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65 縁の下の行動

田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



「で、では後で連絡の使者を送らせていただきます」

「ええ、では私は宿にてお待ちしております」


延長に重なる延長、食事やまだ話し合うべきことがあるのではと引き止める声を、すべて当事者たる鈴木少年の体調不良を前面に押して話し合いを後日に回すことに成功した。

司教とはあの部屋で別れ、最後に見送りをしていたのはその付き人の司祭だ。

冷や汗を流す司祭に笑顔で対応して俺はすっと身を翻した。

スーツを外衣で隠しメインストリートを歩いていく中で監視と思える視線をいくつか感じる。

何人かが交代で俺の後ろを追跡しているようだが、この程度なら問題ないと言える技量だ。

わざと分からせて警告しているのかともとれる。

しかしそれもタバコが吸えない程度の問題にしかならない。

部屋に戻ってからとタバコを我慢することにし、素直に俺は宿への道を歩く。

その仕草は無防備に見えるかもしれないが、もし何かあれば裏の方で動いてくれる。

保険はしっかりかけておいて、思考は今回の交渉の成果はどうだろうと自己採点に移る。

パチパチとソロバンをはじくように失敗と成功を計算すれば、今回の件は八割がた成功といっていいだろう。

上出来だと言える結果に少し自分を褒める。

今回の交渉の主眼は表向き勇者に会うことを目的にしていたが、それとは別に俺の姿勢を国側に伝える目的もあった。


「賽は転がした。あとは出目が出るまで待つのみだ」


突然の交渉の終了、たとえあとで交渉できる約束が得られたとしてもあちら側としては継続して交渉がしたかっただろう。

なにせ俺は否定も肯定もできない内容を勇者である鈴木少年に向けて言いながら、その実トライスに向けて伝えていたのだから。

お宅の国は人様の国から子供をかっさらって人殺しに仕立て上げる国なのですか?と。

だんだんと司教の後ろに立っていた司祭さんの顔色が青くなっていたのが見えた時は漫画かとつっこみたかった。

あえてそれに気づかない振りをして本命である司教の様子を窺っていたが、最後まで静観を貫いたのはさすが古狸といったところか。

あの場で介入して否定すれば鈴木少年の今までの訓練はなんのためにという話になり、肯定をすれば国同士の関係悪化になりかねない。

トライスからすれば俺たちの国である日本は勇者が大量にいるような国だ。

たとえ表立って魔力がない魔法がないという事実を知っていたとしても、トライスから見れば潜在能力がずば抜けている人間が多数存在する大戦力国家だ。

強気に出て戦争になれば魔王クラスの戦力が出てくるのが分かっているのに戦おうとするバカはいない。

こうやって俺みたいな人間が異世界を渡ってきたということは、今回の交渉次第ではそうなる可能性があると向こうの頭の中では可能性の中に上がっていたはずだ。

となると現状帝国と戦争しそうなトライスにとって日本との関係悪化は悪手以外の何ものでもない。

なので交渉の顔である俺にあの場では強気に出れず、鈴木少年がメッタ打ちにされていたのを見逃したのだろう。

何も介入しなければあの発言は鈴木少年が暴走した結果でしかないのだから、国としては別の見解があると言える。

もしかしたら俺を封殺できる説明が出てきたかもしれない。

交渉の勝負としては仕切り直しによるギリギリ判定勝ちといったところだが、俺の本命は相手への警告と勇者に毒を仕込むこと。

さてさて、向こうはどう出るかね。

残り二割の不確定要素を考慮しながら宿への道を進んでいった。


Another side


次郎がそんなことを思っている中で事はこちらでも進んでいた。


「まさか本当に迎えに来たのかよ?」

「鈴木が会ったって言ってたから間違いないんじゃねぇのか?」


日本と比べて娯楽の少ないイスアルでは噂話などは数少ない娯楽の一つになっている。

それは勇者たちも例外ではない。

ゲームもテレビも携帯もない。

漫画や雑誌もない。

コンビニやゲームセンターもない。

身分上ショッピングできるような自由もなければ観光もできない。

それに加えてこちらの15歳の男なら当たり前に嗜む飲酒も風俗も、学生であるがために日本の法律に触れるということで男は自粛している。

女子も日本の菓子類に比べて味も見た目も違うことで最初は良かったが、日に日に物足りなさを感じている。

要は日本と比べて娯楽が激減している。

そんな中で日本への帰還の話が流れれば瞬く間に広がるのは当然の流れだ。

そして、これは次郎が知らない事実で確定的な話で巡っている。


「あいつのスキルって虚偽看破だろ?」

「ああ、だから偽物かどうか確認するつもりで司教さんに連れていかれたんじゃないのか」


勇者といえば特別なスキルというのが典型的なお約束である。

その例に漏れずこの学生たちにも一人に最低一つスキルを得ている。

その中で鈴木少年が持っていたのは虚偽看破、相手が嘘を言っているかどうかがわかるスキルだ。

と言ってもわかるのは嘘をついているかついていないかの二択だけ、どういった嘘をついているかまではわからない。

なので隠し事がわかるわけではなく、気をつければ回避は可能なスキルというわけだ。

だが、嘘を言っていない事実というのが今回の噂話では重要になる。

日本に帰れる手段がある。

この事実が勇者の中で波紋を呼んでいた。

二人の男子学生も今日は訓練が臨時で中止になったことをいいことに食堂に向かいながら話していたに過ぎない。

だが、本心では国を救うということに実感が湧いていなく、やらなくていいかもしれないという情報に期待していた。


「なんか食堂がうるさくね?」

「ああ~そうだな、この声って冴木か? あいつ神経質で俺苦手なんだけど」

「わかる、顔は美人だけど性格が細かいっていうか融通が利かないよな」


そんな中で目的地の扉を挟んだ先から女性の甲高い声が聞こえてくる。

扉を開ければ案の定彼らが想像していた少女が鈴木少年にめがけて怒鳴り散らしていた。

そして怒鳴られている鈴木少年を庇うように一人の少年がその少女に相対している。


「早川か~あいつ確か鈴木と仲良かったよな?」

「確かな、鈴木と早川が同中だったはずだ」


サッカーが似合いそうな髪を短く切りそろえた少年、早川聡は見るからに不機嫌そうに怒鳴る少女、冴木真奈美に向かい合っていた。


「だから私は言ったじゃない!! 助けを待とうって、それなのに日本から来た人を返すなんて勝手な真似を」

「鈴木に当たっても仕方ないだろ! 今回は司教さんが鈴木を選んだわけだし、また来るってその人も言ってるんだ。次は全員出会えるようにすればいいだけだろうが」

「誰にも相談しなかったのが問題なのよ!! それにそんな保証がどこにあるのよ! もしこれが最後のチャンスだったらどうするのよ! 早川! あなた責任取れるって言うの!!」

