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674 始まるのは唐突に

 

 開戦した。

 そう考えて思ったよりも動揺していない自分がいることに他人事のように驚いている自分がいる。


「教官、これからの動きですが」

『それに関してじゃが、ワシは動けん』

「それは」

『ああ、向こうと繋がっておった奴がこのタイミングで決起しおった。ワシはそ奴らの相手をせねばならん。そして元々防衛を担うはずだった機王も動けん。巨人王は心当たりとやらの対応をしておるから、樹王がその穴を埋めるはずじゃ』


 淡々と状況整理を努めつつ、こっちの戦力が集まることを待つ。


「そうなると予備戦力がいないと言うことですか」

『そうなるの、各領地から兵士を集めるにも時間がかかりすぎる。いや、今友好的な領地から兵を招集するのは領地の防備を手薄にすることになる。それは悪手じゃ』

「白い塔がイスアルからの攻勢だとすれば、大陸全土が戦場になる可能性があると」

『そうじゃ』


 通信越しに対応策を練るが、動かせる戦力が一気に減ったことが足かせになっている。


『ジロウ、初陣でこのような大任を任せられるのは酷かもしれんが、主には魔王城に向かってもらう。こちらに攻め寄せる軍勢はライドウの奴に任せる。ルナリアと奴が揃えば早々に後れを取る心配はない』

