78 事後処理は必要だと思うが・・・・思うんだが!!
遅れてすいません(汗
遅れながらも投稿します。
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
「おはようっす~」
「おう、おはよう」
「先輩早いっすねぇ~」
「ああ、なにせ監督官直々に報告書を出せと言われているからな。休むのは仕事が終わってからにしろとのことだ……」
「うへぇ、監督官もきついっすねぇ」
無事日本に帰ってこられた翌朝、俺が真っ先にやったのは惰眠を貪ることでもスエラとほのぼの過ごすことでもなく、パソコンと向き合い報告書を作成することだった。
出張前の想像とは正反対のまるで悪夢のような出張であったから早々に忘れ去りたいが、そうは問屋が卸してくれないみたいだ。
事後には内容を報告しなければならないのがサラリーマンの悲しいところ。
忘れる前に報告書を仕上げろとお達しを受けてしまっては、社畜根性が染み付いている俺の体は自然とパソコンと向き合ってしまう。
結果帰ってきても仕事、と企業戦士の模範となる行動を俺はとっていた。
……おかげでスエラのご機嫌は斜めになったがな。
仕方ないと苦笑して諦める彼女の表情がズブリと鋭いナイフのように俺の心をえぐったのは言わなくても想像できるだろう。
カタカタと報告書を作りながら、報告書作成を言いつけた時のエヴィア監督官はと言えば、心底楽しそうにどうやって機嫌をとるか眺めていたな。
監督官の意地の悪さに辟易し、疲れた体で必死に頭を巡らせ、拗ねたスエラと次の日で仕事を終わらせることを約束し。
さらに出張中に溜まった休日をデートに充てることでどうにか機嫌を回復させることに成功。
飛び火でメモリアともデートすることになったが、そこは公認で二股をかけている男の甲斐性の見せ所と思うことにした。
そんな俺は今この時が一番魔紋の効力に感謝したかもしれない。
有言実行するために、早起きしてパーティールームで久しぶりに触るパソコンのキーボードに指を走らせることができるのだから。
二十代前半の時のように、一晩休んだだけで元気になれる体とは素晴らしいものだと実感している。
ちなみに、こうやって朝の挨拶を普通に海堂と交わしているが、こいつを含めパーティーメンバーには昨日のうちに帰ってきたことは伝えてある。
その時の反応は各々予想通りで、帰ってきたと安心させられたと言っておくが
『『おかえりなさい、おみやげは?』』
『フン!』
『『ウギャァ!?』』
こっちの気も知らずに呑気に土産をねだる海堂と南に関しては全力でソバットを放った俺は悪くない。
お疲れ様と言ってきた勝と北宮には優しく対応したぞ?
「んん~?」
「なんだ海堂?」
「いやいやそういえば俺って昨日詳しく聞いてなかったっすよね?」
「イスアルのことか?」
「そうっすよ」
報告書など何枚どころか何十枚以上と作り慣れている俺からすれば作ること自体にさして苦労することはない。
既に外枠は出来上がっている。
時間がかかるのはここから精査して上に見せられる代物に仕上げるまでの工程だ。
そんな段階で覗き込もうとする海堂に苦笑を一つこぼす。
「あいにくとお前が楽しめそうな話はあまりなかったぞ。ファンタジーっぽいモノに触れる機会も少なかったからな」
「そうなんっすか?」
「ああ、強いてあげるなら赤いコーヒーぐらいだな」
「なんすかそれ」
「向こうの喫茶店らしき店で飲んだ飲み物だよ。こっちみたいに黒くはなかった」
思い出せば変な飲み物だったとテーブルに置いたインスタントコーヒーが入ったカップを引き寄せる。
それに口をつければ安っぽく飲みなれた味が口に広がる。
今日は平日だから勝の入れたコーヒーが飲めないが、こっちも飲みなれているので別段文句はない。
やはりコーヒーは黒じゃないとな。
