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世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
1.俺たちの世界が買収されたと思ったら、現実になって帰ってきた
21/82

20.運命を引き寄せる④


 俺が左手からボスの方へ向かうと同時に、黒乃は右手から前進する。


 ボスの攻撃の矛先は当然、黒乃に向かった。

 俺を守らなくてもよくなったので彼女は回避という選択も選べるようになったが、それでも彼女1人でボスの元には辿り着けそうになかった。

 残った左腕でよく奮戦しているが、彼女の体は徐々に後退していく。


 その代わりに、俺とフロアボスの間の距離は着実に狭まっていく。


武装(アムド)、《弔いの刃 シャドウエッジ》」


 距離が十分縮まった所で1枚のカードを発動した。


 ゾワリとした殺気が手元に現れた剣から放たれる。(のこぎり)のようにギザギザとした刃は血を吸いこんでいるように黒く染まっている。

 

 誰が見ても忌避するようなその剣は、装備時のステータス上昇とはまた別に装備者の攻撃力を上げる能力と防御力を下げるデメリットを持っている。

 その上昇値は敵に倒された自分のモンスター1体につき50の上昇だ。その代わりに自分の防御力が同じだけ下がる。今までにフロアボスが倒した俺の使役するモンスターの数は28体。つまり1400の数値分、攻撃力と防御力が変動する。


 デメリットのせいで黒乃に装備するには躊躇われるが、俺が装備したならデメリットは少ない。防御力がゼロになってしまったけれど、元々フロアボスの前ではあってもなくても変わらない程度でしかない。ダメージがちょっと増えるだけだ。


 それと同じように俺の攻撃力が強化された所でメリットは少なく、俺の基本ステータスを超える大幅な上昇値にも関わらずフロアボスの防御力には届いていない。

 だが、HPシステムが適用されているのは俺と俺のモンスターだけだ。敵の防御力が俺の攻撃力を上回っていても差が縮まればそれなりにダメージは与えられる。

 刃を肌に通さない程となると、俺の基本ステータスとフロアボスの防御力くらいの差は必要だ。……つまり、《シャドウエッジ》を装備した今なら俺の攻撃でも通る。


「……やっぱり、流石に警戒するよな」


 この剣の異様さをフロアボスも無視はできなかったらしい。黒乃への攻撃をやめ俺の方を向く。


 距離は残り10歩程。まだ剣が届く距離には達していない。だけど、ここまで近づけたなら反撃は1回くらいしかできないだろう。なら、この1回を凌げば届く。


「時を動かせ! クロノグラフ!」

『──セットアップ』


 フロアボスが俺に向かって炎のブレスを放つのと、俺がクロノグラフから引き抜いたカードを発動するのはほぼ同時だった。


瞬間術式(インスタント・スペル)、《ダーク・エンド》!」


 フロアボスが黒い球体を消費して放った漆黒の炎のブレス。それが今、対象を変えて放たれる。


 足は止めない。こうしている時間も貴重だ。


 ……それに、結果はわかりきっている。このままじっと見つめていたって無駄だ。


「……っ! 防げっ!」


 赤のブレスと黒のブレス。2つのブレスは僅かの拮抗の後に、黒のブレスはあっけなく霧散した。


 勢いが減衰した赤のブレスは俺に到達し……そして2枚の透明な盾に遮られた。


 いくら上昇させた所で、俺の攻撃力では真正面からじゃ太刀打ちできない事は最初からわかっていた。

 だからこその二段構えだ。ブレスと2枚の残った盾を合わせれば、何とか敵の攻撃も一度なら止められると踏んだのだ。


 ブレスの残滓が火の粉となって散りゆく中を駆け抜ける。フロアボスの姿はすぐそこまで迫っていた。


 フロアボスの目には驚愕の色が見える。当然だ。さっきまではアッサリと吹き飛んでいた雑魚が何故か自分の攻撃を退けたのだから。

 だが、慌ててはいなかった。あまりにも遅すぎる俺の動きでは虚をつく事などできない。

 フロアボスが俺を撃退する為に右腕を振り上げる。


「瞬間術式、《デュアルアクセラレーション》!」


 ――フロアボスの一瞬の気の緩み。警戒を解き、安直な迎撃に甘んじた今こそが最大のチャンスだった。


 その腕がまさに振り下ろされようとしたタイミングで発動したそのカードの効果は、1分間、自分の素早さに味方1人もしくは味方のモンスター1体の素早さの半分の値を加える能力を持っている。


 もちろん、対象は黒乃だ。

 黒乃の素早さの半分の値分上昇された俺の素早さは何とかこの戦場についていけるだけの数値まで上がった。


 つまり……


「――通った!」


 ……遅すぎる俺を撃退する為に振り下ろした右腕は、今の俺にとっては遅すぎた(・・・・)


