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82 二日酔いは休む理由にならない

田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



「飲みすぎた……頭痛が収まらん」

「……ぽ、ポーションを」

「はい、どうぞ。珍しいですね海堂さんはともかくリーダーが飲み過ぎるなんて」

「お前も将来絶対に経験するだろうから覚えておけ、上司の酌は断れないんだ」

「覚えておきます」


特にあの教官二人のようなタイプは特になと最後まで口に出す元気もなく、勝の返事にも答えることもできず、言葉を発しただけで何かが出てきそうな感じが込み上げてくるのを我慢する。

恐るべきは強化された体も侵してくる異世界の酒だ。

鬼酒に霊酒、いったいどれだけ飲んだか曖昧であるがこの惨状から察するに少しとは口が裂けても言えない。

そしてその酒に戦慄するも後の祭り。

飲みすぎたと寝ようとした段階で理解していたが、追撃するように寝て起きた時には案の定二日酔いの気持ち悪さと頭痛を抱え込んでいた。

しかしそんな状況でも休むわけにはいかず出勤する。

サラリーマン根性というより、単に俺がその程度で休んでなるものかと半分自棄になって根性を出した。

そしてパーティールームに時間通りには着けた。

しかしそこまでだった。

すぐにリビングにあるソファーに座りそこで精神的に力尽きてしまう。

途中回収した同じ被害者である海堂は向かい側で備え付けの机に突っ伏し虚空に手を伸ばしている。

それに答えてくれるのはわれらがオカン、勝であった。

額に手を添えて頭痛を堪えるような仕草のままの俺の目前に置かれたコップに入ったポーションを一気に飲み干す。


「生き返るぅ」

「そうっすねぇ」


そして感謝すべき魔法薬(ポーション)

