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80 業務連絡、それは・・・・・・

お久しぶりです。

プロットの再編に思いのほか時間がかかってしまい遅れてすみませんでした。

これから投稿を再開いたします。

またよろしくお願いします。

Another side


異界の大陸、それは魔王軍の住民が住む月夜の大陸。

その中でも辺鄙な場所にある山小屋の地下室。


「できた」


現代であれば就業時間はとうの昔に過ぎて、残業と言うには深夜を回りすぎ、もう間もなく朝という時間に差し掛かる。

そんな時間帯に一人の男が研究室で一つの試験管を片手に、狂気に染めた笑みを浮かべていた。


「これで、これで」


歓喜を通り越して狂喜へと至った男の表情は狂いながらも心底嬉しそうだった。

正気など遥か昔に捨て去り、只々一つの目的のみに邁進してきた男はその成果が目の前にあるだけでその感情をただひたすら高ぶらせていく。


「長かった、長かった、長かったァ!!」


張り詰めていた糸はその昂ぶりであっさりと弾け飛び、その先にある男の理性というストッパーを取り払う。


「さぁ、始めよう。我が娘よ」


楽しそうに


「さぁ、壊そうか。我が息子よ」


喜ぶように試験管の中身を飲み干す。


「さぁ、さぁ、行け往け逝け、私を糧として!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ガハァ!! ハハハハハ……」


そして男の心臓は高笑いの後に何かに貫かれる音とともにその役割を終え、男の小屋に火の手が放たれる。

だんだんと強くなる火の手はまるで何かを始める兆しを見せつけるかのように、ゆっくりとされど大きく燃え上がっていった。

その狼煙に紛れるように一つの影が空に舞い上がった。

そしてその影はちらりと一瞬だけ振り返り火の中で笑い果てた男の顔を見て再び飛び立ち姿を消した。


Another side END


Side 田中次郎



「業務連絡が来ているな、なになに健康診断の知らせ?」

「健康診断っすか?」


あの大変という言葉が似合う出張が終わって数週間。

前まで騒いでいた神隠し騒動はアイドルの不倫騒動でかき消され、今では一部の雑誌が騒いでいる程度だ。

日常に帰っていった元勇者たちは今頃特別講義でヒィヒィ言っていることだろう。

一部を除きほとんどの学生たちは日常に帰っていった。

あれは夢現だと認識し、学生たちがもう二度とあの大地(イスアル)を踏むことはないだろう。

神隠しの解決の立役者である俺は一切表に出ることなく、それを報告書という形で確認した。

そして休日を挟み日数を跨げばサラリーマンである俺には通常業務が戻ってくる。

すべてが自己管理というこの仕事に始業時間という概念はないが、おおよそパーティールームに集まる時間は決まっている。

武器防具に消耗品の点検に打ち合わせの時間を加味すると自然と朝の八時半という時間に落ち着いている。

メンバーによって、特に南の参加不参加によってこの時間は前後するがそれも大きな影響はない。

先ほど言った一部の残留者の一人であるアメリア・宮川を加えた高校生組である勝とアメリアは、夏休みが終わってしまえば朝に来られるのは休日だけだ。

他は夕方が大半だ。

そして大学生組である北宮と南だが、あいつらは受けている講義によって来る時間帯にズレがある。

朝一に来る時もあれば、昼過ぎになる時もある。

そんなバラバラな我がパーティーであるが、パーティールームにはシフト表を書くためのホワイトボードを設置することで調整できている。

そしてそれを見る限り今朝の出勤は社会人組であり常駐している俺と海堂のみだ。

となれば寝坊でもしない限り予定の変更はない。

当然既に人員が揃っているので、平時でもこの組み合わせが多い俺と海堂は慣れた手つきで準備を済ませ、今は出る前に会社からの連絡事項がないか確認するためにタブレットを俺がいじっていたところだ。