「あれはなかったスカ!? ほら、獣耳とか」
「社内にいるだろうが」
「エルフとか!」
「スエラがそうだろ。ダークって頭につくが」
「魔法とか!!」
「おまえも使えるだろう」
「そうだった!?」
そんな俺の気持ちを知らぬと言わんばかりに土産話を欲しがるが、大した話はできない。
冷静に考えれば随分とファンタジーが身近になったものだ。
海堂が言い出しそうなファンタジー風俗関係も言ってはなんだが地下街に行けばある。
向こうの世界で物珍しいといえば、思えばなかったかもしれない。
そういった環境に近づけた施設をこの会社が意図的に用意したのかもしれない。
この会社の目的であるダンジョンそのものがファンタジーのお約束と言える代物だしな。
そういった環境に身を置いていると海堂の言う土産話もあまり盛り上がらない。
「何しに行ったんすか先輩」
「仕事だよ。かなり脱線したが」
その仕事の内容を報告書にまとめている俺に何を言っているんだコイツは。
海堂は期待はずれだと言わんばかりの視線を向けてくる。
そんな視線を無視し俺は報告書を書き続ける。
「……生徒たち、何もなければいいっすけど」
「この会社の医療スタッフたちが面倒見ているんだろ? 大丈夫だろうよ」
数秒の沈黙の後に海堂は俺の隣に座ってポツリと言った。
こっちに帰還した生徒たちは治療という名の健康診断を受けている。
イスアルにある風土病や感染症の心配もあるが、一番のネックとなるのは強制的に付与されたスキルや聖紋と呼ばれる魔紋と似た代物だ。
それがどこまで肉体に影響しているか、日常に返して問題ないか検査している。
「スエラが言っていたが、魔紋にしろ聖紋にしろ魔力がなければただの見えない刺青になり下がる。大げさに反応しているがこれは念のためにやっているだけだよ」
こうやって身近な生徒がさらわれたという事実は海堂の中で少なからず考えさせられる事実だったのだろう。
珍しく真剣に質問してきた。
俺にもスエラからは問題ないとしか聞いていない。
だからそれを答えるしかないのだが、とはいえわからないと答えるよりは安心させられるだろう。
「そうっすよね!いやぁ、高校生とどうやってお近づきになろうかって思ってたっすけど、疲れてちゃダメっすから!」
「一応言っておくが、未成年に手を出すなよ」
「わかってるっすよ! 冗談っす! じょ・う・だ・ん」
「どうだかな」
その甲斐あったか、海堂はさっきまでの真剣な表情はキャラじゃないと言わんばかりに脱ぎ去り、そそくさと元のおちゃらけた態度に戻る。
そんな海堂に水を差すのも悪い。
スエラから聞いたもう一つの話、イスアルから連れて帰ってきた密偵の話だ。
密偵の存在自体テスターたちには知らされていない。
俺自身も当事者で、唯一の役職持ちということで概要を聞いているだけだ。
あいつらの末路は予想通り明るい道筋ではなかった。
新鮮な情報というのは魔王軍でも貴重らしく、顔剥ぎの術式を剥がされた密偵たちは今頃情報という情報を吐き出されているだろう。
それ以上詳しく知ろうとは思わなかったし、スエラ自身も教えてくれなかった。
「先輩? どこ行くっすか?」
「タバコが切れた。売店で買ってくる」
「いってらっしゃ~い」
「お前今日はダンジョンに入らないのか?」
「ふふふ、今週のノルマは終わってるっす! だから今日はオフっす!」
「そうか、それはいいことを聞いた。なんなら俺の仕事を手伝っても「あ、ちょっと用事を思い出しったすので、俺はこれで失礼するっすよ!!」……わかりやすい奴だな」
気分が暗くなり、気分転換でタバコを吸おうと思ったが、最後のタバコを今朝吸ったのを思いだした。区切りもよかったから買いに行こうと立ち上がり、ついでに暇なら仕事を手伝わせようと思ったのだが取り逃がしたようだ。
ドタバタと走り去る海堂を見送る。
