二択
頭を抱えながらグルグルとあたりを回り続ける茨城神と、頭を抱えてうなだれているたゆんたゆん。なんていう光景なんだろう。どれ程の過ちを犯したのかをやっと理解しているようだが、後悔するくらいなら最初からちゃんとすればいいのに。
ちなみに茨城弁で言うならば、
ほだって今言ったってしゃーんめよ(こういう状態になったけど、今そんな事を言ってもどうしようもないでしょ)となる。ほだってが、したっけの地域もあるから注意は必要だ。
『ねぇ、私はどうしたらいいのよ? これじゃ名ばかりの神様になっちゃうわよ』
『⋯⋯、今も殆ど変わらないけど』
まさに同意見だ。短い間だが俺が転生する前の姿でもやっぱりコイツはポンコツだよ。
『そんな事はないでしょ。言って良い事ってのがあるわよね。そういう相手を思いやる気持ちとか、いたわる気持ちがアナタにはかけてるから気を付けた方がいいわよ』
『⋯⋯はいはい。ちなみにこの人はあとどれくらいで目覚めるの?』
ははっ。と乾いた笑いしかもう出てこないぞ。俺もコイツの言動には慣れないといけないんだろうな。
『え~、知らないわよ。そういうのわからないし、そのうち勝手に目覚めるだろうから、目覚めたら適当に相手して地上へ送るわよ』
『まぁちゃんと責任もって全部説明するならこれ以上は言わないけど、この人間にちゃんと説明はしてね。後で私が駆り出されるとか無しよ』
⋯⋯残念だな、無しにはならなかったよ。
たゆんたゆんがコイツを甘やかしてしまっているせいで、こんな言動を繰り返すのではないだろうか。まぁ本人は厳しくしているつもりなんだろうから黙っておこう。
『うん、それくらいわかってるわよ。で、私はどうしたら力を戻せるのよ?』
『ん、ん~⋯⋯。いばちゃんの力を戻しても、地上で生活できるようになればいいって事だから⋯⋯。まずはこの人間の構築しだい⋯⋯。うん、そこから逆算して⋯⋯』
たゆんたゆんは顎に手をかざしながらブツブツと独り言のように喋り、寝転がっている俺の体に手をかざす。
『えっ⋯⋯。ウソっ!?』
『なになに?』
たゆんたゆんは、何かがわかったようで驚き。茨城神は興味津々にそれをのぞきこんだ。
『いばちゃんのエネルギーが強すぎるよ。どれだけエネルギーを蓄えてるのよ、このままじゃこの人間の魂が耐えられないわよ。ちょっとは考えて行動しなさいよ。まったく、ちょっと待ってて』
たゆんたゆんが触っていた頭から一瞬にして、俺の体が青い炎に包まれた。⋯⋯一分ほどだろうか何かの呪文を唱え続け、ゆっくりと青い炎が鎮火した。
『ふぅ~。私のエネルギーで魂に加護を付与したのでしばらくは大丈夫だと思うけど、ちゃんとした人間らしい生活をしていなければ、加護の力が弱まり、いばちゃんのエネルギーに負けて消滅しちゃうと思うから気を付けね』
『それは大丈夫でしょ。会ったこともない私を、命を投げ出して助けるような人間だし』
『ふふっ、そうね。⋯⋯順を追って説明するね。見てみたけどいばちゃんのエネルギーが強すぎて、まずはなれさせる必要がある。エネルギーの力を制御出来る事も必要ね。
エネルギーの殆どがいばちゃんだから、悪魔から攻撃を受けてもそう簡単には死なないし、悪魔討伐すれば特典も付くでしょうね』
『うんうん』
たゆんたゆんは茨城神の正面に座り直し、さとすようにしっかりと目を見ながら喋り始めた。
『特典でこの人間のエネルギーを強化して、単独でも生命維持出来るまで強化すればいいのよ。いばちゃんとの縛りが強すぎて、|いばちゃんのテリトリー《茨 城 県》から離れられないだろうから、段階を踏んで元の生活圏である東京までこれれば、私の加護を強めて、切り離しが出来ると思う』
『うんうん』
『でもそんなことしたら、エネルギーはいばちゃんには戻らないで消滅するって事になっちゃうよ。さっきも言ったけどあまりにもエネルギーが強すぎて、上手くコントロールして戻すことなんて、大神様でも無理⋯⋯。せいぜい切り離したエネルギーを消滅させられるくらいよ』
『えー!!』
『だから考えて行動してっていつも言ってるじゃん! 生命維持だけのエネルギーなら戻せたの!』
あっ⋯⋯たゆんたゆんがキレた。
『普通に考えればわかるじゃん。いばちゃんのエネルギーは強すぎるって散々言われてきたでしょ!』
『⋯⋯ごめん』
『はぁ~⋯⋯戻すには時間が経過してない今しかないよ、どうする? でも戻したら魂に負荷がかかりすぎて、この人間は間違いなく消滅するよ』
『なら仕方ないわね、エネルギーは諦めるわよ』
即答だった。おもむろに立ち上がり、背伸びをしながら答えた。
『⋯⋯いばちゃん』
『殺しちゃったのも、エネルギーを間違えたのも私がいけなかったわけだし、別にエネルギーが無くなってもここで生活する分には何とかなると思うわよ』
『⋯⋯本当にいいのね?』
『いいわよ。私を誰だと思ってるのよ。魅力度最下位の県なのにエネルギー量が神々トップなのよ』
『それは⋯⋯。まぁいいよ、いばちゃんがそう言うならね。でもこの人間にはちゃんと全部話しなさいよ。⋯⋯人間だと言っても可能性はあると思うし、じゃあ私は行くね』
『は~い』
そう言ってたゆんたゆんは消えた。
残った茨城神は、空間からメモとペンを取り出し、何かを書き始めた。
『えっと、人間が生活するには⋯⋯。免許証と、住まいと、お金と⋯⋯、あと戻る方法ね、えっと⋯⋯何だっけ。まぁ思い出したら忘れないようにまた書けばいいわね』
⋯⋯嘘だろ。あんなに話しておいて、もう忘れたのかよ。
初めてこの事実を知ったんだろうな。たゆんたゆんは、頭を抱え始めた。
コイツは頭をポリポリかいて誤魔化そうとしているし。
『はぁ~、とりあえず戻りましょう。目をつぶって下さい』
そうして俺達は、過去の記憶を後にした――――




