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世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
3.集いし星が新たな世界を紡ぎ出す
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15.初仕事


「いやー、汗かいた後のシャワーは気持ちいいねえ。喜一くんもそう思うだろう?」

「別に。感動するようなものじゃないだろ。あと、そういう運動部的なノリは嫌いだ」


 模擬戦の後、俺達は訓練所にあるシャワー室を利用していた。


「わかってないなあ。人生なんて気の持ちよう! そうすりゃ何でもない事でも楽しめるってもんよ」

「やめろ。ポジティブシンキングを押し付けるな」

「そんなカリカリしなくてもいいじゃんかー」


 つれない返事だったが、ついでなので上司としてそれっぽい言葉を続ける。


「実際、そんなにピリピリしなくたっていいと思うぜ。蓮もそうだけど、折角いい力を貰ったんだ。もうちょっと肩の力を抜くくらいが丁度いいと思うけどな」

「……いい力、か。否定するつもりはない。僕に宿ったこの超能力(スペシャル)は間違いなく強力だ。僕だけが使える特別な力、他の人達に比べると恵まれているのだろうな」


 返ってきたのは肯定の言葉だったが、そこに誇るようなものはない。


「けれど、所詮はお前の言った通り、降って湧いた力だ。使う事はできても使いこなせてはいないし、こんなものを心の底から信用できる程、僕は楽観的じゃない。お前みたいに能天気に構えていられないんだよ」

「真面目だねえ。その調子じゃあ、ずっと肩の力は抜けなさそうだ」

「それでいい、元よりそのつもりだ。こんなふざけたゲームに付き合っている暇なんて僕にはない。一秒でも早く終わらせるためになら、僕ができる事はなんでもすると決めた。……もちろん僕一人でどうにかなるとは思っていないが」


 硬い口調に僅かな自嘲が混じっていたが、その言葉からは確かな決意が感じられた。


「まあ、なんだ。僕に気を抜いてもいいと思わせたいなら、せいぜいお前はリーダーらしく死に物狂いで働くんだな」

「努力はするよ、それなりに。……その数倍は喜一くんも含む特務隊のメンバーに頼る事になりそうだけどな!」

「言っていて情けなくならないのか?」


 その言葉には呆れと憐れみの感情がこもっていた。そんな事言われても事実だし……

 ちょっとだけ落ち込んだ後、ふとまだ聞きたい事があったのを思い出した。


「あっ、そうだ。レナちゃんの事なんだけど……」

「アイツの事なら僕はなにも知らない。一ヵ月前からずっと引っ付いてくるが、それより前は赤の他人だ。確かめたい事があるなら本人に聞くんだな」

「ああいや、そうじゃなくて。喜一くん的にはレナちゃんのアプローチも満更じゃないのかなーって思ったり?」

「下らない話だな。僕はもう出るぞ」

「あ。ちょっと。逃げないでよー」


 さっさと話を切り上げて脱衣所へ向かってしまった喜一くんに続いて、俺もシャワーを浴びるのをやめた。





「隊長さんだ! おはようなのだよ!」


 訓練所を後にし、特務隊の隊室に入ると、さっき話題に出したばかりのレナちゃんが笑顔で出迎えてくれた。


「おう、おはようレナちゃん。今日も元気だな」

「えへへー。あっ、ダーリンも一緒だー! 二人で来たのー? 仲良くなったんだねえ。よいよし、偉いんだよー」

「お前は僕のなんのつもりなんだ……」

「それはもちろん未来の妻、なのだよ!」

「はあ、この……」


 小さな胸を張るレナちゃん。喜一くんは訂正するのも面倒くさいようでただ溜息を吐いていた。


「今はレナちゃん一人かい? 遥はまだ寝てるだろうけど他の二人は見てないか?」

「うーん、れんにいは知らないや。ゆきねえならあっちの部屋でゲームやってるよー。さっきまでわたしも手伝ってたんだけどねー」

「あっ、なるほど」


 昨日の事を思い出す。

 すごろくゲーで既プレイ勢である俺達(喜一くんが意外にも何度かやっていたらしい)にボコボコにされ最下位になった由紀さんは、訓練と称してコンピューター戦を始め、遥や俺のサポートもあったというのに最弱レベルのコンピューターに完膚なきまでに敗北していた。

 半分ぐらい茶々を入れたのも理由の一つかもしれないけれど、由紀さんにゲームセンスがまるでない事は明白だった。ばーさんじゃないけど、思わず「ゆきばあ……」と言ってしまいそうになるくらいにはプレイがおぼついていなかった。アクション要素が皆無のゲームでこれだと他のゲームだとどうなるのだろうか。……ちょっと見てみたい気もする。

