665 飲みにケーションは口が軽くなるからご注意を
どうやら女性衆の会話はもうしばらく時間がかかりそうだ。
主に、北宮とアメリアが南の説得に回っているようで、あと一歩で南が課長になることを了承しそうな雰囲気だ。
「そう言えば、これで付き合ってないのアメリアちゃんだけっすね」
説得する手間が省けて楽だわと思ってた矢先に、ふと思いついたと言う顔になり、海堂が触れにくい部分に触れてしまった。
「「……」」
俺と勝は、そこに触れる?と、思わず目線を海堂に向けてしまった。
「ま、まぁ、年頃の女の子だからそう言う話も出てくるだろうが、アメリア自体そう言う気がなければ意味ないしな」
「そうですよ!僕のクラスメイトでも彼氏をいらないって言う人もいますよ」
アメリアに関して言えばかなり状況が特殊だ。
特に異性関係に関しては、会社として注視を通り越して警戒網を敷いている。
ハニートラップに関してテスターで一番警戒されているのはアメリアだと言っても過言ではない。
それはなぜか、彼女が魔王の魂を宿していたと言う経歴があるからだ。
それのおかげで、彼女は魔王軍の中ではかなり注目されてしまっている。
たかが魔王、されど魔王。
魂を宿し、自我を残し、無事に生還したと言う稀有通り越して異常な奇跡を成し遂げている彼女に興味を抱く存在は多い。
そしてそれは魔王軍の内側の話、社外の話になるともっとややこしくなる。
彼女は日本人とアメリカ人のハーフだ。
これがどういう意味を指すか。
魔王軍と関りのある人材として、アメリカにいる父親がアメリアの親権を主張するため、裏で裁判を起こそうとしていると言う情報が霧江さん経由で入っている。
そして、その事情に横槍を入れようとして各国の諜報員が水面下でアメリアにハニートラップを仕掛けようとしていると言う情報もある。
これは本人にはまだ言っていない。
確定情報でもないし、まだ動くかもという段階だ。
念のため美枝さんには伝え会社経由で迎撃のために弁護士の準備と裁判の準備をしている。
故に、申し訳ないが俺の中でアメリアの恋愛事情はかなりまずい地雷原のような状態になっている。
ここでアメリアに好きな異性がいればそこら辺を身辺調査して、安全かどうかを確認するんだけど、アメリアにはその特定の人物はいない。
故に、まずは恋人候補から探さないといけないという段階だ。
すでにアメリアの通っている高校の男性諸君は対象外に判定されているらしいので、求めるとしたら外部の異性。
その外部に他国の諜報員が紛れ込んだら目も当てられない。
故に、魔王軍としてはもうしばらくアメリアには独り身でいてほしいと言う裏事情がある。
それを知らない海堂は、しれっとそんなことを言ったんだろう。
勝からすれば、そういうデリケートな部分をアメリアに聞こえそうな距離で話のがまずいと常識的に思ってたしなめたのだろう。
俺と勝の、言葉的の意味では一緒でも、裏がある俺と裏がない勝とでは別の意味合いになる。
それを聞いた海堂の反応と言えば。
「そうっすか?アメリアちゃん美人だし、滅茶苦茶モテると思うっすよ。明るいし、話しやすいし、それこそ彼氏を作ろうって思ったらあっという間にできそうな気がするっす」
話を逸らそうとしている俺たちの意図に全く気付いてない。
酒に酔って思考回路が鈍くなったか?
