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世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
3.集いし星が新たな世界を紡ぎ出す
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12.顔合わせ


 浅倉さんに要望を受けると伝えてから数日、ついに特務隊のメンバーと顔合わせする事になった。


「おぉー、広いっすね!」

「へぇ、結構いい部屋じゃん。できたばっかりで部屋が余ってるんだろうけど、浅倉さんも太っ腹だな」


 活動するにあたって行政本部の二階に特務隊の隊室が設けられた。今日はここ集合なのだが、部屋の中には誰もいなかった。どうやら俺達が一番乗りらしい。

 部屋をぐるりと見渡す。

 長テーブルとオフィスチェアに近いクッション付きの椅子、小さなホワイトボードが揃った生徒会室っぽい部屋と、ドアを挟んで隣接する何も置いていない部屋が一つ。

 この二つの部屋を自由に使っていいとの事だ。


「それじゃあ、やってくっすよー!」

「あーい」


 遥がオレデバイスからポイポイとものを出していき、俺が並べていく。

 床には絨毯を敷いて、小さな丸テーブルと座りごこちのいいクッションを用意した。電子機器類は電気が通っていない事もあり基本的には魔道具式のものだ。クーラーとテレビ、冷蔵庫には大量にジュースとアイスを詰め込んでいる。テレビの前には遥の家から持ってきたいくつかのゲーム機を並べた。

 クッション類はホームセンターから持ってきたものなのでタダだが、魔道具式の電子機器はショップから購入したので、ミルを少し使ってしまった。ただ、どうせモンスターを倒した時に手に入ったあぶく銭だ。パーッと使ってしまうのがいいだろう。

 そんなこんなで数十分、殺風景だった部屋は立派な遊び部屋に姿を変えていた。


「「よし!」」

「いや、よしじゃないけど。二人共なにやってんの……」


 部屋の出来栄えに満足していると、扉のすぐ近くで蓮が呆れ顔をしていた。


「あ、蓮! 来てたのなら手伝えよなー」

「今来たところだし……ってか、いいのかよこんな事しちゃって。ここって真面目に会議とか作戦立てたりするための部屋なんじゃ……」

「浅倉さんから許可はとった! 問題ない!」

「浅倉さん、ちゃんと止めてくれよ……」


 今や俺はこの特務隊の全権限を任せられた身。浅倉さんが止めない以上、俺の自由にやっていい訳だ。

 蓮もこんなしょうもない事で反発しようとは思わなかったのだろう。溜息をつくだけに留めていた。


「あ、そうだ。蓮に言ってなかったな。今日は顔合わせの後、親睦会って事で桃鉄やるから。操作方法忘れてるなら今の内におさらいしとけよ」

「そんな事しちゃいけない」

「えぇ? そんなお堅い事言わなくたっていいじゃん。たまには息抜きも必要だぜ?」

「アンタらはいっつも息抜きばっかりだろ。そうじゃなくて、初対面の相手とやるゲームじゃないって話」

「破壊から生まれる関係もあると思わんか?」

「そんなのなくていいから……まあ、これから一緒に戦っていくんだし、親睦を深めるのはいいと思うけどさ」


 蓮はなんだかんだ言いながらも靴を脱いで床に腰を下ろした。


「で、他の人達はまだ来ないのか? もうちょっとで集合時間だけど……確か後三人来る筈だろ?」

「うん、その筈だけど……おかしいな。後の二人は知らないけれど、由紀さんはこういうの一番早くに来てそうなイメージあるんだが……」

「由紀さんって前に会ったあの白い髪の女の子っすよね? 確かに遅刻しそうな感じじゃないっす」


 まさかなにかあったのか? と心配しかけた時だった。


「すみません! 道に迷っていました!」


 バン! と大きな音を立てて、由紀さんが部屋に入ってきた。


「お、きたきた。先日ぶりだね、由紀さん」

「う、貴方は……本当に居るんですね」

「そんな嫌そうな顔しないでよ。ばーさんから話は聞いてるだろ? これからは仲良くやろうぜ?」


 由紀さんが俺の言葉でハッとした顔をする。


「そうです、話は聞きましたよ! なにが『仕事仲間だった』ですか! スポンサーの孫だった貴方が我儘を言って組織で好き勝手していたって話をよくもまあそんな風に言えましたね。無茶な事ばっかり言う貴方に護衛を担当していたおばあさまは振り回されっぱなしだったって聞きましたよ!」

