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676 出鼻をくじくそれができるかできないで差が出る

 

 Another side


 イスアル軍の本来の道筋では、魔王を神の塔によって封印しつつ、兵隊を送る。

 この段階で魔王を討伐できればそれが最良であるが、アンリ姫の中では戦力的に大軍と呼べる数であっても、魔王を倒すには才能が不十分と判断していた。


 精鋭と自称する国の兵士。


 その兵士が一人でも将軍を倒してくれれば、釣り合いが取れるとも踏んでいた。


 本命は持久戦、魔王城の封印を目くらましにしてアンリ姫とダズロによって選りすぐった精鋭をゲリラ戦力として送り、魔大陸を混乱させ、相手の指揮能力の低下、連携の崩壊、可能性からそのまま魔王の不在を狙って魔王の代わりになろうとする野心をつくつもりであった。


 だけど、それは初手の魔王が封印され続けるという前提が必要だった。


 それがなければ、用意した盤上はすぐに覆される。


 アンリ姫はすぐに撤退をせねばならなかった。


 だけど。


「……全滅ですか」

「はい、魔王が復活した後の展開がまずかったですねぇ」

「どうやったかは調べる必要はありますが、神の塔を壊された段階で、即座に伝令を飛ばして撤退の指示を出すべきでした。」「いやぁ、迅速に兵を送れる転移陣がまさかまさかの裏目に出るとは」


