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780 予定じゃ間に合わない時がある

 

 教官とアイワの激闘を見ながら、移動してくる二人を待ちつつ俺は俺でやるべきことをする。


「お、おい!どうした!!」


 そのつもりだったけど、未来視で見えた光景を前にして、俺は跳び起きて、そのまま駆けだした。

 スサノオ神の慌てる声を背に受けながら、俺は異空間に手を差し込む。


 異空間に放り込んでいる物は、基本的に対神用として用意した物ばかり。


 一部そうじゃないモノも入っているが大半は戦うためだけに入れている物だ。


「間に合え!!」


 その中でも投擲に使える一品を取り出して、教官とアイワの戦闘中の空間に全力で投げ込んだ。


 俺の視線の先には、教官の首を刎ねる一歩手前で俺の奇襲に気づき、回避することを優先したアイワの姿が見えた。


「教官下がって!!」


 投げつけたのは一本の日本刀。

 俺がハンズに頼んで打ってもらった名刀だ。


 俺の魔力をふんだんに込めたその日本刀の起動キーを発動させるとアイワと教官の間に魔力の爆発が起きる。


 魔力が爆発した際に発生した閃光で一瞬視界が失われるが、未来視で爆発の中を突っ切るアイワの姿が見え。


 さらに異空間から三本の日本刀を取り出して置き土産と言わんばかりに投擲し、アイワが爆発から出てくるタイミングで追加で爆発させる。


「助かったぜ」

「思ったよりもやばそうですね」

「ああ、楽しいがやばいな」

「そこで楽しいって言える教官がすごいですよ。次は自分が行きます。これ食べてカロリー補給しておいてください」


 異空間に入っている戦闘用以外の飲料や携帯食料を取り出すと、それを教官に投げ渡して、俺は爆発でも無傷な彼女の前に躍り出た。


「次はあなたですか!!」

「勝負!!」


 さっきは一刀流で挑み、あっという間に俺の癖を把握され命を刈り取られかけた。


 であればここから先は使える手はすべて使っていかねばならない。


「二刀流もできるんですね!」

「腕力任せだけどな!!」

「自然体で振れているあなたが言うと天賦の才を感じますよ!!」

「凡人からしたら嬉しい評価だねぇ!!」


 紫紅を取り出して、急ごしらえの二刀流。示現流の門派である俺には二刀流の心得なんぞない。


 だけど、刀の振るい方は熟知している。


 体の動き、そして体重移動を駆使すれば相手を斬るための動きと防御を両立することもできる。


「アハハハハハ!私の斬撃を片手で受けますか!!」

「生半可な鍛え方はしていないからな!!」


 速度で劣るのなら手数で対応しようとしたが、これでも追いつけないか!


 右手で受けて左手で反撃するという二刀流特有の攻撃でさえ、戦闘に関したら右に出る者はいないのではと思うくらいにアイワは簡単に即応して見せる。


 単純に手数が倍に増えた斬撃を嬉々として受けきり、そして反撃で躊躇わず俺の命を刈り取りに来る。

 もういっそ口にも刀を咥えて三刀流にしてみるかと脳裏によぎるくらいに相手の強さに脳がフル回転する。


 頬にも額にも向う傷が増え、もっと何かないかと模索する。鎧を脱いだ分加速してもなお速さが足りないから、アイワの神刀が一閃するたびに俺の体から血しぶきが飛ぶ。もっと体の動きを考えろと本能が警告を飛ばし、刻一刻と俺の体に刻まれる傷からは命が流れ出し、もう長い時間は戦えないと体が訴えてくる。


