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92 キャリアアップ!!あれ?なんか違う

Another side



鬼王の目は己が弟子の姿が飲み込まれる瞬間を確かに捉えた。

咄嗟に名前を叫ぶも既に手遅れなのは明白、それでも叫ばずにはいられなかった。

繭自体の戦力を過小評価し、まさか味方ごと喰らいに来るとは想定しなかった鬼王の油断を見事に突いた戦略であった。

それも一人の人間によって防がれ、被害も最小限に抑えられた。

敵の目論見を潰した大戦果といって過言ではないだろう。

しかし、失うものは取り返しのつかないもの。

一瞬思考が沸騰しかけるも、そこは歴戦の将。

頭に血を上らせ正気を失うことなく、そして判断を間違えることはない。

奇襲を防いだ次郎の戦果をドブに捨てることなく。

目の前の敵を


「吹っ飛べやああ!!」


殴り飛ばす。

体長差が十倍以上の巨体を吹き飛ばす腕力は伊達ではなく、尻餅をつくように倒れる巨体がすぐに動けない姿勢になったのを見送り、追撃を加えることなく新しく現れた敵にめがけて飛びかかる。


「コソコソと隠れやがって、戦うなら堂々としやがれ!!」


怒りをぶつける鬼の拳はもう一つの巨体、顔のない口だけの怪獣を繭から殴り出してみせた。

卵の殻のような役割をしていた繭は衝撃波で砕け散り、繭から出ようとする勢いが載っていたせいか殴った際の打撃音でその威力を察することができた。

音で衝撃波が発生し、地面や岩肌がめくれる。


「こいやぁぁぁぁ!!!」


確かな威力、戦う能力、そして判断力と前線の指揮を執るという意味では最良の将である鬼王はこの二体は自分が相手せねばと判断した。

殴った感触、魔力の濃度から鑑みた能力を照らし合わせれば、この二体を合わせた戦力は魔王軍の将一人以上二人未満といったところだ。

配下に任せれば倒せないことはないだろうが被害が拡大する。

それを理解し、自分が倒される可能性と天秤に掛け戦闘狂の性を含めた判断基準はしっかりと傾く。

その答えが声を張り上げこちらに注意を引き寄せる行為であった。


「全軍前線を下げるぞ!! 大将の戦場に入るな!!」


それを察して副官である巨鬼が他のエボルイーターの注意を引き、戦線を下げる。

鬼王が万全に戦えるようにするためだ。

獲物が後退したことを好機と見て本能で動く魔物たちはその判断に見事釣られる形となる。

その結果、広大な最深部の中央に空間が出来上がる。

そこに立つのは二体の巨獣と一人の鬼。

凡人であれば無理無茶無謀と三拍子そろった対面であるが、かの鬼であればその言葉など歯牙にもかけない。

素手でありながら対等以上の戦いを繰り広げてくれるだろう。

その確信をもって鬼の王は一歩踏み込んだ。

その顔にいつもなら楽しみ浮かべる笑みはない。

ただ相手を殴殺しようと冷徹に歩む鬼がいた。

その殺気に呼応し、顔無しの巨大な口を持つ怪獣も母体である触手をうねらせる怪獣も戦闘態勢を整える。

先手も後手も関係ない。

歩みを一気に踏み込みに変えた鬼は全力で正面に居座る顔無しに跳びかかる。

さっきまで鬼がいた場所には幾本もの触手が地面を貫いていた。

そこからは防御など関係ない者同士の潰し合いだった。

すべての攻撃を攻撃でねじ伏せる鬼と攻撃を受けようが関係ないただただ極上の獲物を喰らおうとする捕食者としての二体。

互いに命を削り合う戦いは最初からクライマックスであった。


Side END


Side 田中 次郎


しくじった。

まっさきに思ったのはそんな感想であった。

口に含まれてから飲み込まれるまで一秒にも満たない。

その間にできることといえばこの巨大な肉壁に鉱樹を突き立て勢いを削ぐことぐらいだが、うねりにうねる内臓の中ではそんなものは関係ないと言わんばかりにどんどんと奥に追いやられてしまった。

明らかにやばそうな粘液のせいで目を開けることなんてできるはずもなく。

魔力で体を覆うにしろ、吸収される量の方が多いせいでいつまで体を保護できるかわからない。

少なくとも長くは持たないだろう。

今も暗闇に覆われている内臓の中で必死に力を込め押しつぶされないように踏ん張っているが、逆に言えばそれ以上のことができない。

鉱樹を振るおうにも振るための間合いがゼロではどうしようもない。

もう少しうまくできると思ったが……

何も考えずに突っ込んだ結果がこれかと自重するようにため息を吐きたいが、吐けば力が抜けてしまうのは目に見えている。

そうなれば結果は想像する必要がないくらいに明確だ。

どうするかと悩むが、一向に打開策が思い浮かばず結局上腕が力負けしそうになるたびに再度力を込めることを繰り返していた。

肉がうねる音に交じり体の近くで何かが溶ける音が耳に入るたびに、時間は刻一刻と無くなっているとわかる。


「!?」


歯を食いしばっていたから叫ばずに済んだが、もし通常なら少しくらいは声が漏れただろう。

急に何かの衝撃が体を襲った。

威力自体はこの巨大な肉体が受け止めているおかげか痛みは感じないが、重力や遠心力となれば話は別だ。

いきなり上下逆さまになり、シェイカーに入れられたように振られていてはさすがに姿勢を維持するのは難しい。

ぬるりとした粘液で滑った俺の体は鉱樹を手放さないように手に力を込めたあとそのまま、右へ左へ上へ下へと振られる。

もはやどっちが上でどっちが下かもわからなくなった時だった。

何か、池のような水の溜まった場所に落とされた。

まずい!?

