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67 組織が大きくなればなるほど裏の泥は溜まっていく

今日で無事一周年を迎えることができました。

皆様のご愛読のおかげか、ここまで評価やブックマークを伸ばすことができました。

感謝念が尽きません。

これからも頑張っていきたいと思いますのでご愛読の方よろしくお願いいたします。

アメリア・宮川 十六歳 

職業 高校生

魔力適性八(将軍クラス)

役職 勇者



シット、本当に仕事の手伝いをさせるだけとは思いませんでした。

手渡された掃除用具の中にいつの間にか紛れ込まされたシスター服に着替えさせられ、今では埃を落とすために口を布で覆い叩きを振っている。


「次はこちらです」

「ハ~イ」


こんな格好をしているからクラスメイトの皆は私だと思っていないみたいで、お疲れ様ですと後ろを通り過ぎていく。

心境的にはクラスメイトに気づかれなくてショックだけど、監視対象にも気づかれていないので効果的という半々の気持ちで複雑だよ。

アンの指示に従って廊下にある調度品や窓ガラスをキレイにしていく。

学生として掃除をするのは間違っていないけど、勇者としては間違っているような気がするがこれもこのあとのためと真面目にこなす。

こうやって掃除をすると普通に寝泊まりしているときは気にしていなかったけど、こうやって建物や部屋をキレイにしてくれている人がいるのだと実感できる。

アンだと仕事で楽をするためにさっきから先生みたいに掃除の仕方を教えているような気がするけど……気にしない。

結果的に見張ることに違和感を覚えられていないから文句もない。


「……こちらの掃除は以上です。移動しましょう」

「ハイ」


でも、それもここでおしまい。

ようやく勇者としての活躍の時間だね!

他のクラスメイトと離れ外に出る偽物を追いかけるために用具を片手に遅れて宿舎を出る。

ここからは勇者っぽく追跡を


「では次はこの燭台を、数が多いので手早くやってください」

「オウ」


したかったけど、思っていた追跡と違う。

もっと物陰に隠れて気づかれないように息を潜めてこっそりと後を追いかけることを想像していた。

だけどやっているのはさっきと同じ。

さすがに燭台の数が多いから今度はアンも手伝ってくれてるけど……


『アン、大丈夫ナンデスカ?』

『何がですか?』

『どんどん離されていますヨ!』


掃除をしている状態と普通に歩くのでは進むスピードに差が出るのは当然だ。

テクテクどこかに歩いていく彼と違って、こっちは亀のようにゆっくりと進む。

隣り合っているから小声でそれを訴えるけれど、アンは何を言っているんだコイツという雰囲気のため息を吐いた。


『こんな人通りの少ない場所で普通に後をつけたら怪しいでしょう。なんのための偽装ですか』

『ウ』


言われてみればそうだ。

私も廊下の角から誰かを見ていたら何かあるのかと思ってしまう。

学校にいる頃だったらあの子あの人が好きかなぁって思うけど、ここでそんなことをしたら騎士さんに呼び止められてしまう。


『安心してください。掃除に集中しつつ方向を確認して行き先を予測し足音を耳で拾えば見失いません』

『ソレ難しいこと言ってるヨネ?』

『やってください』


それ、素人に要求することじゃないよね?

私はこんな探偵のようなことはやったことがない。

今では勇者なんてことをやっているけど、元はダンスが得意な学生だったんだよ?

なのにそれができれば大体の位置がわかりますと平然と言ってのけるアンは本当にスパイなんだなぁと思った。

私も見よう見まねでやってみるけどできるわけがない。


『う~、足音が多くてワカラナイです』

『それぞれ音が違います、少し重く、地面をこする感覚が短い足音を探してみてください』


こっちに来てから運動という方面では色々とできることが増えたけどこんな使い方はしたことがない。

耳に集中すると確かにいろいろな足音が拾えるけど、それが混じり合ってどれがどれだかわからなくなってしまう。

やれということはできるということ。

少し集中するために燭台を拭く手がおろそかになる。

どうしよう、このままだと私何もできない。

役立たずというレッテルを貼られるかもという不安が浮かびそうになったとき気づく。

スキルを使えばなんとかなるかも。


『あ、この足音かも』

『……まさかできるとは』

『まさかできないこと押し付けてたノ!?』

『……逸材ですね、よければこちらで働きませんか? 給料は要相談で』

『お断りネ!』


音の種類ではなくリズムで私は気づくことができた。

様々な音が交じる中で音は聞き分けるのが難しかったけど、ダンスで慣れた感覚で足のリズムを聞き分けると考えそれぞれのテンポの中で一つを見つけることができた。

まさかできないことを言われているとは思わなかった。

できたからいいけどできなかったらアンはどうするつもりだったのだろう?

