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70 転機を見逃すな

今回は少し短いです。


アメリア・宮川 十六歳 

職業 高校生

魔力適性八(将軍クラス)

役職 勇者



愕然とした事実を目の前にしたはずだけど、マイクがお化けだったとしてもなにか問題あるかと思うと不思議と冷静でいられた。

むしろ、マイクならと思ってしまった。

それにこの世界は漫画みたいな世界で、お化けの一人や二人はいてもおかしくはないよね。


『ふむ、その言葉を信じるのなら私の肉体はないということになるが』

「……ショックだった?」

『いや、五感も含めて魔力以外感知できず、会話も念話に限定されていたことから可能性の中で考慮されていた。アミーの言葉は事実確認の意味合いの方が強いね』


それに当の本人の方が冷静なのだから私も冷静になっていった。

強いて言うなら驚いた私より冷静なのが不満だけど。

しかし困った。

私としてはマイクを助けて、それから脱出するつもりだったんだけど……

予定にはなかった後ろに並ぶ棺たちがその予定を狂わせちゃった。

一つ二つ三つと数え合計で七個。

つまり七人のクラスメイトがあの中にいるということだ。

助けないという選択肢はない。

だけど現実は厳しいよ。

勇者になってから力は強くなって一人なら背負うことができるけど、さすがに七人を一気に運ぶ方法は私にはない。

それに


「ん~、さすがにこれ取り外したら危ないよね?」

『この魔導器具について? そもそも簡単には外れないようになっているだろうね。この魔石もかなりの純度を保っているから簡単に壊れる代物でもないね』


棺にしろマイクが入っている魔石にしろ、手を出すには勇気がいる代物だった。

意味がわからない文字がいっぱい書いてあって、さっきからあっちが光ったら次はこっちが光って、どういう仕組みなのかチンプンカンプンだ。

叩いたら壊れるのは万国共通だろうけど……壊して変なことになったらやだし。


「どうしよう」

『素直に外に助けを呼ぶことをおすすめするけどね、どうあがいても私からどうにかする方法はないのだから』

「さっきみたいに爆発させるわけにはいかないの?」

『力技が可能か不可能かと問われれば可能だ。だが、君の魔力では破壊は無理だろうね。私の魔力を使うとなると新しい湖ができるくらいの威力になるけど制御できるかね?』

「できません」


さっきみたいに簡単に吹き飛ばすという選択肢は取れない。

これなら早く脱出していたほうがよかったかもしれないと一瞬思うけど、ダメだと頭を振って追い出す。

自分で決めたことなんだから最後まで貫き通さないと。

フン、と気合を入れて、さてどうするかと考える。


『ふむ、君は意外と頑固者だと言われることがないかい?』

「ナ、ナイヨ?」

『あるようだね。さて、アミー、できないことをできないというのは悪いことじゃない。むしろできないことをできると言い張る方が害悪と取られる時がある。今この場で私たちを助ける必要はない。私に至っては死んでいる身だろう。よって助ける必要性は低くなる。そしてその棺の中の少年たちも幾ばくかの猶予はある。すぐに危険というわけではない、状況は変化するかもしれないが、今この場では態勢を立て直してから救助するのが最善だろう』

「うん」


その気合をたしなめ教師のように優しく諭すようにマイクは言う。

確かに私は頑固者だ。

一度そうだと決めたことは何がなんでもやり通さないと気がすまない性格だと思う。

マイクの言うとおり、ここは一回逃げて準備をしてから来たほうがいい。

だけど、もしかしたら場所も変わってクラスメイトやマイクが大変なことになるかもしれない。

私が逃げたらまたここに来られるなんて保証はどこにもない。

そしてなにより無視することなんて私にはできない。


「だけど、私はね勇者だからお節介なんだヨ? 困ってる人とか助けないといけない人をあとで助けるからって後回しになんてできないヨ」

『……勇者、か。私はその名にあまりいい印象はないんだけどね。君が言う勇者は不思議と受け入れられる。なら次善策を提示しようか』

「次善策があるノ?」

『常に策は複数用意する。それが己を助けるのだよ。さて撤退し再度救助を試みるのは安全と確実性を考慮した最善策だ。それ以外になれば多少の違いはあっても賭けの要素が入り込んでくる。故に次善策だ。普通なら最善を目指すけど君が勇者というなら君の望む未来を掴み取ってみるのも一考なのかもしれないね』


