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681 話してみると意外と気が合うそんな経験ありませんか?

 

 Another side


 鬼との酒宴、一見すれば地獄のような構図が目に浮かぶこの文言。


 しかして、蓋を開けてみれば。


「聞いてくださいよライドウ将軍!!この国の貴族は腐ってやがる!!大国の貴族の生活に嫉妬して、自分もできると大見えきって民から搾取するばかり!!かと言って民に還元するかと言えばそんなことはしない自分本位のクズばかり!!何が神が認めた聖戦だ!!馬鹿野郎!!こっちは明日の食事も切り詰めている民の腹を膨れさせるために精一杯働いているんだっつの!!」


 今までの鬱憤をここで吐き出さずいつ吐き出すかと勢いよく酒を煽るフリッツの姿を見て。


「そうだそう!!俺たちの給料は安いくせに、何で貴族たちは贅沢してんだ!!こっちは命かけてんだぞ!!」

「忠義で心は満たされても腹は満たされないんだぞ!!美味しい所しか持っていかないクソ貴族ガァ!!」


 それに同乗するように部下たちも叫ぶ。


 後で冷静になったら顔を青ざめるほどの普通にバレたら首が胴体から切り離されるコース待ったなしの罵詈雑言の数々。


「おうおう!!ここには咎める奴はいねぇぞ!!どんどん飲め!!」


 開き直って酒に酔い、勢いよく本性をさらけ出すフリッツたちの姿を見て、鬼王は楽しそうに酒を渡す。


 さて、なぜ敵であるはずの陣地でフリッツたちは酔っぱらっているかと言えば、純粋に日本産の酒が美味すぎたのだ。


 普段飲んでいる安いエールやワインとは比べ物にならないほど豊潤で香り高く、味わい深い酒の数々、冷たいビールに始まり、ウイスキーに日本酒、果実酒にはたまた飲み慣れていたワインですら今まで飲んできたものは何なのかと悲しくなるくらいにうまい酒の数々。


 それに興味を持ってしまったのが運の尽き、本来の目的である、なぜ、人々を助けるような行動をしているのかを確認するのも忘れ、酒を浴びるように飲み、今では敵である将軍に上司である貴族たちの愚痴をこぼす始末。


 ここまでくるまでに多大なストレスを感じていると言うのもあるだろうが、それとも日頃の鬱憤が溜まっていた結果か。


 日本産の酒たちは、それが溢れるようになるには十分な効能を持っていた。


「……ああ、すんまんせん」


 大鬼に注がれる黄金色の液体。

 泡と液体の黄金比で注がれたそれを一気に飲み干しそののど越しの感覚が永遠に続けばいいのにと思いフリッツは、曇天の空を見上げた。


 そして、自分が何でここにいるかを考え。


「ライドウ将軍、この招待状の真意を聞いてもよろしいですか?」


 宴会を楽しんでいた自分を収め、本題を切り出した。

 酔いが、冷めたと言うわけじゃない。


 単純に聞くタイミングがなかったと言うのと、聞くのを恐れていた。


 善行をしているわけじゃない。

 かの鬼は人を殺している。


 それも地位としては上位に入る貴族という特権階級の存在は大勢殺している。


 しかし、その悪行をもってして、苦しんでいた民を救った。


 戦争ならその民ごと蹂躙すればいいのにも関わらず、それを容易にできたこの大鬼は人を救いながら貴族を殺すと言う難事に挑んだ。


 フリッツから見れば難事に見えるが、ライドウにとっては手間ではあったが簡単にできることだった。


 その真意を聞きに来た。

 酒を楽しみ、羽目を外していたが、それでも真意を確認すべきだと思い問いを飛ばす。


「なに、ちっと試してぇことがあってよ。それを思ってやってみただけのことよ」

「試したいこと?」

「ああ、俺とお前ら、酒を飲み交せば仲良くできるかってな」


 一体どんな企みあるのだと警戒したフリッツの気を削ぐかのように、大きな杯に入った透明な酒を飲み干すライドウ。


「仲良くですか?」

「おう、俺の目的ってのはそれだけだ。実際お前らと飲んでみてわかったが、俺たちは過去に縛られてはいるが酒を飲み交すことはできるってのはわかった。最初は城の方に言ってこの国の王と飲み交そうと思ったんだがよ。お前の言ってたクソどもが多すぎてよ。それどころじゃねぇってわかった」


 鬼から語られたのは、戦時では考えられないような非常識な答えだ。

 戦っている相手と仲良くなる?