今日も一日頑張りましょうとどこかの栄養ドリンクのように飲み干せば、CMの過剰表現のように元気づけられ頭の中がスーっとクリアになり気持ち悪さも無くなった。

まさに効果覿面とはこのことだろう。

これなら仕事にも問題ないと思いつつ、これから部屋にポーションを常備すべきかと思う。


「頭痛は治まりましたか?」

「ああ、迷惑かけた」

「いえ問題ありません。南の世話で慣れているので」

「そうか」


南の場合は酒よりも徹夜のせいで寝不足とかそっち方面の世話だろう。

飲み干したコップまで片付けてくれる勝に感謝しつつ、至れり尽せりとはこのことかと思う。


「さて、体調が治ったところで、今日の仕事の話だ」

「また虫っすよね?」

「当然だろ」

「飽きたっすよ~たまには別の場所に行きましょうよ」

「文句を言うな、ロクな報告書を上げないまま別のダンジョンの報告書を上げてみろ」

「どうなるんっすか?」

「俺が監督官にぶっ飛ばされる」

「うわ」


もしくは絶対零度の視線で俺の報告書を読むかもしれない。


「俺としては今のダンジョンの方がありがたいですけどね」

「勝くん、虫とか好きな方だっけ?」

「いえ、人並み程度ですけどこっちのほうが今までのダンジョンよりも稼ぎがよくて家計の足しになるので」

「勝君は真面目っすねぇ」

「そんなことはないですよ」

「……」


勝の言葉に海堂が、俺ももう少ししっかりするっすよと言葉をこぼして自身を鼓舞している。

しかし勝のそこまでしっかりした金銭感覚の理由を知り採用した俺としては返す言葉がない。

その理由も聞けば珍しいがどこかで聞いたことがある家庭事情の問題である。

それに対して思うことがないかと聞かれれば俺はないと断言はできない。

だが、大変だなと同情するのも何か違う気がする。

なので俺自身は相談してきたら相談に乗るというスタイルを貫いている。


「おら、海堂。へこんでないで準備をしろ」

「了解っす」

「俺も準備してきます」


だから勝自身が何も言わないなら俺は日常を過ごすだけだ。

その態度が冷たいと取られるかもしれないが、人によっては腫れ物扱いされる方が苦痛と感じる場合がある。

そんな人は逆に普通に扱った方がいい。

勝はそのケースだと俺は思う。

海堂の後ろについていき更衣室に入っていく勝の背中を見送り世の中ままならないなと思い。


「最近の高校生はしっかりしてんな」


その反面、しっかりとしていて大人よりも真面目な高校生に関心を寄せる。

そして見習うべき姿勢に海堂ではないが俺もしっかりしないとなと思い遅れて更衣室に入っていく。





そんな決意を内心で決め込んだあとはやはり仕事だ。


「いああああああああああああああああああああ!!!」


気合一閃、縦に蟷螂を切り捨てて団体さんとの戦闘は終了する。

周囲を警戒し動く個体や隠れている雰囲気が無いか確認するがどうやらさっきので最後のようだ。


「勝、海堂の治療を頼む」

「イテテテ、しくじったっす」

「いま治療します」

「頼むっす」


防御をしても鎧越しとは言えダメージはある。

負傷した海堂の治療を勝に指示する。

その間俺は周囲の警戒をする。

しかし、やはり回復役がいるのといないのとでは戦闘のバランスが違う。

俺と海堂でやった体力や怪我の配分を気にしながらどちらとも削り駆け抜ける戦闘よりも、段違いにパーティーとしての耐久度が違う。

それは先頭でパーティーの盾となり戦う俺が一番感じている。

体力を削られても補填できるというのは肉体的にもそうだが、安心感といった精神的なアドバンテージもあるということだろう。

