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13.パワーレベリング


「あうー、やっぱりグロいー……」


「血が消える分、少しはマシだろ。慣れろとは言わんが、こんなんで怯んでちゃあこれから先が大変だぜ?」


「わかってるよう……うえー」


 蜜柑がモンスターを初めて倒したすぐ後、柚子も続けてモンスターを倒した。


 その時、盛大に返り血を浴びた事で彼女は目に見える程にテンションが下がっていた。

 モンスターが消滅した事で制服に染み付いたり、体にかかっていた血も消えたが、その生温さが気持ち悪かったとでもいうように腕をブンブンと振っていた。


 ただ、モンスターを殺した事自体には動揺もないらしい。割とケロッとしている。


「さて、それじゃあ職業を決めていきましょうか」


 魚型モンスターが思ったよりも弱かった事もあり、今回はこちらの岸まで引きあげてから動きを封じていた。

 柚子はちょっと残念そうにしていた。なんでも自分も飛んでみたかったのだとか。レベルが上がれば自分でできるようになると言ったらあっさりと納得したのだが。


 柚子の様子を見て大丈夫だと思ったのだろう。黒乃が声をかけてきた。


「蜜柑ちゃんは《召喚術士(サモナー)》にしたっすけど、柚子ちゃんはどうします?」


「え、それでいいの? 俺と役割丸被りだぜ?」


 黒乃と柚子がオレデバイスの画面を見ながら相談する中、蜜柑が選んだ職業が聞こえた。

 もう決めた事なので変えられはしないが、思わず蜜柑に問いかけてしまった。


 《召喚術士》。文字通り何かを召喚して使役する職業でいいのだろう。

 それだったら、俺の職業だけで十分すぎる。わざわざ選ぶ利点がない。


「逆蒔さんを見てた感じだと便利そうだと思いましたし、自分で戦うのはやっぱり向いてないかなと思ったので。……それに、これから先も逆蒔さんがずっとわたし達を守ってくれる訳じゃないですよね?」


「なるほど、そりゃそうだ!」 


 そう思っていたが、蜜柑ちゃんのこの選択は自分の性格の他にも俺がいなくなった後も考慮してのものだったみたいだ。

 

 蜜柑ちゃんは俺達に面倒を見てもらっているのが理由があっての一時的なものだとちゃんとわかっているみたいだ。変に俺達を頼り切らずに自立しようとする姿勢は嫌いじゃない。自然と笑みが浮かんだ。


「うーん、上級職がないっすねー。これだと蜜柑ちゃんと同じで最初からある職業しか選べないっすけど……」


「じゃあ、これがいい!」


 俺達が話している間に、職業をどれにするかは決まったみたいだ。


「今日からわたし、魔法使いです!」


「という訳で、柚子ちゃんの職業は《魔法使い(ウィザード)》に決まりましたー」


 ばーん! という効果音が聞こえてくるようなドヤ顔で柚子はそう言った。


「なんか意外だな。柚子は武器持って戦う方が好きそうだと思った」


「いやー、わたしもゲームならそっちの方が好きだけど、今やっても蓮にいの邪魔になるだけかなーって」


 頭に手を当てて柚子がそう言う。


 確かにそうかもしれない。

 ぶっちゃけよっぽどステータスが高くないとあの少年の戦闘にはついていけないだろうし。上級職の黒乃ですらギリギリだったのだから、通常の職業を選ぶしかないなら近接戦闘職は避けるべきか。


「それに魔法ってなんか響きがいいじゃん! 折角なんだから普通じゃできない事やりたい!」


 柚子は目を輝かせている。妥協の末の選択ではなく、自分がやりたいから選んだのだと思われる。俺も魔法とかのそういうファンタジーっぽいのは好きだし、気持ちはわかる。


「2人とも後衛職か。黒乃、2人のステータスはどれくらいだ?」


「魔力が100で他のステータスは250前後っすね。2人とも職業レベルはもう上げた後です。ステータスボーナスは50ずつしか上がらなかったっす。上級職は普通の職業より50多くボーナスがもらえるみたいっすね」


