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666 働く環境は最重要課題である

 

 さて、南からの提示された条件は今のところは問題ないの一言で済む。


 常識的でかつ、出世するなら当然のように望んでいい権利とも言える範囲だ。


 しかし、南という女性はそれで終わるような女性ではない。


 ここからが本番というわけか。


 酒の入ったグラスを、おいてまだあるぞと目で語る南に向き合うと。


「それで終わりってわけじゃないだろうな。どんな無茶振りが出てくるんだ?」

「ふふふふ、拙者に責任を背負わせる代価は高くつくでござるよ」


 ニコニコと笑ってはいるがここから先は先輩後輩の関係ではなくて、会社の同僚として話をすると目が語っている。


「まずは、情報が欲しいでござる課長権限で見れる情報は確認するでござるが、今の情勢を考えると絶対に戦争の情報と地球側で起こっていることの情報が欲しいでござる。その権限を与えてほしいでござる」

「初手からぶっこんで来たな。機密事項の閲覧権限を与えることは俺の権限でどうにでもなるが、それでも制限はかかる。それでいいか?」

「信憑性のある情報が閲覧できるのならいいでござるよ。拙者には情報部みたいな組織は持てないでござろう?」

「そりゃそうだ」


 そしてその企む目が語っていた通り初手からして求めるのはかなり厳しいラインを攻めて来た。

 情報というのは、宝だ。


 どこで何が起こっているかそれがわかるかわからないかで、行動指針に大きな差が出る。


 会社だって魔王軍の傘下の組織だ。

 通達していない情報の一つや二つは普通に存在する。


 そしてその伝えていない情報というのは、本来であればダンジョンテストを管轄している部署には必要ないとと判断されているか、伝えた場合に悪影響が出ると判断されている情報が大半だ。


 それを南は求めた。


「……テスターの中にスパイが紛れ込むことを警戒しているのか?」

「まぁ、そうでござるね。リーダーたちもそれを警戒して新しい子を入れるのを避けているのでござろう?」

「それもある」


 その理由は、さっき南が言ったスパイの発生を抑制するためだろう。


 新しく入って来た人材に関しては、大陸だろうが地球だろうが関係なく裏を取る。


 それくらいの警戒態勢を敷いている。


 そして悲しいかな、身内に対しても情報部は動いている。


 一度精査したから大丈夫というのは短絡的だと言わざるを得ない事件が起きたからだ。


 最早別人と化した、川崎翠、彼女が引き起こした事件はダンジョンテスターの稼働を止めるかもしれないという危機まで持っていった。


 それは魔王軍にとって警戒心と懐疑心を生み出すのに無理はなかった。


 最悪を想定するのなら、ここにいる面々だって十分に監視の対象になりえるのだ。


 だけど疑惑だけでは組織は運営できない。


 石橋を砕いて新しく鉄の橋を架けている暇もない。


 ある程度の妥協は必要なんだ。


「まぁ、それは今は言えんが、情報閲覧権限に関してはエヴィアに話を通して、それから社長に上申してみる。おそらく使えるのはお前だけでさらにギアスロールを使って誓約をかけられるから覚悟しておけ」

「まぁ、当然でござるな」


 その妥協でも、情報漏洩を最小限に抑えるために、口外を封じる誓いを施した魔法を使うと言う荒業なのだから笑えない。


「次でござるが、今使っているオフィスを移動したいでござる」

「オフィスを?」


 情報の次は何を求めてくるかと少し楽しみになっている。

 だからこそ、オフィスの移転は少し意外だった。


「そうでござる、近所迷惑なやつがいるのであれば物理的に遠くに行けばいいだけでござる。今の方針は、連携よりも競争という風習でござるからな。それなら情報漏洩と妨害を防ぐ意味合いで距離を置いた方が良いでござる」