 フロアボスも即座に対応しようとするが、もはや間に合わない。


 土壇場で急加速した俺は振り下ろされた腕を紙一重で避ける。


 その勢いのままに懐に潜り込み、左手に携えた剣を鱗に覆われていない喉元目掛けて突き刺した。


「――――――ッ!!!」


 フロアボスの喉元に俺がつけた大きな傷口と突き刺したままの剣の合間からゴポリと血が溢れる。真下にいた俺の頭にバケツをひっくり返したように血が流れてきた。

 

 剣を喉の根本まで押し込まれながらも、フロアボスはまだ生きていた。血が溢れたせいでよく聞こえないが、咆哮を上げて暴れ出す。


 フロアボスが腕を地から離し、頭を上げる。剣を握りしめたままの俺はそれに引っ張られる形で急上昇した。


「うおっ!? 悪足掻きかよ!」


 そして、フロアボスは奇声を上げながら頭を振り、俺を振り払おうとする。


 俺は剣に必死に掴まりながら、ポケットに入れていた最後の手札を手に取った。


 まさか、喉に剣を刺してもまだピンピンしてるとは思わなかった。


「でも、――これでチェックメイトだ! 術式(スペル)、《スクエアチェンジ》!」


 けれど、俺がここまで――ボスの懐まで辿り着いた時点で勝利は確定していた。


 遠心力に負け、剣から手が離れると同時にクロノグラフにカードを翳す。


 このカードの効果は……


「――今までの分、全部倍返しっす!!」


 ……対象を2つ選び、その座標を交換するという能力だった。


 俺と入れ替わりで、上空に現れたのは当然、黒乃だ。


 《空歩きのくつ》を装備している黒乃は足場がない空を自由に駆ける事ができる。


 俺が僅かに吹き飛ばされた数メートル。そんな距離に突然現れた黒乃に対して、フロアボスは何の抵抗手段も持っていなかった。

 ブレス攻撃は喉を潰された為に使用不可。それ以前にこんな僅かな距離では腕を振る事すら間に合わない。


 黒乃は突然、視界が切り替わったにも関わらず、何の戸惑いもなくフロアボスとの距離を一瞬で埋め、黒乃は喉元に突き刺されたままの《シャドウエッジ》を手に取った。


 ――武装カードは装備中に対象から離れ、別の者が手に取るとその者に装備対象が変わる。


 それは即ち、《シャドウエッジ》の圧倒的な攻撃力上昇能力が黒乃に対して適応される事を意味していた。


「いっとー!りょーっだんっ!!」


 フロアボスに対して1000以上の攻撃力の差をつけた挙句、駄目押しでスキルの力まで加えた一撃だ。


 青白く輝く刃を手に、フロアボスの体を引き裂きながら地面へと向かって駆け抜ける黒乃。


 そして、タン、という軽い音と共に着地。言葉通り、フロアボスの体は首元から中心に沿って両断されていた。


「……ハハッ。流石、黒乃。美味しい所でキッチリ決めてくれる」


 俺は黒乃がいた座標で、振り払われた時の勢いのまま地面に衝突していた。

 痛みはなかったが、どうなったかをすぐさま確認しようと目を向けて……何の問題もなくフロアボスを倒していた黒乃を見て、安堵の溜息を吐きながらそう呟いた。


 ――グラリと巨体が揺れる。最期は声一つなく、フロアボスが倒れていく。


 ズズンという音が鳴り、フロアボスが倒れた反動で地面が少し揺れた。


 その数秒後、フロアボスの姿は光の粒子となって消滅した。


「京さ~ん! やりました~っ!」


 黒乃が手に剣を持ってブンブンと振りながらこっちに来る。


「あいたっ!?」


「危ないからそれ置きなさい。後、ヒドイ怪我してるんだから安静に」


 とりあえず、軽く頭にチョップした。


 そんな危険物持ったまま走り寄って来ないで欲しい。それに、怪我も酷いんだからもう少し怪我人らしく大人しくしていてほしいものだ。


 ……まあ、今くらいはいいか。


「……ほら」


 手を上げて、手のひらを黒乃に見せるように開く。


 剣をその場に放り投げた黒乃は一瞬、「何してるんだろうこの人……」みたいなキョトンとした顔をして、すぐさま合点がいったのか、嬉しそうな顔をした。


「いえ~いっ!! 私達の勝ちっすね~!!」


 パンという音と共に手の平が合わさる。


 はしゃぐ黒乃のお陰でようやく終わったんだなと本当の意味で実感し、肩の力が抜けた。


 黒乃と同じように笑みを浮かべて、言葉にする。


「――ああ、俺達の勝ちだ」


 ――俺達が仲間として戦った初めての強敵。東京を脅かしていたフロアボスは僅か5日で姿を消した。


 勿論、これは始まりに過ぎないだろう。


 だけど、今はただ、この勝利を喜びたいと思った。




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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく面白いです! [気になる点] 「対象を2つ選び、その座標を交換する」 ↑カードゲームにこんな効果のカードあるか?と疑問に思いました。 主人公が持っているカードが読者には不明なため、ご…
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