始点
時計を見ると10時を過ぎていた。一般人は遅くとなると犯罪が増えるので外出しないように言われている。
親がうるさいので仕方なしに路地を走っていた。
視界に男の人と話をしている親友の鈴の姿が目に入った。
二人はこそこそしながら会話をしている。
不思議に思って近付いていくと袋に入った粉を男が鈴に渡すのが見えて急いで走った。
その間にも鈴は財布からお金を取り出していた。
「鈴、逃げるよ。早くして。」鈴の手を握って男と振り向き様に火炎球を放った。
男は当たって吹き飛んで壁に体を打ち付けてうずくまった。
鈴が何か言っているけど走り続けて駅に着いた。怒ろうと鈴のほうを振り向くと頬っぺたを叩かれた。
「どうしてお金も渡してないのに逃げたのよ、有希さんが死んじゃったらどうするのよ。」って泣きながら叫んでくるから叩かれたことも忘れてしまった。
「さっきの人は白月 有希という人でね、私の持病を軽減させる為の薬を売っていてくれたの。
ただ希少価値が高くて生えているところがSSランクらしくて普通の人は帰ってくることさえ難しいらしいの。
最初は何も思わなかったんだけど会う度に身体にあちこち怪我があって聞いても何でもない、としか言ってくれなくてお父さんに薬を見せたら中央最高医院でもなかなかないくらい貴重だったみたいで何かしたくて有希さんのこと調べたら孤児院出身みたいで生活費を自分で稼いでるのが分かったから私は助けてもらってるからお礼がしたくて無理矢理もらってるの。」
落ち着きを取り戻した鈴は目を赤くしながら言い終えて缶のココアを飲んでいる。
私は自分のした軽々しい行動を後悔した。
「ごめんなさい、私酷い事しちゃった。有希さんにお詫びがしたいんだけど次はいつ会うの。私もついていきたいんだけど。」
鈴は驚いた顔をするとすぐに笑い出した。
どうしたらいいのか分からずおろおろしていると落ち着いた鈴が「有希さんうちの学校だよ、しかも同じクラスだし」と笑いながらサラッととんでもない事を言った。
「そんな人居たの。私今まで知らなかったよ。」
「本当に知らないの?席も後ろなのに」
「ウソぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
結局その日はお父さんに泣き付かれました。
鈴と一緒に学校に歩き始めた。
「雪って賢いけど抜けてるよね。」
「だって、男の子なんて和星しか知らないし。
男の子ってなんか怖いし。でも『不動の碑王』って人には会ってみたいかな。」
「あ、分かる。かなり強くてカッコイイってきいたよ?しかも自分だけの魔法が使えるらしいよ。あと禁術も政府公認なんだって。」
「でも禁術はだめでしょ?自分が魔物になっちゃうし。」
「だよね、でも有希さんならありかも。」
「有希さんのこと好きなの?」
聞くと途端に顔を俯いてりんごみたいに真っ赤にしてしまった。
「今日からやっと魔法が使えるね。」
しばらくしてもショートしっぱなしだったから話題を変えた。
「そうだねぇ、やっと魔法使いだね。」
「追試大変だった。大学ノート5冊も使っちゃったし。」
「まぬけだよね、おとなしく98点とればいいのに場所間違いで22点とかありえないし。」
「言わないでよ。そのせいでお小遣い消えそうになったんだから。」
なんてしょうもない話をしていると聖徳高等学校に着いた。
「でも嫌だな、昨日知らなかったとはいえ火炎球当てちゃったからな。怒ってたらどうしようかな」
「大丈夫だよ、有希さん優しいから許してくれるよ。」
「うん、でもなんで有希さんって呼ぶの?仲良いんでしょ?」
「そんなことないよ。
あんまり話もしないし、お薬もらうときは場所に行けばもう来てるし。アドレスも知らないし。」
「携帯とか持ってないんじゃないの?」
「ううん、前誰かに電話してる姿見たことあるし。しかもうれしそうだったし。」
「がんばって、慶なら大丈夫だよ」
「そっかな、自信ないよ。」
「とにかく当たって砕けろ、だよ。」
「砕けたくないよぉ。」か弱い声を出しながら目を潤ませてこっちを見てくる。
不覚にも萌えてしまった。
一瞬、空気が張り詰めた。
今でも覚えているこの感じ。
見た者を魅了し『死』を匂わさないで刹那に死へ誘うこの言い表せない感じ。
