11.なくなったもの
柚子達との話し合いの後、善は急げとばかりに俺達は外に出た。
力を手に入れるにはモンスターを1体、殺す必要がある。だが、これはモンスター相手にタイマンを張れという意味ではない。死にかけのモンスターにトドメを刺すだけでも力を手に入れられると俺は考えたし、事実、黒乃ができると証明済みだ。
この世界で戦闘を複数人で行った時、ドロップアイテム自体はランダムに分配されるが、経験値に関しては戦闘に参加した人が全員、同じ数値だけ得られる。恐らくこの原理が関係しているのだろう。
なので、俺達が抵抗の術もないくらいに痛めつけて、動きを封じている所に最後の一撃を入れてもらうのが一番確実だ。
それをするにも、柚子達の攻撃力でかすり傷でもいいからダメージを与えられる相手を探さなくては戦闘に参加したとみなされない可能性がある。抵抗された時の事も考えると、できるだけ弱いモンスターを狙うべきだ。
「黒乃ー、倒しやすいモンスターいない?」
「駄目っすねー。やっぱり弱いモンスターは軒並みいなくなっちゃってます。柚子ちゃん達を追ってきてたモンスター達の一部の方が弱いくらいっすけど……」
「あいつら、経験値もドロップアイテムも落とさないからなー。数も多いし、相手するだけ無駄」
追っ手のモンスターの集団を警戒しながら、黒乃の探知能力で手頃な相手を探す俺達だったが、町に残っているのはそこそこ(といってもレベル一桁代だが)強いモンスターばかりだ。
東京内に残っているモンスターはフロアボス出現時に現れたモンスターの残党がほとんどを占めている。ごくたまに外からモンスターが入ってくるが、数はどんどん減っている。そこそこ強いモンスターとその仲間だけが残るのは自然な事だった。
モンスターの集団の一部にはこれより弱いモンスターがいた。数を揃えているだけなので弱い個体がいるのも不思議ではない。
だが、こいつらを倒しても経験値もドロップアイテムもない事は昨日判明している。モンスターの集団を殲滅した黒乃が文句を言っていた。
プレイヤーが召喚したモンスターを倒して、レベルアップやアイテム増殖なんてされたら運営としてはゲームが成り立たないので残念ながら当然である。
「こりゃ、東京の外に出た方がいいな。無限湧きするから弱いモンスター探すならあっちの方がマシだ」
東京の中でモンスターを探すのは諦めて、未だ手は余りつけられていない街の外へ行く事を決める。
街の外のモンスターは倒される度に何処かで復活しているみたいなので、手頃なモンスターも狙いやすいだろう。
「東京の外? ここからだと千葉か埼玉にでも行くんですか?」
「ああ、そっか。そこからかー……」
だが、柚子達はどうやら東京の外の元の地域が軒並み消失して、代わりに森になっている事をしらなかったのだろう。柚子が特に気にすることなく、元の世界と同じ感覚で聞いてきた。
「行けばわかるよ。見るだけでこの世界がやべーってわかるから」
「うーん……もう大概、世紀末って感じだけど」
柚子はもう今更どうなってても大して変わりはないと思っているのだろう。あまり興味は持っていない様子だ。
「あの! 遠くまで行くんだったら、寄りたい所があるんですけど……」
蜜柑がそう言ってくる。その後に続けられた言葉を聞いて、俺は丁度、そこが通り道の途中にある場所だった事もあり、それを了承した。
◇
蜜柑が寄りたい場所と言ったのは、自分達の家だった。こんな世界だ。無事に残っているとは彼女も思っていなかったが、それでも一度見ておきたかったのだろう。
「……ひっでえな、これ。フロアボスの攻撃の流れ弾でも直撃したのか?」
……とはいえ、その成れの果てを前にして、俺はその選択が間違いだったかもしれないと思い始めていた。
崩壊した街の中、伝えられた住所を地図と照らし合わせて進んでいった先にあった目的地。そこには、何もなかった。
他の家が半崩壊、もしくはがれきの山と化している中、元四宮家はそこには何もなかったように全てが消し飛んでいた。その土地が黒く炭化していなければそこはただの空き地だと思ったくらいだ。
周囲の家も若干、被害を受けて黒くなっている所を見ると、恐らくは強力な攻撃で炎上、燃え滓も残らないくらいに燃え尽きたのだろう。
原因として一番可能性が高いのはやっぱりフロアボスだった。アイツは移動時に戯れのように炎の玉やブレス攻撃で周囲を焼き払っていたからな。
フロアボスの攻撃にしては規模が小さいが、黒乃と戦っている時に自由な大きさで炎弾を放っていたところを見ているので、そこまで違和感はなかった。大方、適当に放った小さな炎が直撃したのだと思う。
「……うん。やっぱりなくなっちゃってるよね」
「わかってはいたつもりだったけどこうして実際に見ちゃうと、へこむなぁ……でも、仕方ないか」
俺の心配とは裏腹に、柚子達は少し悲しみながらも納得している様子だった。
「大丈夫っすか? 辛いなら、モンスターを倒すのは明日にした方がいいっすよ?」
「そんな事したら、蓮にいが起きちゃうよ。遥さん、わたしは大丈夫!」
「わたしも、いけます! ……もう止まっていられないもんね」
黒乃の問いかけにもちゃんとした様子で答えている。動揺は本当にないのだろう。
……まあ、万が一という事もあるし、その辺りは俺達が気をつけておこう。怪我でもさせたらシャレにならん。
「柚子達が大丈夫だって言うなら、目的地に変更なしだ。行こう」
立ち止まっていた俺達は再び東京の外へと足を進めた。
柚子達はほんの少しだけ名残惜しそうに自分達の家があった場所を見つめてから、それを振り切って後をついてきたのだった。
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