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684 年季の違いを見せつけられる時がある

 

 Another side


 蟲王という名は伊達ではない。

 彼女自身は、歳は魔王軍の中では若輩と言っても過言ではないくらいに若い。


 それこそ数百年を当たり前のように生きる種族たちから見れば若いと断言されるくらいに若い。


 そんな若さで、魔王軍の最高幹部である将軍位にたどり着けるのは間違いなく、天才の部類に該当する。


 それも、天才の中の天才と言われる部類だ。


 故に最強の一角。


 そんな、最強の一角を蹂躙できる存在となれば、それはいわば天災と言えばいいだろう。


『カカカカカ!!青い、青すぎるわ。高々数を用意できるだけの能力でこのワシが抑え込めると思うてか』


 天才を抑え込める天災。

 例外の中の例外。


 不死王ノーライフは愉快と腹を抱え込むように、笑いながら闇から配下を生み出し続ける。

 否、これは既に生み出し、保管していたと言い換えた方が良いだろう。


 死とは万物の終着点。

 不死者とはその終着点からさらに進んだ存在を指す。


 それすなわち矛盾。


 終着しているのにもかかわらず、終わっていない。

 それが不死者、アンデッド。


 だが、今はそんなアンデッドの性質を説明する必要はない。

 重要なのはアンデッドになるにあたって死が必ず通り道になっていると言う点だ。


 ありとあらゆる分野で、死は最後に待っている。


 動物も植物も物体にすら死は訪れる。


 すなわち。


『ワシは不死王。死の終着点を見て来た者ぞ。何年死を見続けたと思っておる。高々数十年生きただけの小娘が溜め込める雑兵なぞ片手間で用意できるわ』



 その死と密接な関係にある不死王、ノーライフの兵力は死が多ければ多いほど蓄積していくことになる。


 もちろんすべての死を蓄積しているわけでもなく、限界もある。


 だが、年季の違いというのは確かに存在する。


 蟲王が配下を生み出している間も、死は訪れ、朽ちる存在はいる。


 蟲王の配下が育っている間も、死は滅びを運び、終わる存在がいる。


 蟲王の配下が戦えるようになった時も、死は新たな命を摘み取っている。


 いかに天才であろうとも、摂理に反する存在に真っ向から喧嘩を売ってはいけなかったのだ。


 不死王はその存在故に、年季の入った魔法使いという印象が先に来る。

 だが、本来の土俵は、死を超越したという死霊魔法なのだ。


 アンデッドの配下、軍勢を作ること自体とうの昔に終えて後は質の向上と数の補填だけをすればいいだけの状態にしている。


 常に軍隊を眠らせ、いつでも起こせる。


 頭がおかしいと言われるような状態をキープしているのが不死王で、その頭がおかしい不死王に勝って見せたのが魔王という存在なのだ。


 最初は森から溢れ、アンデッドを餌にしようとしていた虫たち。


 だけど、その勢いは徐々に押し返される。


 大鎌を振るったカマキリの配下が、骨の波にのまれる。

 体を丸め、その体を回転させて突き進むダンゴムシの巨体を受け止めるゾンビがいる。

 大きな羽を鳴らし、自慢の針でゾンビを刺していた蜂がゴーストに囲まれその生気を吸われる。

 大空を舞うトンボの大軍が、たった一体のドラゴンゾンビの猛毒のブレスに瞬く間に撃ち落とされる。


『数とは質を兼ね備えてこそ役に立つのだ。汝の質は随分と低いのぉ?』


 そしてまだ不死王にとってこの戦力は序の口に過ぎない。


 不死王の背後に控える闇にはまだまだ、蠢く存在が多数存在する。

 その戦力は千か、万か、それ以上か。


 全体を把握しているのはそれを統べる不死者の王だけ。


『ライドウならこの程度の波を正面から突破して見せるぞ?ルナリアなら大地をひっくり返して軍勢を飲み込むぞ?アミリならワシと同等の軍勢を用意して見せるぞ?ウォーロックなら巨大な砦を瞬く間に建設して見せるじゃろうな。竜王など言わずもがな』