何も考えないで走り出していた。慶が何かを叫んでいたように聞こえたけど走り続けた。
あいつの感触が甦る。
お母さんを呼吸するように、虫けらみたいに殺しておいて私には『ごめん』なんて言葉で終わらせた殺人鬼。
生まれて初めて自分にもこんな怖い感情があるなんて知った。
お父さんの歯を食いしばって耐えている姿なんてあれっきりだった。
無意識に形見のお守りをきつく握り締めていた。
火炎球で扉を吹き飛ばした。そこには漆黒のロングコートを着たあいつが居た。
風が屋上に押し寄せてきた。風になびかれて顔を覆いつくしていたフードに光が差し込んだ。
見えたのは憎しみと怒り、拒絶を表したかのような黒とお母さんを殺したときの返り血を思い出させる深紅の入り混じった瞳。なにも考えないで魔法を使っていた。
「亡きし者の御加護に護られし御言葉、遺されし者に積年の願い見届けよ、汝の御力借りんとするは華神雪。『聖霊の洸篭』」
詠唱し終えてもあいつは動こうとしない。
光の剣があいつを包み込んでいく。
これが10年間必死に敵を討つために覚えた上級魔法。
教師でも食らえば即死、防御魔法も打ち崩すし重傷にできる。
魔力の使い過ぎで意識が朦朧とする。
煙が消えて現れたのは無傷なあいつ。
「解き放て『葉桜』」低い声で言ったと思ったら深緑の葉桜が現れた。
私はこの魔法を知っていた。見たのは二度目。お母さんが殺された時も同じ魔法だった。
今度は他の誰でもなく自分が殺される。そう分かると自然と何も感じなくなった。
轟音が響き渡った。
いつになっても痛みがない。でも目が開けられなかった。
「クソヤロウが、母親の次は雪かよ、人殺し。」目の前には良く見慣れた真赤な髪と白髪と黒髪の入り混じった髪。その姿を見ると涙があふれた。
「和星、校長先生。」和星はいつもの子供っぽい笑顔を見せてくれた。
「君は華神君のそばに居なさい、相手が悪すぎる。」校長先生は諭すように優しく和星を促した。
初めは渋っていたが大人しく従った。
それから校長先生は微笑んでから前を見据えた。
「どうしてこんな学校にいらしたんですか、碑王さん」
その言葉に驚いた。驚いているうちにも二人は戦っていた。
「白銀、光沢、嗜好の意思表して我封す。『光輝の封剣』」
数十の剣があいつに降り注ぐ。それを避けて行くがとうとう避けれなくなった。
「蓄えろ『蕾』」
突然桜の蕾が現れ剣に刺されていくが次の瞬間蕾が咲いた。
桜の花が撒き散らされた。
『火焔』先生が辺りを焼き尽くす。
しかしあいつの姿はなかった。
「せんせ・・・」あいつが先生の背後に右手に魔力を圧縮しながら殴りそうな姿が見えた。
封魔を使って間に入り込んだが避け切れずに髪が切れた。
栗色の髪が床に落ちた。
「死ねよぉぉぉ」と西洋剣を持ち和星が切りかかった。
それを日本刀で受け流した。
『六亡星の封じ手』五色の光があいつを囲んだ。
校長先生がすかさず最後の光を放つ。
「早く逃げろ、華神、鳥城、不藤。お前たちには無理だ。校長も早く逃げてください。」
学年主任の柊先生が見えた。
「柊君、私は大丈夫だからこの子達をお願いしましたよ。」その言葉を聞いて柊先生は私たちを連れて離れた。
「なんでこの姿で学校に来たのかな、不動君。君はまたあの子を苦しめるつもりかい。」
先ほどとは違い穏やかな表情の校長が居た。
「あっちからだよ、仕掛けてきたのは。」聞こえてくる声は幼い。しかしすべてを拒絶しているかのように冷たかった。
「何回使った?」
「11だよ、余裕だろ?この最強の称号を持つ俺にはいいハンデだろ。」
「分かっているのか、お前は後3回で魔物なんだぞ。」
「俺にはお似合いだろ?今でも殺人鬼なんだから対してかわらないよ」
その声には皮肉が込められていた。
「あの子を救ったのになんで怨まれないといけないんだ。」
切なそうに出てきた言葉にその少年は答えた。
「俺が『不動の碑王』だからだよ。ただそれだけだ。」
「刹、お前はどれだけ親不孝なんだよ。」
泣きながら校長は尋ねていた。
「刹は死んだよ。10年前にな。じゃあな校長先生。」
そう言って姿を消した。
「刹、いつになったらお前の枷は神様が外してくださるのだ」
答える者は居なかった。