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735 それでも心配事はある。

 

 Another side


「これが仕事ね」

「何でござるかその顔」

「べっつにぃ」


 仕事から抜け出して、北宮と合流した南は外回りをしている途中だと言い、どうせならと一緒に会社を回ろうと北宮を誘った。


 そんなことをしていていいのかと思いつつも北宮もその道中に同道。

 向かった先が。


「こんなところを歩くことが仕事っていうのは無理があるんじゃない?」

「市場調査でござるよ。最近戦時体制になってからいろいろと物価が高くなっていないか確認する必要があるんでござるよ」

「そういってメモリアさんの店でお茶でも飲もうって魂胆じゃないの?」

「そ、そんなことないでござるよ」

「せめてそのわざとらしい態度だけは隠しておきなさいよ」


 会社にある商店街だ。

 昔はテスターたちだけが活用するために作られたエリアだったから閑古鳥が鳴く店が多かった。


 そこからテスターを増やしたり、社員も利用することが増えて人の流れは増えていたが、ここ最近は初期の姿を彷彿とさせるような光景を作り出している。


「いらっしゃいませ、南さんと香恋さんですか。どうかされましたか?消耗品の方はしっかりと納品しましたが」

「いやぁ、ちょっと休憩を兼ねて見回りにきたでござるよ。景気はどうでござるか?」

「ぼちぼちと言いたいところですが、それなりに稼がさせていただいてますよ」

「ほうほう、それはそれは良いことでござるなぁ」

「はい」


 しかし、ここのお店は次郎が通っていた時と変わらず、周りの影響などてんで関係ないと言わんばかりに静かな店の雰囲気を保っていた。


 次郎が利用している店として有名になっているが、ほどほどの客入りで大して人はいない。

 高級志向なわけでも、品質が悪いわけでもない。


 接客が悪いわけでもない。


 店員であるメモリアは容姿が優れている。


 これだけの条件が揃えば普通は客が大勢来てもおかしくはない。


 それなのにも関わらず、メモリアは南たちが来店するまでゆっくりとカウンターの中でコーヒー片手に読書に勤しんでいるほどの暇があった。


 さりとて店が経営難というわけでもない。


 何故と疑問符が浮かぶかもしれないが、南は気にした様子はなくカウンターの前に移動する。


「ネット通販を進めて正解だったでござるな」

「ええ、社内限定ではありますがテスターの皆様からはご好評をいただいてますよ。こちらとしてもまとめて販売できるので願ったり叶ったりです。運送は使い魔に任せれば人件費も削減できますし」


 そして売り上げの向上をした理由を聞いてみれば、メモリアもそっと微笑みながら魔法でコーヒーを用意し始める。


「現物を見ないで買うのは不安があるけど、ある程度信用できる仕入れルートが決まればこっちの方が確かに便利よね」


 もはやお茶を出されるのが当たり前と受け止めている二人は遠慮せず、そのコーヒーを受け取って飲み始める。


「ハンズさんのお店の方はさすがにそういうわけにはいかないようですね。武器や防具を通信販売すると気づいたら魔剣を売りに出していそうで怖いので」

「あー、あのおじさんならやりかねないでござるな」


 話す内容なんてどんなことでもいい。

 ただ、話すきっかけがあればそれらしい話を広げることができる。


 それくらいに気安い関係である自覚がこの三人にはあった。


「それにしても香恋さんは冷静ですね。あんなことがあったのにもかかわらず」

「あんなこと?」


 だからだろう、普段のメモリアであったらなんとなく察することができるわずかな機微を見逃し、ぽつりとつい言葉をこぼしてしまった。


 いったい何のことだと北宮には心当たりがなく、首をかしげてしまった。


「火澄さんのことです。戦場の方で発見されたと聞いたのですが」


 そこで止めておけばよかった。

 だが、メモリアは話に気づいてないと思っただけで自分の中で得た情報をあっさりと共通認識だと誤認して話してしまった。


「「え」」

「……さて、在庫の確認をしないといけませんでしたね」


 しかし、その情報は思ったよりも重要であったことに気づき、あっさりと何も話していないという体で席を立ち、倉庫の方に移動しようと思ったメモリアであったが、魔紋で強化された二人の手は容赦なくグッとメモリアの肩をつかみ取った。


