表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/82

2.アップデート②


 準備を終えた俺達は、東京の外に突然発生した森を少し進んだ地点まで来ていた。


 意外と地面はしっかりと整備されている。誰も手入れしてない森では草木が生い茂ってマトモに進むのも厳しいかと思っていたがそんな事はないらしい。

 恐らく、戦闘に支障をきたさないようにちゃんと考えられているのだろう。


「さーて、久々のバトルっすね。んっ、腕が訛ってないか心配っす」 


 今までのブカブカとした恰好とは違い、半袖のフード付きパーカーにデニムの短パンという身軽な恰好に衣替えした(外に出る時はオールシーズンであの暑そうな恰好らしいが、夏にあの格好で外を動き回るのは流石にしんどかったらしい)

 黒乃は俺の横で胸を大きく逸らして準備運動中だ。


 俺もTシャツに七分丈のチノパンの軽装だ。

 黒乃に倣って準備運動として膝をよく伸ばす。


「黒乃のステータスなら、この辺の敵なら余裕だろ。それより今日は色々試したい事があるから暫くは俺のサポートを頼むぜ?」


 この辺りに出現するモンスターは事前の情報と黒乃の探知能力から強い個体でもレベル15程度が最高だとわかっている。黒乃のステータスだと油断しなければ危険に陥る事はないだろう。


 今日の目的は黒乃のリハビリと俺の能力の調整だ。ギリギリ同格のモンスターを相手に能力の運用テストをして次の戦闘に備える。


「えー。そんな事より私のレベルアップの方が大事ですよー。京さんは休んでてもモンスターが経験値を貯めてくれるからいいっすけど、私はずっと休んでたせいでまだレベル18っす。この先の事を考えるとこれじゃ心もとないですよう。それに京さんにレベル差つけられているのも()です。」


「そんな事言われても、それが俺の能力の唯一の取り柄みたいな所あるし……ゆーて、黒乃は十分強いじゃん」


「京さんのパートナーやるにはまだまだ足りませんよーだ。弱っちい癖にやたら無茶する人と一緒にいるためにはもっと力が必要なんですー」


 俺のレベルは黒乃が休んでいる間にも経験値が入り続けていたため、フロアボス討伐時からレベルが更に1上がってレベル23になっている。

 ステータス的には黒乃に遠く及ばないが、それでも俺とレベル差がついた事がお気に召さないらしい。


 弱っちい癖にやたら無茶すると言われても、俺はやれる事しかしないからあまり実感はないのだが。

 まあ、確かに戦闘面で黒乃に頼り切っているのは事実だ。その彼女がもっとマージンを取りたいというならパートナーとしてはその意見を尊重したい。


「それ言われると、返す言葉がねえや。……俺が前線で戦う事なんてそうそうないだろうし、調整は程々でいいか。じゃあ、最初の集団だけ俺に任せてくれ。後は黒乃のレベルアップに付き合うよ」


