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世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
3.集いし星が新たな世界を紡ぎ出す
75/82

8.地下都市

書籍化続報です!

レジェンドノベルス様のHPで『東京非常事態 MMORPG化した世界で、なんで俺だけカードゲームですか?』の書影が公開されました!

深遊様にとってもカッコよく手掛けていただいた表紙が公開されております。見に行ってもらえると大変嬉しいです!

リンクはこちら→(http://legendnovels.jp/special/20200406170065264.html)


報告は以上です。それでは本編をお楽しみください。


 地下都市シブヤ。その入口は自治区トウキョウの中央広場にあった。

 長距離駆動シースルーエレベーター。トウキョウ直下500メートルに位置するシブヤへ辿り着くのに一分もかからない直行移動手段。


 俺と遥はそのエレベーターのガラス越しに眼下に広がる地下都市を見つめていた。

 陽の当たらない地下の都市を照らすのは魔法で作られた光。むき出しの岩の天井に埋め込まれたいくつもの機材が都市をうすぼんやりと照らしている。掲示板でも名前が出されていた魔道具(マジックアイテム)というやつだろう。

 そして、その下にある都市でまず始めに目をついたのは中央にそびえ立つ巨大な建造物だった。ビルというよりかは円柱型の塔というのが正しい表現だろう。黒光りする金属が外装の主部分を占め、所々にある大きな窓からは暖色系の光が外へと漏れ出ている。むき出しになっている鉄板やパイプも装飾の一つとしてマッチしていた。

 スカイツリー程ではないが、東京タワーと同じくらいの大きさはあるのではないだろうか? 思考の間に目線の横にあった塔の先を見てそう思った。

 その塔のさらに下に広がるのは、薄い霧に包まれた鋼鉄の町。煤で黒く汚れたビルが並び、ドーム状の建築物の周りや大通りでは悪趣味な程に電飾が光り輝く。闇と光が絡み合う現実と空想が高純度で混じりあったその都市は独特な風情を醸し出していた。


「これは……すごいな。そうとしか言えない」


 素直な気持ちで感嘆してしまった。

上の町は日本にある外国風のレジャー施設ってのが第一印象なくらいに雰囲気があっていなかったし、どこか似非っぽい感じがしていた。

 けれど、この地下都市は本来あった筈の現実の延長線上のような感覚と、現実感のなさを併せ持っているにもかかわらず、違和感なくそこにあった。なんと言えばいいのだろう。完成度が違う、か?


「……ほんと驚異的っすね。これがたった一人の超能力(スペシャル)で構築されたなんて」


 遥も同じ気持ちなのだろう。珍しく素直に驚いているように見える。


「『創作物を実体化させる』力、便利だけど即効性に欠けるから使いづらそうな能力って思ってたっすけどね。こんななんにもない地下深くにまで作用して、これだけの広さの空間を改変するなんて尋常じゃないっすよ。それにどう見たって、上の町よりこっちの方が本腰(・・)っす」

「だよな。力の入りようが違う。これに比べれば地上のあれはやっつけ仕事だ。そうならざるを得ない理由があったとすれば、時間的な問題とかかな。どれだけ早くに超能力に目覚めていたとしても使えた時間はせいぜいニ、三週間程度。それを考えれば、よくもまあこれだけの事をやれたなって思うよ」