 樹王が時折回復を飛ばしてくれるが、その回復の魔力すらアイワは斬り飛ばしてしまう。


 だからこそ、こっちの回復が追い付かない。

 命が削られ続ける。


「次郎さん!」

「次郎君来たわよ!!」


 このままいけば切り刻まれるのも時間の問題、このまま教官と交代かと思ったタイミングで二人が来た。


「来たか!早速だがスエラ召喚を頼む!!」

「どなたを!?」


 これを待っていた。

 闘いながら叫び、視線を逸らさないまま、一部の思考をこの後の作戦に割く。

 そして、目の前でアイワがにっこりと笑った。


「何かあるようですね!この私を倒すために!!次は何を見せてくれるのですか!!」

「見てのお楽しみってね!!」


 であれば、ここは多少の危険を冒してでも一歩前に出る他ない。


 一瞬スエラたちに気を取られたアイワの隙とも言えない隙をついて連撃を挟み込み、わずかに体勢を崩せた。


 攻撃に移れて三手。


「ニード、ワイッシュ、アイを!!」


 時間にして数秒。

 三体の精霊の名前を叫ぶだけでその時間は消化されてしまった。


「わかりました、ただ、トファムがいませんと私の魔力では長時間の召喚はできませんよ!!」

「問題ない!数秒でいい!全力で来てくれ!!」


 そこからは身を削り、スエラが契約している精霊たちを召喚する時間を稼ぐために攻撃に移る。


「スエラ!私の魔力も使って!」


 俺が何をしようとしているかすぐにケイリィは察した。


 俺の背後で二人が全力で魔力を練り、高速で精霊召喚しているが、それでも三回の斬り合いだけで間に合わせることはできない。


「ちっ」

「なかなかの名刀ですがこの神剣と斬り合うには不十分ですね!!」


 時間が足りないことに気が急いて受け損ねた。

 紫紅の刀身にひびが入った。


 これじゃ、まともに斬ることもできないが。


「舐めるな!!」


 だけど、折れそうになった武器であっても使い方はある。

 再び斬り結んだ時に紫紅の限界が来て、真ん中から真っ二つに折れた。


 すまん。


 心の中で謝り、わざと折られるように振るった俺は、短刀のように短くなった紫紅の軌道を斬撃から刺突に切り替える。


「舐めていませんとも!!」


 それを頬を切り裂く程度のダメージで抑えるアイワの反応速度にこっちも未来視で反応し。


「光れ!!」


 紫紅の折れた切っ先に残っていた魔力を集め、初歩魔法の閃光魔法を起動。


 そのまま、手元に残った紫紅の半身を再度突きから斬撃に手首の強さを駆使して軌道を変える。

 燕のように軌道を変えアイワの眼球めがけて斬りつけた。


「言葉でのフェイント、さらに追撃!!見事ですよ!!あなたのような人間がいるなんてああ!あなたの世界はとても素晴らしい世界なんでしょうね!!」

「俺の世界をどこぞの世紀末と一緒にされては困るぞ!!」


 しかしそれも空を切り、次手で用意していた鉱樹の斬撃も神剣によって受け止められ偶然にも鍔迫り合いになり、見つめ合う時間が生まれた。


「いいえ!きっと、きっとこの先にも争いの火種がある!!私にはわかる!あなたの世界にもきっと楽しい戦いがある!!」

「残念だがそれは叶わない夢だな!!」


 その時に見えた狂気に染まった瞳。

 クールな見た目に反して、泥沼のようによどんだその瞳に灯る怪しげな光。


 闘うことだけに支配された、戦闘の邪神の末路がこれか!?


「いいえ叶います!!あなたの世界にも神がいる。神がいるなら争いが起きる!それが世界の摂理!であれば、私が行かないと行かないと、行かないといけないのです!!終わらせなければ、終わらせなければならないのです!!」

「おい!!何するつもりかはわからんが、やるなら早くしろ!!奴の前世の邪神の力が戻りはじめて元の性質になりかかってるぞ!!」


 最初は冷静だったアイワの様子がおかしくなっている。

 これが、元来の彼女の姿なのか?


 スサノオ神の警告も相まって、危険度合いが跳ね上がっている。


 これを抑え込む方法は……


「顕現せよ!!ニード、ワイッシュ、アイ!」


 ある!


「ダンジョンマスターコード使用!!」


 来た!