魔紋の力を使った迅速な撤退に労働力を逃がしたと苦笑し、元の目的であるタバコを買いに行くとしよう。
「その前に僕と話をしないかい?」
「っ!? 社長?」
だが、それは叶わなかった。
ふらりと一瞬で視界は変わり、さっきまでパーティールームにいたはずが今は豪華な部屋に移動していた。
窓の外に見える景色とその部屋の中央にあるテーブルの席に腰掛ける社長の姿から判断しここは社長室と判断できた。
となりで頭痛をこらえるような仕草を見せるエヴィア監督官がいるのも理由の一つだ。
慌てて姿勢を正し、気をつけの姿勢をとる。
「ああ、こっちが呼び出したんだ。楽にしていいよ。二、三聞いたら元の場所に返してあげるから」
そう言って気を楽にできたらどれくらいいいことだろうか。
わずかに肩の力を抜くのが精一杯の中、社長は金髪さわやか系の顔を生かしたにこやかな笑顔で話し始める。
「まずは今回の出張ご苦労様と言っておこうか、不測の事態に陥ったのにもかかわらず冷静に動けたこともたいへん素晴らしかった」
「恐縮です」
どんな形にしろ組織のトップから褒められるなら悪いと思うことはない。
裏表が読めない存在だが、ここは素直に受け止める。
「さて、僕としては君と日が暮れるまで語り合いたいところだけど残念ながら時間がない。本題に入ろうか」
来たと心の中だけで言う。
トップから褒められて終わるというケースはほぼないと断言できる。
さて何を聞かれるのか。
「安心したまえ、君を呼び出したのは詰問するためでも叱責するためでもないよ。そもそも君は僕が直接沙汰を出すような地位にまだいない」
緊張が伝わったのだろうか、安心させるように言葉を重ねられる。
それで緊張感は抜けないが、多少の余裕はできる。
暗に下っ端を処断する暇はないとも言われてもいるが、今は関係ない。
「結果を出せば僕たち魔王軍はどんなことでも基本不問だという暗黙のルールは君も知っていると思う。事実、君は結果を出した。君が独自で動きたいと言ったときはなかなか面白い発想だと思って、反対意見を押し切って許可を出した僕の勘は間違っていなかったようだね。ただ、全く問題がなかったわけではない」
問題と言われて、冷汗が流れる。
「まずは君の功績だ。必要最小限の人材と時間で敵側の勢力から脅威となる勇者を奪取してみせたのは賞賛に値するよ。これはしっかりと評価する。他にも君にとってはおまけみたいなものだったのだろうけど密偵を捕らえてきたのも大きい。情報を集めているとは言え内部に潜り込むのは簡単ではないからね」
「ありがとうございます」
ここで一旦区切られニコリと笑いかけられても俺の心臓が早鐘を打つだけですよ。
可能であれば早く話してほしいのですが。
「そこまで緊張しないでくれたまえ、問題といってもこっちも功績みたいなことだよ。アメリア・宮川。彼女のことだ」
「アメリアのことですか?」
「正確には彼女の中にいる存在のことだよ」
「……初代魔王様の魂のことですか?」
「うん、そうだよ。よくぞ我らが始祖を連れ帰ってくれた。魔王として感謝する」
「貴様はそれだけのことを成したのだ。私からも心から感謝する」
「ボーナスは期待していていいからね、魔王として相応の値段は約束しよう」
感謝という言葉だけなのに、俺の中で達成感が生まれる。
仕事をすればお疲れ、では次、と自分の苦労はなんだったんだと思うような経験をいくつもしてきたが、こうやって直接褒められたことはいったいいつぶりだったのだろう。
報われたとはこのことだろうと僅かな感慨に耽る。
ボーナスも期待できるとなればさっきまでの鬱屈とした気分とは一転、晴れやかな気持ちになる。
「さてと、褒めてばかりでは話が進まないから次に進めるけど、君は大変素晴らしいことをしてくれたのだけど、はっきり言えば彼女の扱いに我々は困っているんだよ」
「は?」