「なるほど」


 現状でもセキュリティ的には問題はないが、課長クラスの訪問となればオフィスセキュリティは基本的にスルーだ。


 しかし、監視の目はあるから何か妨害工作をしようものならさらに上の存在が動くから下手なことはできない。


 だけど、その地味な嫌がらせを南は避けたがっていると言うわけか。


「今のオフィスはダンジョンに入りやすく、そしてドロップ品を換金しやすいように地下街へのアクセスも良い。それに訓練施設も近くにある。場所を変えると多少なりとも不便になるぞ?」


 その代わりに立地というメリットを放棄する。


 一見すれば逃げを打つ、弱気な態度かもしれない。

 だけど、安全を考えるのなら、最善手とも言える。


「そのメリットよりも、パフォーマンスダウンというデメリットが上回っているんでござるよ。ダンジョンの中で会うのはまだいいでござるが、それ以外の場所で会うのはストレス的に看過できないでござる。それに、リーダーなら今まで受けていたメリットをそのまま引き継げられるような物件を紹介してくれるでござろう?」


 そして、その一見すれば最善手とも言えるような手段をより良い手を打てると俺にはっきり言える胆力。


 この度胸があるからこそ、ケイリィは南を課長に推薦したのだろうな。


 やるからには最善を尽くす。

 それは南が一時の苦労で後の苦労を無くせるのなら安いと思える合理的な思考の持ち主だからか。


「なくはない……」


 そしてその合理性が求めている物件に俺は心当たりがあるし、手続きを取ればそれを使うこともできる。


 それを求めているのなら、与えるのはいい。


「それなら」

「ただ、問題もある」


 だけど、与えるための条件をクリアしなければならない。


「そのエリアは空いてはいるが、そこを管理しているのは俺の管轄ではない。そしてエヴィアでもない」


 この会社自体は、エヴィアのダンジョンである。

 であるなら全てエヴィアが管理するエリアだと思われるが、例外というのはどこにでも存在する。


 それこそダンジョンマスターでも手を出せないエリアが存在する。


 まず一つが、ダンジョンコアのエリアだ。


 あそこは神獣が眠る場所であるがゆえに、ダンジョンマスターでも干渉することはできない。


 では、俺が言っているエリアはどこか。


「俺が心当たりがあると言うのは地下街の一角、そこに空き店舗がいくつかある。バックヤードにある通路を申請して使えるようにすればダンジョンに最短ルートで行ける上に、訓練場からも近い。地下街の中だから消耗品も補給しやすい」


 地下街だ。

 あそこは店舗の入れ替わりが激しいと言うわけではないが、それでも店の持ち主が変わったりすることは珍しくはない。


 そしてここはエヴィアが統括しているが、完全に自由にはできない理由がある。


「だが、ここは商業連合のおひざ元だ。そしてその空き店舗は商人たちが人生を賭けるための場。畑違いの俺たちがその店をオフィスとして借り受けるのは審査が通らん」


 商人は商売をしてこそ商人だ。

 それを座右の銘にしている集団、商業連合。


 魔王軍に多額の出資を行い、発言権を持ち、地球との商売を目論んでいる集団。


 メモリアの所属するトリス商会もこの連合に加盟している。

 魔王軍としても金を持っている集団として、さらに物流の流れを作っている集団として無下にできない集団なのだ。


「仮に、俺やエヴィアの威光を使って押し通してしまったら、どんな利子がつくかわからん」


 そんな連合が管理しているエリアなら、他の課の面々もおいそれと手を出すことはできない。


 会社内で一番条件に噛み合っている立地であるのだが、いかんせんその店舗を借りるのにどれくらいの手間がかかるか想像もできない。


「メモリアさんに頼むのはダメでござるか?」

「厳しいな。トリス商会の発言力は高いが、今は間が悪い。地球との商売がうまくいけば商会として飛躍できるかもしれない。だからこそ、地下街は地球との商売ができる可能性が高いとして価値が上がっている。トリス商会でも変なやり方で押し通してしまったら干される」