「ああ、正社員アルバイト問わず期間内に社内の診療所で診断を受けろ、だと」

「年一の確認みたいなものっすか?」

「だろうな。あってもおかしくはなかったが、いざ連絡が来ると面白いな。ファンタジー世界の概念で健康診断を受けられるというのは」

「内容は普通じゃなさそうっすけどね」

「大まかには一緒だが、魔力検査がある時点でお察しだな」


こんなことをしていれば体になんらかの影響を受けていてもおかしくはない。

受けないという選択肢はなく詳細を確認すれば身長体重etc.おおよそ健康診断でやる項目に加えて魔紋の検査と魔力検査と日本じゃお目にかかれない項目がズラリと並ぶ。

この調子だと血液検査の項目の中に何か別の項目も追加されていそうだ。

そんな健康診断の内容を見る限りこれは一日がかりかと思い予定を組む算段をたてようとするが。


「ほかに何か連絡がないならそろそろ行くっすか?」

「そうだな、嫌な仕事はさっさと終わらすとするか」

「先輩……気が重いっすよ」

「仕方ない、上からの指示に下は従うしかない」


あいにくとそろそろ出勤時間のようだ。

他に業務連絡は来ていなかったからタブレットを置き、代わりに俺は鉱樹を海堂は最近買い換えた双剣を手に取る。

向かう先は鬼王のダンジョンでも不死王のダンジョンでもましてや機王のダンジョンでもない。

蟲王のダンジョンだ。

なぜ俺たちが今まで挑んでこなかったダンジョンに挑むことになったのか。

別に新天地を求めてとか、他のダンジョンに飽きたとかではない。

そもそも他のダンジョンの攻略が終わっていないのに飽きるもクソもない。

事の原因はただ単純に監督官から一言


『攻略が一向に進まん。貴様らで蟲王のダンジョンを攻略してこい』


そう言われてしまっては行動を起こさないわけにはいかない。

指示に従って最初はパーティーメンバー全員で行ったわけだがそこで問題が一つ発生した。


『『『生理的に無理!!』』』


我がパーティーメンバーであり性別女性である南、北宮、アメリアがまっさきにリタイアを表明してきた。

無理もない。

なにせ全長一メートルを超える巨大な蜘蛛がアマゾンのようなジャングルの木々を縦横無尽で飛び回り、虎よりも大きい軍隊蟻が闊歩し、人間の顔よりでかい禍々しい配色の蛾が十メートル歩くたびにエンカウントしていては男の俺でも音を上げそうになった。

