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678 世の中で勧善懲悪はできないが、どうしようもない奴は一定数いる

 

 Another side


 戦争とは国家間同士の争いを物理的に解決する最終手段だ。


 言葉で解決できるなら、本来は起きない現象。


 その前段階で終われば消耗も少なくなるのを理解しているが互いの利益、心情、思想、それぞれが噛み合わずぶつかることによって発生する最終手段の浪費作業だ。


 戦争している間は様々な生産業に打撃が飛び、通常では考えられないほどの費用がかさむ。


 では、その費用がかさんでいる時、普段から浪費し、贅沢な生活を送っている輩たちが生活水準を下げて生活できるか。


 答えを先に言えば、人それぞれというしかないが、半数以上は無理と言うべきだろう。


 美味い物を食べ続けている人がいきなりもやし生活ができるか。

 美女を侍らし、美女に貢ぐのが日常になっている男がそれを止めることができるか。

 ブランド物の貴金属を集めることが趣味な女性が新作の作品を我慢することができるか。

 普段、我慢という行為から遠い存在が、いきなり我慢という苦行をすることができるか。


 結論、最初からやってきたことをいきなりやろうとしても欲に負けるのが目に見えている。


「はははは!!もっと酒持って来い!!」


 加えて、自分が苦労しなくていいと思っている特権階級はその思想が染みつきすぎて、汗水たらして働くと言う思想がそもそもない。


 自分が選ばれし者。


 人を使い自分が楽しむことが日常。


 それが常識になってしまった人間が、戦争で活躍し、もてはやされることに夢想することはあっても、戦争でお金がかかるから節約しようと言う思想になるとは限らない。


 ここは、とある国のとある領主の館。


 民兵という名の、徴収兵士を集め、部下の将軍に兵を任せてあとは戦果という名の名声が来るのを待つだけの血筋だけ領主。


 これが先代が優秀だったとか、実は努力しているとか隠れた評価があればまだいいのだが、この家系の血筋は歴代貴族だったという権力を傘に人生を謳歌してきただけの人物。


 言わば、腐った貴族の見本市に出してもおかしくない為政者としての最底辺の存在。


 日々を酒と女、そして見栄を張るためのパーティーだけで過ごし、そのための金は民が献上する税金で生きている。


 足りなくなれば村一つを潰す勢いで税を臨時で徴収。


 最近では、魔王軍との戦争のために必要だと言う大義名分がある。


 そして、連合軍の総大将である人物に覚え目出度い報告ができると言う名誉欲を満たすことができる。


 自己都合による一石二鳥を狙うことができる。


 献上品という名の見目麗しい女性を集めることも合法的にできる。


 全ては聖戦のためという名義で色々と好き勝手にできる。


 これで、反乱が起きないのがおかしいと思う。


 だが、歴史が紡いできた腐敗というのはなかなか削ぐことはできない。


 腐敗した権力者のところに集まるのは現体制を維持しようとする腐った思想の同類が集まる傾向がある。


 力なき者を虐げる物が集まる。

 それが歴史を紡いできた。


 結果、民が決起できないくらいに搾取するためだけの環境が生み出されてしまった。


 今だって、戦争と言いう苦労を押し付けて、自分たちは安全地帯で美酒と美女に酔うことができる。


 名目はこの領地を発展するための会議であるが、美女を侍らし、酒を飲み、美食に舌を打ち、屋敷を兵に守らせ、好き勝手に騒いでいる行為を他者が見れば絶対に会議とは口が裂けても言えない。


「領主様、実はわたくしが治める村に絶世の美女と名高い年頃の女がおりまして、今宵はその女を連れてきました。彼女は是非とも日頃この地を収め苦労なされている領主様に感謝の気持ちを伝えたいと言っておりまして」