そんなことを改めて感じつつダンジョンに突入して早二時間弱。

浅いところを巡るようにマッピングしておいたおかげか、さらに深いところまであっさりと踏み込むことができた。

だが、その分敵の強さが確実に上がっている。

数も増え、個体の強さが同じソウルどうしでもレベルが違う。


「さっきの蟷螂(カマキリ)大きかったっすね」

「ああ、今までよりも一回り大きくなっている。勝、位置的に奥に踏み込めたか?」

「それは間違いないと思います。さっきの魔物の強さから考えても奥に踏み込めた証拠になると思います……終わりました」

「ありがとうっす!」


蟷螂(カマキリ)からの攻撃を受けた海堂の肩周りを勝に魔法で治療をしてもらいながら現在位置を確認すれば、今までよりも奥に踏み込めたことがわかる。

記録更新だ。

奥に行けば行くほど敵は強くなるのは分かっていたが、この界隈ならまだ対処のできるレベルだ。


「よし、行けるか海堂?」

「元気元気っす!! 問題ないっすよ」


肩を回しダメージが回復したのを伝える海堂に頷き、次の進路方向を見る。


「移動するぞ、俺のスキルで他の敵を呼び寄せているだろうしな」


猿叫というのは敵をひるませるが、代わりに敵を呼び寄せる効果も持つ。

相も変わらず使いどころの難しい自分のスキルに改善方法を考える。

しかしゆっくりと考える暇もない。

さっきの戦闘で猿叫を使い間違いなく周囲の敵に俺たちの現在地を知らせている。

スキルの改善方法は帰ってから考えるとして、治療が終われば早々にこの場を移動したほうがいい。

戦っている感覚でもう少し奥に踏み込んでも問題ないと判断できた俺たちはさらに奥に踏み込む。

そして遠目ではあるが少し大きめの洞窟を発見する。


「あれは……軍隊蟻の巣か?」

「そのようですね」

「うわぁうじゃうじゃいるっす」


魔紋による身体強化は、サバンナで過ごす原住民以上の視力に強化してくれる。

距離にして百メートル超え。

木陰に隠れて覗き込むように先を見れば少なくとも十匹以上の巨大な蟻たちが開けた広場を闊歩しているのが見えた。


「問題は、あれがダンジョンの入口かどうかということなんだが……どう思う?」

「わからないっす」

「すみません俺も」

「そうだよな」


この距離なら普通に会話をしても気づかれないだろうが念のため小声で会話をする。

ハーフダンジョンの厄介なところはこうやって本拠地ダンジョンの入口をフィールドに散りばめ偽装できることにある。

反面、ダンジョンの製作コストとして迷宮区のスケールは小さくなってしまうらしい。

そして問題はあの蟻の巣の入口がダンジョンの入口かどうかだ。

仮にあの蟻の巣穴に入ったとしてもその先にダンジョンコアがあるとは限らない。

ましてやこんな浅いエリアにそんな本命の入口を作っているとも思えない。

十中八九はハズレだろう。

だが、絶対とは断言できないのが痛い。


「勝、地図に記録しておいてくれ」

「わかりました」

「どうするっすか先輩、あの穴に入るっすか?」

「……」


即答はできない。

半ば俺の中で答えは決まっているが少しの間考える。


「いや手は出さない。迂回するルートを探すぞ」


しかし結論は変わらずだ。

リスクが大きすぎる。

そんな決断に海堂はホッと安心するような表情を見せる。

さすがにこのメンバーであの蟻の群れに突入するのは嫌なのだろう。

一安心だという風にニコリと笑った後周囲を警戒するように視線をずらしたと思ったら、目を見開き口を押さえていた。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