「わかりました、魔王様を開放できれば逆転の目は十分にあると言うことですね」

『うむ、期待しておる』


 それを補填する必要があると言うことか。


「人王様、出港準備ができました」


 そんな会話をしていると艦長から出向の準備ができたことを伝えられた。


「わかった。教官、では自分はこれから魔王城に向かいます」

『うむ、こちらも片が付いたら向かう。竜王が先行しているから、連携してことに当たるように』

「わかっています」


 であるなら、早々に行動に移る。


「艦長、出港だ」

「了解しました」


 モニターの映像が切れ、そしてトゥファリスの動力部の出力が上がる。


「転移門起動後、微速前進、目標は魔王城!」


 艦長の指示のもと、乗組員が出港するため動きをしていく。

 係留索が解かれ、岸壁から徐々に離れ、そして目の前の大きな魔法陣に向けて船首が向けられる。


 その魔法陣はダンジョン内から魔力が供給されている特殊な転移門。


 将軍が保有する、魔大陸への移動ができる大型転移門だ。


 眩く輝く、魔法陣に向けてゆっくりとトゥファリスが進んでいく。


 この転移魔法陣を越えた先は魔大陸。


 そこで起きている異変を解決しないといけない。


 初仕事にしては大事になったな。


 艦橋から見える光景が、徐々に変わっていく。


「……」


 航行は順調に進んでいる。

 ならば到着するまでに、現状をまとめる必要があるか。


 さっきから気になっているのは一点。


 どうして、魔王城の場所にピンポイントで相手は白い塔を配置できた。


 魔王城があるのは首都である。


 そこにはもちろん国としての都市機能があるわけで、そう簡単に敵に侵入を許すはずがない。

 城壁には物理的な防御だけじゃなくて魔法的な防御も備えている。


 魔王城を転移魔法で攻撃されないための処置だってしっかりしている。


 あの都市に攻め込むなら当然、正面から物理的に挑まなければならないはず。


 しかし、現実初手で魔王軍の頭を抑え込まれた。


 それが真正面からできるとしたら、相手は神以外に考えられないが、大陸にも月の神という守護者がいる。


 早々に好き勝手にされるとは考えにくい。


 なら、考えられるのは。


「魔王軍に裏切者がいる?」


 いないとは断言できないが、ここまで大それたことをできるような細工を施せる立場だとできる人物というのは限られてくる。


「……」


 嫌な想像であるが、魔王軍の上層部それも将軍の中に手引きした人物がいるのではと一瞬考えてしまった。


 それを無言で振り払うために頭を振るが、一度考えてしまった嫌な想像というのはそう簡単に意識から外すことはできない。


 転移陣から抜けたトゥファリスは、月光が照らす魔大陸の上空を、徐々に速度を上げながら空を飛ぶが、目的地が非常にわかりやすい。


「想像よりもデカイな」


 魔王城を囲うように展開された六本の白い塔。


 白亜の輝きを放つ純白の塔。


 穢れを知らないその塔。


 空飛ぶトゥファリスだから見えるのかもしれないが、少なくとも空から見下ろしてもその姿をはっきりと認識できるくらいには大きい。


「人王様、十一時の方向に魔力反応があります。あれは……」

「竜王だな、かなり荒れているな。針路そのまま、正面の塔と竜王の動向に警戒」

「了解」


 そしてその塔を激しく攻撃しているドラゴンの姿。


 同僚の苛烈とも言える攻撃を白い塔は真正面から受け止めている。

 社長を封印することを考えているのなら、そう簡単に外部から崩れるような造りはしていない。


「艦長、今のうちに白い塔の解析を、竜王の攻撃で変化を感じ取れるかもしれん。敵が攻撃をしてくるまではこっちは様子見だ」


 その頑強さの理由を知るためなら竜王の行動を利用するのも有りだろう。


「よろしいので?」

「こっちも攻撃に加わっても壊れる気がしない。それに、下手に近づけば攻撃されかねないからな。なにより」


 そして。


「魔王城を封印したと言うのに、都市部を占領しようとする様子が欠片もない。戦闘が発生していないのが気になる」


 それよりも、敵の姿が都市に見えないと言う不気味な点の方が気になる。


「艦長、住民に被害は?」

「今のところはないようです。魔王城がいきなり結界で覆われたことで動揺している様子は見えますが、兵たちが市民たちをまとめているようなので」


 こんな大金星を挙げたのに、相手は何もしない。

 いや、何もしないことがすでに策略の内なのか?


「……」


 様子見で情報収集している場合じゃないかもしれない。


「艦長、この情報を知らせるついでに通信範囲にいる友軍とコンタクトを取ってくれ、どこでどういう変化が起きているか情報が欲しい」

「わかりました」


 嫌な予感、背筋に走るような静かな冷たさ。

 まるで、俺の動きが相手の手のひらの上で転がされているような感覚。


 艦長が、部下に指示を出しているのを聞きながら、俺は魔力を使う。


「来てくれ、ヴァルス」

「はーい、呼ばれてきましたよ~」


 こういう時は、結界のプロフェッショナルを呼ぶべき。


 特級精霊の知恵を借りたい。


「呼び出して早々に悪いが、あれに見覚えはあるか?」


 少しぶっきらぼうな言い方になってしまったが勘弁してほしい。


「あら、随分と険しいお顔、ってあれを見たら当然ね」

「やっぱり、神関連か」


 そんな俺の態度に大して気にした様子もなく、俺の指さす方向を見たヴァルスさんはあちゃーと嫌なものを見たと言わんばかりに、額に手を当てて嫌悪感を見せた。


「そうね、あれは神の塔。本当だったら神界にあるべきものよ。あんなのを持ち出すなんて世界のバランスとか考えてないのかしら」

「ヤバいのか?」

「かなりね。今この大陸はあの変態神によって絶妙なバランスを保っていたんだけど、あれはそれを崩しかねない代物なのよ」

「何が起きてる?」

「世界に穴が開いたと考えてくれれば想像しやすいかしら」


 神の持ち物だと言うなら竜王の攻撃を耐えているのはわかる。

 だけど、ヴァルスさんは問題はそこじゃないと言っている。


 艦橋の窓から、じっと目を凝らしてその白い塔を見る。


「あれ、地面から直接生えてるんじゃなくて地面に異空間の穴をあけてそこから生えてるのよ。それで固定しちゃってるからもうあそこら辺の空間バランスがおかしくなっちゃってるの。放っておいたらあそこに次元の大穴が空いちゃってそこから世界の崩壊が始まるって言う寸法じゃないかしら?」