 確か、黒乃達は職業レベルを上げるとステータスにボーナスが入るんだったか。最初に貰ったポイントで1レべ上げれるから魔力以外のステータスに50ずつ補正がかかっているはずだ。


 黒乃が職業レベルを上げる時にはレベルを2~3に上げると100、4~6に上げると150、7~10に上げると200ずつステータスにボーナスがあると前に言っていた。今わかった情報によると、通常の職業だとここから50ずつ減らされるみたいだ。


「……それでも、俺の初期ステータスよりだいぶ強いけどな」


「京さんはステータス低すぎなんすよ。論外っす」


 俺の初期ステがall50だった事を考えるとこれでも十分だろう。俺は職業レベルがないからステータスボーナスもないし、きっとすぐにステータス面で柚子達に抜かされるだろう。


「スキルは柚子ちゃんが《炎魔法》と《攻撃力上昇補正》、蜜柑ちゃんが《召喚魔術》と《支援魔術》っす」


「最低限の攻撃手段もあると。これなら……」


 スキルも2人に合わせたものを既に選んでいたらしい。攻撃系のスキルとその効果を高める補助系のスキル。序盤に取るならその辺りが妥当だろう。

 それに自分が前線に立つ類のスキルじゃない。これなら来る前に考えていた方法が使える。


「2人とも。今日は帰ってゆっくりするか、それともこれからとっておきの方法を使ってレベル上げするか、どっちがいい?」


 柚子と蜜柑に問いかける。返事は予想した通りのものだった。





 1時間後。俺達はモンスターの集団に囲まれていた。


「《(ファイア)》! 《火》! ……あーっ! もう疲れたーっ!!」


「《サモン:ソルジャー》、《サモン:ソルジャー》、《サモン:ソルジャー》……」


 柚子が耐えきれないといったように大きく叫ぶ。蜜柑は虚ろな目でスキルを使い続けていた。


 柚子が放つ不定形の炎は命中しても一撃でモンスターを倒す事はできていない。蜜柑が召喚した鉄の甲冑を纏った騎士は召喚直後に敵に向かって突撃し、即座に倒されていく。


 これだけでは敵の数は減らない。


「いけー! そこだー! やっちまえー!」


 モンスターを倒しているのは黒乃と、俺の召喚した《ドラゴモール》と《浮遊マンタ》だ。柚子達が僅かにダメージを与えたモンスターに追撃をかけて瞬殺していっている。


 ──パワーレベリング。今やっている作業はゲームなどでそう呼ばれるものだ。

 高レベルプレイヤーが協力する事で、通常よりも効率よくレベル上げを行う。プレイヤーの技術がまったく磨かれないという欠点はあるが、最低限のステータスを確保する方が今は大事だ。


 モンスターを呼び寄せたのは俺の使用したカードの効果だ。破壊されない限り、音が鳴り続ける装置を生成する瞬間術式カード《ジリジリベル》によって周辺のモンスターはこちらに向かっておびき寄せられている。レベルは5~10程度だ。


 そのモンスター達に柚子達が攻撃を与え、トドメは俺達が刺す。


 僅かでもダメージが与えれれば経験値は入るので、柚子達もどんどんレベルが上がっていっている。

 レベルが上がれば魔力が回復するので休む事なくこの作業を続けられるという仕組みだ。この1時間ぶっ続けでこの作業をしている。


 俺はスキルを使って必死にモンスターに攻撃する2人の傍で待機中だ。これは俺が前線に立つと逆に効率が悪いからだ。開始早々に黒乃にお役御免を言い渡された俺はガヤを飛ばして賑やかしを担当していた。


 作業自体は順調だ。だけど……


「……うーん。このくらいが限界かなー」


 2人の様子を見て、俺はこの作業を打ち切る事にした。


「ま、まだやれる……」


「いや、これ以上はやめとこう。魔力なんていう体に元々なかったものをレベルアップで無理矢理回復して使ってるんだ。あんまりやりすぎると体に良くないし、それに2人とも集中力が切れてきている」