「それに、アメリアちゃんも彼氏ができたらみんなで集まって集団デートとかできて楽しそうじゃないっすか!!」
ああ、うん、お前は善意でそう言っているんだろうけど、それができない事情を知っている俺からすれば罪悪感が半端ないんだよ。
海堂の頭の中では、それぞれの恋人を連れてきて遊園地とかで遊んでいる光景が出ているんだろうけど、その光景を作るには障害が多すぎるんだよな。
ウイスキーがさっきまで甘かったはずなのに今度は随分と苦みを感じる。
「そうですね、出来たら楽しそうですね」
勝もその光景を想像して、楽しそうだと思ったようだけど、それが現実になるのは一体いつになるのだろうか。
あっちでもこっちでもアメリアという存在はかなりマークされている。
そんな環境でアメリアが好意を寄せて、さらに彼女を大事にしてくれる異性が現れる可能性を考えたらちょっと目頭が熱くなる。
「先輩、いきなり目元を抑えてどうしたんっすか?」
「いや、ちょっとな」
流石にアメリアの未来を憂いてとはいえず、誤魔化す。
ちなみに一番都合のいい男が俺含めてここにいる男衆だ。
しかし、俺は五人の嫁をもらい、海堂の場合は傍から見れば少し趣味趣向が特殊で、勝はこれ以上増やせるような性格ではない。
ワンチャン、勝があり得るか?といった感じだ。
俺と海堂の場合、互いに合法な年齢の女性と付き合っているが、流石に未成年に手を出す気はない。
ないよな?
俺もそうだけど、海堂も女性側に押され気づいたら堀を埋められていたなんてパターンが多い。
アメリアのことを考えるならという同情心で男女の仲になるのはおかしいと俺は思っているからそこがストッパーになってくれることを切に願うよ。
「そう言えば海堂、アミリさんの体調の方は大丈夫なのか?そろそろ色々と大変な時期に入ると思うんだが」
これ以上アメリアのことを触れ続けると余計なことを口走りそうで怖いので、ここいらで一旦話題変換をする。
俺はエヴィア、海堂はアミリさんに、それぞれ愛しい存在を生んでもらおうとしている。
父親として、そして恋人、さらに旦那という立場を経験している身としてどうしても海堂の方も気になってしまう。
「医者曰く経過は順調らしいっすよ。俺も何度も付き添って話を聞いているっすけど、機人の場合生まれ方がちょっと人とは違うらしいっす。それでもお手本のように順調に育ってるらしいっすよ。アミリちゃんの場合、仕事を他の人に回しやすい環境だからストレスもかかりにくいっす」
「そうか、それは良かったな」
「そうっすね、子供はたからって言うっすけど。なんすっかね。子供ができた途端にあ、俺、父親になるんだって自覚が生まれて本当に大切だって思えるんっすよ。昔の俺じゃ、結婚なんて夢のまた夢って諦めてたんっすけど」
「わかるな。前の職場じゃ、過労死かぶっ倒れて病院送りの二択だった。とてもじゃないが家庭を大事にできるような環境ではなかったな」
幸い、子供の成長は順調のようだ。
俺もサチエラたちの成長を見守りつつ、エヴィアのお腹の子供の成長を見守っているからそれが良いことだと言うのがよくわかる。
ついつい、口元が緩み、優しい声色になる。
それはきっと前の職場で、家庭というのを築けないかもしれないという心配を知っているという経験も多いだろう。
「……」
「どうした勝、そんな神妙な顔をして」
「いや、子供って聞いてちょっと」
そんなめでたい話の時に、少し勝の顔が曇った。
そして理由を聞いて、しまったと海堂が顔を少しゆがめてしまった。
代わりに、俺は少し手を伸ばして勝の頭を少し荒々しく撫でる。
「んなこと気にすんな。お前の親はお前の親だ。俺は知ってるぞお前は他人を大事にできる男だってな。むしろ親バカになって子供にファザコンが生まれないか心配になるわ」
勝の家庭環境は、ちょっとでは済まないくらいに過酷だ。
だからこそ、自分が将来親のようになるのではと心配になる。
自分の子供を愛せない、そんな親に。
だけど、俺から見ればそれは杞憂だと思う。
