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79 新人を暖かく迎えるのも先輩の勤め・・・・だろ?

今章は今回で終わりです


田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


病院の隔離施設のような自動ドアを監視のダークエルフの男に見送られながらくぐる。

そのまま受付に行き部屋番号を尋ね、スタスタと目的地に向けて歩く。


「アメリア、何をしてた?」

「ダンスの練習あとのストレッチダヨ。体を冷やしたらダメだからね」

「そうか、なら時間はあるわけだな。というわけで、お前うちに入れ」

「いきなりすぎるヨ!? というより何がというわけ!?」

『なるほど、そういうことか』

「マイクは私を置いて勝手に理解してるよネ!?」


そして行きは転移魔法なのに帰りは徒歩ということに、目的の場所であるアメリアの泊まる部屋にたどり着いた時に気づいたが今は関係ないと割り切る。

そんな理不尽を気にする暇はないと己に言い聞かせ、俺は単刀直入に部屋でストレッチをしていたアメリアに用件を切り出す。

ちなみに、どこかのラブコメみたいな展開を避けるためにしっかりとノックをしてから入った。

ファンタジー方式のラブコメ展開の末路を体験したらいくらなんでも体が持たないからな。

そうやって扉から出てきたアメリアは俺が突然何を言っているのかと言わんばかりにリアクションをとってくれるのはある意味気持ちがいい。

打てば響くとはこのことか。


「三行で説明してやるとだな。

お前の体がマイクのせいで人を辞め始めてる。

それを保護するためにうちで雇ったほうが互の利益につながる。

だから社長にスカウトしてこいと言われた。以上だ」

「うわ、すっごくドライな対応に私どういう反応すればいいんダロ?」

「社会人としての反応を教えてやるぞ?」

「社会人としての反応って?」

「例外を除いてyes以外の選択肢はない。それが社会人だ」

「日本人の働き過ぎの原因ってそこにあるんじゃないノ?」

「そうだろうな。それでどうする?」

「ん~、いいよ」

「軽いな」

「別に軽くないヨ。マイクともさっきまでその話をしてたんダヨ」

「マイクと?」

『ああ、こういってはなんだけど。彼女の体の中に入ったのは状況的に仕方なかったとは言え、あとはどうにかしてと丸投げにするのもどうかと思ってね。時間ができた今のうちに彼女の今後について話していたわけさ。私は簡単に外には出られないからね。それなら知り合いである君がいて緊急時に対応できるこの会社に所属したほうがいいと話していたところさ』

