表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
3.集いし星が新たな世界を紡ぎ出す
80/82

13.朝コミュ


「くぁ……ねみー」


 隊員との顔合わせの翌日、俺は一人でトウキョウのある場所にやってきていた。

 時刻は八時。結局、昨日は遅くまで親睦会と称して遊んだりしていたので遥は完全に爆睡していた。

 最初は誘おうかと思っていたけど、わざわざ起こす程の大切な用事でもない。そんな訳で久しぶりの単独行動だ。


「おっ、やってるやってる」


 やってきたのはトウキョウに建てられた本部関係者用の戦闘訓練所。

 その片隅で目的の人物が一人でつまらなそうな顔をしながら訓練しているのを見つける。

 俺は眠気を飛ばしてからその人物の方に駆け寄った。


「やあ、喜一くん。奇遇だねえ!」


 声をかけると頭だけ振り返ったその人物──先日から同僚になった四谷喜一は露骨に顔を顰めた。


「……何が奇遇だ。僕がここで訓練していると聞いたから来たのだろう」

「あはは、当たり。隊長やるにあたって、ある程度の事は浅倉さんから聞いてるんだ。毎朝ここで一人で訓練してるんだって? 真面目だねえ」

「御託はいい。用件があるなら早く言え」


 ……よし、楽しく話せるな。つっけんどんな態度を取っていても即座に追い返したりしないあたり、会話はぜんぜんできる相手だ。

 まあ、そのあたりはレナちゃんを完全に拒絶していないあたりからも察してたけどね。

 とはいえ、これ以上適当な会話で不機嫌になられると目的も果たせないので本題に移る事にする。


「いやいや、用事なんてないんだ。昨日は簡単な自己紹介だけして後は遊んでいただけだったろ。それとは別で俺はみんなの力を把握しておく必要があるのさ。そんな訳で喜一くん、自主練の見学をさせてくれよ」

「……ちっ、勝手にしろ」


 舌打ちすると、喜一くんは俺を目線から外して再び前を向いた。

 喜一くんの前には魔力で構成された紫色の半透明な小さなブロックが、ところどころ穴あきで宙に浮いた状態で積み上がっていた。

 目的はこの喜一くんの所有する超能力だった。


「へぇ、これが『空間を静止する』力ってやつ? どうなってんの、これ?」

「……はぁ。見ての通りだ。名前は『死閉訪定理(デッド・キューブ)』。魔力の線で四角形か直方体を描いたらその線の内側の空間が静止する。それだけの力だ、これは」


 無視しても長引くだけだと思ったのか、喜一くんは目も向けずにブロックを生成、操作を続けながら質問に答えてくれる。

 積み上がったブロックを指で小突いてみるが簡単に弾かれてしまった。

 硬い。あと、何かが当たっても音が全く鳴ってない。なんだか不思議な感覚だ。


「例えばなんだけど、この空間の中に生物もしくは非生物が入ろうとしたり、元から入っていたりしたらどうなるの?」

「静止した空間は何人たりとも入れず、いかなるものも通さない絶対空間……らしい。これは能力説明文だから完全に信じちゃいないが、東京に出現した量産型じゃない大型モンスターの攻撃も難なく防げた。それなりの強度はあるし、誰も入れはしないってのも誇張じゃないと思う」


 大型モンスターって言うと、中ボスの事か。

 俺達はレベルを上げて、相手にデバフを巻いてで徹底的に有利な状態で戦ってたから楽勝だったけれど、あれでも一般人相手なら無双できる強さだ。

 その攻撃を完全に防げるってなら、説明文通りとはいかなくてもかなりの硬さなのは間違いない。


「逆に、生き物を巻き込んでこの能力を使ったら……こんな風に一瞬で砕け散る」


 そう言って、喜一くんが自分の指先を切り落とすように魔力の板を生成すると、それはすぐにガラスのように砕けて霧散してしまった。


「浅倉さんが言っていた魔力の元になっている力、運命力ってのが関係しているらしい。よっぽどの雑魚か、瀕死の状態の奴なら直接この能力で静止させられる。……一応、僕自身を完全に空間内に収めて力を使った時は例外らしいが。力の持ち主が静止しているから強制解除も受け付けないって事なんだろう」