 それは間に合わなかった。

 地球のように通信機器が発展しているわけではないイスアルの情報伝達手段は非常にアナログだ。


 念話の魔法も、世界を越えてしまったら意味はない。

 物理的に、走って伝える以外に伝達する方法がないのだ。


 神の塔で封印を確認してから、兵を送り出したのが運の尽きだったのだろう。


 魔王城に集結する兵力が少なかったから油断したと言い訳もできる。


 だが。


「兵が全滅したことに関して、諸侯が説明を求めてますね」

「当然ですね、元から切り捨てるつもりの戦力であっても今回の捨て方は完全に無駄です。相手の方が上手だったと認めるだけでは、この不安は拭えないでしょう」


 冷静に分析しただけでも、総大将の失態は連合軍での発言力を大いに削ぐ結果になった。

 これでゲリラ戦力を送り込めていたらまだ何とかなった。


 いや、兵力を送り込まなかったらまだ何とかなった。


『もし』の話をしても仕方ない。


 今は気持ちを切り替える必要がある。


「準備をしてきた僕が言うのもなんですけど、初手でのこの躓き方は結構危ないですよ?今度は向こうが攻め込んできますしね」

「それを考慮して、攻防のバランスを考えないとなりません。まずは動揺を鎮めることからです」

「はいはい、お供しますよ~」


 あの塔を壊せる存在が、魔王以外にいたとは。

 鬼王、不死王、この二人が揃ったら壊されると思ったから向こう側にスパイを送り、反乱を起こさせ片方を釘付けにさせた。


 鬼王の方が城の対処に来た。


 ここまでは良かった。


 しかし、結果的に防衛設備である神の塔が破壊され、むき出しにされた戦力を鬼王が殲滅すると言う流れができてしまった。


 それを作ったのは、たった一人の存在。


「いずれ、この借りは返します」

「あらら、敵さんには同情しますよ。姫様のやる気を引き出してしまったらそう簡単に収まりませんよ」


 アンリ姫は、ニヤリとそのおしとやかな風貌には似つかわしくない、されど、それが本性だと思うとしっくりくる獰猛な笑みを浮かべる。


 それを見て、ダズロは作戦をとん挫させた相手に同情の念を禁じ得ないと言わんばかりに天に祈った。


「では、やるべきことはわかってますね?」

「はいはい、予備の作戦の方を本命に切り替えますね。まったく、こっちの方はあまりやりたくないんですけど」

「賽は投げられました。後は出目を操作するだけです」


 しかし天に祈ったところで、仕事が減ると言うわけではない。

 上司の姫君は、すでに頭の中で諸侯を納得させる言い訳を作り出し、神の塔を失ったと言う事実を補填する方法を考え付いているらしい。


 出鼻をくじかれ、今度は反撃をされる可能性を考慮すれば、この戦に勝てる可能性はかなり下がったと言わざるを得ない。


 けれど。


「勝つ気満々ですねぇ」

「ええ、まだ勝機はあります」


 この長年の戦に終止符を打てる可能性はまだあると、諦めの言葉からほど遠い力強い目でダズロに宣言する。


「その勝機が続く限りはお供しますよ」

「なら、最後の最後まで付き合ってください」

「そりゃ、とてつもないところまで行きそうですね」


 イスアル側の初戦は敗退。では、魔王軍側は勝利に喜びを感じているのかと言えば。






「ふむ、なかなか悪い状態だね」


 そういうわけではない。


 神の塔の破壊に成功した。

 それはいいが、いつ何時、その塔の機能が復活するかわからないので魔王城の機能を使って城を空に浮かべ、一時的な安全を確保。


 破壊された塔の中から出て来た敵兵たちは、後詰でやって来た鬼王ライドウが殲滅して見せた。


 それだけ聞けば、危険を脱したと言ってもいい。


 しかし、玉座の間で玉座に座り足を組み、そして悩む魔王の顔はいつもの笑みを浮かべているものの、状況を良い物とは捉えていなかった。


「肯定、魔王城の座標を把握され、それを利用した攻撃を可能にし、その犯人も不明」

「加えて、この塔をぶっ壊すために次郎の野郎が魔力を使い切って眠ってる。竜王の野郎も少しばかり無茶な魔力の使い方をしたから、しばらくは全力で戦えませんぜ」


 魔王軍の主力である、将軍二名の脱落。


 竜王と人王。

 そのどちらもタフさという面では、将軍の中でも上位の存在だ。


 その二人の一時的な戦線離脱。


「犯人の目星がつかないのは仕方ない。ここまでのことを手引きした存在がそう簡単に尻尾を出すとも思えないからね。監視の目を厚くしておいてくれ。人王と竜王の復活の目途は?」

「竜王の野郎は、雑魚散らし程度なら問題ねぇですぜ。だが、次郎は……」

「神の宝物を切り裂いた代償は多大、魔力の損失だけではなく特級精霊の過剰使用。体の負担と同等の魂の負担を負っています。回復は可能、されど、時間を要する」


 しかも前線で戦うタイプの二人が一気に抜けるのは反撃を想定していた魔王軍からしても出鼻をくじかれる形となっている。


「そうか、人王に関してはエヴィアの方でサポートしてもらうとして、不死王の反乱軍の方も時間がかかりそうだね」

「イスアルの息がかかってるのは間違いない。補給物資の支援を確認。魔道具で偽装しているが、兵の治療を行う天使の姿も確認」

「ちっ、裏切者らしいやり方だな」


 加えて、反乱軍の抵抗が思いのほか強い。


 最初は不死王の軍勢がことに当たれば、早期とは言わずとも解決する目途は立つと思っていた。

 だが、蓋を開けてみれば押してはいるが、すぐに倒しきれると言う雰囲気ではない。


 イスアルの支援が入っているということで押し切れないのだ。


「加えて、いくつかの領地の動きも怪しいと来た。なかなか向こうも用意周到というわけだね」


 その支援をするために樹王を向かわせることも検討したが、それよりも先にきな臭い情報を報告されてしまい。

 結果的に不死王の背後を襲われないように牽制することだけにとどめざるを得なかった。


「さて、この後どうするべきか」


 盤上の駒が一気に動いた。


 それを見て、魔王は数瞬ばかりの黙考に浸る。

 致命的となりえる相手の作戦を、人王が防いでくれた。


 これは相手も予想外だっただろう。


 魔王からしても、あの封印は一度受けたら中から破壊することはできないと理解している。


 故に、外部から一部とはいえ破壊して見せたのは称賛に値すると思っている。


 その代償で動けなくなるくらいに消耗するのも仕方ないと、褒めることはあれど責めるつもりはなかった。


 故に、現状の戦力で動かせるモノをどう動かすか魔王は考えた末に。


「うん、この際だ。攻めようか」


 守るのではなく攻めることを選んだ。


 基盤が安定していない現状で攻めに回ることは愚策とも捉えかねない判断。


「今回の出来事は向こうからしても予想外のはずだ。これだけの軍勢が何もできず全滅していることを想定しているとは思えないしね。であるなら、そこに追撃をかけて向こうに攻める余裕を与えない」