気になるところだけど、今は追跡に集中する。

あと当然、誘いは断るけどネ!

それにしても日本のことわざで棚からぼた餅というのがあるけど、こういうことを言うのかな。

さっきから立ち止まったり歩き始めたりとあちこち歩く足音を聞こえる耳で追っかけているけど、私にこんな才能があるとは思わなかった。

偽物の彼はまっすぐどこかに向かっているようではないのでこうやって燭台磨きをしながら向かうことができる。


『……私よりも正確にできるとは、コンビ組みませんか? あなたとなら裏社会のトップも夢ではないです』

『嫌』


花の乙女にアンは何を言っているの。

私は仮にも勇者なんだよ。

それにしてもこんな才能普通は気づかないよ。

本職?のアンからもお墨付きをもらったけど……普通は使わない才能だし。

そして、どんどん私たちは聖堂のハズレの方に移動していく。


「この先は」

「何かあるノ?」

「何かあると噂される場所ですね。私も一度足を運んだことがありますがワインが保管されている以外に何もなかったはずですが」

「怪しいヨネ?」

「結果として、あなたの証言が正しければ怪しいということになります」


方角からアンに何があるか教えてもらう。

確かに怪しい人物が近づく建物となれば何かあるのではと疑うことができる。

そして、案の定私たちが追いかけていた足音はその建物に入り聞こえなくなった。


「出てこないネ」

「……この建物構造から考えると地下か」

「アン、入らないの?」

「入れないと言った方が正しいですね」

「なんで?」


しばらく待つも偽物は出てこない。

高校生が飲酒をしないのは私たちの世界では常識だ。

中には飲む人もいるけど普通は飲まない。

私の中ではこの時点で十分に怪しいと思った。

ここまで来たなら最後まで見るべきだと思うのにアンはこれ以上は無理だという。


「おそらくはここから先は魔道士の領域です。不用意に踏み込んで探れば罠の上で踊るようなもの、すぐに見つかります。中を探れる術か魔法を誤魔化せる術があれば話は別ですが、私はありません」