勇者なんて言ってるけどそれは言い訳に使っているだけ、本当は私のわがままだ。

それを察しているのかマイクは仕方ないと言うように言葉を送ってくる。

しかし言葉とは裏腹に楽しそうという感情が伝わってくる。

そしてならばその話に乗ろうではと、さっきの爆発騒動みたいにウキウキと何をしでかそうかなとイタズラを企む子供みたいな感情を見せてきた。


『時には遠回りしたほうが最良を得られる時がある。今この時がそうなのかは分からないが、勇者を名乗る少女アミーに私は遠回りをするかもしれないけど現状を打破する策を提示しよう。心の準備はいいかい? さっきの爆発なんて目じゃないくらい大きなことをしてもらうよ』

「……OKヨ!」

『元気な返事非常によろしい』


未来の私がこの時の私を見ればこの返事が転換期だったんだろうなと思い返すことになる。


『時間は少ない。手早くすまそうか』

「うん! なにすればいいの?」

『なに簡単だ、これから君に、私の魂を吸い込んで取り込んでもらう』

「ha?」


マイクはいったい何を言ったんだ。

魂を吸う?


『安心してくれたまえ、君がうまく取り込めば私は晴れて君の守護霊となれる。失敗すれば私は君の体を乗っ取るけどそこは賭けだ。安心してくれ、私は極力抵抗しない。だから気負わずチャレンジしてくれ』

「イヤイヤイヤ、気にしないなんて無理!」

『でもこれが一番早く君を覚醒させて、この場を乗り切ることができるよ? 私はこれから出られて君の器に間借りする。代わりに私の知識と魔力を渡す。そしてその力を使ってこの場にいる少年たちを外に連れ出す。筋は通ってるよ』


確かにマイクの言うことが本当ならそれが可能だと思う。

不安なのは私にそれが良いのか悪いのか判断できるだけの知識がないこと。

普通に考えれば幽霊を体の中に取り込むことは悪い影響が出そうなことだ。

でも目の前の魔石に入っているマイクはすごい魔力を持っている。

取り込めば確かにすごい魔力を得られそうだ。

あれ? これって勇者っていうより魔王みたいな考えじゃないかな?

勇者って伝説の剣を抜いて覚醒するモノじゃないのかな?

デメリットもあるけどちゃんとメリットもある。

それなら


「女は度胸ダヨ! マイク!」

『君は本当に思い切りがいいね。今の女性はこんなに気が強いのかな? 私が提案しているけど普通ならやらない策だからね。こんな追い詰められている状況で欲張るからこうなるんだよ』


頭が混乱してきたときは最初に戻る。

やるならやる。

私はできると信じて突き進もう!

マイクは口振りでは仕方ないなんて雰囲気を出してるけど、楽しいって感情は伝わっているんだからね!


「お説教はノーサンキュー! 早くやり方教えて!」

『はいはい、まずは魔石に両手で触れてくれ、魔法式は私がごまかすからあとは私の存在を感じて魔力を吸い取るように、そう、いい感じだよ』


言われるがままに両手の手の平を魔石に触れさせると、ひんやりとした石の感触以外に魔力を感じることができる。

その魔力をちぎらないようにゆっくりと引き寄せると私の中に何かが入り込んでくる。

これが、マイク。

その存在感はしっかりと感じることができる。


『君と私を混ぜないように仕切りをイメージするんだ。君の中に空っぽの部屋を作るようにイメージする。そうすれば私はその部屋に入ろうじゃないか』


段々と入っている中身の影響が強くなってくる。

マイクの言うとおり別の部屋を作ってなかに取り込んでいくけど、それでも何かが混ざろうとする感覚が拭えない。


『慌てない。慌てると私の魔力が君の魔力に溶け込んでしまう。ゆっくりと深呼吸するように』


吸って吐いて、深く呼吸しながらどんどん入ってくる魔力の流れを正すことに集中する。

一分か十分か一時間か、時間感覚が薄れ始めた頃にようやく魔石の中の魔力がなくなる。

そして私の体は膝をつく。


「キモチ悪いよマイク!!」

『いや、気持ち悪いで済ませているアミーに私は驚いているんだけど、本当に気持ち悪いだけ? 膝をついたときはやっぱり無理だったかなって思ったけど、本当に大丈夫? 記憶になにか障害が出ていない?』