南がござる口調を無くしてくる時点で本気具合が察せる。

正直、全長三メートルを超える蟷螂(カマキリ)とエンカウントしたときは死を覚悟した。

いや死なないが、全力で捕食しに来る昆虫とは恐ろしいものだと再認識した。

そんなもはや精神攻撃の領域に差し掛かっているダンジョンに対して挑むのは正直気が滅入る。

そしてさらに悪い条件というのは重なる。

女性三人が脱落し、ならば男三人で挑むにも


『すみません学校が』


我らがヒーラーでありオカン的立場である勝はアルバイトで常駐戦力に換算できない。

おかげで戦力は追加されたはずなのに逆に戦力はガタ落ち。

結果的に俺は全戦力の三分の一で挑むこととなっている。


「無理強いするわけにもいかんしな」

「俺的には気が触れてフレンドリーファイヤを撃たれる方が怖かったっすよ」

「ああ、北宮の大魔法とかな」


あの時は恐ろしかった。

背後からの突然の奇襲で、頭が真っ白になった北宮が暴走してしまい、ただ殲滅することだけを考えた背後からの魔法攻撃など味方にとっては悪夢以外の何物でもない。

後で謝られたが、問題が改善するまでは少数で安全に行ったほうが仕事が捗るというものだ。

まぁ、戦力外通告を受けたときの北宮は地味にへこんでいたが……勝がどうにかするだろう。

一応フォローとして、適材適所あいつらには後で別のダンジョンに挑むということを条件に、蟲王のダンジョンは俺と海堂で攻略している。

そしてそんな出来事も過去の出来事として流し、笑い話にできるようになる程度の回数は挑んだ今では、昆虫パラダイスによる精神的負担はある程度は適応できている。

おかげで最近は気分が重くなる程度だ。

苦笑を一つ零せば必要なものを手にしてダンジョンに向かうやる気くらい湧いてくる。


「上から巨大な蜘蛛が捕食してきたらさすがに慌てるっすけど、冷静に対処してほしかったっす」

「危うく焼け野原にされそうになってたからな」

「髪の毛は命っす!! 俺にとって笑い事じゃないっすよ。先輩も体験すれば俺の辛さがわかるっす」

「嫌だよ」

「はっきりっすね!!」

「当たり前だ」


無駄口を叩き合いながら進み、すれ違うファンタジー社員と挨拶を交わしながらダンジョンの入口に向かう。


「そういえば先輩知ってるっすか?」

「知らん」

「いや、まだ何も言ってないっすよ」

「俺はエスパーではないからな、主語が抜けていて知ってるかと聞かれれば知らんとしか答えられんよ」


その中で海堂がふと思い出したように話題を切り出す。

その内容に予想のつかない俺は素直に知らないと自信満々に答える。

それよりも今日のダンジョンアタックで手に入る臨時収入の方が気になる。


「噂っすよ噂」

「なんだお前のお気に入りのサキュバスに恋人でもできたか」

「キャシーちゃんはフリーっすよ!! って違うっす。あれっすよレアモンスター配置の話っすよ」

「ブラッドじゃないのか?」


それなら何を今更という話になるが、海堂の口ぶりから察するに違う話らしい。


「それと違って誰かが提案したらしいっすよ。なんか倒したらすごい高価なアイテムを出すらしいっすよ」

「ほう、それはまた会社も豪気なことをしたな」


頭に思い浮かぶのは宝箱の形をした魔物かそれとも驚異的な速さで逃げ出す金属のスライムだ。

どっちにしろ用途は想像がつく。

テスターたちのやる気を出すためか、それとも


「代わりに近くには魔物がたくさんいるらしいっす」

「やはり罠だったか」


餌としての囮か。

欲に目がくらみ焦って深追いしたところをボコボコにするといったところかね。

まぁ、倒せれば儲けもの程度の感覚でいれば問題はないだろう。


「でも一攫千金は夢じゃないっすか」

「その一攫千金が砂上の楼閣だったら笑えんぞ。命の値段が実は一万とかだったらどうするよ、死にはしない体といっても痛みはあるんだぞ」


そんなものに命をかけるなんて馬鹿げている。


「危険な大金よりも堅実な給料だ。うだうだ言ってないで仕事の時間だ」

「へ~い」


そんな無駄口の時間も終了のようだ。

あいも変わらず誰もいないエレベーターのような入口の前に立ち、傍のコンソールをいじる。

そして設定を終了すれば静かにその扉は開く。

そして、ムアっとした独特の湿気を含む熱い空気が肌に触れる。


「暑いっすねぇ、外じゃもう秋なのに」

「そういう場所なんだから仕方ないだろう。アマゾンに来たとでも思え」

「相手はシャレにならないくらい大きいっすけどね」


次に視界に入ってくるのは熱帯地方に見られる木々だ。

ジャングルという言葉が似合う。

ただ地球のアマゾンと違い。

そこに動物の鳴き声は響かない。

代わりに虫の鳴き声や羽音がそこら中から聞こえる。


「うっし、今日は西の方を目指してみるか」

「了解っす、マッピングの準備はできてるっすよ」

「丁寧に書けよ? お前の字汚いからな」

「それは敵さんに言ってほしいっすねぇ。この前なんて変な液体飛ばされて地図がダメになったっす。せめてもの救いで素材の買取が平均よりも高かったから怒りは収まったっすけど」