「なんでそんな事知ってんの?」

超能力(スペシャル)特有の感覚なのかもしれないが、力を使えばどうなるかはなんとなくわかる。特に自分に被害が及ぶような無茶な使い方ならなおさらだ。この力で僕を取り囲んだなら自分で解除できなくなる。魔力の消費すらも静止してるせいで行われない。外部からの干渉がなければ未来永劫残り続ける趣味の悪いオブジェに成り果てる訳だ」

「ふうん……意外と不便だね。バリアみたいには使えないのか」

「似たような事はできるけどな。……質問には答えた。これで満足か?」


 喜一くんがそう言う。


「ああ、まって。他にも能力について聞きたい事が……」

「最大同時展開数は今の所二十まで。サイズは各辺一センチから視界に収まる範囲まで自由。魔力線を出せる位置は自分の周囲一メートルと視界に収まる場所ならどこにでも。静止した空間は見ての通り直線状になら自由にスライドさせて動かせる。今の所把握しているのはこれくらいだが、まだ質問はあるか?」

「なるほどなるほど。いやあ、話が早くて助かるよ!」

「用件は済んだな。なら、さっさと何処かに行っちまえ。ただでさえ普段はガキのお守りをやっているんだ。一人の時間をこれ以上侵害するんじゃ……いや」


 喜一くんの言葉がそこで止まる。

 何かを思いついたような素振りだ。


「気が変わった。こんな無駄な時間の使い方ができるんだ。どうせお前、暇なんだろう? 少し付き合え」

「付き合うのはいいけど、何するの?」

「なに、僕だって疑問に思っているんだ。突然現れてリーダー面している奴がどの程度役に立つのかがな。確かめるにはもってこいの方法があるだろう」




「……えっと何度も言うけど期待外れになったらゴメンね? 本当に俺って名ばかりだから」


 場所は変わり、フロアボスとの闘いの影響で更地になった場所で俺と喜一くんは相対していた。

 喜一くんの言う方法、それは一対一の模擬戦だった。力を見極めるという題目がある上、今の状況で人間同士でイザコザを起こす訳にもいかないから、もちろんお互い全力でやりはしない。

 ただ、ここであまりにもみっともない所を見せたら喜一くんは簡単に俺の事を見限るだろう。

 ……けどなあ、こんな真正面からの戦闘だと真面目にやっても瞬殺されかねないんだよなあ。

 そんな懸念から、俺は戦闘の前に断りを入れる。


「別に僕に負けたからといってそれだけで見限るような真似はしない。そもそも現場の人間とはいえ、一番上に立っている奴が一番強い状況はあまりよくはないだろう」

「それはその通りだけど……多分、喜一くんの思っている以上に俺は弱いぜ。油断してかかってきてくれ」

「加減はするが油断はしない。お前がいくらふざけた態度を取っていようが、どうでもいい。お前がやる事はただ一つ、お前自身の手で自分が役に立つ人間だと僕に見せつけてみせろ!」


 ……ひゅう。そんなに真面目な顔されちゃ困るぜ。

 心の中で茶化してみる。

 正直、俺の力なんてあってないようなものだけど……納得を求めているというのならそれにはちゃんと答えなくちゃいけないな。

 まさか、新しい戦闘スタイルのお披露目が味方との模擬戦になるとは思わなかったけど、お試しにはちょうどいい。


「──そういう理由なら、俺もそれなりに真面目にやらせてもらおうか。ルールとマナーを守って楽しい勝負の始まりだ」

「……ちっ、調子が狂う。先手は譲ってやるからそれ以上の無駄口を叩くな」

「それじゃあ、遠慮なく」


 カードを実体化させる。

 周囲を回る六枚のカードから一枚を手に取り、クロノグラフに翳す。


召喚(サモン)! 《無双の追撃竜 トゥバイス》!」


 地から出現する赤き竜。飛翔するその背に飛び乗り、高らかに宣言する。


「さあ、やろうか!」


 俺の言葉に無言で答えるように、眼下の喜一くんの前に現れた紫色の板が音もなく、俺に向かって超スピードで射出された。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 空飛ぶ板にのってバトルはしないのか あっちはドラゴン乗ってなかったぞ [一言] 運ゲーSAKAMAKI、意外といい家出てた
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