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14.和解


「…………」


 つい先程、俺に剣を突きつけた少年は今、テーブルの向かいに座って俺を睨んでいる。その両隣には柚子と蜜柑がいつでも兄の暴走を止めれるようにと座っていた。


 柚子達から事情を聞かされ、とりあえず剣を下ろした少年はそれでもまだ俺達を警戒しているようだ。その証拠に手は一切動いていない。


「あー、やっぱ夏っていえばそうめんだよなー」


「そうっすねー。……あっ、そうだ。どうせ暇ですし、次食べる時は流しそうめんでもやってみます?」


「おー! いいじゃんそれ! 俺やった事ないんだよなー流しそうめん!」


 俺達はそんな彼を放っておいて、俺達は大皿にこんもりと乗せられたそうめんを取り分けて啜っていた。


「……なあ、柚子、蜜柑。オレがおかしいのか? なんでこいつらは呑気に飯なんか食ってるんだ……?」


「あー、遥さんと逆蒔さんっていっつもこんな感じだから。マイペースなんだよあの2人」


「お兄ちゃん。あんまり深く考えない方がいいよ。逆蒔さん達はわたし達の事、多分そんなに気にしてないと思う」


「ええ……」


 小声で少年が隣の妹達に問いかけている。柚子達は苦笑いしながら答えていた。


 呑気に、と言われてもいまいちピンとこない。柚子達から事情を聞いたのなら少年が俺達を襲う理由はもうないはずだが。


「あのさ、何か言いたい事があるなら後で聞くからとりあえず飯食ってからでいい? 君も腹減ってるだろ?」


 折角、少年の分まで用意したのに手を付けられないままというのも寂しい。俺達を警戒するのは別に構わないけど、毒なんて入ってないんだから飯くらい落ち着いて食べればいいのに。


 そんな思いから彼に声をかける。


「……アンタはそれでいいのかよ。オレはアンタ達と戦ったんだぞ。もうちょっと警戒するとかさ……」


 少年はどうやら勘違いから俺達を襲撃した事を気に病んでいたらしい。


「うん? まあ、まだ戦うつもりだって言うならそれなりの対応するけど……そうじゃないんだろ?」


「あ、ああ。もちろんだ」


「じゃあ、別にいい。俺も黒乃もちょっとした行き違いで襲いかかってきた君をそこまで責めるつもりはない。これでも年上だからな。一度くらい、広い心で許す!」


 俺はそう勢いよく言いきる。


 俺も黒乃もその件については怒っていない。俺達がたまたまタイミング悪く現れたせいで誤解が生まれただけで俺達の間には本来、何の禍根もない。


 幸い誰も大怪我はしていない。黒乃のダメージは回復魔法で直ぐに回復するレベルだし、俺も体自体は無事だ。失ったものも何もないのだから特に怒る理由もない。


「……というか、申し訳ないって思うならさっき剣で脅してきた事を謝れよ! 戦闘中じゃないのにあんな事されると変な声出ちゃうんだからな!」


 そんな事より俺としては、剣を突きつけて脅してきた時の方がよっぽど怒っていた。


 気も張っていない時に不意打ちされるのは心臓に悪い。それに俺の素早さじゃ、ああなると何かする前に倒されるし。そういった意味でもとってもヒヤヒヤした。


「ご、ゴメン!? あれは起きたらまったく知らない所に居て、誰か入ってきたからつい……」


「ぷぷー! 京さんが年下の男の子虐めてるー!」


「おうコラ。俺は正当な権利を主張してるだけだろうが」


「年上だから広い心(笑)で許すんじゃなかったんすか?」


「それとこれとは話が別! ……ってか、黒乃てめえあの時面白がって見てただけじゃねえか! 俺は忘れてねえぞ!」


「だって、京さんの情けない所見てるの面白かったですし……」


「少しは悪びれろよチクショウ!」


 慌てて弁解しようとする少年の言葉を遮って、黒乃が小ばかにするように俺に茶々を入れてくる。


 少年は俺達のやり取りを呆然と見ていたが、やがて意を決して頭を下げた。


「──やっぱり、さっきの事も、アンタ達に襲い掛かった事も。全部合わせて謝る。殺すつもりはなかったけれど、痛い目見せてやろうと思ってやったのは本当の事だ。俺の勘違いで襲い掛かったりして、本当にすみませんでした!」


 少しだけ、呆気に取られた。俺達からしたらもうとっくに決着が着いている話だったのだが、少年はこの件を本当に申し訳なく思っていたみたいだ。


 ……まあ、確かに俺達が勝ってなければ大変な事になっていた訳だからな。罪もない人を傷つけるなんて事が起こらなかったのだ。そういう意味では少年自身も安心しているのかもしれない。


 これは、ちゃんとこの謝罪を受け入れて和解してやる方が向こうも気が楽か。それに俺も不満が全くない訳でもないし。


「……おう、俺は許す。だけどな、次に人間と戦う時にはその前にちゃんと会話しろよ? 取り返しがつかない事はいくらでもあるんだからな」


 言葉を選んで、諭すようにそう言う。


「私も許すけど、チンパンジーじゃないんですから直ぐに暴力に訴えるのはどうかと思うっすよ?」


 ……そして、俺の後に続いて黒乃がド直球に文句を言いやがった。


「……黒乃ォ! おまっ、オブラート!」


「うう……本当にスミマセン」


 見ろよ黒乃! お前のせいでいたいけな青少年がすっげえへこんでんじゃねえか!


 流石に少年が可愛そうすぎるので、お叱りとして、まったく悪びれてない様子の黒乃の髪を手でかき回す。


「わー!? わしゃわしゃやめてー!」


「うっせー! 人をチンパン呼ばわりしていいのはゲームの中だけじゃ!」


「人なのに会話しようともしない方が悪いんすよー!」


「俺もそう思うけど、言っていい事と悪い事があるやろうが!」


 被告に全然反省の様子がないためこのままおしおきを継続する。


「あ、やっぱり逆蒔さんも同じ風に思ってたんだね……」


「しょーがないよ。いくらわたし達の為だったっていっても、蓮にいが悪い。遥さんにあれだけ言わせるくらいの事したんだからちゃんと反省しなよ?」


「わかってる……あの時のオレはほんとどうかしてたんだ……」


 俺達のやり取りを黙って聞いていた蜜柑はそう呟いた。お、俺は実際にチンパンとか言ったわけじゃないからセーフ。……セーフだよな?


 柚子は未だテーブルに突っ伏しているのではないかという程に頭を低く下げている兄を窘めた。少年は自分が酷い言われようをされているというのに、ただ粛々とした様子でそれを受け入れたのだった。


 ……食事を再開したのは、もう少し後の事だった。




活動報告の方に整理のため登場した主要キャラのステータスを載せておきました。(といっても今は45話時点のものなので京也と黒乃のものだけですが)

話が進むごとにちょくちょく更新していこうと思っているので、その時にはまたアナウンスします。気になる方は見ていってください。

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