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20.打ち合わせ


「というわけで明日、学校に攻め込みます!」


 蓮が柚子達に秘密を全部打ち明け、俺に助けを求めてきてからすぐに皆を集めて話し合いを始める事にした。できるだけ早く動きたいと蓮が言ったため、内3人の目元が赤いが休む暇もなく打ち合わせとなった。


「おい、サカマキ。そんな事1回も言ってないだろうが」


「同じようなもんだからいいんですー! ……というか後輩よ、『さん』はどうした? 人生の先輩に対して失礼だぞ?」


「アンタ、今までの言動でまださん付けしてもらえると思ってたのかよ……」


 ……なんだか、蓮の態度から遠慮がなくなったような気がする。まあ、きっと心を許してくれたって事だろう。


「うんうん、仲良くなれたみたいで良かったっす。それで、私の助けも必要っすか、蓮くん?」


「ありがとうございます、黒乃さん。ぜひお願いします」


「俺と態度が違いすぎない?」


「はっ。……さっきサカマキが言ったのとはちょっと違うけど、学校に戻ろうと思っています」


 蓮は鼻で笑ってスルーした。コイツ……!


「それでいいんすか? 友達や先生に裏切られて逃げてきたんでしょ。私だったらもう縁を切って関わらないっすよ」


「……正直、柚子や蜜柑に手を出した事は許せないです。許しちゃいけないんだとも思います」


 蓮は少しの間目を伏せる。


「でも、そんな事をしなきゃいけないくらい皆が追い詰められてた事も知っていたんです。あのまま理事長達を放っておいたらもっと酷い事になるだろうなってオレもわかってたんだ。……それでもオレは何もしなかった」


 そこまで言って再び顔を上げる。


「今度こそちゃんと向き合いたいんです。だから、もう逃げていられない」


「そうっすか。ま、その辺の考え方は人それぞれっすよね。柚子ちゃん達は納得してるの? 一応捕まえられてたんだよね?」


「うーん、しょーじき閉じ込められてただけで酷い事されたわけじゃないからそんなに怒ってないんだよね。蜜柑もそうでしょ?」


「うん。でも、わたし達の知らないところで友達が傷ついてるかもしれないなら、助けに行きたいと思います。こんな私でもお兄ちゃんの手伝いくらいならできるはずです。……たぶん」


「大丈夫だってわたしもいるんだから! 蓮にいがいなくたって悪い奴らなんてやっつけちゃおう!」


「オレとしては柚子達は置いていきたかったんですけど、二人共乗り気なんですよね……」


 蓮はやる気を見せる柚子と蜜柑を見て肩を落としていた。気持ちはわかる。そりゃいくら戦う力があるってわかってても積極的に前に出したくはないだろう。


 でも……


「妹のわがままを飲んでこそお兄ちゃんっすよ。頑張れー」


「そうそう。わがままを意思と力と勇気と知恵で押し通すのが勇者でヒーローで主人公の在り方だぜ。……いや、今のお前にゃ関係ないか。頑張れ、お兄ちゃん」


 ニヤニヤと笑いからかう俺と黒乃の姿を見て援護はもらえないと思ったのだろう。蓮は深い溜息を吐いた。


「ああもう! わかってるよ! そんくらいやってやる!」


「ぷっ……! あはは! なにそれ蓮にい! 子供っぽいなー!」


「ふっ、ふふ……ありがとね、お兄ちゃん」


 やけくそになって言い返す姿に俺だけでなく柚子達も一緒になって笑った。


「お前らまで笑うなよ!」


「そんだけ元気ありゃ十分だ。……これで、こんだけ意気込んで行ったのに何にもありませんでしたーってなったらある意味面白いな。多分ダメだろうけど」


「逃げたっていっても、一週間も追いかけ回して捕まえようとするなんてアグレッシブ過ぎっすよねー。蓮くんの力量とかも考えると、秩序だった目的のある動きっていうよりかは、とにかく困らせてやれーって感じの悪意しか読み取れないんすけど……今更ですけどモンスターを操る人に心当たりとかないんすか?」


 話題を起点に今までの和やかな雰囲気が引き締まる。


「知る限りはいなかったです。……でも、あの時のオレ、余裕なかったし、動きも制限されてたから一緒にいた男子生徒くらいしかどんな力を持っているかは知らないんだよな」


「蓮くんの知り合いじゃないならこっちもやりやすいからいいっす。というか十中八九、やったのは外部の人間だろうなって思ってるんすよねー」


「普通の神経してたら、付き合いのあった人間にここまでしないよな。まあ、黒乃がいりゃ潜伏系のスキル持ち以外だったらちゃんと感知できるから、モンスター使いが誰かは学校に近づいたらわかることさ」


 モンスター使いに対してはそこまで興味を持っていない。質に関しては大した事ないのはわかっている。不安なのは量に関してだけど、それもゴリ押しでなんとかなるだろう。

 個人的には外部の人間以外にも気になっている奴がいるけれど、黒乃の感知能力なら学校全域でも余裕で情報がわかる。怪しそうな職業持ちがいれば、その時に改めて警戒すればいいだろう。


「で、蓮はどうするつもりなんだ。やるって決めたからにはどうしたいかの案くらいはあるんだろ? それともその辺も協力してほしいかい?」


「大丈夫だ。力は借りるけど、アンタらにおんぶにだっこになるつもりはないよ。ってか、そんなとこまで決めてもらうのはオレが嫌だ。オレがやりたいって言ったんだからオレが決めなきゃだろ」


