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世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
1.俺たちの世界が買収されたと思ったら、現実になって帰ってきた
20/82

19.運命を引き寄せる③


「まずは揺さぶりをかけて攻撃を誘う」


 舐められている事には腹を立てていない。

 俺がフロアボスに比べて実力がまったく足りていないのは純然たる事実だ。


 むしろ、最後の最後まで舐めきったままでいてくれる方がありがたい。

 この無謀な突撃でフロアボスが俺から更に警戒心を解いてくれるとよりいいが。


 俺は当初の予定通り、相手の攻撃を誘う為に揺さぶりをかける事にした。


「……まだ遠い」


 ちょこまかとフロアボスの手前で左右に方向転換などをしてみるが、反応はない。

 もっと近づかないと攻撃すらしなくていいと判断しているのだろう。


 なら、お望み通り……


「……きたっ」


 更に前進すると、フロアボスはようやく俺に対して行動を起こした。


 空に向かって小さくなった代わりに散弾のように火球を放つ。そのままフロアボスは地につけていた右手を振り上げた。

 鉤爪にはゲームのエフェクトのように炎が纏われている。あれを食らうと凄く痛そうだ。


 俺はフロアボスの攻撃から目を離さないようにしながら斜め前へと動く。

 フロアボスがそんな俺に向けて腕を振り下ろすと同時に、横っ飛びを試みる。


 俺の足が地面から離れた。攻撃と合わせて飛んだのだが、俺の行動を見てフロアボスの腕が途中で静止する。

 そして、空中で身動きが取れない俺に向けて薙ぎ払うように改めて腕が振るわれた。


「がっ……!?」


 横一文字に刻まれる赤の線。燃えるような熱さと刃のような鋭さが自身の体を通過していく感覚と共に吹き飛ばされる。


 そして再び激突。コンクリートの壁に背中を打ちつけ、体中の空気を吐き出した。


「……が、あああっ!!」


 問題はその後だった。痛みという言葉では言い表せない苦痛が俺を襲った。


 燃え盛るような熱を自分の中側から感じる。生きながら体を燃やされているのだ。

 俺はたまらず服に付いた火を消すようにのたうち回ったが全く効果はない。火なんてついていないのだから当然だ。


「はあ、はあ……くそ、幻だとわかっていても結構クるものがあるな……」


 単純な痛みならまだしもこういう方面の苦痛が襲いかかってくるとは思っていなかった。この能力を設定した奴も無駄にクオリティの高い仕事をするものだ。

 