「やりぃ、言ってみるもんすね。京さんの戦闘を見てるだけなんて退屈ですもん。やっぱり自分が動かないと!」


 ブーブーと不満そうにしていた黒乃は俺の言葉を聞いて、ニヒヒと笑う。


「それじゃあ、最初は大人しく後方支援に回りましょうか」


「銃? そんなの持ってたんだ」


「剣と一緒で初期装備っすよ。というか、私の職業(ジョブ)は戦士系の職業が使える武器の大体を初期装備で高品質のが貰えるんすよ」


 満足気に笑った後、黒乃は手元に武器を呼び出す。


 現れたのは、いつも使っているサイバーパンク感溢れる近未来的なデザインの剣ではなく、同じようなデザインのハンドガンだ。


 聞くと、彼女の職業には初期装備が大量に用意されていて、自由に選べたらしい。流石、上級職って感じだ。


「でも、スキルなしで当てれるのか?」


「大丈夫っすよ。職業補正でその辺はうまくやれるっす。それより、前方にモンスターが五体いますね。蜂型のモンスターの《シグナルワスプ》。レベルは大体12くらいっす」


「おっと、もうエンカウントか。それじゃあ……」


 話している内に黒乃の探知能力でモンスターの正確な位置を確認したらしい。


 黒乃に促され、俺は新たな機能として用意されたものの1つを黒乃に見せる。


「どう、カッコ良くない?」


 俺が頭の中で念じるとカードが前触れもなく宙に出現した。

 現れたカードは俺の周りを浮遊する。総数は6枚。これは今の俺の手札だ。


 手札を自由に消したり、出現させたり、あとカードを思いのままに引き寄せたりする。それが新たに追加された機能だった。


「うわー、すっごい無駄機能。こういうの私は好きっすけど、運営は何を考えてこの機能をつけたんすかね。もっと他にやる事あるでしょう」


「そんな冷静に返さないで……一応、両手が空くって利点があるから……」


 両手を空けるためにカードをポケットに入れておく等の手間が省けたので、使いやすくはなる仕様変更だ。

 だが、俺の手が空いた所でできる事は限られている。黒乃が言う通り、もっと他に強化が欲しいと思ってしまう。


 少ししょぼんとしながら、浮いているカードの内の1枚を手元に引き寄せてクロノグラフにかざした。


召喚(サモン)、《浮遊(ふゆ)マンタ》」


 召喚したのは中ボスとして現れた大型の空飛ぶマンタだ。


「あれ? 前見た時より縮んでません?」


「コイツ、体の大部分が水でできてて、大きさをある程度自由に調整できるんだってさ。だから、今日は小回りが利くようにこのサイズだ」


 目の前に現れたその姿は前に相対した時よりもかなり小さくなっていて、俺達の体より一回り大きい程度だ。


 水を操って攻撃するこのモンスターのもう1つの能力だ。体の大部分が水でできているこのモンスターは体内の水分を調整する事で、最大で俺達が戦っていた時の一軒家程の大きさから、最小で全長1メートル程まで大きさを変えられる。

 大きさが変わってもステータスに違いはないので、今回は小回り重視でサイズを少し小さくする。


「で、なんでこのモンスターっすか?」


「そりゃ新しく追加された視覚共有能力を試すためさ。どっちかっていったらこっちが本命だな。

俺の素早さのステータスで認識するからあんまりステータスに差があると機能しないんだよ。そこそこ強くて、俺のステータスと同じくらいってなったらコイツくらいしかいねーんだよ」


 新しく追加された機能。それは支配下のモンスターの視界を一方的に把握する視覚共有能力だ。


 この能力は俺のSpeed(素早さ)のステータスで視覚を認識するので、ステータスに差があるとまともに機能しない。

 一度、フロアボス戦で手に入れた後、放し飼いにしているレア度がURのモンスターと視界を繋げた時には急激に切り替わる視界に直ぐに酔ってしまった。


 どうしても素早さのステータスが上のモンスターと視界を正常に繋げるには自分の素早さをカードの効果で上がるか、今持っているカードなら《アクセルフレーム》を装備するしかない。


 また、この能力は脳の処理能力の都合上、1体がベストだ。2体からは戦闘に支障をきたす。

 2体ならまだ軽い頭痛くらいで済むが、3体以上はまともな思考ができなくなる。


「モンスターへの命令を念じるだけでできるようになったから、視覚共有能力と合わせて細かく命令を出していけば実質モンスターとして俺も戦う事ができる。これなら俺のステータスも関係ないって訳さ。今回はそのお試し」


 モンスターへの命令も今までは俺の言葉を認識したクロノグラフを通して行っていたために大雑把で単純な命令しかできなかったが、アップデートでその不便さが解消された。


 モンスターへの命令を言葉にせずとも伝える事ができるようになったので、今まであった若干のタイムラグがなくなった。

 また、先程の視界共有能力と合わせる事でモンスター視点でより効果的な動きを命令できる。

 過度の負担がかかるような無茶な動きを命令しない限りはモンスターは俺の意に従って忠実に動くので、新しく追加されたこの2つの能力を合わせるとクソステの俺でもモンスターを自分の体のように使って戦えるようになったという訳だ。


「それじゃあ、試してくるわ。危なくなったら助けて」


「りょーかい。まあ、あのレベルの敵だしあんまり期待はしてないっすけど」


 最後にカードをドローして、準備を終えた俺は一声かけてからマンタを伴い前へと駆け出す。 


 木々の向こうの開けた場所には、黒乃が探知した通り人間の頭ほどの大きさの蜂のモンスターが5体居た。足音でこちらの存在に気付いた蜂のモンスターに向けて、俺の命令を受けたマンタが水球を放った。