「おうおう!くるしゅうない。今夜は貴公の気持ちを受け取るとしよう!」

「感謝いたしますぞ、それで、実は心苦しいのですが折り入ってお願いがあるのですが」

「うむ!今の我は気分がいい!!何でも言うが良いぞ!!」


 このやり取りが日常茶飯事、ここにいる統治者の言葉一つで大勢の命の行方が決まる。

 それなのに、彼らから放たれる言葉は、まるで自分が神になったかのような言葉しか紡がれない。


 この戦争で、まともな領主は信頼する部下に領地を任せ自ら出陣している。

 おかげで、周囲のまともな領地から苦情が来ることも減った。


 抑え込まれた反動が来ているとも言える悪循環。


 日々苦しむ民の気持ちなんて知らない。


 そんな振る舞いをしている、宴の館。


 雲が空を覆い、地球では夜と言える時間帯。


 それは来た。


 最初に気づいたのは、気が緩んで、あくびを散らす見張りの兵士だ。


 そんな杜撰な見張りでも気づくくらいに、それは堂々と正面から来た。


 明るい夜。

 曇天の空としか言えない太陽の世界のとある国の一本道を堂々と歩く集団。


 整然と進み、それが規律を重んじる兵士だ。


 最初はどこかの領主軍が来たと街の城壁から兵士は思った。


 そんな連絡があったかと、寝ぼけた思考で兵士は考えていたが段々と近づいてくる兵士たちの姿が見えると一気に顔が青ざめた。


「て、敵襲!!敵襲う!!」


 近づく兵士たちは鎧を着こんだ鬼の集団。

 槍を持ち、剣を腰に差し、盾を背中に背負った鬼の軍団。


 頭から生える角、人の肌とは言えない多種多様の色の肌。

 人一人の腰の太さはあるのではないかと思われる腕の太さ。


 鍛え抜かれたその軍団を前にして、腰を抜かしそうになった兵士はかろうじて堪えて手間取りながらも近くに置いてあった金槌を持って警鐘を鳴らす。


 力いっぱい、出来るだけ響けと鳴らす鐘の音に何事かと屋敷の中から非番の警備兵たちが出てくる。


「んだよ、うるせぇな」


 面倒くさい、厄介事は勘弁だと言わんばかりに酒に酔った隊長が見張り台に上がってくる。


 鎧は適当に着こみ、酔いが回り、兜は持ってこず、武器は腰に差した剣のみ。


 あきらかにやる気のない姿。


 警鐘を鳴らした兵士を褒めるどころかけなす勢いで不機嫌な目を向けるが、警鐘を鳴らした兵士はそれどころではないと金槌で近づいてくる軍団を指した。


「た、た、隊長!魔族の魔族の軍団が!!攻めてきました!!」

「ああ、何寝ぼけたことを……」


 その動揺っぷりに、寝ぼけて変な夢でも見たのかと疑いそれなら殴ってやるかと思いつつも、隊長はその指した方向を見る。


「……」


 そして血の気が引くと同時に酔いが冷める。

 そんな経験を彼はした。


 まるでこちらの準備が整うを待つかのように、布陣した魔王軍。


 その数は決してこの街を守る兵士では到底足りないような軍勢。


 街を包囲できるほどの軍勢がなぜ、いきなりこの国に現れたのか、見張りの兵は偵察の兵は?


 何をしていたと隊長は責任を誰かに押し付けようとする思考で埋め尽くされた。


 だが、この国で戦争に真面目に取り組んでいる人はさほど多くない。

 前線からほど遠いこの地は、戦争をどこか他人事のように考え、都合のいい部分だけを受け止めていた。


 そんな国で、まともな偵察兵が機能すると思ったか。


 偵察に出ていた巡回兵も、魔獣が出ない地域で酒を飲み管を巻いていた。


 それを制圧することなど他愛もない。


 伝令も来ず準備もできないまま、大軍が発見されたのは街の直前まで接近を許してから。

 戦争で考えられる限り最悪に近い展開。


 籠城するにも、助けを求めることすらできない。


 いや、そもそも籠城することなどできるのか?


