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671 振り返ると自分のやっていることが見えてくる。

 

 趣味、趣味か。


 あらためて考えてみると、俺は趣味らしいものを持っていなかったかもしれない。


「……」

「いや、そんなに真剣に考える物っすか?」

「冷静に考えてみて、夢中になるような趣味がなかった。なんだかんだ言って戦うことは面白かったし、鍛えること自体にも忌避感はなかった。強いて言えば筋トレが趣味なのか?」


 趣味と言って、真っ先に挙げられるのは読書とかテニスとかそういう物だと思う。


 だけど、俺にその手の趣味があっただろうか。

 仕事漬けの前職の時は時々運動不足を解消するために剣道場に行っていた。


 他に流行りの漫画やゲームは買っては積みっぱなしで放置していた。


 この会社に入ってからは、体を鍛えることに夢中になって気づけばここまで出世していた。


 スエラたちとデートしている時も、どちらかと言えば彼女たちに合わせている感じで、自分の趣味を全開にしていたことはなかった。


「いや、それも仕事っすよね」

「仕事と兼用の趣味とか?」

「ワーカーホリックって言われるっすよ」


 趣味と実益を兼ねた、鍛錬が趣味みたいなものだが、それを趣味と豪語すると海堂の言う通り仕事しか生きがいのない人間だと思われてしまう。


「参考がてら、海堂は何か趣味はあるのか?」

「俺っすか?最近は暇な時間を使ってアミリちゃんたちと一緒にゴーレムを作ってるっすね。実用的なモノも作る時もあるっすけど、最近じゃ面白さ優先でやってるっす。これが思いのほか面白くて、なかなかハマるっすよ」