「ママにも聞かないといけないけど、私もそのほうがいいかなって」


さすがに何も説明しないで強引に行くのは良くない。

だが、かと言って真面目に威圧的にもなってはいけないと思い冗談交じり簡単に説明する。

初めて会った時もそうだが、アメリアというのは高校生にしては価値観というのをしっかりと持っている。

外国だとやはり精神年齢が高い子が多いのかと思う。


「そうか、俺としては説得の手間が省けて助かるが大丈夫なのか?」

「ノープロブレム! それにせっかく魔法が使えるようになったのに使えなくなるのはもったいないカラ!」


ポジティブだなと素直に思える。

あんなことに巻き込まれたなら普通は魔法を使うことに対して嫌悪感ないし苦手意識が芽生える。

だけど彼女はそれも踏まえて必要だからと割り切り、そしてなおかつ楽しめる要素を見出している。

うまく意識の切り替えができている証拠だ。

成人した大人でもこうやって考えられる人は若い世代では多くない。

こういうのは経験で妥協点や開き直り方を学んでから身に付けるものだ。


「そうか、なら早速職場見学と洒落込むか」

「いいの? ここの人からあまり歩き回らないでって言われてるけど」

「問題ない。これでもそれなりの人徳はあるつもりだ。根回しすれば大丈夫だ。」


さすがに無許可はまずいが、スカウト関係の話だと言えば問題なく許可は下りるはずだ。

携帯はこの会社では無用の長物だから、近くにある内線電話を探し部屋に備え付けのやつを使うとする。


『はい、テスター課スエラです』

「スエラか、次郎だ」

『次郎さん! どうしたんですか?』

「いや、社長に仕事を頼まれて勇者の一人をスカウトに来てな。それで社内を見学する許可が欲しくて連絡したんだが……今大丈夫か?」

『大丈夫ですよ。それで社内見学ですよね? こちらの方で連絡しておきますので地下施設とダンジョンゲートの二箇所で問題ありませんか?』

「あとは寮の方も頼む、このまま俺のパーティーに入りそうだから、今いるメンバーに顔を通しておきたい」

『わかりました。ではそちらの方も対処しておきます』

「頼む、また夜には」

『はい、ではまたあとで』


許可は予想通り素直に取ることができた。

問題は


「彼女?」

「そうだ、さて許可は取れた。行くぞ」

「yes!! 歩きながらloveトークダネ!」

「するか」


その会話を聞いていたアメリアのテンションが妙に高くなってしまったことか。

照れるような歳でもないし、自慢できる彼女スエラでもあるがわざわざ餌をやる必要性は感じない。

俺が素っ気なく返して歩いていく後ろをアメリアは出会いは? 付き合ってどれくらいと女子高生なら年相応の話題を振ってくる。


「ここが地下施設だ」

「お~、すっごい!! ファンタジーみたいダネ!」

「お前はつい先日までどこにいたか忘れたのか? 痴呆症か?」

「痴呆症じゃないヨ!! だって、ある程度の強さになるまで外は危険だからってずっと建物の中にいたからこういうのは新鮮なんだヨ!!」

「あ~そういうことか……だったら外に出ないで訓練とかどうしていたんだ?」

「全くもう、基本的に魔法の使い方とか剣の振り方とかを教えてもらって、あとはたまに檻に入ったゴブリンを倒してた感じダヨ?」

「そりゃまた適当だな」


ある程度の強さになったら確かに外に出られるわな。

それが人間の形をしているかどうかはしらんが、少なくとも口に出していいブラックジョークではない。

しかし、そんな訓練で実力がつくのか、それとも最初の訓練はそんなものかとイマイチ判断がつかない話だ。

なにせ俺の最初の訓練はあの教官二人による死と隣り合わせの研修だった。

あれが異常なのはまず間違いないが、だからと言ってアメリアたちの訓練が普通なのかと聞かれたらそうだと言える根拠もない。

そんな感じで雑談を交え地下施設の説明を行いながらも店の中には入らず、武器屋や防具屋、道具屋に食料品店、女性も気になる異世界の化粧品店と地下施設をいろいろと巡る。

さすがにダンジョンエレベーターの粘液を店頭で目にしたときは互いになかったことにした。


「それにしても次郎さんが二股かけているなんて知らなかったヨ」

「……その距離感はやめろと言えない自分が腹立たしいが、一応言い訳させてもらう。スエラもメモリアも同意の上での二股だ」

「へ~、そうなのマイク?」

『僕の知識だとイスアルでは一夫多妻は当たり前だね。だから彼の状況は私からしたらどこにでもありふれている光景だ。けれど彼女たちの心情まではわからないね。本当に納得しているかは当人たちしか知らないんじゃないかな?』