「詳細はわかっていても、使い勝手みたいな細かい所は使ってる本人にしかわからないっすからね。どうしてこんな感じになったのか、いつか本人から聞いてみたいっす」

「確かに気になるねえ。ここにいるらしいし、個人的に頼んでみたい事もあるから一度は会いに行きたいな」



 エレベーターを降りた先は直接大通りと繋がっていた。


「ふーん、どっちかって言えばこっちの方が活気があるね」

「大きさがそこそこだからっすかね。大通りも少ないから自然と人が集まる感じなんでしょうか」


 人の行き来はこちらの方があるように感じる。

 ただ、これは遥の言う通り町の規模的な問題もあるからそう感じるのかもしれない。


「なるほどね。……裏路地が多いなあ。カツアゲが横行しそうだ」

「治安悪そうなイメージっすよねえ。ま、最初からそんな感じのイメージで作ったのかもしれないっすけど」

「こういう雰囲気自体は嫌いじゃないんだけどねえ。善良な一市民としては争い事は勘弁だぜ」


 創作物としてはこういうダークな感じも好きだけど、現実になるのは勘弁だというのが正直な心情だ。

 ただ、この町からは作者の熱量がなんとなく伝わってくる。趣味全開でやりたいようにやったってのは、俺としては好感を抱ける所だった。


「完全じゃないけど、超能力が地上よりは機能してますね。……塔は、人がそんなにいないっすね。見た目だけのモニュメントみたいなのなんすかねえ。……あ!」


 遥が声を上げる。


「どしたん?」

「こっちの方よりあっちのドームの方に行かないっすか? なんだか人が結構集まっているみたいっすよ!」

「へえ、コンサートでもやっているのか? みんな割と呑気だねえ。いいじゃん、行ってみようぜ」



 100ミルという僅かな入場料を払ってドームの中に入る。その先の光景を見て、俺はほんのちょっとだけ眉を顰めた。


「……これは。なるほど見世物には相応しいか。やれやれ、野蛮だなあ」


 ギラギラとした照明と熱狂の声の下、ドーム中央の空間では()()が戦っていた。

 剣と剣が交錯して、一切の手加減なしに互いを傷つけあっている。

 不思議なのは体を斬りつけても裂傷が生まれず血も流れない代わりに、ゲームのエフェクトのようなものが出ている所だけど……なんだろう、俺のHPシステムみたいなものなのか?

 呆れと、少しの困惑が生まれたが、ここがどういう場所なのかはなんとなくわかった。

 闘技場……一応円形状だし、コロシアムと呼んでも差し支えないだろう。

 ……まったく、こんな昔の産物を引っ張ってこなくてもいいだろうに。


「殺し合い……じゃないっすね。これは、超能力による制約? ……ああ、『罪を裁く』力の応用みたいっすね。この空間内に独自のルールを敷いてるみたいっす。名づけるなら格ゲー式戦闘でしょうか? 攻撃による体への影響はノックバックくらいで、どちらかが一定のダメージ量に達すると強制戦闘終了みたいっすよ?」


 遥がすぐさま超能力《天地明同ヘテロ・キュリオシティ》でこの空間内の異常の原因を読み取る。

 ……まーた超能力か。思わず溜息をつきそうになったがそれを隠して遥に質問する。


「ええ、なにそれ……? ルールを自分で作る事でそのルールを実現させるための環境を作れるって事?」

「そうみたいっす。ただ、同意がないとこんな無茶苦茶な事できないみたいっすけどね」

「はあ……もうなんでもありだな。流石にちゃんと予習しとかないと、そのうちわからん殺しされそうだぜ」


 所詮はスキルの延長線上程度にしか考えてなかった。が、そんなに名前だけだとヤバくなさそうな能力がこれだけ好き勝手やってる所を見ると、もうちょっと警戒しないとダメかもしれないと思わされる。

 こんな状況で人間同士で戦わないだろ、なんて考えは健常な精神性の奴同士じゃないと通用しないしな。 全員を警戒するのはやりすぎだけど、突拍子のない事をやりかねない超能力者に関しては、相手の打ってきそうな手を考察するくらいはやっておくべきか。


「……にしても、やっぱり非殺傷なのか。それならボクシングとかの格闘系スポーツみたいなもんなのかね? 客も夢中になってるし、戦ってる奴もなんか楽しそうだ」


 ……まあ、それはともかく、遥の言う通りに参加者の同意があるなら見た目ほど悪趣味なものではないのだろう。そんなに目くじら立てる事もないのかもしれない。


「腹ががら明きだろうが! チンタラやってんじゃねえ!」

「俺の全財産溶かしたら俺がお前を殺すぞ! 死ぬ気で勝てやァ!」

「……お客さんの方は賭けているからってのもあると思うっすけどねー。……これファイトマネーとかあるんすかね?」

「遥が参加するのはダメだと思うぞ。相手がかわいそうだ」

「ちえー」


 遥が拗ねた様子を見せたその時だった。


「──気に入っていただけたかな?」


 通路に突っ立ったままの俺達に対して、年を重ねた男特有の低い、それでいて泰然とした声が後ろからかけられる。

 振り向くと、アロハシャツと七分のチノパンというラフな格好のおっさんが黒服の男達を引き連れてそこに立っていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 正しくアンダーグラウンドな感じの場所なのか
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