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世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
3.集いし星が新たな世界を紡ぎ出す
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1.トウキョウからの使者


 世界にモンスターが現れ、対抗するように人々に超常の力が授けられ。

 まるで現実がゲームの世界のようになってしまったあの始まりの日からもう少しで一ヵ月が経とうとしている。

 九月に入ったというのに相変わらず蒸し暑い日が続いていた。


 今となっては東京以外にもフロアボスを倒した地域が過半数を超えていた。……逆に完全に壊滅してしまった地域も少しだけあったが。

 俺の地元の兵庫は、数日前にフロアボスを討伐したみたいだ。

 とりあえず安心したが、これだけ長引いたとなると被害は凄い事になっているだろう。友人に関しては心配していないけれど、家族の生存は絶望的だろう。うまく被害を逃れていてくれればいいのだけれど……

 これに関しては俺にできる事はない。どんな事になっていても受け入れる覚悟だけはもうできているが、今はただ祈るのみだ。

 

 東京に関しては、早期にフロアボスを倒せた事もあり、着実に復興が進んでいる。

 トウキョウと名付けられた自治区という安全な居住地が出現した事で、オレデバイスを介したやり取り以外にも人同士の交流が増え、それなりに活気を取り戻しているように俺は感じた。これも全てフロアボスを倒した俺達のお陰だ。……流石に過言か。


 そんな情勢だったが、俺と遥は未だにトウキョウに関与せずに、成り行きで関係を持った生存者のコミュニティである学校とたびたび交流を取る程度に留めていた。

 トウキョウに自分達からコンタクトを取らなかったのは、遥が感知した向こうの戦力──超能力(スペシャル)を警戒したからという理由が大きいのだが、まあそれはひとまず置いておこう。

 首を突っ込む事になった学校での騒動からしばらくたった今でも、学校との関係は続いている。


 今日もレベル上げの帰りに俺達は学校に立ち寄っていた。


「ちわーっす、高橋センセ」


 現在、会議室のような使われ方をしている職員室にいた高橋先生に声をかける。

 《催眠術師(ヒュプノティスト)》という絵面が酷い職業の力を持っているこの人は、その力を使ってつい最近まで校内の人のメンタルケアをしていた。

 いくらいい方向に力を使っていたといっても、人の心に気づかれないように干渉したのは事実だ。騒動の後、自らこの事実を明かした高橋先生は今も校内の人達から少しだけ警戒されているらしい。

 もっとも、本人はその待遇を受け入れていて、「行動で信頼を取り戻すしかないですね」と何でもないように語っていたが。まあ、批難される事も覚悟してやっていたわけだし、当然か。


 それはそれとして。俺達の対応は基本、高橋先生が担当している。蓮も事務的な仕事は高橋先生を信用して任せているし、他の先生達とは面識がないので当然ではあるのだが。


「おや、こんにちは。今日はどのような案件で?」

「食料の提供。モンスターの肉やトレント系のモンスターの果実がたまってきたからおすそ分けって感じ」


 モンスターを倒した時に手に入るドロップアイテムには、食用のものが多くある。

 俺と遥だけでは消費できない程のアイテムが溜まってしまっていたので丁度いいと思い、学校の面々に提供しにきたのだ。それなりの人数がいるから食糧を集めるのにも一苦労しているだろうし、少しは助けになるだろう。


「それはありがたい。ですが、よろしいのですか?」

「なんのなんの。報酬はもう蓮から貰ってるから」


 今回の取引は蓮から言い出してきたものだ。既にショップで売却した時より一割増分多い通貨(ミル)を受け取っている。俺達は不要なものを相場より高く売却できて、蓮は必要な食糧を安く手に入れられる。実にwin-winな取引だった。

 金だけじゃなくて俺の個人的なお願いも報酬に含まれていたが、それも済んだ話なので高橋先生が負い目を感じる必要はなかった。


「そうですか、蓮くんが。不甲斐ないばかりです。あまり彼に色々なものを背負わせたくはないのですけどね……」

「まあまあ、いいじゃん。これくらいは。もう今は空回りしてる感じはないし、何より、あいつがそれを望んでる。なら、やりたいようにやらせてやって、致命的な失敗をしそうな時には助けてやるのが大人の仕事ってもんじゃないですかね?」


 ついつい真面目な事を言ってしまった。


「それができれば一番いいんですけどね。私としてはそんな事態になる前に、蓮くんだけじゃなくて子供達が危ない目に遭わなくても生きていける日常が早く戻る事を願うだけですよ。……そういう意味では、あの(・・)トウキョウに期待しているのですが」


