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682 裏があると思えば油断はしない

 

 Another side


 イスアルでは大鬼が暗躍という名の世直し道中を体現しているとは歴史上類を見ない奇抜な展開であろう。


 であれば、逆を返せば魔大陸での反乱はある意味では王道とも言えるような展開が繰り広げられていた。


 屍の騎士。


 不死王の軍団が反魔王勢力として狼煙を上げた貴族連合を前にして、陣地を形成、この殲滅に当たっていた。


『ふむ、やはり裏にやつらがいる所為か中々粘りおるわい』


 顎に手を当て、久方ぶりの将軍としての任務だと言うのにブランクを感じさせず勢力を配置する様は流石と言うべきか。


 しかし、ファンタジー世界であれば机上に地図を置き、駒をその上に配置して軍議を行うと言うのが筋であるが、現代の技術の便利さを知った不死王はそんな不便なものを使うわけもなく、どこからともなく調達した移動車両にこれまたドローンを駆使し、敵の陣営を把握し始めている。


 近代戦の暗号通信も使用しているからか、相手は不死王の軍団の動きを読むことはできない。


 おまけにゴーストという監視が難しい存在たちが、密偵として動き回っている。


 情報戦と言う面では、貴族連合よりも不死王の軍団の方が勝っている。

 戦力面で言えば、数は向こうが上回っているが質では不死王の軍団が勝っている。


 勝敗はいずれつく、そう判断してもおかしくはないほど優勢を維持しているが、不死王の表情は芳しくない。


 ここまで小競り合いが三回、大きな衝突が一回と互いに探り合っていると言う段階であるが、不死王の予定では一回の大きな衝突でそれなりの戦力を削る気で差配した。


 しかし結果はどうだ。


『想定よりも、削れぬか』


 貴族連合の将を何名か仕留めることは成功したが、本体へのダメージは最小限に納められている。


 有体に言えば手応えが薄い。


 とても満足と言える結果ではない。


 何かあると考えるのが筋か。


『幸い、本命の攻撃は次郎が防いだ。我が軍の指揮系統は健在、それで動揺して突出した部隊は叩けた。しかし、冷静さを取り戻すのが早い。やつらにそこまでの才覚があったとは思えん』


