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745 残業?得意分野ですがなにか?

 

 Another side



 神の体が一部とはいえ顕現している空間。

 それは異常と言えばいいのか、それとも神々しいと言えばいいのか、現段階でどれが正しいと決めつけることはできない。


 少なくとも言えることはと言えば。


「ハハハハ!!なんですかあの人間は、いえ、人間と表現できるのかも怪しい。力が落ちて一部とはいえ、顕現した神の肉体と互角以上に戦える存在が魔王以外にあなたたちの陣営にいるとは思いませんでしたよ!!」

『カカカカ!羨ましかろうて、無能ばかりのそちらの陣営と違いこちらは秘蔵っ子を抱え込めるくらいには人材豊富だからのぉ』


 神とまともに一人で立ち向かえる存在がいるということは異常だという事実があるということだけだ。


 空でぶつかり、互いの命を刈り取ろうとしている不死王ノーライフと熾天使序列第一位アイワ。


 互いに満身創痍と言っても過言ではないような様相なのにも関わらず、まるで万全の肉体だと高らかに宣言するかのように全力で高速でせめぎ合い、彼、彼女からしたらいつも以上のパフォーマンスを出せていると自覚してた。


「うらやましい限りですね!!もし彼がこちらの陣営にいたらと思うくらいに彼は優秀です!!」


 細い刀身にも関わらず、不死王の魔法を切り捨て間合いを潰し、そして鋼鉄の何倍も硬い不死王の障壁を紙のように切り捨て、目前で不死王の杖と鍔迫り合いまで持ち込んだ彼女は鬼王のような戦いを楽しんでいる笑みを不死王に叩き込む。


『それは無理な妄想じゃな!!奴はここにおり、刃をそちらに向けておる!!しかし、誉め言葉は素直に受けとめておこうかのぉ。ただ、そちらにいたら奴がまともに大成したとはわしは思わんが!!』


 しかし、不死王はただで懐に踏み込ませたわけではない。

 アイワを殺すために、危険を加味して、リスクを背負い、そして賭けを成功させた。


 杖でアイワの剣を受け止め、相手の攻撃を受け止めた瞬間動くマント。


 マントから射出された大量の黒い刃はすべてが混沌でできていて、並大抵の障壁など障子紙と大差ない。

 刺されば猛毒を送り込み、たとえ熾天使であっても致命傷になる一撃。


 防ぐためには片腕では足りない。


 さりとて細剣は杖に絡めとられた。


「その通りかもしれませんね!!彼はそちらにいるからこそ大成した!!うちではよくて兵卒程度でしょうね!!」


 のだが、アイワはそこで引かずむしろコンマ数秒の猶予を使って不死王の命を刈り取りに来た。

 死中に活ありと言わんばかりに、空中での推力を増し、不死王をさらに押し込み杖を両断しようとした。


 不死王はそれを嫌い、あえて杖を逸らしアイワを後方に逃がした。


 当然、攻撃は空を切り、互いに何度目かもわからぬような紙一重の攻防を繰り広げた。


『であろうな、正直育てる環境の差がここまで大局に影響するとはワシも思わなかったわ。なにせ、奴は一つの分野を除けばワシですら才能を見抜けなかった。それが今では貴様らの大切な神を切り裂くという異常者を生み出す結果につながっておるのだからの』


 躱したからといって、互いの動きが止まるわけではない。


 アイワは翼を羽ばたかせて、不死王は魔法を駆使して互いに高速で動きながら牽制攻撃を繰り返して行っている。


 攻撃が互いにぶつかり合い、あるいは近くをすれすれで通り、進行方向を阻害しそうな相手の攻撃を避けあるいは迎撃し、当たれば必殺になりえる攻撃をいかにして当てるかを模索し続けている。


「味方からそこまで褒められるとは、ますます彼と切り結びたくなりますね」

『それは不可能じゃ、貴様はここでワシに殺されるのだからな』


 そんな殺伐とした空間の最中で、世間話をするかのように、神を切り刻もうと攻撃を繰り返す男の話題を繰り出しあい、そして同時に殺意の間合いを測りあう。


「その終わり方もいいですね。戦いの果ては戦いで終わらせたいものですので。ですが、私はまだ戦いたいのです。それも、私にこの剣を抜かせた戦いで負けるわけにはいかないのですよ!!」