 2体に命中。後は回避された。攻撃が当たったモンスターも弱ってはいるが、消滅する程のダメージは受けていない。


 ならば、まずは弱った敵を墜とす。


術式(スペル)、《ストームブラスト》!」


 前方に発生した風の奔流が、攻撃を受けて怯んだ蜂を巻き込んで吹き飛ばす。


 木に打ちつけられた蜂はそのまま消滅した。


 もう一方の弱った蜂もマンタが水を圧縮してレーザーのように放って撃ち抜く。


 これで残り3体。蜂も反撃を仕掛けてくるが自分の視界とマンタの視界を共有して得た広い視界で動きは完全に把握している。


「っと、反撃だ!」


 蜂の目から放たれた光を躱す。


 マンタは体を傾けて滑空しながら光を避けて接近し、至近距離から水を放射する。水流で蜂の体はバラバラになった。これで残り2体。 


「これで決める! 術式、《ライトニング・スペクト》!」


 超高速で放たれた複数の細い雷の線が残った2体の蜂の体に命中する。蜂はその動きを止め、地面に落ちた。


 発動したのは今日の朝にガチャで手に入れた新しいカードだ。ダメージは与えられないが、拡散して放たれる雷に命中した敵を2秒間スタン──動きを封じる状態にする効果を持っている。


「撃ち抜け、マンタ!」


 動きを封じられて地面に落ちた蜂をマンタが水のレーザーで撃ち抜く。

 胴体に大きな穴を開けた蜂のモンスターは、そのまま消滅した。


「お疲れ様ー。やっぱり私の出番はなかったっすね」


 戦闘が終わり、ふう、と一息ついた俺に黒乃が声をかける。


「それで、新機能を試してみた感想はどうっすか?」


「戦いやすくはなったな。だけど、こんな雑魚モンスター相手の戦闘でカードを3枚も使うってのはやっぱりコスパが悪い。俺は今まで通り前に出ない方が良さそうだ」


 黒乃の問いかけに答える。


 新機能自体は上手く機能している。モンスターへの指示もタイミングのズレなく行えたし、回避しながらの接近も自分が想像した通りにマンタの体を動かせた。


 ただ、俺が前に出て戦闘すると、無限湧きする雑魚モンスター相手に手札を消耗しすぎるというデメリットがある。


 アップデートでドローの待ち時間(クールタイム)が最後にドローしてから5分後から2分後に短縮されたので、リソースの事を考えてデッキの枚数は多くしている。


 それでも無理に戦闘に参加して、リソースを減らしていくのは得策とは言えない。どのみち、俺が前線に出て得られる恩恵など塵に等しい。


 ……そもそも同格相手じゃないと、俺が前に出ても意味がないし。


 俺は今まで通り後方でモンスターを操って戦うべきみたいだ。


「新機能のお陰でモンスターの動きは格段に良くなったし、そっちメインで支援するさ。自分で戦えないのは残念だけどね。……やっぱり自分が前で戦ってみると黒乃が羨ましく感じるよ。回りくどい事考えなくてもゴリ押しで何とかなるからなあ」


「ふふん。羨ましくたってこれが私の強みですから。京さんは大人しく私の後ろで見守ってくれれば良いっすよ」


 ドヤ顔でそう言い放つ黒乃。


「はいはい、頼りにしてるよ。じゃあ新機能のテストも終わったし、黒乃のレベルアップを手伝うよ。まだ試してない新機能が1つあるけど、そっちはついででいいや」


 実は新機能はまだ1つ残っていた。本当はさっきの戦闘で試す予定だったが、その新機能を使うまでもなく戦闘が終わってしまったのだ。


「あれ、まだ何かあったんすか?」


「うん。術式系のカードをあらかじめ仕込んどいて、誰かがその座標の周囲に入ったらそいつを対象に自動でカードが発動するっていう罠機能。これなら俺のおっそい攻撃系の術式でも当てれるってわけ」


「へえー、色々できるようになったんすねえ」


 黒乃は感心した後にこう言った。


「使い道を考えるのも楽しいでしょうし、運用は京さんに任せます。頼りにしてるっすよ」


「おう、任せとけ」


 俺の役割は今まで通り変わらない。黒乃のサポートを優先する。それが一番強いし、何より今はそうやって戦う方が楽しい。


「それじゃ、レベル上げしましょう! 大まかなモンスターの位置はわかるんで、京さんのモンスターを使って挑発して誘き寄せてください。集まってきた所をどんどん私が倒していきます」


「モンスター使いが荒いなあ。まあ、わかりましたよっと」


 アップデート後の初戦闘も終わり、俺は愚痴を言いながらも黒乃のレベルアップに付き合うのだった。




わかりづらかったかもしれないんで、アップデート後の機能の箇条書きを。


【改善】

・手札のカードを自由に操れるようになる。普段は消しておく事も可能。

・クロノグラフを通さなくてもモンスターに命令が出せるようになる。

・ドローの待ち時間短縮(5分→2分)


【追加】

・1日1回の無料ガチャ。

・モンスターとの視覚共有。

・罠機能。あらかじめ術式カードを仕込んでおいて誰かがその周辺に入ると自動で発動する。


【削除】

・モンスターのHPシステム削除。(代わりに全ステータスに若干の強化)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