「プラモみたいな感じか?」

「それに近いっすね、自由度はかなり高いっすけどね。コツを掴めば意外と簡単にできるのも良いとこっす」


 海堂も昔は仕事をして家に寝に帰って、朝になったら仕事に行くと言うスケジュールを過ごしていた輩だ。


 俺と一緒で趣味がないと思っていたが、そうではないようだ。


「他にもバイクを作ったり車を作ったりして、三人でツーリングやドライブに行くっすよ」

「どこからツッコメばいいんだ?物づくり系の趣味だと言うのは理解したが、やっていることが趣味の範疇を越えているぞ」

「趣味ってこだわったらこだわる分だけ成長するものっすよ。最初は適当に楽しんでたっすけど、一度ハマったらどんどん進んでいくっす」


 ゴーレムを作ったり、車を作ったりと、海堂の物作り趣味はかなり本格的なようだ。


「アミリちゃんの私有地に俺たちの作った物を置かせてもらってるっすから、次の家はそれも置けるような家がいいっすね」

「OK、お前が趣味を楽しんでいるのはわかった。しかし、趣味か。仕事の合間に何かするのはいいんだが、その暇な時間があれば娘と会う時間を増やしたいんだよなぁ」

「無理にやっても楽しくないっすからね。趣味は楽しむことが大前提っすよ」


 しかし、多忙で時間の余裕がそこまでない俺にとって、新しい何かを始めるというのは中々踏み出せない境地だ。


 時間があるなら、少しでも家族との触れ合いに回したい。

 自分をないがしろにしていると思われるかもしれないが、それが俺にとって一番なのだから仕方ない。


「楽しむ、確かにそれは重要なことだよな」


 そして海堂の言う通り、無理をして楽しめない趣味を始める必要はない。


「北宮ちゃんは、最新の服を見るのが楽しいって言ってるっす。南ちゃんはゲームっすね。勝君は料理で、アメリアちゃんはダンスっす」

「そう聞くと、みんな趣味を持ってるんだよな」


 何か始めるのもいいかもとは思うが、いざ始めると考えると、何を始めればいいかすぐには思いつかない。


 腕を組んで悩むも、自分に合いそうな趣味というのはすぐに思いつくものではない。


「スポーツ系はどうっすか?先輩、体を動かすのは好きっすよね」

「好きだが……」


 海堂に聞かれたスポーツを改めてやると考える。

 スポーツならスエラたちを誘って一緒にやることもできる悪くはないのでは?と考えてみる。


 テニスにバスケ、バレーボールと言った球技全般。

 陸上競技に、カバディ―といったちょっとマイナーなスポーツ。


 色々と考えた結果。


「どれをやっても漫画なような超次元スポーツになりそうだな」

「それは、仕方ないんじゃないっすか?今の俺たちだと普通にスポーツするのも難しいと思うんっすよね」

「確かにな」


 俺が想像できるテレビ中継に出てくるようなスポーツではない何かになることが簡単に想像できてしまった。


 それはそれでやりがいがありそうだ。

 エヴィアとテニスとかやってみたら割と面白そうだなと思いつつ、それはあくまで気分転換でやるレベルだ。


 本格的に趣味としてやると考えると、なんか違う。


「身体能力が高すぎるのも考え物っすね。なんだったら俺と一緒にゴーレムを作るっすか?物作りはステータスが高いに越したことはないっすけど、それだけじゃないっすから」

「ゴーレムづくりか」


 体を動かす系統は全般的に面白いが、継続的にやれる時間もない。


 だから少し気乗りしなかったが物作り系はどうだ。

 前にスエラと一緒に、コテージを作っていたから、コツコツとやることは結構性に合ってた。


 ゴーレムというジャンルは俺も未知の領域だから興味もある。


「やろうと思えば俺たちが乗れるような巨大ゴーレムも作れるっすよ」

「おー、それはロマンがあるな」


 巨大ロボットのようなゴーレムも作れると聞けば、男として憧れていた分野を満たすこともできる。


「問題は専用設備を一から作ると結構な値段がかかるくらいっすね」

「ちなみにいくらくらいかかるんだ?」

「さぁ?俺はアミリちゃんの施設を借りてやってるっすから詳しい値段は知らないっすけど、小さなゴーレムを作れる施設を作るのに一千万は最低でも掛かるみたいっすね」

「……巨大ゴーレムを作ると考えると」

「最低でも億単位は掛かるんじゃないっすかね。それでも安い部類だと思うっすけど」

「……流石にそれはな」


 しかし、ロマンにはお金がかかると言う欠点があった。

 設備投資に最低でも数千万単位、それを払える財力はあるがお試しで始める趣味にそこまでかける気概は持ち合わせていない。


「ゴーレムは初期投資がヤバいって話しっすからね。でも極めるとアミリちゃんみたいなことができるっすよ」

「それでも、流石にその額は払えんな」


 ちょっといいなと思っただけに、少し残念だと思うがもう少し抑えめの趣味にした方が続けやすいと思う。


 思いのほかいい趣味が思いつかないな。


 酒を飲みつつ、音楽に耳を傾けて、考えるが今まで無趣味で仕事に没頭してきたツケがここで来たか。


 やりたいことが仕事と家族との時間という、良い事だとは思うが、少し寂しい男がここで爆誕した。


 よくよく考えてみれば、教官たちにもわかりやすい趣味がある。

 キオ教官は酒、フシオ教官は魔法開発。

 前者は純粋に宴会が好きで、後者は趣味と実益を兼ねている感じ。


「マスター、なんか先輩が始めるのにちょうどいい趣味ってないっすか?」


 丁度いいと言う何気にハードルの高い趣味を求めるとここまで難しいのかと思っていると黙々とグラスを磨いていたマスターに海堂が質問を飛ばしていた。


 それに、嫌な顔一つせず、すこし考える仕草を彼は見せる。


「そうですね、参考になるかはわかりませんが私は元からお酒が好きで自分の店を持つまではずっと世界中の酒を求めて旅をしていました。お酒を飲むためだけに冒険者にもなりましてね、その当時は本業は冒険者で稼いだお金の半分は装備に、もう半分はお酒にという生活を送っていました。そう言う意味では、やはり、人王様たちが言っていた通り好きなことをすると言うことがやはり重要なのではないでしょうか。初めてやることを探すのも良いですが、やはり好きなことを基準に考えるのが良き出会いに繋がると私は考えますね」