 だが、魔王としては王道とも言える判断だ。

 事実、この判断を聞いて鬼王は獰猛な笑みを、機王はその判断に異論を挟まない。


「ライドウ、行ってくれるかい?」

「おうよ!その言葉を待っていたぜ!!」


 そしてその攻める担当となった鬼王は、右手の拳を左手の手のひらに打ち付ける。

 バシンと大きな音が響き、自分が選ばれたことを喜ぶ。


「派手に暴れるか、人王の提案に乗るかは君に任せるよ。目的としては、相手の余裕をなくすことが目的だから、深追いは厳禁だ。幸い、人王の方から支援ができるように手回しをしているようだから補給物資は気にしないでいい。戦線が伸びすぎないことだけは気を付けて」

「わかってますぜ」


 その喜びに水を差すわけではないが、魔王は攻めるときの方針を鬼王に伝える。


 それ自体は納得しているのか、鬼王は不満を漏らすことはなかった。


 ただ。


「大将、戦線さえ伸びなければ何をしてもいいんですな?」

「ああ、構わないよ」


 鬼王は何を思ったのか、獰猛な笑みとは違う、何か企むような笑みを浮かべた。


「ふむ、その顔、何か思いついたのかい?」


 企みという分野で言えば、ライドウは得意分野ではない。


 むしろ彼の場合は正面から殴りかかると言う方法を好む性質があるので、そちらの分野に対して嫌悪感を抱いていると言ってもいい。


「いや、俺も弟子に倣って少しでも成長したほうがいいと思っただけですぜ。ただまぁ、元来の気質は直せねぇんで俺なりにというやつですが」


 しかし、嫌悪感だけを抱き続けても、成長はしないと理解し納得し、進もうとする鬼が生まれたのも変化と言える。


 その成長に魔王は喜びの笑みを浮かべつつ。


「それは楽しみだ。吉報を期待するよ」

「大船に乗ったつもりで待っていてくだせぇ」


 背を向ける鬼の王を見送るのであった。


「さて、初戦は痛み分けと言いたいがこっちに流れが向いている。けれど、その流れも気を抜けば向こうに持っていかれるかな。機王、警戒網の再構築と塔周辺の調査を頼むよ、あのまま放置したらどんなものが出てくるかわかったものじゃないからね」

「承知しました」


 機王にも指示を出せば、玉座の間には魔王一人になる、わけではない。


 周囲に護衛はいる。

 事務官も待機している。


 だが、彼らは魔王という存在に話しかけるという行為をしない。


 静寂が玉座の間を覆うが、魔王にとってその静寂は今はありがたい。


 見えぬ敵、見えている敵、敵になるか味方になるかわからないコウモリの存在。


 今後の相手の出方。


 考えることは多い。


「……ふむ」


 顎に手を当て考えれば考えるほど、今回の戦争の相手は頭がキレると言うのが手に取るように理解できる。


 神の塔の使い方を見るかぎり、神の信仰に傾倒した存在ではないのはわかる。


 信仰に傾倒しているのなら使い捨てるような方法で使わないからだ。


「となると、帝国かな」


 であるなら、その中で大軍を率いることができる国は限られその誰かが連合の総大将ということになる。


「王は……違うね。彼はこんなからめ手を使う人じゃない、宰相の線もあるけど彼が戦場に立つと言う姿は想像できない」


 魔王は、今回の戦いで得た情報を元手に、想像を膨らます。


 敵を知り己を知ればという言葉を体現するように。



 今日の一言

 初動は大事



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 次郎どれくらいで回復するんだろうか。もう一度古龍の血を刀から大量に流して貰って超回復強化も見てみたいね。
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