 和平交渉ではなく、友人のような関係を望んでいると?


 フリッツの頭の中で疑問符が浮かび、この鬼は何を言っているのだと混乱し始める。


「その顔、無理だって思ってるな」

「……失礼を承知で言うなら、子供でも言わぬ夢かと」

「違えねぇ、俺も昔はそう思ってた。俺たちは昔っから殺して殺されてそれの繰り返しよ。その恨みつらみが積み重なってもう後戻りができないところに来てる。そう思ってた」


 その表情の意味を的確に把握したライドウは気にした素振りも見せず、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべ同意した。


「だがよ、それってのは俺たちが意地になりすぎてるんじゃねぇかって最近思うように俺はなったんだよ」

「え?」


 そして、とある弟子によってもたらせた変化を敵と思っていた世界の人間に鬼は言う。


「俺たちは最初から相手を滅ぼせばすべて解決するって思ってた。実際それは一つの正解だ。お前たちを全て滅ぼせば、空いた土地が手に入るって寸法だからな。単純でわかりやすい」

「……」


 それは今までの歴史で思いつく限り通って来た常識だ。

 悪である魔族を滅ぼせ、故郷を占領している人間を滅ぼせ。


 誰が最初に言ったのか、それは最早確認する術はない。


 だけど、何を今更と確認するまでもなく常識になっている話である。


「だけど、それじゃぁ血が流れ過ぎる。俺たちは戦うことが好きな種族だ。戦自体楽しんでいる節がある。それは理解して受け入れている。だがな、あくまで俺たちはな戦いが好きなんだ。弱い奴を蹂躙して何が楽しい、俺たちが求めているのは血沸き肉躍る戦いだ。赤子を必死に抱きしめて泣きながら子供を守る母親を殺して何が楽しい、老いてなお未来ある子供を守ろうと枯れ木のような腕で鍬を構えて敵を退けようとしている奴を殺して何が楽しい」


 そんな常識に罅を入れるかのように、鬼の王は異世界の兵士に常識とは何かと問いかけた。


「戦争って言うのは、俺が思ってたよりも俺たちにとって楽しいモノじゃなかった。いや、楽しいことの方が少なかったと言った方がいいか。それをしてるくらいならこうやって、酒を飲んでいた方が楽しいんだよ」