「ヤバいじゃないか」

「さっきからそう言ってるでしょ」


 その白い塔のやっていることが、自動的な世界崩壊だということに血の気が少し引く。


「敵が出てこないのもそれに関係しているのか?」


 そしてそんな世界崩壊装置の側に兵士を配置しないのは、世界崩壊に戦力を巻き込まないためか。


「それはないわよ。あれ自体はとっても硬くて次元を繋げるだけの代物ですもの。ああやって結界を張ることくらいはできるけど、本当はただの通路。けど、おかしいわね私の探知にも引っかからないってことは」

「すなわち、あの塔は無人だと?」

「だと思うわ。むしろ、こういう使い方をしているから本命は別のところにいるんじゃないかしら?」


 合点がいくが、安心はできない。


「あれを破壊する方法はあるか?」

「私とあなたが協力すれば一本くらいはいけるわね。全部壊すとなると……うーん時間がかかるわね」

「具体的には?」

「一本壊すのに、あなたが昏倒するくらいに全力を出す必要があるから、そこから目覚めて回復してを繰り返すから具体的な時間は出せないわね。あなたの回復力次第かしら?」


 魔力を絞り出すのではなく、絞り出した先まで出し切らないと壊せないのか。


「厄介すぎる物持ち出してくるなよ」

「それだけ、あの中にいる人を危険視していると言うことじゃない?むしろこの世界を壊してでも勝ちたいって言う執念を私は感じるわね」


 これを考えた奴は、とんでもない奴かもしれない。


 世界を壊してまで勝ちに行くそんな発想を持てる輩など、そうはいないだろう。


「太陽神がそう決断したのか?」

「うーん、あれならやりそうって気はするけど、違うような気もするのよね」


 今回の戦争に、太陽神が本格的に入ってくると言うのなら戦い方は大きく変わる。

 こっちも神を持ち出さなければ勝ち筋が見いだせないかもしれない。


「それを判断するには情報が足りないか」

「そうね、だけどこれだけは断言できるわ。これを持ち出して来たって言うこと相当本気ってことね」


 戦争で手を抜くと言うことなどあるだろうか。

 何が何でも勝ちたい、そう思うからこそ戦争を起こすのではないのか。


「油断してくれていた方が、楽なんだけどな」

「楽して勝てないのが戦争よ」

「それもそうか」


 その本気を前にして、少し気合を入れなおして、どうするかと頭を捻ったタイミング。


「竜王様がこっちに向かって来ます!!」


 観測員が大きな声でこっちに報告してくる。

 そして、艦橋の真正面に竜王は飛び出て来た。


『おい!人王、何悠長に眺めてやがる!!』


 ドラゴンから人生初のクレームをもらったなんて冗談が頭によぎるくらいにはまだ俺にも余裕があるようだ。


「あの物体の情報を収集していただけですよ。サボっているわけではありません」

『何かわかったのか?』

「現状わかっているのは、あれは太陽神の持ち物ということと、理論上破壊は可能って言うことだけです」


 しかし、そのクレームを言いに来た竜王は俺の言葉を聞いて、すぐに怒気を引っ込めて情報を求めてくる。


 特段隠す必要はない。


 素直に今わかっていることを伝える。


『ちっ、この嫌な感じからわかっていたが。クソったれ』


 神の持ち物と聞いた途端に、不機嫌度が増した気がする。


『おい、人王、その破壊する方法はすぐにできるのか?』

「できますが、俺では一本壊すのが限界でそれをやると俺がしばらく行動不能になります」


 だけど、どうにかなる兆しがあるならとその方法を聞いてくる。


『……ならその一本を壊せ。その隙間を俺が広げてやる。そうすれば中から魔王様がどうにかしてくれる』


 そして意外や意外。


 竜王から協力の要請が出たのであった。



 今日の一言

 共通の目的があれば協力はできる。




毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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