 近くに捕縛した蟲を置いているのは、この言葉を聞いているだろう蟲王を挑発するためだろうか。


 カタカタと顎を鳴らして、愉快に笑いながらお前は格下だと挑発する。


『ああ、なんと手応えのない。次郎であればもっとワシを楽しませてくれるの。それなのになんじゃ。それでも将軍を名乗っておったのか?研鑽を積んでおればこの程度の軍勢軽くあしらい、ワシと一緒に楽しめただろうに』


 終いには人間よりも格下だと不死王は言う。


 それは、ある意味で将軍にとって禁句に近い挑発だ。

 魔王軍は実力こそ正義。


 そして、その実力を嘲笑うのは最大の挑発になる。


『カカカカ!怒ったか?なら、このワシの首を取って見せよ。意地を見せよ!もっとワシを楽しませよ!!』


 感覚を共有しているからか、捕縛した蟲から怒りがにじみ出ている。

 それを見て、不死王は嘲笑う。


『ほれ、ほれ、ほれ、怒っておる暇があるのか?ワシの軍勢は森を占領しつつあるぞ?』


 そんなやり取りをしている間も、蟲の駆除は進んでいく。


 さっきまで溢れそうになっていた虫は、今ではアンデッドたちに駆除され、随分とさっぱりとした光景になった。


 森の中にいるのは蟲ではなくアンデッドの軍勢。


 森を徘徊するアンデッドを自分の領域だと、蟲たちが迎撃するが、相打ち覚悟で組み付かれ、重しとなったアンデッドが一つつけば、あとは不死者たちが、生者を死の境界線の向こう側に引きずり込む。