さっきよりも段違いに魔力が消費されている。

消化器官に叩き落とされ、俺を溶かそうとする消化液とそれに抗う俺の魔力であったが、相手の方が量が多い。

必死に抗っても、焼け石に水、限界などあっという間に来てしまう。

ジュっと明確に何かが溶ける。

おそらく着込んでいた鎧だろう。

魔力が不足し、露出した場所が一気に溶けた。


「!?!?!?!?!?」


そして、腕に走る焼けるような感触。

歯を食いしばりそれに耐えるが、それは腕だけではなく全身に走り出してしまえば


「ああああああああああああああああああああああああ!!!」


もう耐えることはできない。

一瞬の集中が切れてしまった瞬間に雪崩込んでくる痛みに、抗う力は弱まる。

生きたまま溶かされるというのはこのことか。

喉が焼ききれるということなんて気にならないくらいに全身が痛み叫んでしまう。

むしろそんな考えを浮かべられたことが奇跡なくらい全身がどんどんと焼け爛れ痛みが増す。

魔力で構成された体ではあるが故に生身よりも溶けるのが遅い。

だがそれは決していいものではなかった。

下手に耐久力があるせいで魂がジワリジワリと焼かれ、拷問のような環境を味わうことになっている。

体は液体の中で、既に感触は失われ、もがいているのかどうかすらわからない。

思考はだんだんと痛みから解放されることに傾き始めている。

自分でどうにかできない状況に、だんだんとパニックになっている。

死ぬしかないのか。

そんな選択肢が出てくるのは遅くはなかった。

このままじわじわと嬲られるのならいっそ。

そう思い、わずかに感じまだ溶けていない鉱樹の柄を握り締める。

痛みのせいで感触はないが、まだ残っているのは魔力のつながりでわかる。

それを心臓に突き立てれば、それでこの痛みとは分かれることができる。

本当にそれでいいのか?

一瞬、されど明確な迷いが俺に訴えかける。

ああ。

ただ終わるなんて、らしくなかったな。

いい加減痛みも感じなくなってきた。

いよいよ末期というやつか。

そんなおかげで俺は少しではあるが冷静に考えられるようになった。

魔力も残り少ない。

やれることなんてほとんどないだろう。

だが、このまま何もせず消えるなんて潔い生き方ができればこんなところにはいなかっただろう。

さっきまで絶望していたのに、少しでも反骨心があれば立ち直れる俺って意外と単純なんだな。

笑えているかわからないが、笑えた。

それだけで幾分か気分はマシになる。

ブン

一瞬体の構成がぶれた。

しかし、時間は待ってはくれないようだ。

いよいよ年貢の納め時ということか、ならば

一世一代の大勝負と行こうか。

残す魔力は最小限それ以外をすべて鉱樹に。

使う技は斬撃、この巨大な体に風穴を開けてやろう。

そんな気概で、俺の体を構成する魔力すら回す気で、一撃を放てるだけの時間を稼げる魔力だけを防御に回し、他を攻撃に回す。

そんなに残っていない魔力、攻撃の準備などすぐに終わる。


『くらいやがれ!!』


残った酸素を吐き出すように叫び、残った体力をすべて使って放たれた斬撃はしっかりとした刃の形を形成し肉壁に牙を立てたがわずかに切れて、修復された。


『ハハ』


力のない笑いが溢れる。

ああ、そうだよな。

あの小さな個体で回復能力を持つなら、この巨体が持たないわけがない。

一矢報いてやろうとしたが……まぁ当然の帰結だな。

やれることはやった、もはや消え去るだけだと力の入らない体でただ漂う。

まぶたを閉じる必要もなく何も見えない、もうすでに体が動いているかわからない。

なにせ体を構成する魔力すらもう無いに等しい。

何かを感じろというのが無理がある。

さっきまでかろうじて感じられていた魔力も途絶えた……

すまん。

一緒に仕事をした海堂に南に勝に北宮にアメリアに、そしてこんな俺に愛を向けてくれたスエラとメモリアに謝罪する。

監督官にも忠告されたにもかかわらずこの様では情けない。

そんな思いを最後に思考は沈んでいく。

真っ暗で何も感じず、声も出せず何も聞こえず。

体があるのかないのか。

それすらもわからない。

時間感覚も曖昧で今が一秒後なのか一時間後なのかはたまた一年が過ぎたのかすらわからない。

ただ、意識だけが残っている。

こうやってぼんやりとだが、思考することができる。

何故? 俺は死んだのか?