 権限次第では力押しもできなくはないが、ここでいらない亀裂を作るのも避けたい。


「むぅ、そうなると多少の不便を覚悟してもリーダーの土地に仮設オフィスを……」

「いや、何でそうなる。俺のプライベート空間に仕事を持ち込むなよ」

「ええ~元々そこにリーダーの派閥の建物を作る予定でござったし、随分と余っているでござろう?ちょっとくらいいいじゃないでござるか」

「良くねぇよ」


 しかし、このままだと俺の屋敷の近くにオフィスが爆誕しそうな流れ。

 土地的には十分に余裕があるし、将来的にはそう言った施設を作るかもしれないが人工島を作ってしまった段階でその話はほぼほぼなくなった。


 必要な拠点は全て島の方で……いや、ちょっと待て。


「もう一つ候補があったな」

「おろ?それは」

「俺の管轄する人工島だ。あそこならこの会社まで転移陣で繋がっているし、下手な人材が紛れ込む心配もない。訓練施設は今建設中だからすぐにとはいかないが、オフィスだけならすぐに用意できるぞ?」

「ネット環境はあるんでござろうな。それがなければ拙者、発狂するでござるよ」

「そこら辺はしっかりと完備してる。クラッキング対策もしっかりとしてるよ」

「ならいいでござるか」


 そう言えば、南が求めているのは余計なちょっかいをかけられないオフィスという条件だ。

 そうなるならいっそのこと俺の領地にそのオフィスを移転してしまえばいいのでは?


 ダンジョンテスターとしての活動も問題なくできるし、俺の領地なら下手に他の課も手を出してこれない。


 まぁ、夜な夜なゴーストの騎士たちが徘徊しているがそれは気にしない方針で行こう。


「しかし、リーダーの管轄する島でござるか。移動が少し不便にならんでござるか?」

「会社と島は転移陣を使えばすぐに行ける。場合によっては専用の転移陣を設置するように手配はするが、他にも色々と手続きは必要だな。持ち込むものに関しては検査はするし、人の出入りに関してもチェックするぞ」

「む、それは少し面倒でござるな」

「その代わり、面倒な他人との交渉というのがないんだから文句を言うな。その島のトップは俺だからな。多少の無理は効くぞ」


 必要最低限の規定は作るが、逆を返せばそれだけなんだよな。


 安全という面では、今現在の俺の領地はかなり治安がいい、厳選された作業員にフシオ教官から派遣された幽霊騎士団。


 そこに作られている街並み。


 悪くないアイディアだと俺は思う。


 実際に利便性が多少悪くなるが、俺の保護下に置けると言う面で南はメリットを考えているようだ。


 下手に商人たちと軋轢を生むようなことをしないのも魅力に感じている様子。


「悪くはない、悪くはないでござるが……うーん」


 しかし、まだ何かあるのではとアイディアを捻りだそうと、腕を組み、頭を揺らす。


 ふさふさとその度に彼女の髪が揺れる。


「とりあえず保留で良いでござるか?拙者の方でもう少しこれに関しては考えをまとめたいでござる。すぐにでも課長を引き継げと言うわけじゃないでござろう?」

「そうだな、少なくとも三ヶ月くらいをめどに引き継ぎを考えている」

「……あまり時間はなさそうでござるなぁ。そんなに切羽詰まっている感じなんでござるか?」

「ハハハハ!この飲み会を終えたら次の飲み会はいつになるやらだ!!」


 その揺れが止まって、決まりきらないという迷いを隠さない南の言葉に時間がないことだけ伝え、そのまま酒を煽る。


 実際、そこまで余裕はないのだから。



 今日の一言

 職場環境は重要である。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 追いついちゃった・・・(泣)
[一言] 南課長爆誕? あー、でも、もうすぐオメデタ休暇なのではw 「はっ、南!これも計算のうちかあぁぁぁ!」
感想一覧
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