この世界で一番幸せだ。
真っ逆さまに落ちていく中、最後に彼女に
「紗耶ちゃん、愛してるよ。これでずっと一緒だね。」
そう伝えた。
私は本当に幸せだった。
私は彼女を愛していた。
そして私は愛されていた。
確かに、彼女に、愛されていた____
涙が、一つ、零れた。