別愛
彼女と仲良くなるまでに時間はかからなかった。
思い切って話しかけてみたらキラキラした目で反応してくれた。
「私とお友達に!? うれしい!」と言って手まで握られてしまった。
なんでも今まで一人も友達が居なかったんだとか。
まぁ、あまりにも現実離れしたキレイさとお金持ちの家のお嬢様だなんて聞いたら近寄りがたいと思ってしまうんだろう。
それから私達はずっと一緒にいるようになった。
お昼も、帰りも。その他の細かい休み時間とか、全部。
家の方向が反対だから朝はさすがに無理だったけれど、それ以外は常に一緒だった。
気づけば高一の時の友達との関わりはほとんど無くなっていた。
そんな生活を続けて三ヶ月、私は駅前に新しく出来たカフェでバイトを始めた。
彼女もよく遊びにきてくれていて、終わりの時間まで待っていてくれたりもした。そこまでしてくれなくてもいいのに、と言うと。
「少しでも紗耶ちゃんと一緒にいたいから!」と。
可愛いなぁ。とこの時は思っていた。
けれど、どんどん日が経つにつれて彼女の様子はおかしくなっていった。
私が少し席を外すと戻ってきた時に、
「どこに行ってたの?」 「何してたの?」と色々と聞いてくるようになり、いつの間にか帰りは家の前まで一緒。
少し怖くなって毎日バイトを入れるようになった。
そうしたら彼女は毎日バイト先に来るようになった。
毎日終わりの時間まで私を待つようになった。
朝も私の家の前まで迎えに来るようになった。
バイト先の人と少し話すと、
「あの人誰?」 「何話してたの?」と怖い顔をして聞いてくる。
ついには休日まで
「どこにいるの?」 「何してるの?」といった内容のメールを送ってくるようになった。
私は彼女のことが怖くなった。少し距離を置こうと思ったが、黙って離れるのはなんだか可哀想な気がして、本人に対してハッキリ聞いてみようと思った。
今日は天気が良いから屋上でご飯食べよう。なんてテキトーな理由をつけて屋上まで連れ出し、
「最近ゆいりおかしいよ、どうしたの?
なんか怖いよ……」
と聞いてみたが一向に返事が帰ってこない。
不審に思って彼女の方を見ると彼女は俯いて動かなくなっていた。
「ゆいり?」
と訪ねると、彼女はバッと顔を上げ
「私ね、実は、紗耶ちゃんのことが好きなの!」
と言った。
「好きって……それは嬉しいけど最近はちょっと行き過ぎてるんじゃないかなって、思うんだけど……」
と言うと、ゆいりは少し俯いて
「好きって、友達とかの好きじゃなくて……」と、話し始めた
「恋愛感情の、付き合いたいとかの、好きなの。」
「紗耶ちゃんのこと独り占めしたいの。私だけのものにしたいの。ずっと私の傍で、私だけ見ててほしいの。他の誰とも喋らないで、私だけの紗耶ちゃんになってほしいの、」
と、すごい勢いで喋り出した。私は驚いて、それと同時に彼女のことが怖くてたまらなくなった。
「私だけの、私だけの紗耶ちゃん、私だけのもの、私だけ、私だけの……」
虚ろな目でブツブツと喋り続ける彼女が私の手を掴んだ。
痛い。
彼女は私の手を離さんとばかりに強い力で掴み虚ろな目でまだブツブツと喋っている。
手を解こうとしたら、
「どうして逃げようとするの? 私のことが嫌いなの? 私が怖い? ねぇ逃げないでよ。 私のものになって ねぇ、紗耶ちゃん……」
怖い。
マジで怖い。
私は危険を感じ、
「ごめん、私その気持ちには答えられない!」
と言い、なんとか手を振り払いその場から走って逃げた。
怖い。怖い。怖い。
あの虚ろな目、私を見るあの目。あの伸びてくる手。
怖い怖い怖い怖い。
夢中で駆けた。彼女が追ってくるんじゃないかと怖くなって、今まで出したことないんじゃないかってくらいのスピードで、走った。
先生の怒号や周りの生徒の困惑の声なんて聞こえない。とにかく走って逃げた。
考えれば考えるほど気持ち悪くなって、彼女のことが怖くなって、保健室まで行き、体調が悪いと言って少し休ませてもらいその日は早退した。
彼女とはもう関わらないようにしよう、もう、近づかないようにしよう。二人きりになるのは避けようと決めた。
それから私と彼女は全く関わらなくなった。
たまに感じる彼女からの視線が怖くてしかたがなかった。
けれど彼女から私に何かしてくることはなかった。
そのまま時は過ぎ、私達はあれ以来一度も関わることなく高校を卒業した。