「マナミ落ち着こうよ、喧嘩しても仕方ないじゃない」


悪いタイミングで来てしまったと思う二人だが、話している内容は二人が知りたがっていた内容だ。

ここで聞かないという選択肢はないので会話に加わるようなことはせずそっと混ざり込むように遠巻きに位置取る。


「……そうね、怒っても疲れるだけね」

「そうそう、喧嘩しても仕方ないって、それで鈴木くん。その人が日本人って本当?」

「う、うん、間違いないと思うよ。嘘は言っていなかったし」


その選択は吉となりタイミングよく消火作業が入り、そして聞こえてくる内容で噂話が本当だということを知れた二人も自然と期待値が高まる。


「……で、でもいいのかな勝手に帰って」

「なによ、あなたまだそんなこと言っているの?」

「だって、ここの人たち困っているんだよ?」


だが、鎮火した火に油を垂らすように鈴木がおずおずと発言をする。

それにギロリと敵意を隠さず冴木は牙をむく。

もともと鈴木と冴木の仲は良くもなく悪くもないただのクラスメイトの関係だった。

だがこっちの世界に来てからはそれは変わりこうやって度々口論を交えるようになった。

学生の中でも派閥が出来上がったからだ。

もともと仲の良かったグループ同士で派閥を造り、それを繰り返して大まかに三つの派閥が出来上がった。

一つは勇者として活躍しようと積極的な派閥、これに鈴木は属していた。

二つ目は勇者としての活動よりも帰ることを模索する派閥、これに冴木は属していた。

この二つの派閥の人間同士はもちろん仲が悪い。

互いの行動が互いの目的を阻害するのだから仲良くできるはずがない。

それでも殺し合いや暴力に訴えなかったのは、単に日本人の常識と気質があったからだろう。

そして仲が悪いといっても相手を無視したり、勝手にしろと放置するか、過激になってもこうやって口論になるのが精々だ。

加えてトライスの人間も間に入ることで最悪の同郷同士での争いによる空中分解は避けられている。

そして三つ目の派閥、いや派閥とも言えない最大グループは中立や様子見を掲げている。

何もできない、何をすればいいかわからない。

帰りたいが勇者にも興味がある。

そんな二つの理由を持ったメンバーの派閥である。

早川や冴木をたしなめている少女笹川彩奈はここに属している。

良く言えば中立だが、悪く言えば風見鶏を決め込んでいる派閥でもある。

こうやって仲のいい鈴木が責められているのを見て、勇者派の鈴木を早川が庇うのがその証だろう。

そして今回冴木が鈴木に抗議しているのは、冴木たちが掲げる帰還の機会を鈴木が潰したからだ。

親の敵のように怒鳴り散らす冴木は今でこそ落ち着いているが、目つきは変わらずギラギラしている。


「あなたは困っているからといって拉致してきた国の人を助けるというのですか!!」

「だったら、これから死にそうになっている人たちを冴木さんは見捨てるというのか!」


言っていることはどっちも間違っていない。

冴木の言い分は被害者からの視点で的を射ている。

鈴木の言い分は善意の立場から来る視点で的を射ている。

互の言い分は立場によって変わるが人としては間違っていない。

今までなら水掛け論で互いに一歩も引かず結論など出なかったが、ここで次郎の毒がその効果をあらわしてくる。


「それで人殺しになってしまっては元も子もないわ!! あの資料をあなたも見たでしょう!! 私たちには帰りを待ってくれている人がいるのよ!!」

「……それは」

「少なくとも私は帰るわ、帰ってみせるわ!」


それを言われてしまったら鈴木には反論する言葉を持ち合わせていない。

次郎の言葉と行動はここで帰還派の勢いを後押ししている。

自然と勇者派の行動を自覚させることで抑制している。

そして善意のボランティアで人を殺すのかと聞かれて頷けるほど勇者派の人間も狂ってはいない。

ただ、目の前で助けを求める声を無視したくないという気持ちがあるのも確かだ。

付け焼き刃であるがそれを可能にする力を持ったのもその気持ちを助長している。

それが支えであったのだが、鈴木の中でそれがぐらつき始めている。

その中での口論は火に水をかければどうなるかわかるように勝敗がつく。

穴があれば入りたいと身を縮こませる鈴木に、それを見下す冴木だ。

どちらが敗者でどちらが勝者なんていう必要はない。