 震える声で柚子はその提案を拒否したが、俺は無視して足元に設置した装置を壊す。


 魔力なんてものは元々の世界にはなかった。時間経過やレベルアップで回復するがそれはあくまで数値上の話だ。

 魔力をスキルや能力を使うためのエネルギーと仮定するなら、それが無条件で数値と同じように回復していくと考えるべきではない。体力と同じでしっかりとした休息を取らないと体に異常をきたすと俺達は考えている。


 この仮定は少年との戦闘を後から振り返って出た結論だ。

 少年が使った魔法はまさしく圧倒的な威力と速度を持っていたが、何故か彼はそれを使うのを渋っていた。その上、使用後には戦闘継続も困難になっている所を見ている。


 黒乃はその原因を魔力の使用にあると見た。数値上は魔力が回復していても、その元となる力が回復してなかった為に異常が現れたのだろう、と。

 少年はまともな休息も取らないまま1週間程を1人で戦い続けていたらしい。柚子達によると最初の内は魔法を使ってモンスターを一掃していたらしいが、暫くすると使わなくなったとの事だ。恐らく自分でも異常を感じたから魔力を使うのを極力控えたのだろう。 


 ……それを踏まえると、俺達は魔力も使ってない舐めプ状態の少年に苦戦したという事になるが。まあ、そこはいいだろう。


「黒乃ー! 今日はこれで終わりー!」


「りょーかーい!」


 少し離れた場所にいる黒乃に聞こえるように声を張る。黒乃は間延びした返事と共に動きのギアを上げた。

 俺には視認できないスピードで黒乃が動き、あっという間にモンスターの集団は全滅する。


「ふいー。疲れたー」


「お疲れ。2人も疲れただろ」


 額にうっすらと滲んだ汗を拭いながら、黒乃が戻ってくる。


「もう、むり……」


「もうダメだーっ!!」


 モンスターがいなくなったとわかると、蜜柑はその場に崩れ落ちた。柚子も大の字に倒れて、荒い息を吐く。


 その様子を見て、俺はクスリと笑った。


「これで最低限のスタートラインだ。これからも頑張れよ」


「「……は~い」」


 柚子達を見下ろしてそう言う。立ち上がる元気もないのか、彼女達はそのままの態勢で弱々しく返事をした。




 その後、暫く休憩したが、歩く気力も回復しきらなかった柚子達を《マンタ》に背負わせて黒乃の家に帰る。


 何のトラブルもなく、着いたのは午後の2時前。


「ごっはん、ごっはん~」


 俺の後ろをついてくる黒乃が機嫌よくリズムに乗っている。

 昼飯は帰ってからにしたため、みんなこの時間になっても何も食べていない。俺も腹が大分減っている。


「ちょっと今日はお腹に入らないかもなー……」


「わたしも……」


 移動中も休憩にあてたため、家につくころには柚子達も自分で移動できるくらいには回復していた。黒乃の後をよろよろとついてくる。

 そんな彼女達は食欲があまり湧いていないらしい。初めての戦闘だったし、無理もない。


「ふーん。じゃあ今日の昼飯はあっさりめのにするかー」


 彼女達の状態も考慮して今日は軽めの昼食にしよう。


 そんな事を呑気に考えながら、地下の居住空間に足を踏み入れた。


「──動くな」


 喉元に剣が突きつけられた。


 まるで動きが見えなかった。声が聞こえて、ようやく自分の目の前に少年が立っている事に気付いたくらいだ。


「お前は! ……いや、どうでもいい。攻撃が効かないってんなら何もさせないまま効くまで斬り続けて……」


「れ、蓮にい!?」


「……は?」


 後ろに居た柚子が驚いて声を上げる。俺の後ろに自分の妹達がいる事に気付いた少年は剣を下ろさぬまま戸惑いの声を発した。


「……た、たしゅけて」


 俺は震える声で助けを求めた。






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