 生まれてくる速度がいくら速かろうとも、こうも早く消耗戦を挑まれてしまえば、割に合わない。


『ほれ、もう入り口を見つけてしもうたぞ?』


 おまけに、ダンジョンの入り口も見つけられてしまった。


 そこには蟲王も認める配下、自分の娘たちを三人も配置していたはず。


 その娘たちが全力で迎撃しているのにも関わらず、アンデッドたちはその入り口に殺到する。


 仲間が倒れようと、仲間が喰われようと、仲間が貫かれようとも関係ない。


 不死者にとって死は通り過ぎたモノ。


 終わりは受け入れるモノ。


 恐れるモノではない。


 ましてや、下級の部類に入るアンデッドたちに意識というのは希薄だ。


 本能で戦うことしかできない。


 故に、命令に従い目の前の敵を駆逐しようとする。


 それに蟲たちは恐れる。


 感情が一色に染まり、自分たちを駆逐してくる死を恐れぬ軍団。


 数はこちらが多いはずと、思っていた。


 それを覆す。


 よく見れば、不死者の軍団の中にはさっきまで一緒に戦っていた虫たちの姿も混じっているではないか。


 あちらこちら体がかけようと見間違えるはずがない蟲の軍団。


 それが今ではその数を逆手に取られ、不死者の兵力に様変わりしている。


 戦況は刻一刻と、不死王が優勢になるように動いている。


『カカカカ、援軍は来ないぞ?お前が捨て駒に使っている貴族連中もお前の援軍を心の頼りにして必死に戦っておるからの。あるとすれば』


 蟲王の窮地。

 これを打開する方法を、ノーライフは心当たりがあった。


 存命しているダンジョン。

 そして、反魔王を掲げる貴族連合を援護している天使たちはどこから来た。


 廃棄したダンジョンは、一部管理の行き届いている物を除き全て破壊し使用不能にしている。


 であれば、おのずと答えは限られる。


『イスアルからの援軍くらいかの?』


 このダンジョンは向こうの世界に繋がっている。

 その確信が不死王にあった。


 蟲王単騎で魔王軍に挑むにはあまりにも無謀、それくらい考える脳みそはあると不死王は考察している。


 ないならないで愚者と判断するだけのこと。

 しかし、不死王であっても仮に魔王軍に勝つとしたらかく乱による戦力分断を狙った方法でしか勝ち筋は見ることはできない。


 であれば、大陸に混乱をもたらす存在を招き入れるくらいのことは考える。


 その方法を蟲王が考えないはずがない。


『来たか』


 その予想は裏切らない。


 ダンジョン入り口付近を、明るい光が照らす。


 それは聖属性の結界。

 浄化の力を持つその壁はアンデッドの軍勢には天敵だ。


 実際、その壁に触れてしまったゴーストや、スケルトンたちが瞬く間に灰となっている。


 そんな結界、本来であれば蟲王が持っているはずがない。


『もはやなりふり構ってられんと言うことか。ふん、堕ちたな』


 その力を頼ったと言うことは、イスアルの力をあてにしたと言うこと。


 不死王にとって、元とは言え将軍位であった彼女が自力での解決を目指さなかったことに苛立ちを感じた。


『防備だけを頼り、攻めは自力でやると言ったところか』


 そしてダンジョンの中から大型の虫が次々に出現するのが見えた。


 ムカデ、カブトムシ、クモ、サソリ。

 種類は多く、また、強固な甲殻に覆われた虫たちが姿を現し、アンデッドたちを踏み潰していく。


『気に喰わん』


 作戦としては間違っていない。

 不死王に勝つと言う考えであるなら、判断ミスとは言い難い。


 だが、それを気に喰わないと思う気持ちもまた間違っていない。


 蟲王の反乱の原因は、自身のプライドが誰かの下につくことを許容できないと言う独りよがりでしかない。


 それを貫き通せば、誇りとなりそこにから憧れという気持ちが生まれそれについていきたいという気持ちが生まれる。


 しかし、なりふり構わず使えるものを使う今の蟲王に誰が憧れる。


 魔王とは最強の称号。

 他所の手を借りるなとは言わん。


 だが、魔王であるなら自身の力だけでその地位にたどり着かなければならない。


 イスアルという敵の手を借りた段階で、蟲王はもう魔王を名乗れなくなった。


 不死王の心の中にあったわずかな期待を裏切られ、落胆と同時に魔王の名を踏みにじった行為に対する怒りを抱いた。


『お前はしてはならぬことをした。歴代の魔王の名を汚した。未来に生まれるであろう魔王の名を汚した。その行為、万死に値する』


 誇りとは尊厳とは、それは人それぞれの価値観をもって行われる行為であるが、間違いなく踏みにじってはいけない分野で、蟲王は踏み込んでしまった。


 この段階で、不死王は楽しむという行為を止める。


 ここから始まるのはただただ、破壊するだけの作業だ。

 相手を戦う相手だと認めず、駆除すべき害虫だと認識する。


『であるなら、害悪は処すべき』


 不死王はさらなる戦力を呼び出す。


 蟲王相手に、騎士団を呼び寄せるのは誇りが許さない。

 であるなら、害虫には害虫をぶつけるのみ。


 それは不死王の領土を汚し、犯し、破壊しようとした罪人たちの末路。

 生きることを許され、生きることを苦行とされた罪人たち。


 体のあちこちを死霊魔法で改造され、人であることを肯定されつつ人でなくされた怪物の軍団。


『これなら、その結界も意味なかろう』


 一番の特徴は、アンデッドの軍団のように不死王の命令に従うがアンデッドではない。


 故に聖なる光が効果を発揮することはない。


 そして不死王が改造を施した、死罪を言い渡された犯罪者たちは苦痛から解放されるために蟲たちに襲い掛かる。


 死こそ救い。


 その救いの場を与えられた罪人たちは不死王によって与えられた力を存分に振るう。


 異形の怪物たちが森に放たれ、真っすぐにダンジョンに進んでいく。


 一時的に押し返していた蟲王の軍をさらにダンジョンの奥に押し込んでいく。


 頼みの綱である聖なる結界も、物理的に破壊していくスタイル。


『さぁ、仕上げじゃ』


 そしてそのうえで不死王は魔法を展開する。


 ダンジョンの上に展開した、極大の魔法陣。


 その魔法陣が完成したら最後、不死王による裁きが下される。


 刻一刻と迫る死へのカウントダウン。


 これを防ぐにはダンジョンの外に出ないといけない。


 だけど、それを不死王は許さないのであった。




 今日の一言

 年季と言う経験の差を覆すのは難しい。




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] 不死王がヤバいのか、蟲王が小物なのか。
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