 窓の外を見て、あのという部分を強調して高橋先生が言う。

 窓の向こうの壁に囲まれた町。かつて栄えていた、日本の中心であるこの都市と同じ名を冠した『トウキョウ』と呼ばれる自治区。

 強力な戦力が集まっているにも関わらず、未だ目立ったアクションがないのは少し不気味だと思ってしまうが……まあ、向こうさんもまだ忙しい時期だろう。


「ああ、そのトウキョウですけど」


 俺の隣で携帯ゲーム機に夢中になって黙っていた黒乃が唐突に口を開いた。


「今、トウキョウからこっちに三人向かってきてますよ。一時間も経たない内に来るんじゃないっすかね。あと、全員超能力(スペシャル)持ちです」

「スペシャル……?」

「……は、マジ?」


 口に出した瞬間これだ。急すぎる。

 高橋先生に超能力の意味は伝わっていないようだが、それも当然だろう。俺らだって超能力という新しい力の存在を知ったのは最近で、未だ掲示板などにもその情報は流れていないのだから。

 ……いや、でも。本当ならもっと慌てる場面のはずだ。それなのに、遥に慌てた様子がまるでない。


「……慌てていないって事は、戦闘にはならない感じか?」

「確証はないっすけどね。超能力がなくたって戦えるでしょうし。でも、あっちが戦闘する気で来るならもっといいメンバーを揃えてくるでしょうよ」

「ちなみに超能力の組み合わせは?」

「『エネルギーを可視化する力』、『影に潜る力』、『投げた物のエネルギーを高める力』っすね。『影に潜る力』もこの晴天じゃそこまで実力を発揮できないでしょ。戦うつもりなら、どう見てもヤバい『刀でなんでも斬れる力』と『空間を静止する力』のどっちかは来てると思うっすけど」


 トウキョウに集まっていた九人の超能力持ちの全貌は遥の超能力によって暴かれている。

 情報は共有済みだ。なので、遥も超能力の名前や具体的な概要を省いた大雑把な能力の特徴だけ伝えてくる。

 『エネルギーを可視化する力』なんていう明らかに非戦闘用の超能力持ちが来てるくらいだし、戦闘する気はなさそうか。

 そもそも今、人間同士で争う程の余力があるかと言われると、ないとしか言えないわけだし。警戒のし過ぎもよくない。過剰反応と言われても仕方ないくらいだ。


 こんなに過敏に反応してるのも、黒乃もヤバいと称した二つの超能力がヤバすぎると俺も思っているからで。なんだよ『刀でなんでも斬れる力』って。

 スキルの力もあるし、普通の武器として使う分には刀は元々大体の物を斬れるはずだ。なら、この超能力の本質は『刀で斬れないようなものを斬る力』って事になる。条件が限定されてる分、どこまで無茶苦茶な事をしでかすかわからないのが怖すぎる。


 ……とにかく今は目の前の相手に対応するべきか。


「意外とマシな面子だな。三人目の人の超能力を使うならわざわざ近づかなくていいし……目的は話し合いか?」

「多分そうっすね。エネルギーを可視化する力は私の感知能力みたいなもんでしょうし、どこに強い力を持っている人がいるかは向こうも認識しているはずっす。その上で学校に来たって事は……」

「十中八九、狙いは蓮だろうな。勧誘しにきたのか」


 なぜトウキョウに超能力持ちがあれだけ集中していたのか。それは恐らく、これからやってくる『エネルギーを可視化する力』を持つ超能力持ちが動いたからだと俺達二人は推測している。

 俺達がごたごたに巻き込まれている裏で超能力持ちを勧誘していたのだろう。もう東京内にいるめぼしい戦力は遥と蓮くらいだ。

 蓮は超能力こそ持っていないものの、《勇者》の職業スペックが元々超能力レベルでぶっ壊れている。戦力として数えない理由がない。


「……よくわかりませんが、この学校にトウキョウからの使者がやってくる、という事でいいのですか?」


 ああ、しまった。高橋先生の事を忘れていた。

 超能力について普通に喋っちゃったけど……まあいいか。


「そうみたいですね。センセ、蓮を呼んだ方がいいかも」

「あと一応、校内の人にも状況報告して、いつでも避難できるようにしておいた方がいいかもっす。ないとは思うけど、もし戦闘になった時に守りながら戦える自信はないっすね」

「……わかりました。すぐに手配しましょう」


 神妙な顔をして、高橋先生が周りにいた先生達に声をかける。

 ここは職員室だ。俺達以外にも数人の先生がいた。


「すみません、話の通りです。外に出ている人も含めて、情報の共有と警戒態勢に入る事を伝えてください」

「ああ、わかった!」

「任せてください~!」


 途端に慌ただしくなる職員室の様子を横目に俺は蓮の到着を待つのだった。





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