その過程で俺への評価が二股野郎になった気がするが、こういった弊害も受け入れる覚悟でやっている俺には否定することはできない。

だが、少なくとも第三夫人かと笑顔でからかってきた武器屋のハンズはあとで全力で殴ると心に誓う。


おかげでさっきまでとなりを歩いていたアメリアは二歩ほど距離を空けている。

目元も最低だと語っているかのように少し細くなっている。


「へ~」

「火に油を注ぐな背後霊」

『ハハハ僕は知っていることを答えただけさ』

「ったく」


文句を言いたくても第三者から見れば少女に向けて文句を言っているようにしか見えないのでは強くも言えない。

何を言っても無駄だと悟り、そのまま案内を続ける。


「次はどこ行くノ?」

「ダンジョンの入口だ。それが終わったら俺のパーティメンバーの紹介で終わりだ」

「へぇ、次郎さんのパーティーってどんな人がいるの?」

「それぞれを一言で表すなら」

「表すなら?」

「ああ~舎弟とオタクと主婦とツンデレか?」

『それはどこかの村人の話かい? 半分ほど僕の知っている言葉ではなかったけど、少なくともダンジョンに挑むメンバーの話には聞こえなかったよ? アミーはどうだい?』

「ハハハ、私もそう聞こえたヨ」

「そうとしか言いようがないからな、まぁ会えば納得できる、気のいいやつらだよ」


この会社に入ってから俺は人に恵まれていると思う。

最初は孤立してしまっていたが、気づけばこうやってグループを作ることができた。

仲の悪い奴もいるが、それと同じくらい気を許せる仲間と呼べるやつもできた。

まぁ、良くも悪くも一期一会というやつだ。


「それなら先に会ってみたいかナ! その人たちに」

「海堂たちにか?」

「うん! だってその人たちと一緒に仕事をするんダヨネ?」

「まぁ、そうなるが……」


どうするかと数瞬悩むも、装備がない現状でダンジョンに入るわけにはいかない。

だから入口付近、触りしか見せないのなら先にパーティールームに向かっても支障はない。

もともと予定などあってないようなものだ。

多少の変更はしてもいいだろう。


「なら、行くか?」

「ウン!」


元気のいいアメリアの返事を聞き今度はパーティールームに向かう。

アメリアは道中のファンタジー色溢れる職員に目を光らせる。


「マイク、ゴブリンって珈琲が好きなのは知らなかったヨ」

『うん、私も知らなかった』

「まぁ、普通は知らないよな」


特に缶珈琲を買うゴブリンたちの光景は印象的だったようだ。

今では慣れた光景で時々一緒に飲んだりするが、さすがにこの光景は魔王の魂といえど知らなかったようだ。

そのまま地下から上の階に上がり歩くこと数分、あとは連絡通路を渡れば寮まで目と鼻の先になる。


「ここは普通なんだネ」

「社内と比べればな、俺もたまに違和感を覚える」

「普通じゃないから?」

「ああ。さてと、ここだ。ん?」


社内のファンタジー風景から一転、アメリアからすれば久しぶりに見る現代の普通の建物に若干違和感を覚えているみたいだ。

気持ちはわからなくはない。

ファンタジーな風景ばかり見ているとどっちが日常かわからなくなるからな。

そして目的地である俺達のパーティールームの前に立つのだが、何やら騒がしい。


「どうしたの?」

「いや、海堂しかいないと思ったが南でも来たか? まぁ、いいか」


外に出るときは海堂しかいなかったと思ったが、なんらかの理由で南たちも来たのだろうと思い鍵を開けて中に入る。


「勝~お腹減ったでござる」

「お前も少しは働け!!」

「だが断るでござる!! 拙者、働いたら負けと思っているでござる」

「飯抜きにするぞ?」

「殺生でござる!?」

「あなたはそっちのテーブル持ってきなさいよ!」

「ちょ、俺年上っすよ!!」

「私の方が先輩、あなたは後輩わかった?」

「くぅ、ここでも経歴社会っすか!!」


思ったとおりメンバーが全員集合していた。

だが、その動きは何やら騒がしい。

キッチンでは勝が料理を作り、動きたがらない南に食器を出すように指示している。

リビングでは北宮が海堂を使ってテーブルを移動させている。

おまけに


「次郎さんお疲れさまです」

「お疲れ様です」

「スエラ、メモリアお前ら何やっているんだ?」

