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世界がデスゲームになったけど、俺だけ別ゲーやってます。  作者: 相川みかげ/Ni
1.俺たちの世界が買収されたと思ったら、現実になって帰ってきた
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15.一時撤退①


 咄嗟の悪あがきも虚しく、フロアボスが放った二度目の黒炎はあっさりと空中戦艦を呑み込んだ。


「黒、乃……」


 呆然とそう呟く。


 全てが自分のミスだとは思っていない。想定外の事が起こったせいで行動が完全に裏目に出た。……いや、そんな事はどうでもいい。これは俺の判断ミスが招いた運命だ。俺が黒乃を死なせ……


「……わっ、ぷぎゃあっ!?」


 うわあ。


「あいたたたた……いやあ、まさかあんな奥の手を隠し持っていたとは。あとちょっと脱出が遅れていたら私もこんがり焼かれてましたねえ……」


 横っ飛びしたその先に俺がいましたみたいな感じで虚空から突然現れ、そのまま俺を押し倒した黒乃はぶつかった拍子に頭を打ったのだろう。俺の太股辺りに馬乗りになったまま、頭を手で抑えて呑気にそんな事を言っていた。


 ……あれ、生きてる? ……そっか。転移で直接乗り込んだんだから、降りる時も同じように転移で直ぐに降りられるのか。良かった……


 ゆっくりと起き上がった後、黒乃の両脇に手を回して持ち上げる。


 軽い。コイツちゃんと飯食ってるのか?