ああ、俺は死んだはず。

ならばここは死後の世界?

知識では知っていたが、なんともまあ味気のない場所だこと。

暗いのか明るいのかすらもわからない。

ただただ知覚できない空間。

言えるのはキオ教官みたいな地獄を案内してくれる鬼がいないということくらいか。

地獄ならなんとも肩すかしを喰らうような光景で、天国ならどこがと疑問を挟む。


『……』


声?

いや


『……』


これは


『…………』


ぼんやりと思考を遊ばせている中で脈動のようなものを感じる。

静かに振動だけを伝えてくる確かな力強さ。

だんだんと意識を覚醒させようと、心臓の脈動のように何かを俺に訴えかけてくる。

それは魔力の波動だと、理解するのに少し時間がかかった。

だが、それなら尚のこと疑問が浮かぶ。

この何もかも吸い取られるような空間で誰が俺に魔力を送る?

その感触に突き動かされるようにうっすらと、しかし確かに体の感覚がわずかに元に戻る。

だれが?

俺が消えないように魔力を送ってくれるのは……いったい。

たどるようにぼやけた視界で探すと、途中で何かが光っている。

それはちょうど目の前に浮かぶように位置し、復活した感触から察するとそれは俺の右腕があった場所だ。

目が魔力で保護され、さっきより鮮明に視界が蘇る。


『お前が』


声が出てないが、俺は驚いている。

目を見張る。

俺の目が捉えたのは俺の右手に根を張りその根から魔力を俺に送り出す鉱樹の姿だった。

俺の手を手放すものかと柄の部分が変形し、手のひらを包み鉱樹の核である種の部分から張り巡らされている根は俺の肩口まで伸びていた。

その光景を見て残った俺の魔力を捕食するつもりかと一瞬思ったが、そこに不快な感覚はなく。



『……』


あるのは意識が明確になっても諦めるなと訴えかけるように脈動を続け魔力を送り続ける暖かな感触であった。


『カハ』


そんな不器用な激励に笑いが溢れる。

なんともまぁ、人を動かすことが得意な相棒だ。

子供に頑張れと応援されているように聞こえるこの行為に、諦めていた自分が情けなくなってくる。

ああ、いいだろう。

一緒にやろうか。

まだ諦めるのは早いと、鉱樹に渡された魔力は非常に馴染む。

それを俺と鉱樹の間を行き来させることで循環させる。

根を張り巡らせているおかげか、かなり高速でそのやりとりができる。

魔力を練り回す。

魔力を練り渡す。

魔力を練り純化する。

そうして体を再構成する。

順々に手順を踏み、本来の体を構成するよりもさらに高みを目指す。


『行くぞ相棒!!』


臨界点を通り過ぎさらに魔力を回す。

火事場の馬鹿力で、腹の奥底にマグマのように熱く重い魔力の渦を押さえ込みその放出を今か今かと待ちわびる。


『……』


鉱樹も脈動する速度を上げ、俺の中で生まれた魔力を受け取り送り返す。

魔力の循環を加速させればさせるほど、俺の中で魔力が滾る。

今までにないほどの感覚は更に高まり、そしてついに。

ああ、斬れる。

その感覚を俺に与えた。


『!』


最後に大きな脈動を伝えた相棒に応えるように俺は構えを取る。


『ぶった斬れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


叫びは力になるように、一周の円を切るように振るった俺の斬撃は確かな手応えとともに何か大きなモノを斬った。


『カハ!!』


その達成感を全身に感じた俺は世界エボルイーターがずれ、光が差し込んだ光景を目の当たりにする。

肉を蹴り、その光に一直線に飛び込む。


「ブハ!!」


数十分ぶりの空気を感じ取り外の感触を味わう。

そして地面に着陸した俺は振り返り中指を立てる。


「ざまぁみろ!!」


そのタイミングはちょうどその巨体が崩れ落ちるのと同じタイミングであった。

巨体が崩れ落ちる音をBGMに俺は満面の笑みを浮かべる。

そして、形状の変わった相棒は役目を終えたと言わんばかりにその根を収納する。

俺の腕にはその根が張った形跡を示すように独特の刺青が残る。


「ありがとよ、相棒」


そうやって相棒に礼を言うタイミングと一緒に、もう一体の怪獣の中央に巨大な風穴が空く。

そんなことをしでかす存在はこっちを見ていつもの凶悪な笑みをその屍の上から向けてきた。

それはまるでよくやったと褒めるかのような笑みだと俺は思う。

だからこそ、俺もやったと胸を張って黙って笑って答えるのであった。



田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


今日の一言

なんとかなったァァァァァァァ!!!!!


今回は以上となります。

ようやく出せた武器の覚醒と主人公の強化の回でした。

いかがでしたか?

少しでも満足いただけたら幸いです。

これからも本作をよろしくお願いします。


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