66 歯車はただ回る、しかし位置取りを変える時もある
アメリア・宮川 十六歳
職業 高校生
魔力適性八(将軍クラス)
役職 勇者
あの場所から誰もいなくってから私はおずおずと隠れていた曲がり角から顔を出す。
右を見て左を見て誰もいないのを確認して一安心と息を吐く。
しかし友達ではなくてもクラスメイトが偽物だった事実は、私に少なくない衝撃と周りの人が全て偽物に見えてしまう懐疑心を植え付けていた。
『何が起きたの?』
ただの再確認の言葉だったが、私の口から出た言葉はたどたどしい日本語ではなく、使い慣れた英語だった。
それだけ動揺しているということだと思う。
それを証明するようにさっき見た光景がはっきりと思い出され、ゾワリと鳥肌が立つ。
これが騙されていた時の嫌悪感かと思いながら、もしかして誰か近くにいるのではと不安になり周りを見渡す。
そんな私の不安など杞憂かのように誰かに見られた様子もなく変わらず誰もいない場所に、ホッと再び安堵するように息を吐く。
何度か深呼吸に似た仕草をして少し時間をおいたおかげかゆっくりと頭が回るようになってきた。
まとめよう、彼は間違いなくクラスメイトだった。
名前も知っているし、こっちに来てからも挨拶くらいはしていた。
ずっと彼だと思って話していた。
少なくとも私自身はそう思って話していた。
しかし別人が知り合いになる瞬間はそれを否定するに値する代物だった。
いつから?
最初から?
それとも途中から?
『……』
私の知るクラスメイトから私の知らないクラスメイトに変わったタイミングはわからない。
口調も雰囲気も姿も立ち居振る舞いも全てに違和感を覚えなかった。
あの場所を見なければきっと今でも私は疑わなかった。
それだけにその事実を信じないといけないのに信じられない。
そのせいで頭がごちゃごちゃして何をどうすればいいかわからなくなってしまった。
『ど、どうしよう』
最初はなめらかに出た言葉も改めて確認して再び動揺してしまう。
そして口に出してもなんの解決にもならない事実に途方に暮れてしまう。
ワタワタと無言であっちを見てこっちを見て悩んでを数分間繰り返すも解決策は一向に思いつかない。
なので
「とりあえず深呼吸、それから……ノープレブレムといきたいケド、ならないよネ」
とりあえず落ち着くためにルーチンワークをこなそう。
そのために英語から日本語に戻すことから始める。
何気ない行動をすることで冷静にもなれるし、ネガティブ思考からポジティブ思考に変えることもできる。
見なかったことにはしない。
ここでこの話を見なかったことにしてしまったら、何か取り返しのつかないことにつながりそうだ。
だからこの後のことを考える。
私のマミーも言っていた。
人に言われる前に自分で考えて動ける人間になりなさいって。
「……オウ、友達がいないのはこういう時不便デス」
だけど現実は悲しかった。
私一人でできることが思いつかないから誰かに助けを求めようとしたが、相談できる友人があいにくとすぐには思いつかなかった。
浮かんだとしてもそれははるか異世界の彼方にいる星条旗を掲げる国にいる。
アメリカになら何人もいるのだけど、日本だとゼロ、悲しくなる現実に私はショックを隠せない。
思わずその場で膝をついて落ち込む。
そんな私の頭に
HAHAHAHAHA!!
と一緒にいたときはうるさかったが頼もしくもあった笑い声が思い返される。
しかしそれは幻聴、ここに笑い飛ばしてくれた友達はいない。
煩わしいと思っていた友人が今はとても恋しい。
「ん~、とりあえずはここを離れるとするデス」
ホームシックならぬフレンドシックになりながら、いつまでもここに居るのは危険なのでこの場を離れる。
膝についた砂を払い除け、もう一度周りに誰もいないことを確認してから元来た道を歩き出す。
「まずやることは本物か偽物の確認デスね?」
歩きながら何をすればいいか考えて最初に浮かんだのは真偽の確認だった。
同時に次郎さんから何もせず待っていてくれという言葉を思い出したが、偽物が混じっていることで私の身の回りが危険になったからその言葉に従えない。
約束事を破るのは正直気が引けるが緊急事態だと言い訳をする。
そしてまずは安全を確保と考えるも、それをやる方法があいにくと私の手元にない。
スズキのスキルなら本物と偽物を区別することも可能かもしれないけど、彼の正義の押し売りは正直苦手でお近づきにはなりたくない。
それにそれが公の場で判明してしまったら取り返しのつかないことになりそうなので彼への助力は最終手段としておこう。
