26.無法の代償
ご報告があります!
この度、なんとこの作品『世界が別ゲーになったけど、俺だけ別ゲーやってます。』が講談社のレジェンドノベルス様から書籍化する事になりました! これも皆様の応援のお陰です!
皆様の前にお出しするのはまだ先の事になりますが、続報をお楽しみにしてください!
これからもどんどん投稿は続けていくので、応援よろしくお願いします!
報告は以上です。それでは本編どうぞ!
「おい! これからどうするんだよ!?」
「うるせえ! ちくしょう、馬鹿にしやがって……!」
這う這うの体で体育館から抜け出した男達は足を止めないまま醜く仲間同士で言い争いを始めていた。
「あのガキ……! ずっと逃げ回っていた癖に今更現れてヒーロー気取り! しかも、あんな見下した目で情けをかけて見逃してやるだと……どれだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんだ!」
他の男達が困惑や恐怖で戸惑う中、男達を扇動していたリーダー的立ち位置だった坂本の語気には強い憎しみが籠もっていた。
「許さねえ……このままコケにされてたまるか!」
「そんな事言ってもアレに勝てる方法なんて……」
「はっ、今の俺じゃ何したってあのガキには勝てないだろうが、周りのガキは違う。俺と同レベ程度の奴らが数十人と後は戦う力のないお荷物。そいつら全員を守りながら戦うなら、いくらあのガキでも被害を一切出さないなんて無理だろうな」
「……まさか」
「この学校に俺のモンスター達をけしかける。四六時中ずっとな。いくら犠牲が出ようが関係ない。あのガキが全部諦めて、また惨めに逃げ出す所を見なきゃあ俺の気が済まねえ……!」
坂本の職業である《獣使い》はその名が示す通りモンスターを使役する力を持っている。一度支配下にに置いたモンスターなら弱体化したコピーを魔力を使って生み出す事もスキルで可能だ。
坂本はそれらの力で増やしたモンスターの大半を今までは学校から逃げ出した蓮を捕らえるために外へ解き放っていたが、もうその必要もない。坂本は既に支配下のモンスター全てを学校へと向かわせていた。
総力の全てを学校に集中させて無差別に人を襲わせれば、少しは被害も出るだろう。今から行うのはそんな彼の溜飲を下げるためだけの行動だ。
自分の思い描いていた未来からあまりにもかけ離れた現在の状況に坂本の箍は完全に外れ切っていた。
怒りに身を任せ、ただ蓮を見返したいという思いだけで人殺しすら成そうとする坂本に取り巻きの男達ですら引き気味になったその時だった。
「おーこわ。過激だなあ」
「……っ!? 誰だ!」
背後から聞こえた声に坂本は振り向いて怒号で返す。
「俺が誰かって? うーむ……あえて言うなら野次馬?」
「は?」
グラウンドまで出てきた男達の後ろから現れた京也は怒りを飄々と受け流し、軽薄で冷めた言葉を吐いた。
あまりにも場にそぐわない言葉に男達は戸惑う。
「わからないの? 完全に部外者って言ってるわけ。いやあ、俺もアンタらも災難だね。こんな風に出くわしちゃうなんてさ。もっといい出会い方をしたかった気もするぜ」
「……部外者だって言うなら、俺達に何の用だ」
先程、憎しみ混じりに蓮の言葉を馬鹿にしてきたと評した坂本ですら理解した。眼前の少年のような態度こそが相手を舐めくさった、真に相手を馬鹿にしている態度だという事を。
それでも坂本は動けない。
この状況で出てきて、人数差があるのにも関わらずこんな態度を取るのだ。どう考えても自分達が起こした反乱を認知していて、その上で敵対しているとしか思えない。そんな相手が自分達でどうにかできるとは流石に思わない。だが、どれだけの強者だったとしても数の暴力の前では多少の隙ができるかもしれない。
坂本はそんな判断から警戒しながら話をするような素振りの裏で自身の配下のモンスターが戻ってくるのを待つ。
「俺の方はこんな弱小の寄り合い所帯には微塵も興味なかったんだけどね。だけど、蓮はここに特別な思い入れがあるらしい」
「……クソ! またあのガキか! どこまでも俺の邪魔をしやがって!」
「まあまあ、そういう事もあるでしょ。今回は巡り合わせが悪かったって事で。それに……」
先程までの軽い言葉がどこに行ったのかと思うほどに京也の纏う空気がガラリと変わる。
「俺は自由を侵されるのも、侵すのも、侵される所を見るのも嫌いだ。俺の見てない所で何やったって知らねーけど、出会ったからにはアンタらみたいなのは叩き潰さなきゃ気が済まない」
純粋な敵意。ただ相手を倒すという意思で彩られたプレッシャーが男達を襲った。
「……何が悪い」
「ん?」
誰もが身震いして口をつぐむ中、坂本は違った。
「もう世界はぶっ壊れてるんだ。警察も裁判所も機能していない! 俺達を裁く法なんてないも同然だってのに好き勝手して何が悪い! 自由を侵すのが嫌ってんなら俺の自由を邪魔すんじゃねえ!」
もう引っ込みがつかなくなっているのだろう。坂本は怒りのままそんな自分勝手な妄言を撒き散らす。
「ハッ、1つだけ教えてやるよ。自由ってのは一番楽しくて、一番カッコいい自分になれる生き方をそう言うのさ。テメエらみたいな見苦しいのと一緒にすんな」
だが、自分勝手という点で言うならば、京也に勝る者はいない。嘲笑と共に京也は下らない言葉を一蹴した。
「さて、下らない言い分はもう聞き飽きたぜ。慎ましく生きていくってなら監視程度で終わらせてやったが、あんな事をほざいた以上は掲示板でアンタらの顔写真と罪状を晒して社会的に終わらせなきゃな」
「なんて事を……」
言葉を失っていた取り巻きの男の1人が思わず呟く。それほど現代人にとって晒しというキーワードは驚異だった。
「……そんな事ができるとでも? 何のために俺が話をしていたと思う」
しかし、坂本は少し冷静さを取り戻していた。彼の使役するモンスターが学校に近づいてきたからだ。
「お前の使役するモンスターがここに戻ってくるのを待つためだろ」
「何故それを……!?」
しかし、京也はそんな坂本の企みを理解していた。
「逆に聞くが……今まで蓮を追っかけていたモンスターを倒してたのは誰だと思っていたんだ?」
京也の言葉と同時に校外から轟音が響き渡る。
空を飛び、水球を打ち出すマンタや超巨大なモグラなど目視でも見える程に特徴的なモンスターが見えた事で取り巻きの男達が安堵する。
「なっ……なんだアレ!? あんなモンスター俺は知らない!」
しかし、坂本のそんな言葉を聞いて表情を青に染めた。
「まさか、お前の能力は……」
「……思い出した! 坂本さんマズいです! こいつ、あのフロアボスを倒した……」
「なんだ、気づくのが遅いな。あんだけ晒されてたのにバレてないとは思わなかったぜ。それじゃあ改めて名乗らせてもらおうか」
自分の正体に気が付き恐れ慄く男に向けて、京也は大胆不敵に名乗りを上げる。
「《時の蒐集者》、逆蒔京也だ。アンタらなんて眼中にもないし、今回は通りすがりだが……無法の代償はいつか受けるもんだ。間が悪かったと思って大人しく叩き潰されろ」
「クロノ、ホルダー……っ!」
京也が名乗った肩書を、坂本は憎々し気に口にした。