 最後らへんは「もっかい!」と完全に熱中していたけど、そうか。朝早くに来てリベンジしたいと思うほどはまり込んでいるとはまさか思わなかった。

 隣の部屋へと続く扉を開く。


「どうして……」


 ちょうどまた負けた所だったらしい。由紀さんがガックリと項垂れていた。

 この様子だとまだ一回も勝てていないのだろうな。瞬時にそう察した俺だった。


「や、おはよう。朝からやってんねえ」

「おはようございます。あの、あまり見ないでください……私は自分が恥ずかしいです」

「ゲーム初心者なんだから最初のうちはしょうがないって。実にいい負けっぷりだけど、これはこれで面白いよ、うん」

「うう、私は見世物じゃありませんよう……」


 弱々しい言葉で反論してくる。

 それを無視して俺は由紀さんの隣に座った。


「さ、もう一回やるんだろ。今度は俺も手伝うよ」

「えっと、いいんですか? こんなへっぽこに構って。時間を無駄にしてしまうかも……」

「いいんだよ。昨日は意地悪しちゃったけど俺は優しいからな。こんなにゲームにハマってくれてる新規勢を導かないで何がゲーマーだって話よ。それに、勝っても負けても面白ければ無駄じゃないのがゲームってもんだ。それを知ってもらうためにもまずは由紀さんを勝たせないとな」

「京也くん……! ありがとうございます。思いに答えるためにも全力でいかせていただきます!」

「いや、そんなに気負わなくていいから」


 変な所まで真面目な由紀さんに苦笑しつつ、隣で新たなゲームが始まるのを見守る。

 さて、どうすれば由紀さんを勝たせられるだろうか。完全にラジコンになる感じだと由紀さんも勝った気にならないだろうから却下。とはいえ、所詮相手は最弱のコンピューター。昨日からの累積した経験で多少はやり方もわかってきているだろうし、要所要所でアドバイスすればなんとかなるだろ。

 なんだかフラグが立ったような気がするがそれは無視だ。

 方針を決めた所で、俺宛てにメールが届いた。


「……へぇ」


 浅倉さんからだ。内容は俺達、特務隊の初仕事について。

 軽く目を通した後に、俺はクロノグラフの画面を消した。


「なら、今日は蓮と遥が来たら任務に向けての打ち合わせだな」


 確認するように呟く。

 流石に仕事が来たなら、無視して遊ぶわけにもいかない。タイムリミットができてしまった。

 蓮は連絡すればすぐ来るだろう。遥だって昼までには流石に来るだろうし、それまでに由紀さんを勝たせるとなると勝つまでやる戦法は厳しいか。

 モヤモヤした気持ちを引きずったまま仕事はさせたくない。なんとかして勝たせてやりたい。

 打ち合わせをさっさと終わらせてその後で延長戦をしてもいいけど……ま、そんな弱気になる事もないか。


「よし、この一回で勝つつもりでいこうか。迷ったらどんどん聞いてくれ。連打もなしな。落ち着いてやっていこう」

「はい、頑張ります!」


 そう促すと、由紀さんからいい返事が返ってきた。


 ……結局勝てたのは三度目の正直よろしく三回目のゲームでだった。





「はい、それじゃあ作戦会議始めまーす」


 隊室に皆が集まって、昼食を食べた後に今回の仕事の説明を始める。


「さっきちょっとだけ言ったけど今回はモンスターの討伐依頼だ。まさに俺達にうってつけの仕事だね」

「わざわざ僕達に話を回すんだ。雑魚の相手をさせるつもりはないんだろう?」


 喜一くんが言う。


「その通り。街の外のダンジョンの中にいるボスモンスターを倒せってのが今回の依頼だ」

「はいはい、しつもーん! 隊長さん、ダンジョンってなーに?」

「うーむ、簡単に言えば町の外の地下にできたモンスター達の秘密基地だな。地上よりモンスターが多くてトラップがあるんだ」

「? どうしてそんな所に行くんですか?」

「ダンジョンの奥には宝があったり、資源の採集ができるらしいぜ。浅倉さんの目的もそれさ。なんでもそのダンジョンは攻略後、魔道具の動力になる鉱石資源の採集場になるらしい」


 さっききた浅倉さんからの連絡を思い出しながらレナちゃんと由紀さんの質問に答える。

 東京の外に広がる森にはいくつか地下へと繋がる洞窟があるらしい。

 俺達は森の奥深くまで進んでいなかったので知る由もなかった事だが、浅倉さんは有志をつのり東京の外の調査も進めていたようだ。今までに発見された地下へと繋がる洞窟、ゲームに倣って名付けられたダンジョンもその調査で手に入れた情報の一つだ。


「浅倉さんの超能力(スペシャル)のおかげで奥に何があるかはダンジョン攻略前にわかっているけど、調査員じゃダンジョンを攻略できないって訳で俺達に話が回ってきたのさ。単純戦力面以外にもこっちにはトラップ殺しの遥がいるからな」

「ま、私の超能力があればよっぽどの事がない限り、トラップは全部丸わかりっすからね」

「というわけでダンジョン攻略の時は基本、遥は後衛でトラップ警戒に集中な」

「えぇ、そんなぁ!? トラップの探知もちゃんとやるから私も戦わせてくださいっすよ~!」


 遥が泣きついてくるが、諦めて後衛で大人しくしてもらう事にする。


「事情はわかったよ。それで、オレは何をすればいい?」


 蓮が俺に問いかける。

 魔道具の動力と聞いて、これからの生活をより良いものにできると考えたのだろう。やる気満々で実に頼もしい。


「オーケー、蓮。それじゃあ、ダンジョン内での役割を決める為にも皆のできる事を共有していこうか」


 こうして明日のダンジョン攻略に向けて、俺達はお互いの情報の共有を始めるのだった。




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