 野心に燃える貴族というのは、歴史から見ても一定数はいる。

 下につくことを良しとせず、自分こそが大陸の覇者だと名乗り出ることを虎視眈々と狙っている者も多い。


 実際、今回の反乱もその野心を利用されたと不死王は見ている。


 アンデッドの兵士たちが最新の機器を操作しながら情報を表示していくのを眺めつつ、次の戦場ではどのような策を使うかと模索していると。


『不死王様、巨人王様の使いがお見えです。いかがいたしましょう?』

『なに?巨人王の使い?』


 珍客が来た。


 巨人王との接点は同じ将軍という立場以外にない。

 個人的なつながりを形成するほど親しいわけではないにも関わらず、別の仕事があると動いていた巨人王から使いがきた


『心当たりがこの場に紛れ込んでいると言うのか』


 思い出すのは会議の時に言った、巨人王の心当たりという言葉。


 何か嫌なものを感じつつ、戦場での変化はないのでここは一つ打開策の参考にするかと不死王は席を立つ。


『会おう、どこにおる?』

『は、陣幕のテントの一つにて待たせております』


 屍の騎士に案内されるは、陣地を形成した時に用意したテントの一つ。


 元々武器などを保管する目的で用意した大型のテントであるが、今は空だった。

 それが幸いして、巨人族という大柄な種族を迎えるための場となった。


「お忙しい時に申し訳ありません」


 テントに出向いた不死王を迎えたのは、ひざまずいてなお不死王よりも大きな体躯の巨人族の戦士。


『構わぬ、少しばかり膠着しておったところだ。して、巨人王からの使者と聞いておったが何用で参った?』


 いつもなら少し世間話をしてから本題に入るのがセオリーなのだが、ここは前線から少し離れただけの戦場。


 いかに優勢な状況でも、いや、優勢な状況だからこそいつ何時、敵が攻め寄せてくるかわからない現状でそんなことをしている暇はない。


 単刀直入に、終わらせるべきだと判断した不死王は、巨人王の使者に要件を聞く。


「我が王から書状を預かっております。此度の反乱の裏に潜んでいる存在の尻尾を掴んだと、その証拠とともにこれを」


 それは巨人王の使者も理解して、手早く腰につけていた頑丈な鞄から、巨人サイズではなく、人サイズの手紙を取り出し不死王に差し出す。


 それを側にいた屍の騎士が受け取り、何もないのを確認してから不死王に渡して、もう一つの物体も騎士は受け取った。


『……』


 手紙を読むよりも先に、同じ鞄に入っていた物体を見て一瞬魔力が揺らぐ。

 不死者の王として君臨している、ノーライフの魔力が揺れると言う事態に騎士が反応するも、不死王は手で制し、黙って手紙を読み進める。


『なるほど、そう言うことか。それならここまで裏をかけると言うものか。ようやく、合点がいった』


 その文章は巨人王の性格らしく、美辞麗句は一切なく効率重視の内容をわかりやすくまとめた物。


 故に、不死王が読み終わるのにそう時間はかからず、そして大きなため息とともに手紙は折りたたまれる。


『魔王様はこのことを』

「知っております。我が王はそれを知って真っ先に報告いたしました。そして魔王様から不死王様にお伝えするように命を受けました」

『なるほど、して、巨人王はどう動く?』

「戦支度は既に終わっております。あとは、不死王様に合わせて動くとのこと」


 その内容は決して良い物ではなかった。

 むしろこの状況を聞けば、悪いモノとしか言いようのない内容であった。


『あい分かった。であれば、こちらに否はない。巨人王に伝えよ。我らも動く』

「わかりました」

『書状を認める。しばし待っておれ』

「かしこまりました」


 しかし、こうなる可能性も十分にあった。

 むしろ、この状況になるのも想定すべきであった。


 踵を返し、書状を書くためにテントから出る。

 その道中の心境はどういうものか、部下である騎士は黙々とついて来るのみ。


『死してなお、ままならぬものよ』


 不死王のこぼした言葉にも反応することなく、ただ追随するだけ。


『しかし、そのままならぬからこそ、生とは面白いとも言える』


 それは不死王が悲観しているのではなく、楽しんでいると言うのを知っているからだ。

 ゆらりと、客人の前だからこそ抑え込んでいた不死王の魔力が荒れる。


『クカカカカカ、野心に溺れおったな。わずかの可能性に賭けたと言うのなら愚か、まことに愚かなやつよのぉ』


 敵を知った今、不死王はその相手に向けて明確な敵意を抱いている。

 知ったからこそ、冷静に怒り、そして絶対に許さないと心に誓っている。


『ああ、油断をした。落ち着いて考えてみれば、理解できることじゃった。我ら将軍があの程度のことで死ぬわけがあるはずがない。生きることに関してで言えば奴はワシの次に生き残ることに長けた将軍だと言うのに、飲み込まれ、姿を変えた事実を前に完全に見落としておった』


 思い返してみれば不自然な部分が多かった。


 不意を突かれたからと言って、ダンジョンの中に侵入した異物を感知できずそのまま飲み込まれることがあるだろうか。

 抵抗できぬまま、力を奪われるだろうか。


 ましてや、神獣の守護があると言うのに力をそのまま奪われ滅んだと言うにも関わらず、その軍勢は大人しく、再度の栄華を求めないと言うのか。


 愚鈍、敗者の末路と納得してしまった自分が愚かだと、不死王はカタカタと顎を鳴らして笑う。

 悦楽に混じって怒りがにじんだ笑い声。


『ここまで牙を研いでおったか。魔王様に牙をむくタイミングを探しておったか』


 しばらく続けていたが、感情に支配されるほど若くはない不死王は、ひとしきり満足する程度に笑った後にすっと、荒ぶっていた魔力を抑え込み、そして天に輝く月を見つめた不死王は今回の反乱で裏で糸を引いていた存在の名を言う。