 スエラが精霊を召喚してくれたタイミングに合わせて、同時に起動させる。


 ダンジョンマスターにだけ許された権限。


 ダンジョンマスター権限。


「具現、神獣、来い!フェリ!!」


 俺のダンジョンの最大戦力にして神の使い。

 そしてダンジョンの最終防衛システム。


 これを送り付けてきた神殿のチビども曰く、天才の神獣。


 アイワの真横に呼び出された召喚陣。


 スエラの召喚に気を取られ、一瞬の反応が遅れた。


 神剣を持っていない左手に噛みつく巨大な顎。


 白銀の毛並みの巨大なプードルが召喚陣から顔を出す。


 敵である太陽神の匂いを発するアイワに命令もなにもなく、ためらいもなく容赦なく噛みつきその体を食いちぎろうとする。


「アハハハハハ!痛みです、痛みを感じます!!ですが、足りません!!足りないのです!!」


 だが、フェリの力でもその肉体は食いちぎられない、一瞬の動きを止めることができただけでそのまま右手でフェリの頭に神剣を突き立てようとしたが。


「やらせるか!!」


 それを弾き、無防備な姿をさらすことに成功した。


「そのまままっすぐじゃ!!やれるなニード!!」

「私に指図するな、数秒しか持たんぞ、抜かるなよワイッシュ」

「お任せを、すべてを洗い流します」


 切り払った俺と、噛みつき続けるフェリの間を通り抜ける場違いな格好をした二体の精霊。


 服飾士のようにメジャーを首にかけた中世的な容姿の精霊は、目にもとまらぬ速さでその手に持つ巨大な針を振るいアイワをその空間に縫いつけた。


 そのタイミングに合わせて、俺とフェリは距離を取った。


「その濁った力、綺麗にして差し上げます」


 モップで突撃するメイドの姿に、無謀という言葉が一瞬脳裏をよぎるが、俺の強化を一瞬で払って見せた彼女の手腕を知っている身として、その力を信じたい。


「きれいになーれ!!」


 泡を纏ったメイドのモップ一閃。


「ぬ、頑固です」


 それだけでは落ち切らなかったのか、そこから連撃で放たれるモップ。


 黄金の輝きがモップによって落とされる。


 アイワに吸収されたイスアリーザの神の力がアイワから削がれている。


 だけど。


「下がれ!!ワイッシュ!!」


 アイと呼ばれる鑑賞の大精霊がアイワの動きを捉えた。

 それゆえの警告。


「!?」

「ワイッシュ!!」


 だけど、その警告が一瞬間に合わなかった。


 もとから掃除をすることにたけた大精霊である。


 戦いの機微には戦闘用の精霊よりも疎い部分がある。


 だからこそ、突入と脱出のタイミングをアイに観測させ、ニードで隙を固定させて、その数秒間の時間でアイワと融合しきれていないイスアリーザの神の力をワイッシュで流し切るという作戦。


 しかし、想定していたよりも神の力が大きすぎた。


「世話が焼ける!!」

「ニード!」


 そぎ落とせるにはそぎ落とせたけど、代償としてワイッシュが斬られた


体を斜めに縦断するように斬られた。


 命はかろうじて、精霊として致命傷になってはいないが、スエラの送還には間に合わない!?


 返す刃でワイッシュは消滅する。


 その未来を止めたのは。


「こんな嫌な仕事は初めてだよ!!」


 裁縫の特級精霊だった。


「戦わないモノであっても、やはり戦いに通じるものはあるのですね!!」


 ニードの針は、神剣の刃を一瞬縫い付け、その斬撃を遅らせ、そのままの勢いでワイッシュを抱きかかえ無様に飛び去ろうとしたが、その背を再度加速した斬撃が斬り割いた。


「く、っそ、代金をもっとせしめとけばよかった」


 だが、さすがは特級の精霊。


 タフネスには多少の自信があったのか、スエラの送還が間に合った。


「ヴァルス!!」

「はいよ!!」


 ここだ、ここしかない!!


 二体の精霊が光となって精霊界にもどる光景をわき目に、俺と一緒にフェリも駆け出した。


 絶対的な隙ではない。


 だが、可能性のある隙。


 アイワが再度突入してきた俺ににやけ。


 そのまま振り返り迎え撃とうとしたが。


 クイっとなにかに引っ張られるように体が引っ掛かった。


「置き土産だ、バーカ」


 精霊界に戻る直前。


 その最後の置き土産でニードがこっそりと縫い込んでいた一本の糸。


 特級精霊の意地、それを残した時間を無駄にしないために。


 一呼吸入れている暇はない、だけど全身全霊の攻撃をするためにできることはすると鉱樹の柄を握りしめるのであった。



 今日の一言

 なりふり構っている場合ではない。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] RPGでラスボスたおs……からの裏ボスたおs……
[一言] さて、アイワの脱衣というか解剖は間に合うのか? 投稿の切れ目がもどかしい。
感想一覧
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