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世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
1.俺たちの世界が買収されたと思ったら、現実になって帰ってきた
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6.自己紹介


「あー、その節はなんというか……」


 黒乃選手の言葉で決勝、第3戦目での運ゲーと言われても仕方のないような試合展開を思い出す。

 実際、イカサマと思われてもおかしくないくらいに欲しいカードを引きまくってたしなあ。どのカードが欠けてても負けてただろうし。


 これ、弁解の余地がないなーと思いながらも言葉を探す。


「いやいや、冗談っすよ。逆蒔さんが運だけで勝っただなんて思ってないっすから。引いたカードをそのまま叩きつけるトップゲーなんて久し振りにやったけど、アレはアレで楽しかったからいいんですよ」


 そんな俺を見て、クスクスと笑いながら彼女は先程の言葉を取り消した。軽いジョークだったらしい。


「ああ、そうだ。その黒乃選手ってのやめませんか? 何だか他人行儀でやです」


「えっと、俺、君の名前知らないんだけど」


 というか、黒乃選手が女の子である事も知らなかった。

 世界大会中は集中と緊張のし過ぎで対戦相手の事はプレイングしか頭に残らなかったんだよなー。


「うぇ、ちょっとショックっす。オヨヨ……まあいいや。名前呼びをご所望なら、改めて自己紹介してあげましょう!」


 俺の言葉で目元に指を添えて泣くフリを見せた黒乃選手は、すぐにそれをやめてイキイキと自己紹介し始めた。


「黒乃(はるか)、16歳で中卒っす! で、今はチェスや将棋からTCGや格ゲーまでオールジャンルにこなすプロゲーマーやってまーす! 黒乃たんでも遥たんでもお好きに呼んで下さいっす」

 

「じゃあ黒乃って呼び捨てでいいか? 『たん』付けは恥ずかしいから勘弁して下さい……ってか、中卒でプロゲーマーってなんというかスゴイな。想像もつかない」


「ええー。そこは遥って下の名前で呼びましょうよー」


 そんな残念そうな顔をしないで欲しい。ほぼ初対面の異性の名前呼びは特別な理由がないとキツい。


「というか。プロゲーマーも沢山出てたあの大会で、ただの高校生が優勝した事の方が私は凄いと思いますけどねえ」

 

 「まあ、初戦で自分の盤面を凡ミスで自分から崩して負けてからはずっとギリギリからの逆転勝ちばっかりだったっすけど」と続けて彼女は言った。


 やけに俺の情報に詳しいなと思ったけど、大会中の試合は全部モニター中継されてたし、勝利者インタビューで色々と調子に乗って答えていたような気もする。

 今日やったファイナリストを決める国内大会最終日まで残った人達は、みんな事前のインタビューから作られたプロフィールみたいなのもあったからそこから俺の情報は筒抜けだったのだろう。


 だが、相手が自分の事を知っているとはいえ、相手に自己紹介させておいて自分がしないというのも何か落ち着かない。黒乃と俺はほぼ初対面に等しい。こういうのはケジメが大事だ。


「そっちは知ってるだろうけど。一応、俺も自己紹介しておくよ。逆蒔京也、17歳の兵庫の高校に通ってる高校2年生だ。ボードゲーム部に所属してて、カードゲームの方は趣味で一通り嗜むって感じかな」


「じゃあ、親しみを込めて(きょー)さんと呼ぶ事にしましょう。世界がこんな事になっちゃったし、仲間は必要っすからね。どうせなら知った仲の人の方がいいし、これからよろしく、って事で」


 黒乃が手を差し出してくる。


「押しが強いな」


「そのくらい図太くいかないと、この世界じゃ一瞬で死んじゃいそうっすから。私、結構役に立つっすよ?」


「それもそうか。あ、役に立つのはさっきのでよーく知ってる。……まあ、それじゃあよろしく、黒乃」


 苦笑いしながら差し出された手をとる。さっきの攻撃を見て役に立たないとは口が裂けても言えないだろうに。

 まあ、黒乃の能力を抜きにしても、こんな世界で明るく振る舞える人は仲間として頼もしい。それに一応、知っている仲というのも高ポイントだ。


「それじゃあ、京さん。ずっと外にいるのも危ないですし、行く当てがないなら私の家に来ませんか? とりあえずそこを拠点にしようかなーって思ってるっすけど」


 黒乃のその提案は渡りに船だった。現状、兵庫に帰る手段がない以上、ここに滞在する事は絶対だ。

 駅を拠点にしようかと考えてたけど、防衛性に難があるし、集団生活の中では自分以外の事も考えなければならなくなるだろう。できれば一人か少人数で行動したいとは思っていた。


 だけど、モンスターの襲撃が各地で起こってるなら家なんかは破壊されてるんじゃないのか?


「家はもう壊されてるんじゃないか?」


「まあ、それは見てからのお楽しみって事で。電車が止まってるし、ここから3駅くらい歩くっすけど大丈夫っすか?」


「あ、ああ。問題ない」


 悪戯っぽく含みを持たせて黒乃が笑う。年下の女の子に会話のペースを握られているが、不思議と嫌な感じはしなかった。彼女の人懐っこさが影響しているのだろうか。


「それじゃあ楽しくお喋りしながら行きましょうか。デートみたいでいいっすね、こーゆーの」


「生憎、エスコートの経験はないぞ」


「どうせ店なんてやってないからいいんですよー。……それに、今はこの世界を見て回るだけで十分お腹いっぱいっす」


「……そりゃそうだ」


 彼女の言葉を聞いて、俺は苦笑しながら同意した。




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