さっきまで庇っていた早川も日本人の使者を返してしまったことに対しては庇えたが、勇者として行動することについては庇うことができなかった。

彼の意見もまた冴木の意見に近かったからだ。

決着は付いたが結果として互いに感情をぶつけ合っただけで有意義な意見を交換できたわけではない。

只々空気が悪くなっただけだ。

期待していた面々は残念そうにそのまま別の雑談に移っていく。

その中で、様子を見ていた一人の男子がそっと席を立つ。

誰にも気づかれないような自然な仕草ではあったが


「どこに行くのですカ?」

「宮川さん? いやちょっとあそこに居づらくてね」


険悪な空気が漂う中、只々気まずくなったという理由で部屋を出ようとした男子をアメリアは引き止めた。


「そうですカ、確かにあそこには居づらいですからネ」

「ああ、それに今日は訓練もないみたいだし部屋に戻って休もうかなって」

「それがいいですネ、引き止めてソーリーデス」

「気にしないで」


交わした会話はほんの数言、立ち去る男子を見送ったアメリアの表情は笑顔だった。


「私もダンスのレッスンしようかナ」


あの雰囲気なら仕方ないと男子を見送ったが、何かが引っかかったから引き止めたという直感が彼女の中にあった。

結果としてアメリアはそれを気のせいだと割り切っていつものと変わらない彼だったと思い込むことにした。

この場は居づらいのは事実でもあるし、彼の言い分に違和感はなかった。

ちょうどいいタイミングだと思い同じく遠巻きにしていた席から離れることにした。

空いた時間をどう潰すかはアメリアにとってはそんなに難しいことではない。

頭の中に入っている何十何百というリズムでカラダを動かす。

ダンスという趣味を持つ彼女は勇者の身体能力をフルに活用して今までできなかったダンスを楽しんでいた。

おかげで逆にダンスの時間が少ないと不満を抱けるだけ暇を無くすことができていた。

次郎からの指示であるクラス全員に資料を極秘で見せることは終了している。

あとは次郎に任せていればいいという気楽な感覚で余暇を過ごそうといつもの中庭に向かう。


「あ、騎士ナイツさんに言わないト」


そこで早朝と違い昼間に中庭に行くには騎士の同行が必要なことに気づいたアメリアは、向かっていた足の方向を変えて最近覚えた近道に入り込む。

頭の中でリズムを刻みながら歩いていきもう少しで騎士の待機所につく。

そんな時だった。


「首尾は?」

「問題ないですよ、あいつら俺をまだ同郷のやつだと思っているさ。情報なんて簡単に集まる」


勇者として底上げされた聴覚が妙な会話を拾い上げた。


「What?」


不穏な内容につい小声になった声をこぼし体は足を忍ばせていた。


「そうか、あの男やはり勇者と接触していたか」

「誰かまではまだ特定できていないが、噂の出処から何人かは目処が立っている、時間の問題さ」

「その時間が惜しい、早急に頼むぞ。魔力の補充は怠るな、バレたら事だ」

「了解ですよ、あとで補充しておきます。っと、そろそろ戻ります。報告はいつも通りで」

「うむ」

「!?」


声を出さなかったのは偶然だった。

気配を消し、ゆっくりと覗き込んだ先に見えたのは知らない男がペンダントのような道具を使ってさっき会話していたクラスメイトに変わる瞬間だった。

決定的な瞬間を見たアメリアはその場で司教とクラスメイトだったと思っていた人物が立ち去るのをじっと息を潜めて待った。


「……どうしよう」


そして立ち去った先に訪れた沈黙、誰もいないことを確認してから彼女は途方にくれた。

さっきの光景が事実だというのなら


「どうすればイイネ」


クラスメイトの何人かは、もしくは全員が偽物ということになってしまう。

その事実を前にアメリアは目の前を壁に覆われたような感覚に襲われる。


Another side END


今日の一言

陰で行動していることは知られないことのほうが多い。


今回は以上となります。

暗躍に暗躍を繰り返す展開になっていますかね?(汗

ここからアメリアを活躍できるように頑張っていきます。

これからも本作をよろしくお願いします。

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