「はは、ばーさんも言うようになったねえ。ま、事実だけどさ。そんな訳でこれからは由紀さんも俺の下でキリキリ働いてくれよ?」

「嫌ですよ! 前も言ったけれど私はおばあさまほど優しくはないんですから。余りにも目に余るようならこちらにも考えがあるんですからね!」

「はいはい。肝に銘じておくよ」


 ヒートアップしていた由紀さんも一旦の落ち着きを見せる。

 そこで、初対面だった蓮達が声をかけた。


「えっと橘さん、ですよね。オレは四宮蓮です。サカマキに振り回されてるみたいですけどお互い頑張りましょう」

「わ、えっと。橘由紀です。四宮くんも京也くんに振り回されてるんですね……」

「私は黒乃遥っす。ユキちゃんって呼んでいいっすか?」

「あ、ハイ! あの、私もハルちゃんって呼んでも……」

「いいっすよー。いやあ、いきなり呼び名を考えてくれるなんて嬉しいっす!」


 なんだかいい雰囲気だ。俺も混ぜてもらおう。


「俺も由紀さんって呼ぶのやめてユキちゃんって呼んでいい?」

「嫌です。というよりなんで貴方は初対面から名前呼びしてきてるんですか」

「橘って言ったら、ばーさんと被るじゃん。それはやだ。後、君だってさっき蓮と話した時に俺の事名前呼びだったじゃん」

「だって、おばあさまが名字で呼んじゃいけないって言ってたから……なにか理由はあるんですか?」

「実家が嫌いなんだよ。と言っても今はもうそんなに思う所はない。どうでもいいって感じだからさ。名字呼びでも俺は構わんぜ?」

「そういう話なら、私だってわざわざ当てつけのように呼び方を変えたりなんてしませんよ。京也くんでいいです」


 今までのやり取りのでてっきり嫌われてると思っていたんだが……ここで素直に話を聞いてくれる当たり、根は優しい子なのだろう。

 ばーさんに信頼されているように見える俺に反発しているだけかな。後は単純に俺が信頼に値する相手だとまだ思っていないって所か。

 由紀さんの事はばーさんから任せられているからな。少しは俺も真面目にやらないと。

 そんな事を考えていると、横から蓮が口を挟んでくる。


「……オレ、その話聞いてないんだけど」

「言ってないからな。大した関係でもないのにこんな話を脈絡もなくしだしたら『うわなんだコイツ……』って思うだろ?」

「それは、思うけど」

「でしょ? もうどうでもいい事なんだから、蓮も他の奴らも今まで通り普通に名字呼びで気にしないって」

「……わかった。アンタがそれでいいなら、気にしない事にする」

「おう」


 まだ何か言いたげな様子ではあったが、蓮は渋々納得したようだ。

 話を戻そう。


「それじゃあ由紀さん。今日は初めての顔合わせって事で、全員集まったら仲を深める為にゲーム大会やるから」

「ゲーム……? あのピコピコした奴ですよね?」

「えっと、もしかして今まで触った事もない感じ?」

「はい。私は忙しい身でしたので。おばあさまに教えてもらった五目並べくらいしか、遊びと言った遊びはしてこなかったですね」

「おー……今どきの若者にしちゃ珍しいね。ま、今日やるのはテレビゲームって言ってもすごろくの延長みたいなもんだから。難しい事なんてなんにもない。ただお金を増やしていくゲームだ。どうだ楽しくやれそうだろう?」

「はあ、なるほど……? すごろくなら私でもできそうですね。でも、他にやる事はいっぱいあるのでは……?」

「大丈夫。この部署は浅倉さんから依頼がない限り、なんにもやる事はない。なら、これからの為にも友好関係を築くのに時間を使うのも大切だろう? 由紀さんもそう思わないか?」