南を長年、義務ではなく親愛という愛情で支え続けた勝が子供を見捨てるなんて外道なことをするとはとても思えない。
そして何より勝は一人じゃない、不器用だけど精一杯愛し、支えた南もいるし、これまた不器用だけど世話好きな北宮が一緒にいる。
結果的に不器用な三人がくっついた結果になったが、これはこれで互いに足りないものを補えあえるいい関係なのではと思う。
「そうっすよ、むしろ勝君に似た子供が生まれて南ちゃんがダメだしされそうな未来が見えるっす」
「それは否定できないでござる」
「うお!?いきなり背後に立たないでほしいっすよ!?」
勝の家庭環境は、決して悪いことにはならない。
そんな未来の展望を話していると、ヌッと膝立ちで海堂の背後から南が現れた。
俺は見えてたし、気配でも感じていたが、随分と隠形がうまくなったな。
魔力を鎮めて、気配も同化していた。
並大抵の努力じゃできない実戦で鍛え抜かれた技。
後衛の役割の中にある、相手から注目を浴びないと言う立ち回りを自覚しているからこそできる技か。
「否定しなさいよ。私も海堂さんの言葉が否定できないけど」
「Yes、南ちゃんには申し訳ないけど勝君の子供だときっとお世話が大好きな子になるようなきがするネ。勝君と一緒に掃除をしていそう」
「それはそれで、拙者としては大歓迎な環境でござるな。これからもっと仕事が忙しくなるのは間違いないでござるし」
そしてそのさりげなく高度な技を披露した南がしみじみと、そして深く頷くさまはある意味で説得力を醸し出す。
そこに呆れ顔だけど、その説得力に負けた北宮が苦笑しながら同意し、ニコニコと笑いながらアメリアも頷く。
だけど、俺的には聞き逃せない言葉が混じった。
「南、それは」
「仕方ないでござる、いくつか条件を飲んでくれるならリーダーの引継ぎ拙者が引き受けるでござるよ」
最初は雲行きが怪しかったけど、どうやらうまくいきそうだ。
「OK、その条件とやらを聞こうか」
北宮とアメリアがどういう風に説得したかは気になるが、条件次第では受けるというのはだいぶデカイ。
正直、ここで説得できなかったら今後のスケジュールを多少なりとも変更しないといけないからな。
「まずは拙者に補佐を付けることでござるよ。正直拙者、管理職の事務作業とかしたことがまったくないでござる。なのでそこら辺を指導できる人材が欲しいでござる」
「それは大丈夫だ。俺としても、最初からすべてができるとは思っていない。半年か、遅くても一年くらいをめどに自立してくれれば助かる」
それが回避できるだけでも大きい。
そして、南が言う最初の条件は当然と言えば当然の話だ。
「次に、他の課へのけん制をしてほしいでござる。拙者が地盤を固めるまでの間で横槍を入れられるのが面倒でござる」
「期間は?」
「できれば、半年は欲しいでござる」
「わかった。そこはエヴィアに話を通して、俺の方でも色々と配慮する」
さらに条件として出てきたモノはどれもが俺がしようと思っていたがことだから問題ないと頷くことができる。
酒を飲みながらという点で多少気楽に話しているが、それでも内容は吟味している。
断らないといけない部分は断る。
その線引きはしっかりとしないといけないからな。
「これが、基本的に守ってほしい条件でござる」
そして、ここまでは南の中では基本的な部分に当たるらしい。
どっちも当然と言えば当然の話しで、俺としては逆にこっちから提案しようと思っていた条件だ。
となればここからが、南の本命ということになる。
「基本的にってことはここからは、少し特殊な話になるのか?」
「そうでござるな、拙者としても全部が完全に守られるとは思ってないでござる。だからここからの条件は応相談というやつでござる」
さてさて、南の場合は何が出てくるか本当に予想できない。
少しだけ、酔いが醒めた感覚を感じながら南の次の言葉を待つのであった。
今日の一言
口が軽くなるのはご用心を
毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!