4.対談①
本編の前に少しだけお知らせを。
書籍化に伴い、(エゴサのしにくさから)ペンネームを変更しました。本も「相川みかげ」名義で出ます。
また、レジェンドノベルス様のHPにもある通り、『東京非常事態 MMORPG化した世界で、なんで俺だけカードゲームですか?』というタイトルで7月予定に刊行します! 改稿で読みやすく、それに加えて大増量のボリュームで読者の皆様をより楽しませられる仕上がりになりました!
イラストは深遊様に手掛けていただきました。皆さんにイラストが公開されるのはもう少し先の話になりますが、とてもカッコよく仕上げてもらったので楽しみにしてください!
お知らせは以上になります。それでは本編をお楽しみください。
日が徐々に沈みかけている夕暮れ時、俺は遥と共に校長室の扉を開けた。
「ああ、すみません。随分とお待たせしてしまいましたね」
校長室ではトウキョウの代表を名乗る浅倉さんと護衛代わりの藤と名乗った男性が待っていた。
浅倉さんはにこやかに俺達を出迎える。つい先程まで学校の面々を相手に対談を続けていたというのに元気なものだ。
……隣のソファーに深く体を預けている藤さんは寝落ち寸前なのか、頭ががくがくと揺れていた。
「俺らは別にいいんですけど。そっちはトウキョウを空けっぱなしで大丈夫なんですか?」
「それは心配ありません。方針を打ち出した後はトップがいなくても各々が勝手に進めてくれますから。私は何か起こった時に責任を取るだけですよ」
「世知辛いっすねえ」
「そういうものでしょう。こんな立場になってしまった以上、覚悟はしていますよ」
「気を付けた方がいいっすよ。今の情勢じゃクビじゃなくて物理的に首が飛ばされかねないっすから。責任を取るような事がないといいっすねー」
「お前、そんな立場を俺に勧めてたの忘れてない?」
「ハハ……肝が冷える話ですねえ」
遥が怖い事を言っている。俺も浅倉さんも苦笑いだった。
「……とにかく学校の方々のご厚意で話し合いの場も貸し出していただけた事ですし、あなた方にもお話をさせていただきたいわけです」
「ふうん、とりあえず話は聞かせてもらうよ。俺も自治区には興味がある。俺達、というより遥に何を求めているかはなんとなく察してるけどね」
「話が早くて助かります。……では、推測される東京の被害状況から話させていただきましょうか」
浅倉さんとの対談が始まる。
蓮に対してそうしたように力を持つ人材の囲い込みが浅倉さんの目的だろう。
遥はもちろんだろうが、この感じだと俺もスカウトの対象かもしれない。直接戦闘が致命的に向いていないだけで普通に俺の力は有用ではあると思うし。
とにかく、そういった背景から浅倉さんは俺達に現在の状況や今後の展望を伝えて、協力を仰ぐつもりなのだろうな。
「物的な被害については……簡潔に済ませましょうか。お二人はご存知でしょうしね」
「まあ、そうだな。そうしてもらえると助かる」
「では、お言葉に甘えて。東京西部はフロアボスの延焼系の攻撃によりほぼ焼野原になっています。無事な建物は数える程ですね。こちら側は東京西部に比べると街の面影が残る分マシでしょうが、このまま再利用するのは難しい状況です」
ここまでは俺達も掴んでいる状況だ。遥が持つ空中戦艦からの映像で大まかな東京の被害状況はわかるからな。手早く済ませてくれるのはありがたい。
「後はそうですね。これは被害というわけではないのですが、東京に元から流れていた川に関しては東京の断絶と共に外部に発生した森林地帯の川と繋がっている形になります。水質や生態系の変化で何らかの影響は出るでしょうが、現状の目立った影響は東京外部の魚型モンスターが流れ込んでくる程度ですかね」
「へえ、外部からモンスターが入ってきてるのか。てっきり縄張りから動かないと思っていたんだが」
「魚に関しては流れる川がある以上、そういうわけにもいかないでしょうからね。それに外部のモンスターに関しても、あくまで現状は決められた範囲内での生態があるだけです。今後、我々の影響で生態系に変化が起こる可能性はゼロではないでしょう。……と、話が脱線してしまいましたね」
浅倉さんがコホンと咳払いを入れる。
「物的被害に関してはこのくらいでいいでしょう。重要なのは人的な被害の方です。お二人はモンスターが現れる前に東京にいた人の数をご存じでしょうか?」
急な質問だな。
ちょっと考えてみたけど、見当もつかない。
「……いや、知らないな。大阪が八百万くらいって聞いた事あるし千万人くらいか? 遥は知ってる?」
「もっと多いっすよー。だいたい千三百万人っす。ただこれは推定人口の話っすからねえ。夏休みだったから観光客の分も上乗せしないとっす」
そうなってくると推測が大変だな。里帰りだったりで東京を出てた人の事を考えても、東京に来る人の方が普通に多そうだから人口に上乗せする形にはなるんだろうけど……
「そうですね。推定人口から上乗せする形にはなるでしょう。広く見積もって千三百万人から千五百万人と考えてください。問題はここからです。この中で今も生き残っている人の数は、どのくらいだと思いますか?」
「それは……」
少し言い淀んでしまった。とてもじゃないが今の東京の状況は千万単位で生き残っている人がいるとは思えない惨状だったからだ。
この辺りだって俺が使役するモンスターを使って雑魚モンスターの掃討をするまでは、往来に人の代わりにモンスターが闊歩していてまともに進めないような状況だったんだ。
建物を容易に倒壊させられる中ボスの存在や建物内に直接現れたモンスターのせいで建物への立てこもりも簡単には行えないだろう。そもそもモンスターの出現自体も急だったし、まともに避難や集団行動ができていたとも思えない。
「……とても少ないだろうなあ。半分、三割……いや、それでも希望的観測か。一割くらいはなんとか生き残ってないかな」
「それでも多く見積もりすぎっすよー」
「うげ、マジ?」
遥は俺の推測を即座に否定する。
能力の関係上、遥は俺より情報が多い。その気になれば、今からでも超能力で人の数程度なら正確な情報を手に入れられるはずだ。
けど、遥は能力を使う素振りは見せていなかった。浅倉さん達がいるから超能力を秘匿しなければならないというのも理由の一つではあるのだろうが、表情から見るにそんな事をするまでもないといった様子だ。
「大規模なコミュニティに関しては一緒に確認してたでしょ。他に生き残ってるのが個人か小規模のグループって考えたら、たかが知れてるっすよ」
……確かにその通りだ。
けど、それじゃあ……
「ほら、浅倉さん。あんな質問したなら生き残っている人達はもうだいたい取り纏めた後なんでしょ。さっさと京さんに現実を見せた方がいいんじゃないっすか?」
「よろしいのですか?」
「うん、大丈夫。……否定しない辺りお察しな感じなんだろうけどね」
俺に問いかけてくる浅倉さんに了承を示す。
それだけ確認すると、浅倉さんは重い口を開いた。
「自治区トウキョウに全ての生存者が集まっているわけではないのですが、情報提供や大規模集団の協力によっておおよその生存者の人数は確認できました。モンスター被害による精神衰弱者を含めておよそ七万人。……私達が確認できていない人を含めても十万人には届かないでしょう」
……元いた人数の一パーセント以下、か。
初日に俺が抱いた「世界が終わった」って思いは間違いでもなんでもないわけだ。
具体的な数字を出されると、いくら大した興味を持っていなかったとしても気が滅入るというものだった。