「ん~もっとこういうことを勉強しておけばよかったデス」
後悔先に立たず、私自身の不勉強さを嘆きながら他にないかと考えを巡らせる。
しかし日本のサブカルチャー的な展開は知識不足も相まってうまくアイディアが浮かばない。
うんうんと頭を悩ませ、少しでもいいアイディアを捻出しようとする。
「あ」
「あ」
そこでばったりと洗濯カゴを抱えたシスターと出くわす。
会ったのは最近だ。
忘れるはずがない。
そして私の頭にグッドタイミングとよぎる。
「コンニチワ!」
「こんにちは、では私は見ての通り仕事がありますのでこれで失礼します」
「ストップ!! いきなり過ぎじゃありませんカ!?」
「なんですか? あなたからはお金の香りが欠片も感じられません。それどころか厄介ごとの匂いしかありませんから当然の反応です」
「お金の匂いってナニ!?」
私的には完璧にできた挨拶、手応えはばっちりだ。
アメリカなら同じように元気な挨拶が返ってきてそのまま会話になるのだが、
しかしここはアメリカではない。
そんな元気な挨拶に対してあまりにもそっけない態度をシスターは見せる。
加えてすぐにその場を離れようとする。
誰ですかと反応されるよりはいいけど、これはこれで反応に困る。
私の心を読んだようにクルリと無駄のないターンを見せ、この場から離れようとするシスターの服を掴んで引き止めたのは直感だ。
逃がしてはいけないと思ったからの行動でそんな嫌なものを見たような視線を向けないでほしい。
聖職者としてあるまじき発言にこの人本当にシスター? と疑問に思うも、今は身内のクラスメイトより部外者の次郎さんと一緒にいた彼女の方が信用できる。
「そ、その相談がアリマス!」
「私にはありません、聖堂に神父がいますのでそちらに懺悔してください」
「No! 私悪いことしてませんヨ!」
そう思ったから頼ろうとしたが取り付く島がない。
勇者である私を歯牙にもかけず、それよりも先に洗濯物を終わらせたいという意思をはっきりと告げてくる。
この人のようなタイプは初めてだ。
「助けてほしいデス!」
「お金ならありません」
「NO! そういうのじゃなくて」
「廊下の壺でも割ってしまったのなら私の手には負えません。安心してください、勇者様なら金貨の十枚や二十枚あっという間に稼げますよ」
のらりくらりと逃げようとする彼女を捕らえているのは物理的なこの両手だけだ。
なぜここまで必死に説得しているかなど忘れて、目的と手段が入れ替わり彼女の協力を得るために頭を巡らす。
掴んでいた手も段々と外されてもはや時間がない。
とりあえず気を惹かねばと色々考えて考えて考えた結果、私の頭の中に一つの公式が成り立った。
だからだろう私がこんなことを口走ってしまったのは
「お金になる話デス!」
「話を聞きましょう」
「わわわ!」
突然の変わり身に私は勢い余って転んでしまった。
「アウ~、痛いデス」
「そんなことより、お金の話です」
「う~、そんなことって酷いデスヨ」
浮かんだ公式、秘密の情報=貴重=お金になる。
お金お金という敬虔という言葉から一番遠いのではとビジネスシスターの発言からもしかしてと思ったが、まさかの大当たりであった。
オデコ腫れてないよね?
床に打ち付け、ダメージは少ないものの痛いものは痛い。
勇者の体に助けられつつも儲けを逃がさないシスターから次の提案が促さられる。
「ここでは人目につきます、場所を変えます」
「ワカリマシタ~」
シーツを持ってスタスタと歩く彼女の後ろに私はついていく。
そして不思議と彼女の選ぶ道では人とすれ違わない。
まるでこの時間帯はどこに誰がいるかわかっているかのようだ。
「ここならしばらくは大丈夫でしょう。では聞かせてくださいお金の話を」
「ストレートデス……」
「当たり前です。先日は臨時収入を逃したので……フフフフ私が二度目のチャンスを逃すなんてありえません」
着いた先は洗濯したシーツを保管する部屋のようだ。
そこに洗濯したシーツのカゴをおいたシスターが私の方を見る。
シスターの目が禍々しい金貨に変わっているような気がして相談をする相手を間違ったかなと後悔した。
しかし、このまま放置してもいい状態でもないのでおずおずとさっき見た話をする。
シスターはこの国とは別の誰かに雇われているはず、なのでこの話をすれば力を貸してくれるはず。
「……偽物の勇者ですか」
「yes、私はっきりと見ましたヨ」
「……お金の話ではないじゃないですか」
「お、お金になる話デス!」
貸してくれますよね?