その晴れ模様もすぐに雲が現れたがな。
この言葉を聞いて真っ先に思いついたのはお前がなんとかしろという、ノープランで一から調べさせられる企画の話だ。
……昔の嫌なことはすぐに忘却したほうが俺の心理的に良さそうだ。
それよりも今は社長の言葉だ。
それを俺に言うということは少なからず俺にも関係してくるということだ。
「僕も魔王だ。彼女の中に歴代のいずれかの魔王様の魂が入っているのはすぐにわかった。さて、ここで問題になるのが彼女の取り扱いだ。検査したところ彼女の肉体に完全に入り込んでしまっていて取り出すにも取り出せない。加えて肉体面にも影響が出始めている」
「!? 大丈夫なんですか!」
「慌てなくていいよ。さすがは勇者候補だ。死ぬとか後遺症がでるといったケースじゃない。むしろ逆だ。人間の範疇を超えて強化され始めている。このまま家に返したら魔力のないこちらの世界でも魔法が使えるくらいにはね」
「それは」
「うん、かなりまずいね。幹部たちの中の大多数から、彼女の肉体からの強制的な魂の引き剥がしを提案されている」
魔法の素となる魔素、それがない日本で魔法が使える。
それだけの影響を出す魔王の魂の危険性は語る必要がないくらいに危険だ。
もし、万が一、ゼロではない可能性で日常の空間で魔力が暴走し被害が出てしまったらと考えれば会社として放置する選択肢は取れない。
たとえアメリアの人としての性格が善性でも魔が差して犯罪行為に走ってしまえば意味がない。
日常で魔法を使えるというのはそれだけ危険なのだ。
加えてこの会社は外部への魔法の秘匿を厳守している。
情報漏えいの危険を出すくらいなら、一人の行方不明者を出したほうがいいと会社が判断するのも理解できた。
だが
「納得できないって顔をしているね」
「……はい、その選択には同意できません」
歯向かうのは得策ではない。
だが、アメリアのためにもここで否定してはいけないとも理解していた。
さっきの達成感を無に帰す選択であったとしても、俺は圧倒的な存在を前にして体が強張りながらも素直な言葉を口にした。
「うん、なら君に彼女を任せようか」
そんな俺の覚悟をなんとも思っていないかのように社長はあっさりと決断を下した。
「わけがわからないって顔をしているね」
「そうでしょう、私も彼と同じ立場なら同じ顔をします」
「そうだろうねエヴィア、事情を説明するとだね。ここまで功績を立てた君の意見を無視して勝手に決めてしまうのは後々のことを考えれば得策ではない。だけれども放置することもできない。なら折衷案で君に魔王ではなく社長として命じよう」
こうもすんなり話が進むということは俺の意思など関係ないようにあらかじめ決まっていたのではと邪推するほど、話は俺も納得できる方向に持って行かれた。
「田中次郎君、勇者をダンジョンテスターにスカウトしてきてくれないかい?」
お願いするような口調になっているけどさっき命じるって言ったよな。
「ついでに他の勇者もスカウトしても構わないよ? ハハハハ! 持つべきは優秀な部下だよ!!」
旨い話には裏があるとはよく言うが、要はこの話、報酬を上乗せするから働けってことだよな!!
苦労するなと苦笑するエヴィア監督官と高笑いする社長に見られながら表情を取り繕い、俺は全力で事後処理を任されたことを心の中で絶叫するのであった。
これが終わったら絶対有給とってやる!!
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
今日の一言
貯めていいのは貯金と知識だけだ。
断じて仕事は貯めてはいけない!!
今回は以上となり、次回で本章終了となります。
今章はダンジョンに触れる機会が少なかったですが次章からまたダンジョンに潜っていきます。
これからも本作をよろしくお願いします。