「そ、そう? そうです。そうなんですけど……」

「よし、決まり。今日は遊び倒すからね!」

「あっ、はぁ……わかり、ました?」


 由紀さんはよく理解していないようだが、俺の言葉の勢いに乗せられてコクコクと頷いた。

 よし、参加者は確保できたぞ。


「すごろく……確かにそうだけど、ゲーム未経験者にやらせるゲームじゃないだろ、あれは……」

「これは初狩り不可避っすねえ」


 二人はもう既に由紀さんが哀れな犠牲者に成り果てる事を予感していた。

 そこで外に繋がる扉が再び開く。


「……すまない。コイツが寄り道したせいで遅れた」

「えーっ!? わたしだけのせいにしないでほしいんだよー!」


 どうやら残る二人のメンバーが一緒に来たようだ。

 一人は蓮より背の低い眼鏡をかけた少年。これで俺の一つ年上だって言うんだから人は見た目でわからないもんだ。

 そして、その少年より更に小柄な少女は両手に綿菓子やらフランクフルトやらを持っていたためにピョンピョンと小さく飛び跳ねる事で抗議の意を示していた。

 確か、こっちの女の子は小学生だった筈だ。こんなちっちゃな女の子まで駆り出すのは情けないとしか言いようがないが、本人がやる気を持っていてそれに相応しい実力がある以上、止める気になれないという思いもあった。まあ、危ない事はさせないように俺が気を付ければいいだろう。

 浅倉さんから軽く聞いた新顔の二人の情報を軽く脳裏でおさらいすると、俺は二人に声をかける。


「やあやあ、初めまして。数分の遅刻くらいは気にしないぜ。君はそんなにピョンピョンして食べ物を落とさないようにな」

「ここの隊長か? 遅刻した僕が言うのもなんだが、コイツを甘やかさないでもらえるか。これ以上調子に乗られたら困る」

「ああ、そういや君がこの子の保護者みたいなもんなんだっけ? それじゃあ、俺が口出しするのもおかしな話か。けど、あんまり厳しくしてやるなよ」

「誰が保護者だ」


 舌打ちと共に少年がそっぽを向く。

 ふむ……浅倉さんから聞いていた話とはちょっと違うけど……まあ、素直になれない年頃というのは誰にでもあるものだ。あんまり気にしてやるのも可哀そうか。

 さっさと自己紹介だけ済ませて、親睦会を始めるとしよう。


「それでは改めて。ようこそ我が特務隊へ。名ばかり隊長の逆蒔だ。これからよろしくね」

「はーい! わたしは成見レナ! これからよろしくなのだよ! 隊長さん!」

「僕は……」

「それでこっちはわたしのダーリン(・・・・)! 喜一きいちくん! とーってもカッコよくて頼りになるの! みんなも仲良くしてくれたら嬉しいんだよー!」


 ……空気が凍った。


「えぇ……」

「にやにや。面白そうな関係っすねえ」

「あーあ……また弄られそうな人が……」


 後ろでは三者三様に好き勝手に反応している。

 俺もそっちで好き勝手適当な事を言いたかった。


「おい、マセガキ……! それはやめろと言っただろうが……!」

「あー……えっと、お幸せに?」

「待て誤解するな、コイツとは何の関係も……」

「えへへー。はーい、私達幸せになるんだよー!」

「お前は黙ってろ!」


 ……そんなこんなで。

 俺達の初めての顔合わせは思いもしないカミングアウトで幕を閉めた。





総合評価8000&ブクマ登録3000人&総合PV100万突破!

また、今週。ついにこの作品の書籍版、『東京非常事態 MMORPG化した世界で、なんで俺だけカードゲームですか?』が発売されました! とてもいい出来になったので、こちらの方もぜひ手に取ってもらえると嬉しいです。店舗によっては色々特典SSもついてきます。


色々諸々本当にありがとうございます! これからも感想やブクマ、評価やレビューでこの作品を応援してもらえるととても嬉しいです! 以上! 作者からでした!


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