「なら、失敗は次に生かさないとな」

「気をつけるっすよ」


このダンジョンで採れる素材は軒並み武器や防具への応用が利く。

それ以外にも木々から採れる樹液や一定の魔物が貯蔵するハチミツなど戦わずして得ることができる素材が多い。

それが俺たちのモチベーションを保っている。


「うし、行くぞ海堂」

「了解っす」


意識を切り替えて未開のジャングルへ足を踏み出す。

そして、そのまま茂みに入ること無く。

木の上へ跳び上がる。

これは集団行動ではなくペアという少数で動くときは、慎重に動くよりも機動力を重視したほうがいいという俺たちの見解から来る行動だ。

フィールドタイプのダンジョンは迷宮タイプのダンジョンと比べてただひたすらに広い。

そんな広大な土地をゆっくりと探っていては人生が終わってしまう。

よってこうやって足場となる場所を選んで動き回っている。

ほかにも茂みの中に隠れる虫たちを避けるという意味もある。

しかし、木の上だから安全というわけでもなく当然


「海堂接敵だ。前方、大型の蜘蛛が二体だ。素材は回収しないで倒したら即座に離脱するぞ」

「了解っす。それじゃ魔法で先制するっすよ」

「ああ、切り込むぞ」


その移動している間に敵と巡り合う。

俺の目に映るのは毒々しい模様を背負った巨大な蜘蛛だ。

その数は二体。

気配も同じ数だから間違いはないはずだ。

今回は下を通る獲物を狙っていた全高一メートルほどの蜘蛛の背後を取ることができた。

海堂のファイアボールが見事に背中に着弾し、バランスを崩したところを鉱樹で唐竹割りとばかりに両断する。

そのまま返す刃で隣の木についていた蜘蛛も切り捨てる。

血は噴き出ず、魔力となって消えるということはソウルということだ。


「群がられる前に移動するぞ」

「了解っす」


このダンジョンの恐ろしさは数だ。

ゴブリン以上の軍勢に、捕食するためなら犠牲を躊躇わない食欲、エイリアンに襲われている気分を体験できる。

そんな場所で音を立てて戦闘するということは、それすなわち敵を呼び寄せているということにほかならない。

素材である蜘蛛の爪を放置してさっさと移動する。

少数だとヒットアンドアウェイを心がけなければこのダンジョンでは生きていけない。

それを序盤で学べたのは嬉しいことだ。


「蟷螂か……」

「どうするっすか?」

「素材は割に合わんが経験値はうまい。五分で仕留める。無理なら離脱だ」

「はいっす!」


基本的に接敵戦闘即時離脱を心がけておけばこのダンジョンはかなり魔紋を育てる環境に適している。

機王のダンジョンは接敵に時間がかかり、不死王のダンジョンは物理耐性が強すぎて俺たちには不適切、鬼王は他のテスターたちとブッキングする。

おかげでここ最近の成長には目を見張るものがある。

二本の大きな鎌と、鋭い牙を備えた口を避けながら効率を考えている。

戦闘スタイルも俺が注意を惹き海堂が背後から攻め落とすというスタイルを取っている。

俺が攻めきれればそのまま攻め落とすが、可能な限り危険をそぎ落としていく。


「次行くぞ」

「忙しないっすね」

「仕方ないだろう」


時間にして三分、片方の鎌を肩の付け根から切り落としてしまえばあとは脅威にならずあっさり倒して次へと移動する。

群れは全力で避けて、小数を狩る。

それを心がける。今日に限って言えば運が良かったと言えるだろう。

途中蜜蜂の巣を発見し蜂蜜を確保することに成功した。

思わぬ臨時収入に俺と海堂は喜び、今日はそれで切り上げる。

そうして今日のダンジョンアタックは順調に進んで珍しく何事もなく帰ってこられた。


「何もないと逆に不安になる俺は間違っているだろうか」

「心配しすぎっすよ先輩、蜂蜜も予想よりも高く売れてよかったじゃないっすか」

「気にしすぎ……それもそうか。悪いな海堂、最近悪いことが重なりすぎてな」

「先輩出張の時ひどい目に遭ったっすからね。今度お祓いでも行ってきたらどうっすか?」

「考えておくか」


何事もなく順調な日常、それが俺には嵐の前の静けさに感じてられてしまったのはただの考えすぎなのか。

それとも、最近鍛えられてきた何かが俺に囁いているのか。

俺には分からなかった。



田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


今日の一言

通常通りに行き続けるのがベストだが、通常をキープするのは難しい。


新章開幕

ダンジョンから離れていたので今回はダンジョンをメインに展開していきます。

これからも本作をよろしくお願いいたします。

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