「あるよ?」

「あるのですか、それでしたら……? あるのですか?」

「ウン多分できるヨ、中の様子がわかればいいんだよネ?」


もっと別の何か必要なのだと思ったけど、そういうことなら私にもできることがある。

周りをキョロキョロと見回して誰もいないことを確認してそっと壁に耳を当てる。


「ええ、そうですが……まさかそれで聞こえると?」

「ウン、こうやって音を立てると」


手に魔力を載せて壁に軽くノックする。

そうすると私にしか見えない音波が打ち出されてどこで音が妨害されてどんな建物の構造になっているかわかる。

どこが空洞でどこが壁か、中身が何かまではわからないけど頭の中に図形が映し出されてこれで大体の構造がわかる。

私のスキル、音響。

やれることは音を響かせ返ってくる音を拾うだけのコウモリのような能力だけど、魔力しだいではかなり広い範囲も探知することができる。

攻撃的な能力はないから普段は相手の動きを聞いて先読みするときに使っている。

ただ、このスキルは勇者っぽくないし、こうやって詳細を知るには集中しないといけないし、使っているといろんな音を拾っちゃうから頭も痛くなる不便なスキルだと思ってる。

それにこれを知っているクラスメイトから地獄耳とか言われてあまりいい印象が持てなかった。


「うん、大体の形はわかるよ」

「……ちなみに入口から入って右手に見える棚は全部で何段あります?」

「三段だよね? 全部で七つだよ」

「……天才です、あなたこそ我がギルドの期待のエースです。是非スカウトしたい」

「もう、さっきからアンはそればっかりダヨ……ん~、地下に大きい空間が広がっていて……あ、さっきの足音だ」

「どのような構造になっていますか? 詳細を」

「えっと、階段が入って右奥の角にあって……」


疑っていたアンも私の答えが正確な内容だと知って驚き褒めてくれる。

こうやって役に立てるならちょっとだけ考え直せそうだ。

コンコンと繰り返しノックをすることで音波を飛ばして探り、どんどんと地下の構造も分かり始める。

そこでさっきまで追いかけていた足音を拾い、それを追いかけるように集中して耳を傾ける。

後ろでアンが私が知覚する内容をメモっている。

どんどんと進んでいく足音を追っかけているから全部はないけどそれでも記す価値があるみたい。


「ん? 止まった?」

「目的地のようですね、何があるかわかります?」

「チョット待って」


どうやら目的地についたみたいで部屋に入って偽物は立ち止まった。

目を瞑り音にさらに集中する。

コンコンと繰り返し音波を飛ばすと偽物が何かの前に立って触れているのがわかる。

大きさは人よりも少し大きい、形は石の板?

だけど少し盛り上がっていて、なんだろう形が複雑で少しよくわからない。

それがいくつか並んでいて、ん~魔力が強くて音波がよく通らないよ。


「えっと、石の板みたいなのがイッパイ並んでて、そこに触れてるみたい」

「石の板? 魔道具か何かでしょうがそれだけでは特定できません、他に何か特徴は?」

「ん~表面が少し膨らんでる? あと、魔力がたくさん流れてルヨ」

「……やはり侵入してみなければこれ以上わかりませんか、仕切り直しです。これ以上は危険が大きい、撤退を」

「わかったヨ」


壁に耳を当てている姿は見られるとまずいかもしれない。

そっと壁から耳を離し、目を開けながら振り返る。

ペチャ

そして私の頬に生温かい何かが触れた。


「……油断し、ました」

「アン?」

「ネズミはどこにでもいるが、こうも間抜けなネズミは久しく見ていないな」

「教会、騎士団、長」

「アン!?」

「動くな、動けばコイツは死ぬぞ」


見えた景色を一瞬理解できなかった。

さっきまで飄々と私をスカウトしていたアンの腹から最近よく見る鉄の剣が生えていた。

いや、刺された。

さっきまでいなかった白い鎧を着た男に刺されていた。

理解したあと駆け寄るために立とうとしたけど、感じたことのない重みを受けて動けなかった。

アンの影から見える格好は聖堂の中でもよく見る騎士に似ているけどそれよりも豪華で頑丈そう。

刺した状態でアンを持ち上げているから顔は見えない。

だけどその存在感は私が勇者だというのを忘れそうになるほど強さを感じる。

何もできない無力感を感じながらこのまま動けずにいるのかと思った。


「ゴフ、逃げ、なさい」

「で、でも!」

「ふん、よくそんな声を出せるな」

「アグぅ! いいから、私はいいから」

「逃げればこいつの命はない、そこでじっとしていろ」

「言うとおりに「必要ありません、あなたは」!」

「何?」

「逃げなさい!」

「ぇ」

「……自決か、密偵としては正しいが情報源を処分してから死ぬべきであったな」


何が起きた?

刺されたアンが逃げろって言ってくれたけど、置いて逃げることができなくて、さらに深く刺されて苦しそうな声を上げてそれで


「無様だな、密偵として情報を持ち帰ることもできず。上司の意思を継ぐこともできず、命を無駄にしそこで呆けるなど。この女もさぞ無念だろう。貴様を逃がすために自決したのにもかかわらずその結果がこれだ。己が死を無駄にされるのだからな」


アンが死んだ?