 殺意が薄れるどころか、濃くなる一方。


『カカカカ!!何と心地よい殺意を向けてくるのだ!!ああ、わかる、ヌシの気持ちがよくわかるぞ!!ワシもこの状態で負けては忠誠を託してくれた配下たちに顔向けができんのじゃ!!』


 互いの異なる理由で、負けるわけにはいかない意地がある。


 であるなら互いに殺すしかないと殊更心を研ぎ澄ませるのは自然な流れだ。


 笑顔という名の殺意を向けあい。


 死んでくれと真心こめての攻撃。


 この二つは矛盾せず、そのまま威力向上という名の、破壊をもたらす。


 白銀の高速斬撃。

 漆黒の絨毯爆撃。


 面での攻撃なら不死王に軍配が、点での突破力ならアイワに。


 能力差はほぼ拮抗している。


 かつて神剣を所持していたときとは比べ物にならないほど、アイワは強くなっている。

 その理由を察せないほど、不死王は耄碌していない。


 アイワの手に収まる白銀の細剣。

 それは神剣と比べれば力が弱い聖剣だ。


 されど、彼女の力は神剣を所持しているときと比べ何倍も跳ね上がっている。


 それこそ、不死王の脳裏に僅かとて敗北の二文字がちらつくくらいには。


 剣戟の切れも、魔法の威力も、体の動きも、その全てが前の戦いを否定するかのように上回っている。


 それは不死王に命の危機を抱かせるには十分な能力だった。


 では、戦いの帰趨はアイワに有利に傾いているかと言えばそうではない。


 アイワとて、不死王に対して敗北の二文字を脳裏に描いていた。


 あの時のように特殊な空間に閉じ込められているわけではない。


 自由に飛び回ることができ、体調も万全に見えないが万全であり、武器もアイワが所持する武器の中では最高の代物を用意し、一対一という好条件すら用意されている。


 何もかもがアイワにとって追い風になっているような戦い。

 だが、その追い風を打ち消す、異様な向かい風がアイワに吹き込んでいる。


 それは不死王にとっての追い風。


 不死王の装備はあの時と大差ない。

 しかし、配下の肉体を得た不死王の肉体は格段に能力を向上させた。


 捧げられた肉体は、不死王の弱点ともいえないような弱点を補うどころか、得意分野と言い表せるほど近接戦闘の対処能力を飛躍的に向上させた。


 それによって生まれたもの。

 すなわち、遠近において苦手な距離が無くなり、心の余裕が生まれたという事実が爆誕した。


 その心の余裕は戦闘において隙となりえる要素でもあるが、毒ではなく薬として使うようになれれば圧倒的なアドバンテージになる。


 近接戦に余裕をもって対応できる。


 それが遠距離戦主体の魔法使いに備われば、これほど怖いものはない。


 近づこうとするアイワを全力で撃ち落とそうとする不死王の魔法。


 その魔法をかいくぐり、一刀のもとに切り捨てようとするアイワ。


 だが、その一刀が不死王の余裕によって必殺から格下げされていれば、アイワはその刃を必殺までに格上げしなければならない。


 その攻防がこの戦場であっても圧倒的強者のもとでやられるのだから誰も介在できない。


 そもそも片や伝説の初代勇者として魔王を討伐したアイワ、そしてもう片方は魔王として名を馳せてもおかしくない不死王ノーライフ。


 この戦いが最終決戦でもおかしくない程の実力者同士のぶつかり合い。


「ああ、心の底から思います。あなたが敵で良かった!!」

『さて、厄介な存在が敵であることを喜ぶ気持ちは同感であるが、それは個人としてじゃ。将としては嘆きたい』


 その二人が純粋に戦いを楽しむ面を垣間見せつつ、戦場を把握する。


 今も、魔王軍の艦隊の中に飛び込みそうになったのを不死王が無理やり引きはがし、そこに間髪入れず艦隊から援護射撃が入り、アイワは弾幕から距離を取る。


「ああ、正しくそれ、その気持ちです。その部分、その部分だけが残念で仕方ありません。この戦いは永遠ではない。いずれこの一刀で終わりが来るのですから!!私もこちら側の責任者として終わらせないといけない」