「? 大丈夫だよ?」

『ハハハ、君は私が思っているよりも大物なようだね』


ガバリと顔を上げて胸焼けのような気持ち悪さに文句を私が言うと、呆れ半分驚き半分といった割合でマイクは心配してくる。

体を触るけど痛いとか頭がボーっとするとか、自分の名前がわからないとかはない。

なんというか、甘いものを食べ過ぎた感覚に似ている。

お腹がいっぱいでエネルギーは十分だけど、食べ過ぎて動きにくいそんな感じだ。


「よいっしょ」


しかしそれも気分の問題で、むしろ魔力が増えたおかげで体の方はさっきよりも調子がいいような気がする。

立ち上がってステップを踏むと軽快に足は動いてくれる。


「オオ!」

『おめでとう、賭けには勝ったようだね。さて、これで君の中に二種類の魔力ができた。ようやくといった感じだけど脱出しようか』

「うん、とりあえずこの魔力で外までの道を作ればいいのかな?」

『転移したいけど、あれは緻密な魔力操作がいるからね。今回は力技でいこうか。そっちの棺に入っている少年たちも助けようか』

「ウン!」


そしてさらにマイクの知識が私の頭に掲示されて、頭の中に図書館ができたような不思議な感覚にふむふむと頷いて手をかざす。


「ディスペル!」


教科書を読みながら魔法を発動した割には綺麗に使えたと思う。

ガシャンと無理やり鍵を壊したような音が辺りに響いてさっきまで光っていた。


『魔法式を無理やり断ち切ったね。次はもう少し綺麗にやるように』

「ハーイ」


マイクからしたら私の魔法は赤点のようだけど、私としては早くクラスメイトを助けたいので小言はあとにしてもらう。

力を込めて魔力で重そうな蓋を開けると病衣みたいな服をきたクラスメイトの姿が見えた。


「ヒドイ」

『ふむ、まぁ食事を与えずに生命の源とは言え魔力だけで生かしていればこうなるね』


その姿はひどくやせ細り、健康的とは言えなかった。

ミイラという言葉が思いつくほどやせ細ったクラスメイトを見て、ギュッと手を握る。


『すぐに危険というわけではないよ。それよりこの場にとどまる方が危険だね。遠回りしたけど脱出しようか』

「……うん」


これ以上ここに居るのは危険だ。

それが分かっているから。

今度は天井にめがけて魔法を行使する。

でもマイク、少しくらいこの気持ちをぶつけていいよね。


『アミー、少し威力が』

「イッケェェェェェェェェェ!!」


本当にパワーアップしたみたい。

極大の閃光は大きな筒となり、収まった後には綺麗にくり抜かれたように外に出るためのトンネルが完成した。


「うんスッキリ、マイク何か言っタ?」

『いや、なんでもないよ。それよりさっきので外に気づかれたよ。浮遊魔法で脱出しよう』

「OK!」


魔法を使ったおかげか胸焼けみたいな気持ち悪さもなくなって良かった。

マイクが何か言ってたけど、後でいいってことは大したことじゃないってことだよね。

外から誰か入ってきたみたいだし、早くクラスメイトを治さないといけない。

魔法で浮かせて私も浮く。

そのまま上昇すれば、お日様が見える。


「アメリア? 何やってるんだ?」

「あ、ジロウさん!」


その太陽の下で大きな剣をスーツ姿で持ったジロウさんがいた。

口にくわえたタバコの煙を揺らしながら、呆れた視線を向けられているような気がする。

なんでだろう?

マイクわかる?


『それはわからないけど、彼がピンチというのはわかるよ』


長いようで短い地下生活を終わらせたら、ジロウさんが囲まれていた。

もう少し頑張らないといけないみたいだね。



アメリア・宮川 十六歳 

職業 高校生

魔力適性八(将軍クラス)

役職 勇者


今日の一言

どういう状況?(さぁ?)


今回は以上となります。

次回からは次郎の視点に戻す予定です。

書いていた思ったのは勇者って難しいの一言です。

できるだけ勇者っぽく動かそうこれからも頑張っていきます!!

これからも本作をよろしくお願いします!

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