 落ち着いたらなんてことない。苦しいけれどそれだけだ。

 死ぬ程の痛みも慣れてしまえば我慢できる。慣れたというよりは痛覚が麻痺しているだけかもしれないが。


「まだ、まだ……!」


 回避のタイミングはあれくらいでいいだろう。俺が遅すぎるせいで攻撃を途中でやめられてしまったが、初撃の事だけ考えると丁度いいタイミングだった。


 俺を吹き飛ばした後は、フロアボスは隙をついて接近しようとした黒乃の撃墜に専念している。黒乃は攻撃が苛烈すぎて殆ど近づけていない。

 俺の事は完全に眼中にないようだ。


 俺は再び駆け出した。


「あのくらいのタイミング、次は攻撃に合わせてカードの発動だ」


 やるべき事を口にする。

 タイミングはさっきと同じくらいで、次は避けるのではなく攻撃に合わせてカードを発動する。


 発動するのは瞬間術式カード《パラレルシールド》だ。攻撃を自動で防ぐ使い捨ての透明の盾を周囲に3枚展開する効果をもっている。

 本来は黒乃に使う予定だったが、これだけ警戒されていると攻撃を3回凌ぐ程度では足りない。ならば、このカードは次の一手を通すために使う。


「……ここっ!」


 動きは相変わらず遅いが、妨害がないためにあっさりとボスのすぐ近くまで辿り着く。


 俺を撃退するためにフロアボスが選んだのは、黒乃に対する徹底ぶりとは打って変わって目障りな虫を払い除けるかのような単発の適当な攻撃だった。


 その腕の始動と同時に右手のカードをクロノグラフに翳す。


瞬間術式(インスタント・スペル)、《パラレルシールド》……っ!」


 かなり余裕をもって発動したはずだったが、カードの効果が発揮されるのとフロアボスの攻撃が直撃したのはほぼ同時だった。

 ギリギリの所でフロアボスの腕と俺の体の間に透明の盾が展開される。


 直撃こそ免れたが、衝撃は殺しきれずに盾越しに吹き飛ばされた。


「くっ、ちょい遅かったか」


 とはいえ、さっきまでよりは吹き飛ばす力が弱い。吹き飛ばされた先で着地できるくらいには余裕があった。


「うひゃあ──っ!?」


 タイミングを修正しないといけないなと思っていると、悲鳴を上げながら黒乃が空から落ちてきた。


「黒乃、大丈夫か!?」


「……しくじっちゃいました。結構痛いっすねコレ」


 俺の問いに、黒乃は苦笑いしながら答えた。彼女の右腕は力なく揺れている。


「……まさか、折れた?」


「みたいっすね。まあ大丈夫っすよ。私、両利きですし」


 冗談めかしてそんな事を言っているが、よく見ると右腕以外もボロボロだ。大分無茶をさせてしまったみたいだ。


「いや、そんな事言ってる場合じゃ……って、来るぞ黒乃!」


「わかってるっすよ!」


 地に落ちてきた黒乃に向けてフロアボスが空に居た時と同じように火球を連打する。


 黒乃の体が心配だったが、そんな事を言っている余裕もないようだ。


 黒乃も休んでいられない事はわかっているらしく、俺の前に立って無事な左手で剣を持ち、攻撃を捌く。


 俺も守らないといけない為に黒乃はそこから動く事ができない。

 なので、黒乃はさっきまでのピンポイントでの防御から、魔力を大きく消費し、攻撃全てを薙ぎ払うようにしている。

 

「どうするっすか!? もうちょっとで魔力も切れるっすよ!」


 今はまだスキルの力で何とか凌げているみたいだが、それももうすぐでできなくなってしまうらしい。


「みたいだな。でも──」


 戦闘の継続は極めて困難な状況に陥っている。このまま続けると黒乃が持たない。あと数分でその破綻は訪れるだろう。しかし……


「──間に合った」  


 カシュと僅かな作動音と共にクロノグラフからデッキの一番上のカードが排出される。前回のドローから5分が経過したのだ。


「……デッキ枚数残り14枚の内、今欲しいカードは2枚。7分の1、一割強の確率でそのカードを引いてきて、全て作戦通りにいってようやくこの状況を引っくり返せるって訳だ」


 状況的にこれが最後のドローになるだろう。これ以上の時間稼ぎはできない。


 そして逆転の芽も数字上ではか細いものだ。


「……な、ヌルゲーだろ?」


 だけど、不安は全くなかった。


「やれる事やってここまで来たんだ。どれだけ確率が低くたって構うもんか」


 やれる事はすべてやった。失敗も何度かあったが、最後の局面である運命の分かれ道まで辿り着いた。


 ここで今までの全てが収束する。無数の未来の可能性の中から1つが選ばれ、運命となる。


「運命ってのは意思を以って切り開いていくものさ。役割(ロールプレイ)に徹して決められた道をただ歩いてきた奴なんかより、どれだけみっともなくたってやれる事をやろうと決めてやってきた奴が報われる方が気持ちがいいだろ?」


「なんすか、それ! 全然論理的じゃ、ないっすねえ!」


 俺の言葉を黒乃は否定する。防御に集中している為に途切れ途切れだが、言いたい事はよく伝わった。


 確かにその通りだ。俺の言葉には何の意味もない。どれだけ意気込んだ所で俺が逆転のカードを引き込める確率は変わらない。そんな事はわかってる。


「それでいいのさ! 重要なのはここで逆転の一手を引けたら面白いって事だけだからな!」


 それでも、俺は笑ってデッキトップに手を重ねる。


 理屈なんて関係ない。勝ちたいと思って過程を積み重ねた。後は結果だけだ。


 現在を積み重ねた先に選ばれる未来をもし選べるなら、ドラマティックな勝利の方が面白い。

 今まではそうしてきた。そうやって勝ってきた。


 ──だから今だってやる事は変わらない。


 デッキトップを信じろ。――運命をこの手で切り開くんだ。

 

「……なら、見せて下さい! もっと、今以上に面白いものを!」


 黒乃は少しの間、言葉を失っていた。表情はこちらからは見えない為にわからない。

 

 だけど、彼女の口から放たれた言葉に乗っている感情は読み取れた。――期待だ。


 俺が逆転の一手を引く事を微塵も疑ってないような、そんな今の状況が楽しくて堪らないといった声だった。


「ああ!」


 そんな期待に応えるべく、俺はデッキトップのカードを引き抜く――!


「――運命を、引き寄せる!」


 チラリと引いたカードを見る。


 そのカードは……


「……ああ、本当に楽しいなあ! これだから運命って奴は面白い!」


 ……今、欲しかった逆転の一手。その最後の1ピースだった。


「手札は揃った! 黒乃、次で最後だ!」


「了解っす!」


 逆転の方程式は揃った。後は、勝利へと導くだけだ。


 俺と黒乃は何の迷いもなく、勝利する為に駆け出した。





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