 そして、無難ではあるが俺にとってはスッと胸に入り込むような話でなるほどと思わずうなずいてしまったマスターの言葉。


「マスターありがとう。ついでにお勧めでおかわりをもらえないかな」

「かしこまりました」


 その言葉のお礼を兼ねた注文に彼は笑顔でかしこまりましたと言って、酒を用意し始める。


「好きなことか」

「結局そこっすよね、興味がなければ始めても続かないっすから」


 俺の好きなこと、それを考える。


「家族と一緒にいることかな」

「それ、さっきから言ってるっすけど、何かあるんっすか?」

「俺の親って結構自由人だろ?愛情はしっかりと感じているが、それでも普通の家とは違った何かを感じてたから、そこで普通に一緒にいれる家族っていうのに憧れがあるんだろうな」


 そこで自然と思い浮かぶのは、スエラたちと一緒に過ごしている時間だ。

 あそこには確かな楽しみがあって、癒しがあって、安息がある。


 それをおろそかにして趣味に没頭することは俺には考えられなかった。


「あー、そう言う話なら一人でやる系統の趣味は無理っすね」

「そうだな……そうなるなぁ」


 きっと自分一人で没頭できる趣味は、スエラたち嫁やユキエラとサチエラそしてこれから生まれてくるエヴィアとの子供が気になって集中できないだろう。


「うーん、となると家族と一緒に楽しめる趣味じゃないと難しいっすね」

「そうだなぁ」


 さらに面倒な条件が付いたなと、苦笑しつつ、無理に始める必要はないと考え始めているとそっと次の酒を用意してくれたマスターが今思いついたという顔で話しかけて来た。


「でしたら、私的な夢があるのですが良かったらお聞きになりませんか?」

「マスターの夢っすか?」

「ええ、もしかしたら参考になるかもしれませんし」


 いったいどんな話が出てくるのか。


「私は店を開くほどお酒が好きなのですが、色々な酒を嗜むうちにこう思うのです理想のお酒が欲しいと。人王様はお酒をよく飲まれるのでしたら、自分の理想のお酒を追求するのはどうでしょうか」

「自分の酒?自分で酒を造ると言うことか?」

「いえ、先ほどからお聞きする限り人王様は多忙のようなので自分で何かをすると言う時間は少ないと思います。酒造りというのはかなりの根気と時間が必要になりますからそれは無理かと。ですので、投資という形で酒造りをしている職人に援助する代わりに酒を作ってもらうのです。彼らからしたら酒造りの後援がもらえ、人王様からしたら日々進化していき理想の味に近づいていくお酒が手に入るという循環が出来上がります。そしてそのお酒を家族と楽しみ、そしてさらに将来はお子様と楽しむことができます。今からでは少し遅いかもしれませんが、お子様が誕生した年の自家製のお酒を熟成させて、お酒が飲めるようになったら一緒に飲むと言う楽しみもありなのではないでしょうか」


 それは想像していたよりも、納得し、良いかもと思える内容だった。


 言っては何だが、俺の周りは家族も含めて酒を飲む人が多い。

 そう言った人たちと一緒に、投資という形であっても俺の理想の酒を共有できるのはかなり良いのでは?


 さっきのゴーレムの時はそこまで金をかけるのはと躊躇ったがこの話なら多少多めでもお金を動かしてもいいと思っている俺がいる時点で半ば答えは決まっている。


「マスター、その話少し詳しく聞きたい。できれば腕のいい職人の方にも伝手があれば助かるんだが」


 そしてこの言葉を言った時点で俺の趣味が決まった瞬間であった。



 今日の一言

 振り返ると自分の姿が見えてくる。






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 酒作りスポンサーなら 鬼王や不死王も一口かませろとのってきそうw
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