「はい、南さんの提案で次郎さんのお帰りなさい会というのをやろうと誘われたのでそのお手伝いを」

「私もです」


スエラとメモリアも何やら料理を作っていた。

見たことのない料理ということでおそらくはイスアルの料理だろう。

仕事はどうしたとか色々と聞くことがあるだろうが。


「南がねぇ」


それよりも嬉しさが先に来てしまった。

働きたくないという割には機敏な動きで食器を配置する南の動きを見る。


「私も含めてみなさん寂しがっていましたよ」

「そうか」


こちらに気づかない奴らはサプライズのつもりだったのだろう。

タイミング悪く帰ってきてしまったと思うが、スエラが話してしまっている時点でもう手遅れだ。


「ああ!! リーダーがいるでござる!!」

「ええ!? 海堂!! あなたまだ次郎さんは帰ってこないって」

「し、知らないっすよ!? あいたァ!?」

「とりあえず、料理はできたぞ」


会話をすれば魔紋の恩恵を得ているメンバーには気づかれる。

慌てて作業を進めようとする南に、情報の伝達ミスを責める北宮、その被害を受けて机の足に足の指をぶつけて悶える海堂、そして一人仕方ないと精神年齢の高さを見せながら料理を完成させる勝。


「こういうやつらだ」

「楽しそうだネ、マイク」

『そうだね、いいパーティーじゃないか』


そんな光景を見た俺がすることといえば、ちょうど良く人の印象が伝わりやすい光景をアメリアに紹介することだ。

なんともわかりやすいやつらだと思う。


「? 誰でござる? 勝、知っているでござるか?」

「知らないな、次郎さんの知り合いのようだが」

「まさか新しい彼女っすか!?」

「なわけないでしょ、次郎さんその子は新しい子?」


そんな奴らが次にアメリアに注目するのは当然だろう。

作業を止めて俺の背後にいる彼女に視線が集まる。

そんなアメリアの背中をぽんと叩き前に一歩出させる。


「新人予定のアメリアだ。向こうの世界で勇者をやっていた期待の新人だ。お前ら仲良くな」

「え、次郎さん?」

「自己紹介しろ」


ここまでくればあとは流れに任せるだけだ。


「あ、アメリア・宮川です。アメリカ人と日本人のハーフです。えと、勇者をやりそうになりました。よろしくお願いしまス」

『その守護霊のマイクだよ。こっちもよろしく』

「「「「よろしく~(でござる、っす)」」」」

「軽いヨ!?」

『はははは、まさか簡単に受け入れられるとは』

「だって」

「そうですね」

「そうでござるな」

「そうよね~」

「「「「次郎さんだもの(先輩っすからね・ござる)」」」」

「おう、どういう意味だおらァ」


懐かしく思うには短くとも、帰ってきたと思わせるこの空気に、新しく入る歯車をそっと押し込む。

そうすれば自然と歯車はそのチカラで回り始める。

まるでそれが当たり前のように。


「それじゃぁ歓迎会も兼ねるでござるよ!! 海堂先輩パシルでござる」

「俺っすか!?」

「あんた以外にいないでしょ」

「先輩、材料のリストです」

「では私はもう一品作りますか。メモリア、あなたはどうしますか?」

「私も手伝います」


勇者という身分も関係なく。

ただの同僚として、迎え入れようではないかい。


「騒ぐのはいいが、明日は仕事だからなお前ら」


「「「「はーい」」」」


「俺は休みだがな」


盛大なブーイングを聞くが楽しめる場所に今新しい仲間が入る。

それが今回の出張の成果だろうな。



田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


今日の一言

場所になじませる最初の一歩を助ける。

それも先輩の仕事だろうな。


連続で投稿時間が遅れて申し訳ありません。

少し構成に手間取りました。

これで今回の章は終わりです。

次回から新章に入りたいと思いますが、少し作品の修正に入るため一週間から二週間程更新をお休みします。

これからも本作をよろしくお願いします。

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[良い点] この作品で何度か歯車と出てきますが、マイナスよりもプラスのイメージが強くて。 なんだか、いいなぁと思います。
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