『のう、蟲王』


 巨人王の心当たり、それは元同僚であり、すでに死んだと思われていた存在。

 死体を確認したわけではない。


 エヴォルイーターに喰われてしまえば、死体など残らない。

 その片鱗であるエヴォルイーターの残骸は残る。


 だけど、逆を返せば死んだと言う証拠はそれしかない。


 そんな中途半端な証拠で片付ける他なかった。

 他に生存していると言う証拠がなかった、生きていると言う報告もなかった。


 死んだ事により将軍位をはく奪されるデメリットを考えたら、生存報告をしないと言う選択を取ることに配慮しなかった。


 様々な常識や状況が重なった結果、蟲王という大戦力が放置され、そして何もしていないと言うことからずっと味方だと思い込んでいた。


 いざという時は誰かしらの将軍が指揮をとれると勝手に思い込んでいた。


 なんたる怠慢、何たる怠惰。


 その結果が、このタイミングで将軍の中でも機王を超える大戦力を生み出す蟲王を敵に回すと言う結論が出て来た。


『何ともやりがいのある敵が出てきたモノじゃの』


 そしてそれがわかったのなら、やるべきことはやる。


 不死王の魔力が辺り一帯にまき散らされ、そこで小さな命が悉く散らされる。


『全軍に通達、魔法を使い殺虫作業を行え。小虫一匹たりとも見逃すな』

「御意」


 蟲王が敵に回ったのなら、蟲という種族が敵に回ったと言っていい。


 蟲王という将軍の特性は数だ。


 繁殖しやすいと言う特性を武器にし数を用意する。

 他にも細かい箇所まで侵入できる小さな体を駆使し潜入するという密偵能力の高さ。


『もしや、イスアルを手引きし勇者モドキに情報を流していたのもやつか……あ奴ならこちらに気づかれず情報を流すことも可能か』


 死んだと思われていた将軍が生きていて、敵に回ったと言うピースが嵌まっただけで次々に答えが導かれる。


 不透明だった部分が見えてきて、イスアルだけではカバーできない分野がカバーされていた理由に納得がいった。


「報告します!!」

『敵が動いたか』

「はっ!そして敵戦力に蟲族の姿が加わったと!!」


 そして殺虫作業を行えば、向こうにも戦力を隠す必要はないと認識される。


 ここで出し惜しみをせず、戦力を展開してきた。


 数を増やすには十分な潜伏期間が有った。


『さて、どれほどの数を用意して来たか』


 その数は想像することは不可能だ。


 対する不死王の軍団は度重なるトラブルで、減りはしないが増えてもいない。


 純粋な数では劣勢でいる現状を、情報戦という分野で上回り優位に動いていたが、それを力技で押し返して来た。


『カカカカカカ、数程度で勝てると思われるとはワシも侮られたものじゃ』


 相手はそれで勝てると踏んだか、あるいは別の意図か。


 少なくとも不死王は貴族連中が勢いづくと踏んだ。


『巨人王の使者に護衛を付けて送り出せ、書簡に関しては悪いが作る暇はない、これを持たせ委細承知とだけ言っておけ』


 ここから先は激しい戦になる。


 現場を離れることは元より無理だと思っていたが、戦場に出るとなれば文を認めている暇も惜しい。


 相手は動き出した、であれば一刻も早く現場に向かう必要がある。


 不死王が装着していた一つのペンダントを部下に渡して、不死王は方向転換をする。


「御意、ご武運を」

『なに、少しばかり容赦という言葉を捨てて来るだけじゃ。奴らは手加減されていたということを知るべきじゃ』


 裏切りには死を。

 それが魔王軍の鉄則。


 野心に溺れた害虫には、不死者の王の鉄槌が下る。


 今日の一言

 裏を隠すことを得意とするのはいいが、黙りすぎると後悔することになる。




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ずっとどこから魔王城の情報が漏れたんだろうと考えてたけど、ここでグズリか!今思えば将軍選抜のときに能力が明らかになったのに、エボルイーターに食われて、ライドウが倒してたのが簡単すぎたことに違…
[良い点] まさかのグズリはんの登場 楽しませてもらいます。 更新楽しみにしております。 裏切り者には死を!!
[一言] 更新お疲れ様です。 まさかここで蟲王の名前が出てくるとは思いませんでした。 しかも黒幕として! 不死者の軍が、偵察機器を使っていることよりも、驚きました。 さて、不死王様たち魔王軍はどう…
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