 互いにこの戦いの終わりを求めていないが、それは個人的な感情として。


 自身の体力、魔力、気力とどれをとっても長い月日を費やすことができると思える戦い。

 だが、戦局の帰趨を左右する戦力としては早々に、互いに目の前の敵を倒さなければならない。


『よく言う、そもそもヌシらの神が大人しく腕二本程度の顕現で満足するものか』


 しかし、それ以外の終わりがあることを不死王もアイワも察している。


 今も懸命に一人の人間の皮をかぶった存在が、太陽神の腕を斬り落とそうと暴れているが、本気で殺しにはいっていない。


 なにせ、作戦の準備が終わっていないから、そして完全に神が顕現していないからだ。


 アイワは魔王軍が何かを狙っているのを察してはいるが、その何かを詳細には把握していない。


 嫌な予感は感じている。


 だが。


「そうですね、神と言えど、無粋ですよね」

『カカカカ、本当にお前は神に仕える熾天使かと疑いたくなる言葉じゃの』

「私は私の目的でこちら側にいるにすぎません。こちら側にいる方が都合がいい、それだけの話です」


 そんなことはどうでもいい。

 アイワからしたら、強者とどれだけ戦えるかが問題だ。


 ゆえに極論を言えば、神が負けても問題はないのだ。


『さきほど、奴はこちらで化けたと言ったが、ヌシもヌシでこっちにいれば化けたかもしれんの』


 そのスタンスに、不死王は面白いと口元に純粋に笑みを浮かべる。

 その笑みに対してアイワも笑みを浮かべ。


「そうしたらこちら側があっさりと滅んでいたでしょうね、それだとつまらないので結局は私は魔王に喧嘩を売り続けていたでしょうね」

『不穏、正しく不穏分子というわけか』

「ええ、勇者とは争いを終わらせる象徴ですが、同時に争うことを定められた存在ですから。戦場が私の居場所です」


 そのまま切り結んでいった。

 漆黒の魔法を、焔を雷を氷を呪いを、ありとあらゆる魔法に精通している不死王の魔法を切り捨て。


『存外、むなしい存在なのじゃな。勇者は』

「生産性を求めないでくださいね。管轄外です」


 そのまま不死王の懐に飛び込もうとする。


 しかし、今度は懐に入る前に不死王の魔法がわずかに勝り接近を許さなかった。


「それにしても余裕ですね。何度も何度も切り結び私たちの実力が互角だというのはわかったでしょう。この戦いは長引く。その間に神は顕現して下の戦いは余計に危険を増す。いかに優秀な人材とはいえ神を相手に長い間一人で戦うのは無謀ですよ?」


 そのことを惜しむことなく、言葉を交わすアイワは、いずれ神がこの戦いに介入してくるのがわかっているような言葉を示す。


 それすなわち、下で戦っている次郎が敗北するということ。

 事実、新たな魔法陣が展開され、徐々にであるが神の胴体が召喚され始めている。


 上半身が揃う。

 そうなれば、尚更苛烈に次郎を消しにかかる。


『カカカ!ヌシはわかっておらぬの。心配すべきはワシらだ』


 戦いの終わりは近い。

 そんな予感を語る熾天使に不死者の王は愉快痛快だと、声高々に笑い。


『やつが負ける?わしの弟子が?この程度の苦境で倒れる!?面白い冗談じゃ!』


 まだ戦いは終わらぬと断言し。


『まだまだ本番も始まっておらぬよ』


 こんな戦いは前座に過ぎないと言い切った。


「……ハハハハハハハ!!」


 その言葉に、今度はアイワが感情を高ぶらせて笑った。


「この私を前座と言い切りますか、不死者の王」

『ああそうだとも、本番を盛り上げるための役者じゃ。初代勇者』


 まるで旧知の仲のような戦いは、まだ始まったばかりなのであった。



 今日の一言

 さぁ、残業を始めよう。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] これからの展開が楽しみすぎるので最後まで駆け抜けてください!応援してます。
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