「だが、これはお前たちから仕掛けてきた戦だ。それを今更、あなたの常識で何もなかったと流すことはできない」


 戦はバカがすることだと言いたいのかとフリッツは酔いを飛ばすように鋭い視線を向ける。

 その意志を笑うことはライドウはしない。


「そのきっかけが本当に正しいとしてもだ。数千年も前の話を俺たちが続ける意味って言うのはあるのか?もう血筋だって残っちゃいねぇ。当時を知る奴の方が少ねぇ」

「だから、それは……」


 それが当たり前だと言い続けて来た。

 それを今更捨てることができるのかと言われて、そう簡単にできないのも理解しているからだ。


 魔族は悪。

 滅ぼさなければ未来はない。


 それがイスアルにとって常識だ。


「トライスの奴らが年から年中騒いでいるだけで、実際お前の生活で俺たちが及ぼした悪影響ってあるか?」

「……ゴブリンが村を襲った」

「そいつは野生に帰った奴らだな。だが、お前たちだって野党や落ちた兵士が村を襲うだろ?」

「魔獣の討伐で仲間が死んだこともある」

「魔獣なんて、はるか昔からいたぞ。俺たちもお前たちもそれを躾ける術は持ってる。魔獣は俺たちが生み出したわけじゃない」


 だが、こうやって魔族の将軍に問いかけ直されて、ふとフリッツは思った。

 魔族にされた被害はそこまで多いのかと。


 戦争をすれば確かに大きな被害は起きた。


 大量虐殺に街の破壊、作物の被害と数えきれない被害が起きる。


 だけど、平時はどうだ。

 戦争と戦争の間のとてつもなく長い歴史の溝。


 その期間、果たして魔族は人に危害を及ぼしたか。


 フリッツは、そこで気づく。


「……はは、魔族よりも人とのトラブルの方が多いな」


 知らないところでは起きているのかもしれないが、少なくとも自分の周りでは起きていないと。


「そういうこった。俺たちも似たようなものだ。人間憎しと戦に向けて準備をするのはいいけどよ。それでもトラブルって言うのは身近なやつとの方が多いってな。今の俺たちの世代はよ。目的と過程が入れ替わちまってる。故郷を奪還するために戦の準備をしていると題目を打っちゃいるが、今じゃ戦争するために生きているような奴が生み出され続けている」

「私たちも同じです。神の教義で魔族を滅ぼすために戦う力を身につけなければならない。その力は時に人へと向けられ、国の大きさを変えていく」


 魔族を打ち滅ぼすために身に着けた力の大半の使い道は人へと向けられ、たまに来る魔族への襲来を理由に暴力を振るう力を蓄える。


「……我々は戦わなくて良いのですかな」

「それできる可能性を、俺は弟子から学んだ。だから、こうやって酒の席を作った」

「そのお弟子さんはどういう方なんですか?」

「バカみたいに我武者羅なやつだ。最初はビビってたくせに気づけば俺の隣で酒を飲むような人間だ」

「それは、凄い御仁ですな」


 それは冷静に考えれば途方もなくバカげたことなのではと気づいてしまえば、どっと疲れが押し寄せてくるようにため息がこぼれてきてしまう。


 大義名分は未だ信じられる。

 だけど、ここまでの流れでフリッツの中で一緒に酒が飲める鬼がいるという認識ができてしまった。

 その段階で、こちらが剣を向けなければ酒を飲み交せるのではと思えるようになってしまった。


「おう、自慢の弟子だ」

「私も会ってみたいですな」

「なら、こんど連れて来てやるよ」

「その機会に恵まれればいいですな」


 少なくともこの鬼と戦場で出会えば自分は死ぬその認識を変えずとも、何気ない酒場で出会ったのなら一緒に温いエールに文句を言いながら酒を飲み交すことくらいはできるのではと思えるようになった。


「俺の弟子曰く、機会は待つもんじゃねぇ作るもんだと」

「作る」

「ああ、そのための方法があるんだが一つやってみねぇか?」

「……我々にできることでお願いしたいですな」

「さてな、やるかやらないかはお前ら次第だ。少なくとも俺はこれからも同じことをしていくつもりだぜ」

「苦しむ民を救う、鬼ですか。噂で聞いてましたが、それがあなたなら……なるほど、気にくわないことを排除していたらそうなりますな」


 人となりならぬ鬼となり。

 フリッツの中で噂とは齟齬が必ず存在するものだと認識していた。


 だが、この鬼が起こした噂はなるべくしてなったと言うのがしっくりくるほど納得できた。


 この鬼はまっすぐなのだ。

 ただ、ただ、弱者をいたぶるように搾取する貴族が気にくわず、弱っている人を見捨てることができなかった。


 自分の気持ちにまっすぐと向き合って、そのまま有言実行しただけ。


 それに勝手に感謝する民。


 その流れができただけのことだとフリッツはようやく、理解できた。


 この鬼は嘘は言わない。


 本音を隠すことはあるかもしれないが、嘘だけは言わない。

 こちらが真摯に向き合えば、相手は真面目に受け止めてくれる。


 敵である大鬼のその器の大きさを素直に尊敬できる日が来るとは思いもしなかったとフリッツはこの時思ったのであった。


「聞きましょう。あなたの話を」


 今宵の宴はまだまだ続く。



 今日の一言

 話せばわかるかもしれない。





毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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