ズルリとまるで鞘から剣を抜くようにアンを地面に落とし剣を彼女の体から引き抜く。

地面に捨てられたアンはピクリとも動かず、その胸には隠し持っていた短剣が突き刺さっていた。

初めて見えた男の顔は私を汚物を見るように蔑んだ目を向けていた。

そんな目を私は気にすることができなかった。

助けられなかった。

こっちの世界で友達になれるかもしれないアンが死んでしまった。

死んで、死んでしまった。


「このような素人の侵入を許すなど警備の者も弛んでいる。ここは一つ鍛え直す必要がある。だが、その前に貴様を捕らえるとしよう」


この男が何を言っているかわからない。

この男が何をしたか理解したくない。

だけど、私は分かってしまった。

この男がアンをコロシタ。

わかった瞬間、私の中で何かのスイッチが押された。


「あ」

「ん?」

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「これは!? 貴様、まさか勇者か!!」


体の中から何かが湧き出す。

私は何かを叫んでいるけど、このあふれる何かがそれを全てかき消している。

聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない。

暑い、熱い、あつい、アツイ。

だけど、わかる。

これをぶつけねば。

そう、ダンスを踊るように熱く、激しく。


「だとするとこれは聖紋の暴走か」


心臓が打つこのリズムに載せて。


「だが」


私は


「未熟なり」



Side アメリア END


Another side


男が殴り飛ばし壁に打ち付けた少女がグタリと崩れ地面に落ちる。


「き、騎士団長! これはいったい」

「聖紋の暴走だ。安心しろ、いま鎮圧した」


突然の強大な魔力の反応に、最初にかけつけてきたのは建物の地下にいた魔道士たちだった。

異常な魔力を感じ取ったためか、その手に杖を持ちぞろぞろと出てくる。


「この者を地下に拘束しておけ、どうやらこの娘はそこの密偵にそそのかされ異教に落ちたようだ」

「なんと!?」


その集団を一瞥した男はすぐに指示を出し事後処理に入る。

どういった経緯でかはわからないが、密偵と接触した勇者だ。

何らかの情報が得られると思ったのだろう。


「念のため、聖櫃の準備も進めろ。何かあればそれに封じろ」


だが、簡単に鎮圧できたとしても勇者だ。

不要な混乱を避けるために保険をかけるべきと判断した男は追加で指示を出す。


「は! 了解しました! それで騎士団長、この女はどうしましょう?」

「貴様らは死体を弄る趣味があるのか?」

「いえ! 決してそんなことは!」

「なら、身分の分かるものを探ったあとは共同墓地の方にでも埋めておけ」

「は!」

「私は司教にこのことを報告に行く、貴様らは後始末をしておけ。ふん、司教め。異教の者が来たと私を呼び出しておいてこの始末か」


その過程で捨て置かれていた密偵のアンの処置を聞かれた男は何を当たり前のことを聞くかと魔道士の男を睨んだ後、指示を出してその場をあとにした。

残された魔道士たちは遅れてきた騎士たちと一緒に壁の修理とアメリアの身柄の拘束、そしてアンを処理する人員に分かれて行動を開始する。

厄介な仕事は終わりあとは後始末だけ、問題となることもなにもなくその作業は順調に終えた。

強大な魔力を感じた勇者である学生たちには魔導実験の事故と説明され、幾人かの疑問を残しながらその日は終わる。






そして、時間が流れ深夜、曇天が空を覆い薄暗くなった共同墓地。

こんな時間帯に墓地に近寄るモノなどいず、静かな時を過ごす死者の眠る場所。

そこに異音が響く。


「ブハ、もう少し深く掘られていたら生き埋めになるところでした」


ボコリと土を掘り起こすような音が響きまるでホラー映画のように地面から腕が生え、隙間を広げるように簡易の服に身を包んだアンが地面からはいでてきた。


「っつ、深く傷をつけすぎましたか」


その姿は別にゾンビというわけでもなく、この世に未練があったから化けて出た幽霊というわけでもない。

ただの重傷を負った一人の女性がそこにいた。

傷を押さえ痛みを我慢しながらアンは動く足で穴を埋め証拠を隠滅する。

その足で墓地をあとにする。

その姿を人が見ればまるでアンデッドが彷徨いでるかのようだっただろう。

裏ギルドに所属するアン、そのコードネームはアンデッド。

潜入のプロである彼女のスキルは仮死、致命傷でその傷を維持し死を偽装する。

誰も死んだと思った人間が生きているとは思えず、スキルで生きながらえ脱出に成功した彼女は情報を持ち帰るために歩む。

その情報の中には最後に見たアメリアが自分を助けようとした光景も残っていた。


Another side END


今日の一言


隠し事は組織が大きくなればなるほど多くなる。


今回は以上となります。

勇者といえば、暴走、覚醒、ピンチ、逆転と四拍子揃うのが当たり前かなとこういった展開にしました。

今回は暴走で残る三つを今後出して行く予定です。

これからも本作をよろしくお願いします。

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