正義感など期待できないこのビジネスシスターはこの話を聞いて目に見えてがっかりする。
終いにはやはり厄介事かと小さくこぼした。
「ほら、あれですヨ! この話って秘密じゃないデスか!」
「知りませんか? 情報を売るのにもお金がかかるんですよ?」
「What!?」
「どうやら知らないようですね。ではタダで、タダで! 大事なことなので二度言いました。もう一度言いますがタダで教えます。情報は裏をとって初めて価値が付きます。この手の重要な情報になりますと当然その裏を取るのにもお金がかかります。情報でお金を稼いでいる方々はそのリスクとリターンを秤にかけて商売にしています」
「?? どういうことデス?」
「この情報は価値はありますがすぐにはお金にはならないということです。リスクが高すぎます」
「!? ということは、私は」
「タダで私に情報を教えて、無駄な危険を冒したということになりますね。良かったですね、私が『彼』と契約を交わした身で、そこらを歩いているシスターに話していたらあなたが偽物になっていたでしょうね」
シュンと私は落ち込む。
やはりドラマみたいにうまくはいかなかった。
私が何かをせねばと躍起になって行動した結果がこれだった。
はぁとため息を吐きビジネスシスターはこの話を切り上げる雰囲気を見せる。
「……ソーリー」
「何を謝るのです?」
「え?」
「お金がかかるなら、かからない方法で情報を売ればいいのです」
なんだろう。
パンがなければケーキを食べればいいとこのシスターは言ったような気がした。
内容的にはお金にならないのならお金にすればいいと聞こえた。
しかし先ほど自分で情報を売るのにはお金がかかると言ったばかりではないか。
「私たちで裏をとって売ればいいのです。あなたはこの偽物勇者の真実を得られて私はそれをお金にする」
問題なのは私が見た情報が断片的すぎることであって、情報自体には価値がある。
そうなれば話は早い。
お金がかからないように詳細を自分で調べればいいだけだ。
それには当然危険が伴う。
「あとは私に任せてくれても構いませんが、いかがです?」
それを知っているシスターは、代金はこの情報で手を打ちましょうと私に持ちかけてきた。
わざわざ危険な橋を渡る必要は私にはない。
偽物勇者も私がおとなしくしていれば被害は最小限に抑えられるはずだ。
だけど
『だ、大丈夫! 私、ガンバルカラ!』
ああやって何もできないとダンスに逃げていた私が頑張ろうと思った。
そんな私があの時にはいた。
だったら、ここで頑張らないでいつ頑張るというのか。
「NO! 私も行きます!」
「では、その戦力あてにさせていただきます」
「OK、任せるヨ!」
「では、まずはその偽物の勇者を見に行きましょう」
「ちょっと待っテ、私、アメリア! あなたの名前は?」
一緒に行動する事を選択し、なら名前を知らなければ互いに呼ぶ時に困る。
だからこうやって自己紹介をしたのだけど、彼女は嫌そうに顔をしかめ。
「……アンと呼んでください」
「わかった! よろしくネ、アン!」
ポツリと名乗った。
思えばこうやって名前を呼ぶのは久しぶりかもしれない。
だから嬉しくなり元気に名前を読んだがなんでそんな微妙な顔をするのだろうか?
「気にしないでください、この名前があまり好きじゃないだけです」
「?? いい名前だと思うケド」
「……そうですか、では今度こそ行きましょう」
「あ、待ってヨ!」
スタスタと先に歩き出す彼女の隣を歩くために少し走り隣に並ぶ。
「彼は部屋に戻るって言ってたから、部屋に行くノ?」
「それは方便でしょうね、本業は私のような人種です。おそらくは他の勇者に接触して情報を集めていることでしょう、先ほどの報告からそれが予測できます。ですからいる場所にはおおよそですけど見当がつきます」
「??」
「私たちのような存在は基本的に化かし合い。つかず離れずの位置を保ちコウモリのように飛び回る。あまり少数で集まっては情報収集には向きませんからね、ある程度人の集まる場所で話しやすい場所」
「食堂?」
「いえ」
目的地をクイズのように焦らすアンの言葉から予測をたてるが、さっきまでいた場所にあの偽勇者が戻ってくるとは思えない。
その考えを裏付けるようにアンもそれを否定する。
「談話室です」
勇者が寝泊りをしている宿舎の一階と二階には共有スペースがある。
食堂まで行くまでもなくお茶が飲めて人が集まる。
そして人の流れがある。
そこに彼はきっといるだろうとアンは言う。
果たしてそれは確かだろうか、一階の談話室の横をまるで用事は談話室の先だというようにアンは通り過ぎていった。
私は少し遅れて同じように通り過ぎていった。
「彼ですか?」
「うん」
そしてその予想は当たっていた。
いくつかあるグループ、その中で男女四人で集まったグループに彼はいた。
あらかじめ伝えていた特徴から推察したアンは振り向きもせず止まりもせずまっすぐ進んで私が追いついたタイミングを見計らって声をかけてきた。
「では見張りましょう」
「どうやって?」
「簡単ですよ、仕事をするだけです」
あなたにも手伝ってもらいますといい、彼女は笑顔で掃除用具を私に手渡してきた。
あれ?
これって雑用押し付けられていないカナ?
アメリア・宮川 十六歳
職業 高校生
魔力適性八(将軍クラス)
役職 勇者
今日の一言
勇者としてのはじめての仕事が……掃除……ナノカナ?
今回は主人公以外の視点となりましたがいかがでしょう?
もう数話はアメリア視点で続きます。
これからも本作をよろしくお願いします。