 蓮は事前に決めていたのだろう。どう動くのかを話し始める。


「基本的にはサカマキ以外はオレと固まって動いてほしいと思います」


「おい、ちょっと待て。なぜ俺をハブいた。嫌がらせか、お?」


「……アンタが前に出ても大した事できないでしょ」


「あー、酷いんだー! ナチュラルに人を役立たず扱いするなんて、君がそんな奴だとは思わなかったなー! あーあー、傷ついちゃったなー!」


「めんどくせえ……」

「散々、自虐してたじゃないですか……」


「自分で言うのと人に言われるのとじゃ違うんですー!」


 蓮と蜜柑は呆れた顔をしていた。こういう時におちゃらけたくなるのは性分だから我慢してほしいものだ。まったく。


「……もし学校で何か起こっていて、誰かと戦わなくちゃいけなくなっていた時、サカマキにはオレが取り逃した奴らを捕まえてほしい。アンタならモンスターでぐるっと学校を取り囲めるだろ?」


「さっきあんだけ騒いどいてなんだけど、俺の職業(ジョブ)はそんなに便利なもんじゃないんだけどね……」


 時の蒐集者(クロノ・ホルダー)は事前準備なしで戦闘に入ったら、雑魚敵に互角、連戦でリソース切れとかいうクソみたいな職業。平時だったら「おーおー、チート野郎は人の気も知らないで簡単に言ってくれますねえ!」と煽りにいく所だったが、今回は違った。


「だけど、本当にお前は運がいい。相手さんのモンスター達の対策に俺の用意したモンスター集団がまだ残ってる。良かったな。お前の要望に応えられそうだ」


「なら、頼む。……勿論、アンタが動かなくていいくらいにオレがちゃんとできれば、それが一番いいんだけどな」


「おう、是非そうしてくれ。その分俺が楽できる」


「はいはい、そうなるように頑張らせていただきますよ」


 蓮は俺との話を適当に切り上げて黒乃達に向けて口を開く。


「黒乃さんと柚子と蜜柑は俺と一緒に行動。と言っても場合によっては別行動をする事になるかもしれないのでその時には黒乃さん、妹達を頼みます」


「だから、蓮にい心配しすぎだってー! わたし達だってもう無力じゃないんだから!」


「いくらレベルが上がったって言っても、お前らはまだまともな戦闘はしてないだろ。いざという時に体が動かないってなるかもしれないし、心配なんだよ……」


「うぅ……そうやって正論ばっかり、ズルいよ。そんなんじゃ、わたし達いつまでたっても蓮にいのお荷物じゃん……」


 蓮の言葉に柚子はか細い声で答える。さっきまで泣いていたから涙腺が緩くなっているのだろう。また涙が零れている。


「お姉ちゃん……」


 蜜柑は心配そうに姉を見て、蓮が妹の言葉にどう返せばいいかと逡巡する中、「……柚子ちゃん、泣かないで」と黒乃が言った。


「蓮くんだって、柚子ちゃん達を独り立ちさせようと考えてると思うっすよ?」


「……そんなことない。だって、今回も遥さんと一緒じゃなきゃいけないって……」


「まあ、ちょっと過保護だなって私も思うっすけど。いいじゃないっすか、私だって京さんとはずっと一緒に戦ってきましたし。というか京さんを見てみてくださいよ。私がいないと、今頃ひーひー言って苦労してますよ、きっと」


「……確かに」


 確かにってなんだ! 黒乃がいなくたってなんだかんだ上手くやってるよ! 多分!

 ……空気が読める俺はそんな言葉を口には出さずに呑み込んだ。えらい。


「京さんは本当に頼りにならないし、たまーに邪魔だなーとか、あんまり情けない所は見せないでほしいなーとか言いたい事はいっぱいあるし、どっちかっていうと私が助けてる時の方が多いっすけど……」


「言い過ぎじゃない?」


 あんまりな言い草に思わず真顔になる。


「でも、いっぱい助けてもらったから全部チャラっす。お互いが足引っ張って、手を引いて、助けて助けられてを繰り返しても笑って気にしないのが仲間ってもんでしょ。私は京さんがそう思っているだろうから一緒に居られるし、京さんもきっとそんな私だから気に入ってつるんでいるんだと思いますよ。以心伝心って奴っすね」


「黒乃……!」


 ちょっとキュンとしてしまった。

 カッコよすぎて危うく惚れてしまいそうだ。うちの相方がイケメン過ぎてつらい。……俺もちょっと見習おう。


「柚子ちゃん達だって同じ事っすよ。私は一人で戦えないのがダメな事だと思わないし、無理に危険な事をする必要もないと思う。独り立ちってそういう意味じゃないですしね。結局、自分や誰かのために自分の手で頑張ろうって思いが一番大事なんっすから。全部終わった時にみんなが無事に笑っていられるように遠慮なくこの私を頼ってくれればいいんっすよ」


「う~……まだ納得はいかないけど、そーする。遥さん、ありがと」


「あはは、不満なのはわかるっすけどねー。経験を積んでいつか見返してやりましょう」


 黒乃はニヤリといたずら気に笑ってそう言った。


「ま、そういうわけで。蓮くん任されたっすよー。お兄ちゃんの心配はわかるけど私もそこそこ強いので。その辺の有象無象ならかるーく蹴散らしてあげましょう!」


「……本当に、ありがとうございます」


 深々と頭を下げて感謝する蓮。


「……やっぱり、俺の時と態度違いすぎない?」


 やはりといっては何だが、俺の言葉はスルーされた。覚えてろよ!






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