 だけど重い。ちゃんと命の重みを感じる。


「うわっ、ちょっと!? いきなりなにするんすか!? おーろーせー!」


「……はっ!」


 幼い子供にやるたかいたかいの様に俺に持ち上げられた黒乃は最初はキョトンとしていたが、直ぐに足をバタつかせながら抵抗した。


 いかん。完全に気が動転していた。


 黒乃をゆっくりと降ろす。


「すまん。混乱してた。にしてもお前軽いな。もっと飯食って体に肉付けた方がいいぞ」


「それは私が貧相な体つきだとバカにしてるっすか。してるっすね。よし殺す」


「大丈夫だって。世の中の男は綺麗な女の子は無条件で好きになるようになってるんだよ。胸の大きさなんて二の次さ。少なくとも俺はそうだから大丈夫!」


「何が大丈夫なんすか! 言い訳になってないじゃないですか!」


 怒られた。馬鹿にするつもりはなかったんだが……


「うう……嫁入り前の体をこうもぞんざいに……京さんのバーカ」


 両腕で自分の体を抱きしめ、真っ赤な顔で俺をじとーっとした目で睨み付けてくる黒乃。


 だけどそんな呑気にしていられる状況じゃなかった。


 空中戦艦が塵も残らず消し飛んだ事で、次はお前の番だとフロアボスがこちらを向いたのだ。

 最初は俺を見たフロアボスだったが、倒したはずの黒乃の姿を見つけると警戒するように彼女だけを睨みつけている。


 黒乃もふざけている場合じゃないと思ったのか、立ち上がって警戒する。


「……どうするっすか? 空中戦艦はさっきので破壊されちゃったから1日は復活しないっすよ」


「うえ……それじゃあイレイザーも使えないのか」


「探知能力もガタ落ちっす。一旦引いたら見つけるのに時間がかかるかも。……でも、あの感じだと滅茶苦茶に暴れて向こうから居場所を教えてくれそうっすけどね」


 黒乃の職業《司令官》の能力は空中戦艦を基盤としたものになっている。黒乃が無事だったとはいえ、その空中戦艦がなくなってしまっては戦闘能力はガタ落ちだ。

 なんせ普通の戦士職のように白兵戦しか選択肢がなくなってしまうのだから。


 幸いにも空中戦艦は1日で元通り復元するらしい。ここで一旦引いて後日、再戦するという選択肢もありだ。

 その場合は獲物がいなくなった事でフロアボスが一日野放しになるという事を意味している。俺達との戦闘で貯められた怒りが周囲にぶつけられる事は容易に想像できた。


 ……とはいえ、このままロクな作戦も考えずに戦ってしまっては今度こそ俺達はやられてしまうだろう。

 俺はまだちょっと冷静さを欠いていると思う。一度、頭を冷やすべきだ。

 それに黒乃は……


「…………一旦、撤退する。戦闘を続けるかは向こうで考えよう。手、握って」


 少し迷ったが、俺は一度撤退すると決めた。


「わかったっす」


 黒乃はその選択に不満はないと言ったように俺の差し出した手を握る。


 俺達が逃亡しようとしている事を察したのだろう。

 満身創痍でいながら何処か余裕のようなものを取り戻していたフロアボスは、俺達に向かって両手を地につけた四足歩行の獣のような姿勢で走り出す。


 物凄いスピードだ。瞬きの間にもどんどんこちらに迫ってくる。

 俺は殆どそれを認識できていなかったが、それでも1枚のカードを発動するくらいの余裕はあった。


瞬間術式(インスタント・スペル)、《テレポート》」


 クロノグラフに翳したカードが光の粒子となって消える。


 それと同時に、俺達は音もなく戦場を離脱した。





「あーくそー……簡単にひっくり返されたなー」


 転移先は《モンスター培養装置》を設置した公園に設定していた。今はすぐ隣の放棄された無人の住宅に避難している。

 不法侵入だが家主はいないので大目に見てほしいものだ。


 もっともその住宅は、襲撃を受けたのだろう。内部はメチャクチャに荒らされていた。

 ただ、モノが破壊されたりといった様子はなく、散らかされているだけだ。

 食料類が綺麗サッパリなくなっていたのでもしかするとモンスターの仕業ではなく、混乱の中で食料を求めて人が盗みに入ったのかもしれない。


 まあ、そんな事はどうでもいい。とりあえず危機を脱した事で俺は大きなソファーに凭れながら安堵の溜息を吐く。


 もっとも心の中では落ち着いてはいられない。なんせあれだけいい感じで進めれていたのに、たった一手でひっくり返されてしまったのだ。

 例えるなら、完璧な布陣を敷いていたはずなのに普段なら誰も使わないマイナーなカードがキッカケで逆転されるような気分だ。あるいは流行とはかけ離れたデッキを前に、対処の方法がわからないままやられるような気分。どちらも気持ちがいいものではない。スッキリとしない負けといったところか。


「それでも大分ダメージは与えれたと思うっすよー。後もう一押しなんすけどねー」


 俺の横では、黒乃がぐでーっと横になってソファに身体を預けていた。

 手持ち無沙汰なのだろう。俺の脇腹を服の上からムニムニと指でつまんでいる。少しくすぐったい。


「そうなんだよなあ。後もうちょいだから余計悔しい訳で……まさかとは思うけど、あの球を消費してダメージ全回復とかないよな」


「無い、と思いたいっすねえ……」


 黒乃の言葉を聞いて恐ろしい想像が脳裏を走ってしまった。

 黒乃はそれを曖昧に否定する。


 もし、そんな事になってしまっていたら……うん。大人しく逃げよう。流石に勝ち目がない。


「あの黒い球は何だったんすか。あんなの事前に知らされてなかったっすよね? コンティニュー不可なのに事前情報なしの奥の手とかしちゃいけないっすよー」


「ああ、全くだ。ステータスを公開する前にボスの能力を公開せえっての」


 死にかけた事もあり、愚痴が止まらない。


 まあ、理不尽にあらゆる方法でアッサリと殺しにかかってくるデスゲーム系の物語に比べると、ステータスを公開して力の差をわからせてくれる分、少しは良心があるのかもしれない。……いや、デスゲームに巻き込まれた時点で相手側の感情なんてもうどうでもいいんだけどな!




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