「どういうこと!?」

「拙者、そんな話聞いてないんでござるが!?」


 てっきり次郎がこっちの方に報告を飛ばしていると思ったが、それはできていなかったようだ。


 ここで一つ訂正するが、次郎はしっかりと火澄透に関しては報告を上げている。

 しかし、その報告は上に対してとケイリィに向けてだけであった。


 前線で働き身動きがとりづらい状況で、しかも戦線が安定していない。

 自分では伝えられないので南の方にはケイリィが教えてくれるだろうと考えたのだ。


 重要な情報であり機密であるから、正規ルートで伝えることともできない。

 故に頼った。


 だが、忙しいのはケイリィも一緒で、てっきり何らかの手段を用いて南たちには伝わっているものだと勘違い。


 エヴィアの方にも挙がっているが、そちらも忙しい。


 よって、伝える必要のない情報をわざわざ運ぶような手間をかけるわけにはいかなかった。


 だから、商人としても軍と関わり合いのあるメモリアが情報を知り、そしててっきり話を聞いているのだと思い込んでしまったのは無理がない。


「……私も詳細は聞いていませんが、どうやら次郎さんが火澄さんと思わしき人物と戦闘をして無力化までは成功したようですが、横槍が入って逃走を許してしまったようです」


 知らないのなら知らせない方がよかったかと思ったメモリアであったが、伝えてしまった事実を覆す力は彼女にはない。


 仕方ないと溜息を吐き。

 自身が知りえる限りの情報を伝えた。


「次郎さんが隠した?」

「いや、そういうわけではないでござるな。可能性としてあるのはシンプルに伝達ミスでござる。こういった情報はテスターたちに伝わると大変なことになるでござるし、社外に出ると余計な軋轢を生むでござる。だから機密情報扱いになって拙者たちに伝わらない扱いになったとみる方が妥当でござる。たぶんでござるが、ケイリィさんに確認を取ればあっさりと教えてもらえると思うでござる」