 隊長なら、本当なら城門を閉じろと指示を出すはずなのに、それすらできないでいる。


 余りの出来事に気が動転している。


 戦争の経験のない、平和ボケの欲に溺れた兵士などこの程度か。


 日頃から弱者にはでかい態度を取っているのに、この体たらく。


 その兵士たちの様相を遠くから見ていた鬼の軍団から一人の鬼が前に出る。


 その鬼を一目見れば、子供でも分かる。


 この鬼こそ、この軍団の長だと。


 迫力があり、なおかつ敵なのに英雄だと思わせる風格。


 背中に背負った金棒を揺らし、その鍛え上げられた肉体を見せつけ、その鬼は一人城壁に向けて歩き。


 道半ばで歩みを止めた。


 そこで、隊長は安堵した。


 もし、あの鬼がこのまま街に入ったら自分たちの運命は決まったも同然。


 まだ、魔王軍が攻めてくるとは限らない、そんな楽観的思考の極致のような考えが彼に安心感をもたらした。


 だが、それもつかの間。


 鬼は大きく息を吸い込んだ。


 何をするのかと、弓も持たず、静観する兵士たち。


「俺は魔王軍が七将軍が一人!!鬼王ライドウ!!俺たちはこの国に宣戦布告する!!人間たちよ!!俺たちの歩みを止めたければ全力で抗え!!半刻後俺たちの軍勢はこの街を攻める!!精々首を洗って待っているんだな!!」


 その緩んだ気持ちを一気に引き締める鬼王の宣戦布告。

 俺たちは戦争しているんだと、今更現実を押し付けるような雄叫び。


 それでも隊長はなにが起きたと、これでも現実を受け入れられない。


「た、隊長!!どうしましょう!?」


 しかし、動揺している警鐘を鳴らした兵士によって、ようやく自分は魔王軍と戦うことになることを理解した。


「城門を閉めろ!!兵士を集めろ!!俺は領主様にこのことを伝えに行く!!お前らは全力でこの街を守れ!!」


 それでようやく最初にすべきことをの指示を出すことができた。

 それでも最低限としか言いようのない指示だが、出さないよりはマシという物。


 その指示を出した後に慌てて見張り台から隊長は駆け下りて、馬小屋に走った。


「クソ!何でこんなことに!!」


 その間もすれ違う兵士に同じような指示を飛ばし続け、出来るだけ多くの兵士を城壁の上に集める。


 馬小屋まで駆け抜け、その中でも一番の名馬に鞍を付ける。


「ああ、くそ!!」


 だが、魔族が攻めて来たと言う事実は彼の手元を狂わせる。


 そこに苛立ちながらも、鞍を付けた隊長は馬に乗り、そのまま領主の館へ向かう。


「隊長どちらに?」


 と見せかけて、向かったのは魔王軍が攻めて来た城門とは反対方向の門だった。


「魔王軍が攻めてきた!!俺は援軍を呼びに隣の町に行ってくる!お前たちはこの街を死守しろ!!」


 彼は上司に指示を仰ぐのではなく、保身のための逃走を選択した。

 馬に乗って道中にあった自分の家から金品だけ持ち出して、逃げ支度を済ませて最低限の格好を済ませた隊長は慌てる兵士を無視し開け放たれていた城門から外に駆け出した。


 逃げろ、あの鬼から逃げろと恐怖に駆られて馬をかけさせる。


 街を守る兵士の長がやることではない。

 だけど、命を守るために仕方ないと心は大声で言い訳をして、この行動に正当性を持たせる。


 あの街がどうなってもいい、部下も、仲の良かった酒飲み仲間も、お気に入りの娼婦もどうなってもいい。


 自分が助かればそれでいいのだ。


 そう思って、街から離れる。


 名馬の名にふさわしいその速力でどんどん街が遠ざかる。


 あの鬼の姿が見え無くなればそれでいいと思っていた。

 それ故に馬を休めることを考えて、駆け足から歩み足に変えた。


「逃げ切れたか」


 周りは静かな平原、誰もいない。

 そのことに自分の安全を確保したと思った。

 だから、遠くから射かけられた矢に気づくことなく、隊長の命は散る。


「戦争はな、援軍を呼ばれないように気を付けるのが常識ってやつだぜ」


 それをやったのは伏兵として潜伏していたゴブリンだった。


 まるで周囲を警戒しない兵士の末路に呆れたようにギリースーツを着込んだゴブリンは我欲に満ちた男の結末を見届けるのであった。


 今日の一言

 同情の余地がない、そんな言葉が生まれるくらいの出来事はある。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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