そして装備した革手袋越しに押さえた海堂の口から叫びにならない叫びが溢れてくる。

咄嗟に叫び声を抑えた海堂のリスク管理に感心しながら、なぜいきなりそんな仕草をしたか気になり。

力強く海堂が指差す方向を見てみる。


「あれは」

「蟲、ではないですね」

「レアモンスターっす!!」


海堂の興奮する理由はすぐにわかった。

虫の天国と言っても過言ではないこのエリアで不自然な空中に浮遊する宝石の塊のような不思議な物体。

エメラルドやサファイアそしてルビーといった七色を彩る複数の宝石の原石の集合体がつぶらな瞳を携えて無警戒で飛んでいた。

その姿を見て、なるほどあれなら釣れるなと俺は納得した。

見る限り派手で大粒な宝石の原石以外にも体の本体であろう宝石たちが埋め込まれている岩の隙間に光る金色の物体、噂に嘘がなければ間違いなく純金だろう。

バスケットボールよりも少し大きい程度のあれが手に入れば相当な額になるのは素人目でも間違いない。


「会社も奮発したな」


実物を見て俺は思った感想を素直に言う。

魔法とかスキルを使うのか戦闘能力は不明であるが、一見すれば弱そうに思える。

まさにカモがねぎを背負って歩いている。

そんな食物連鎖のピラミッドでも底辺にいそうなあれを一体用意するのにどれくらいの金額がかかるのか想像できない。

そして、その本質であろう危険性も垣間見ることになるだろう。

あの宝石の塊を見ている、この視線を隣に移したら治ったはずの頭痛が再発するだろうなという予感がする。

それでも見ないわけにもいかず仕方なく視線を横にずらせば、案の定目が$マークになっている海堂がいた。


「はぁ……離れるぞ」

「待ってください。殺りましょうリーダー」

「勝、お前もか」


予想を裏切らない海堂の姿に溜息を吐く。

目と鼻の先に軍隊蟻の巣、さらにあの飛行するお宝の周囲にも蟻がいる。

確実に面倒事になるのは目に見えている。

もったいないがあれは諦めるしかないと思いその場から離脱しようとする。

しかし困ったことに、普段ストッパー役の勝までもがあれの獲得に乗り気だった。

いや、殺る気満々だった。

武装である手袋を念入りにはめ直す姿はまるで暗殺者のようだった。


「試すだけ、試すだけっす」

「リーダー、人生は挑戦ですよ」


もはや何を言っても聞きはしないだろう。

それならここで挑戦して痛い目に遭ったほうが今後のダンジョンアタックにも支障は出ないのかもしれない。


「はぁ、深追いだけはするな。危なくなったら即撤退だぞ」

「「はい」」


本当に仕方ないと思い、やるからには最善を尽くす。

鉱樹を背中から抜き肩に担ぐ。

ターゲットとの距離は目測で五十メートルほど。

俺が全力で走って約三秒の距離だ。

相手の移動速度は一見人間の歩行速度並だが、あれが戦闘状態になったらどうなるかにもよる。

それを計算しつつ、最も勝算がありそうな戦術を選択する。


「退路を断ち一撃で仕留めて即座に離脱だ。俺が進行方向の正面を抑える。お前たちは背後の二方向だ」

「了解っす」

「はい」


こんな時は南がいればもう少し楽に事が運べるのだが、無いものねだりをしても仕方がない。

俺たちの手札で勝負するにはこれが最善だ。

三方向を抑え、退路を断ち間断無く短期決戦だ。


「行くぞ」


その一言で俺たちは全力で駆け出す。

木々の間を抜い、足音を最小限に抑えながら疾走する。

それでも全ての音を消し去ることなど当然できるはずがない。

残り十メートル手前で相手に気づかれる。


『ピェェェェェェェェェェェ!!!!』

「サイレン!?」

「キェイヤァァァッァァァァァァァァァァ!!」


宝石を輝かせ辺り一帯に響かせるような甲高い音に勝は驚くが、俺はそれよりも一足の間合いに踏み込んだ瞬間にそのサイレンを打ち消す勢いで猿叫を腹の底から吐き出す。

体全体の筋肉が強力なバネになったような感覚を全神経に伝達し全力で鉱樹をターゲットめがけて振り下ろせる体勢を整えさせる。

その刹那は一秒にも満たない。

最早囲んでいる時間はない。

早く、誰よりも早く。

ただ踏み込み、この一撃を叩き込むことを考えて鉱樹を振り下ろす。

踏み込みから振り下ろしまで無駄なく遂行した一撃は俺の内心にこれ以上にないと確信をもたらせた。


ガキン


しかし確信に反して予想と反した音がそこに響いた。

火花が散り確実に当たった鉱樹が硬い体で受け止められていた。


「浅いか!!」


俺にできたのはそのままサイレンを止めないターゲットをそのまま勢いに任せて吹き飛ばすことだけだ。


「撤退!!」

「「!?」」


切れたのは表面の一部だ。

あれは斬撃で倒すには俺のレベルが足りない。

わずか一瞬の交差でそれが分かってしまった。

これ以上の深追いはモンスターの群れに襲われる未来しか待っていない。

俺の全力でも海堂の魔法でも勝の拳でも倒せないであろう相手をほかのパーティーはいったいどうやって倒したのか疑問に思いながら、視界の端に見えた軍隊蟻の軍勢とは反対方向に駆け出す。


「俺もまだまだってか!」

「先輩楽しそうにしてるっすけど!! 前にもいるっすよ!!」

「わかっている!! 邪魔だァ!!」


走り出した先も当然ながらさっきの音に引き寄せられた敵がいる。

出張に引き続き自分の未熟をさらけ出された今回の敵に対して喜びに似た苛立ちを感じながらも、飛んできた蛾を切り捨てて血路を開く。

その背後を勝と海堂が続く。

すべてが立ち止まらず群れとなり襲いかかってくる様々な虫たちを、俺が切り捨て海堂が魔法で焼き勝が殴り倒す。

ペース配分を考えず全力で安全圏まで駆け抜けていく。

俺は弱いと、ダンジョンよりも先に自分の改善箇所を突きつけられた気がした。




田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


今日の一言


ああ、悔しい。


今回はこれで以上となります。

これからも本作をよろしくお願いいたします。

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