「そう」


 すでに北宮は火澄に対して淡い気持ちは抱いていない。

 とうに冷めている気持ちを再燃させることもない。


 しかし、幼馴染が行方不明というのは気にかけてはいた。


 一瞬自分の上司だった人を疑ったが、次郎の性格を考えれば隠すにも理由があっただろうと考え、同時に南が否定したことによって伝わらなかった理由も理解した。


 一瞬で冷静さを取り戻し、獲得した情報をどうするかと二人は考える。


「前線に出るのは止めてくださいね」


 一応情報を漏らしたという責任を感じて、メモリアが困ったように忠告を飛ばす。


「するわけがないでござるよ。拙者が行く理由がないでござる」


 南からしたら戦争なんて面倒の代名詞に入るような出来事の一つ。


 南はファンタジーのような設定を体験できるダンジョン業務は好きであるが、戦争をしたいとは思わない。


 アメリアが関わっていた時は仲間を助けるという気持ちで参戦したが、面倒事がちらつくと真っ先に逃げ出すような性格だ。


 後方支援ならまだやるが、それ以上になると拒絶する。


 ひらひらと手を振り、戦争に出向くつもりがないと真っ先にアピールしたのはそれが理由だ。


 しかし同時に、参加するかもしれない人物が隣にいることも理解している。


「気になるでござるか?」

「気にならないって言ったらウソになるわね」


 てっきり感情的になって暴走するかと思っていたが、思いのほか冷静な声が帰ってきて南はキョトンとした顔をした。


「なによその顔」

「意外だなぁと思っただけでござる。もっと前のめりに情報を求めるかと思ったでござる」

「そう思われる節があるのは自覚があるから否定はできないけど……」


 その表情に不満はあるが、否定はしないと北宮は首を横に振る。


「目撃情報があっただけでマシよ。要は生きてはいるっていうことよね。それにたぶんだけどいつもの病気が出ているだけだろうし」

「ああ。そういう人でしたね。次郎さんから細かいことを聞いてみなければわかりませんが、こちらを裏切って向こうが正しいと思い込んで協力することもあり得ると」

「はい、悲しいことですが、ありえないとは言えないんですよ。あいつ、一つの側面を見て納得したらそうだと思い込むことが多いので」


 それは幼馴染ゆえにわかる話であり、今までの行動を考えると決してあり得ないというわけではなかったからだ。


 ゆっくりとコーヒーに口をつけて、北宮は心を落ち着けにかかる。


「下手をしたら、私は騙されているとか言って登場しそうですし」

「どこのざまぁ系テンプレ勇者でござるか」

「うちの幼馴染よ」


 そして考えれば考えるほど、ありえそうだと想像が容易にできてしまって心配する方がばからしいのではと北宮は考えるようになった。


「なんというか、大変ですね」

「人付き合いの辛さは拙者も知っているでござる。今日、仕事が終わったら一緒に飲みに行くでござるよ」


 どこか遠くを北宮は見る。


 さらわれたときは心配したけど別の場所で元気にやっているとなるとお得意の脳内花畑を展開して、昔の失敗すらなかったことにしているのではという不安も出てきた。


 そんな感情が表情に出ていたのであろう、ぽんと南は優しく肩を叩く。

 メモリアも同情の視線を向けている。


 こんなところまで来ても苦労性を垣間見せる彼女を心底心配している女性二人の優しさに触れた北宮の涙腺が潤む。


「およぉ?泣いているでござるか?」


 そこをすかさず南は茶化す。


「うっさいわね、泣くなら勝君のところで泣くわよ」

「ぶー、ぶー、最近の香恋は素直すぎてつまらないでござるよ」


 その茶化しにも平然と対応し、しれっと自分の株を上げようと画策する北宮。


「まぁ、そこまで気にしていないのなら安心です。これで戦地に行くと駄々をこねられたら私がケイリィさんから注意を受けるところでした」

「まぁ、さすがに拙者たちもそこら辺は感情的には動けないでござるよ」

「漫画とかだと、ここで行かなければってみんなで助けに行こう!!ってなるのよね」


 二人は冷め始めたコーヒーを飲みそして一緒に出されたクッキーも手に取り食べる。


「人望って大事でござるな。拙者なら……まぁ、勝がそうなったら行くでござるな。ほかの人ならまぁ、行く人次第でござるな」

「私もそうね。あとはアミーとか……次郎さんはそもそもさらわれるっていうイメージがわかないわね」

「そもそもあの人がさらわれたら、私たち以外に動く人が大勢いそうでござるよ」

「そうですね、私も動きますしトリス商会も動かします」

「うへぇ、愛されているでござるね」


 もしと語る割にはシャレになっていない会話をしている自覚は彼女たちにはなく。

 魔王軍の最高クラスの戦力が捕まるような事態は本当だったら避けないといけない。


 しかし、当人たちはその人が捕まることはないと考えていた。


 そこら辺が気楽な雰囲気を漂わせていた。


「ええ、待つだけの女ではありませんから」

「そうでござるなぁ」


 こんな日常が続けばいいと南たちは考えて、時間が過ぎるという贅沢を堪能するのであった。


 Another side


 今日の一言

 心配は人徳に影響される


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] もはや人間兵器に改造されて人格が残っているかも怪しい状況だとは思わんだろうな。
[一言] 名前が出てこない海堂さん涙目。
[一言] 主人公がさらわれる? Xメンでのサイクロプスかいww
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