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663 モチベーションを作るのは価値観だ

 

「きゅ、急に褒められるとなんか変な感じっすね」

「おろ?海堂先輩もしかして照れているでござるか?」

「照れてないっすよ!!」


 海堂たちを課長職につけるため、事情を説明したが二人は川の流れがごとく、さらっと断ってきた。


 それはもちろん想像していた通りなのだが、戦争が控えている身として、ここで少しでも仕事を減らしておかないといざという時に余裕がないと大変なことになるのは社畜時代でも経験してきたことだ。


 さて、考える限りだと一番悪い話の流れになってきているのは確かだ。


 本音をぶつけたら、ちょっと照れた海堂を揶揄う南を見つつ、少し喉が渇いたので酒を飲む。


「そう言えば、改めて聞くのもなんだけど、課長になったら何ができるのかしら?」


 そのタイミングで、前々から気になっていたのか北宮から質問が飛んできた。


「何ができるって」

「だってそうじゃない、課長って大括りでいわれても私たちが知っているのって次郎さんが苦労してスケジュールの管理とか消耗品を発注していたりとか、裏方の総括みたいなイメージがあるのよ。正直に言って地味って言うか。重要なのはわかっているのよ?だけど、後方で待機して後ろから指示出すって言う印象は拭えないわね」

「言われてみれば、そうだな。課長になって、何をすればいいんだって漠然とイメージできても細かいところはわからんか」


 課長になれば何ができる。

 それは正しく、俺が説明しないといけないことだった。


 俺の予想では、海堂なり南なり、この話を了承するなら何も聞かず了承するイメージが強かったから、説明はその後でいいと思っていた。


 断られたのなら説明する必要はないしな。


 だからこそ、興味という流れで北宮が質問してきたのは、ちょうどいいのかもしれない。


「そうだな、出来ることでいえば今は制限をかけられているが人事権は与えられているな。色々と手続きはいるが、人員の補充の申請とかできたな。それもテスターだけじゃなくて事務員とかも」


 順序だてて、説明することもできるが、そうなると講義みたいな感じになってしまう。

 だからあえて、気軽に世間話をするような亭で話す。


「人を雇うって、次郎さん元々持ってなかったかしら?」

「そうっすよ先輩、俺や南ちゃんたちは先輩に誘われて入って来たっすよ」

「それよりも大規模な権限だよ。場合によっては、百人くらいまとめて雇うこともできたな」

「はぁ、それは凄いでござるね。魔力適正って壁がなければ、今頃もっと大勢の人が雇われていたということでござるか」


 けれど、最初に話したのが人事権って完全に前の会社の苦労からくる魅力だと思っているな俺。


 仕事が多い割には人が辞めていく。

 そんなブラック企業あるあるの一つが人手不足だ。


 人を雇ってくれと言っても、金がない、お前たちだけでもできているだろうと色々言い訳して人を雇ってくれないブラック企業。

 そんな職場を経験している俺からすれば、人を雇うことができると言う権利はかなり魅力的に感じる。


 だけど、海堂含めパーティーメンバーは全員ほーと感心するだけで、特段興味がある様子ではない。


「だな、それ以外にできることって言えば課長でしか買えない物を買えるってこともあったな」

「え、何それ俺知らないっすよ先輩」

「ご禁制の品も手に入るということでいいでござるか?」


 ならばと次のことを考えてみるが、課長という役職を与えられてから、こんなこともできるのだと感心したあの規定を思い出した。


「ご禁制ってわけじゃないが、国が管理している珍しい素材を買うことができるようになるってだけだ。まぁ、それもダンジョン攻略に必要なモノって但し書きがつくがな。それでも、選んでいるときはちょっとしたカタログ通販みたいな感じで面白かったがな」


 クイッと酒を一飲みしながら、あの時の懐かしさを思い出す。


「ダンジョン内部じゃ生み出せない貴重な薬草や、鉱石、繁殖の難しい魔物の部位、それ等を使った貴重な薬品類。まぁまぁ、種類は多いわな」


 初めてエヴィアに渡されて、経費で落とせると聞いてさらにびっくり。


 中身を見て、さらに効果を見て驚いてとあの時の新鮮っぷりは伊達ではない。


「ああなんだ、珍しいポーションの類でござるか。期待して損したでござる」


 その驚き具合は内容を見てからじゃないとわからないのだが、南にとっては肩透かしを食らった感じなのだろう。


 足を崩さず、そのまま自分の席にあったグラスに手を伸ばして、クピクピと音を立てながら、中々いい飲みっぷりを披露して見せる。


「そうっすね、こう、一撃で何もかも破壊できる最終兵器みたいなものを期待してたっす」

「一課長にそんな物与えるわけないだろうが」


 この課長という職は、会社の地位としてはそれなりの価値を出すが、軍として見るのならそこまでの地位ではない。


 軍事拠点であるダンジョンの改良を命題に掲げて、活動する部署のまとめ役というわけであるからそれなりの権力が与えられるが、だからと言って軍事的権限は与えられない。


「つまんないでござる~やっぱりやらなくて正解でござるなぁ」

「そうっすね」

「まぁ、そうなるわな」


 その中でも特殊な物資の取り扱いに関する項目はかなり特殊な権限だ。

 地下街でも販売されない、それこそメモリアの実家のトリス商会でも手に入れるのは苦労するような代物が手に入る。


「ああ、そう言えば若返りの秘薬なんて呼ばれる物もリストにあったなぁ」


 その代物の中には地球では御伽噺とかに出てきそうな魔法薬がゴロゴロと転がっていた。

 不老長寿の薬とかは流石にないけど、肉体を活性化させて老化を遅らせたり、美肌効果をもたらしたりする化粧品かと突っ込みたくなる品々もあったなぁ。


 そんな物、若い南や北宮は興味ないよな。


「おいおい、殺気混じりって言うのは少し冗談じゃすまないぞ?」


 って、思ってたら急に伸びて来た手の手首を咄嗟につかむ。


 その手は俺の首元、おそらく襟首をつかもうとしたんだろう。


「なぁ、南」

「その話、詳しく」

「いや」

「詳しく話しなさい」

「北宮、おまえもか!?」

「ハリーアップ!!」

「アメリアもか!?」


 尋常ではない速度、気を抜いていたとはいえ仮にも将軍の地位にある俺の身体能力であってもギリギリとしか言いようがないタイミングだった。


 何をするんだと、非難の目を向けようとしたが目がガチになっている女性三人を前にして俺の怒りなどあっという間に去ってしまう。


 じりじりと間合いを詰めて、俺に話の続きをせがむのはいいが、正直怖い。


「長寿ではない種族の肉体最盛期を維持するために作られた秘薬だよ。若くて健康な時間が長く続くことによって戦力を増強することを目的に作られた秘薬だ。効果は読んで字のごとく、肉体を若返りさせることができる。副作用や用量に規定があるし、それを作る素材が高価すぎるから数は用意できないが、一回の服用で二年から三年くらいの期間の若返り効果ができたはずだ」


 若返りの秘薬自体はそこまで秘密にすることではない。

 俺は記憶にある当時のデータを思い返して、三人に説明する。


 あくまでこれは戦闘用の秘薬であって、美容用品ではない。

 肉体の活性化による副作用で肌がきれいになったりする効果もあるが、あくまで肉体の最盛期を維持するための薬だ。


「他には?」

「他?」


 けれど、それは戦闘用として使えるだけで、美容品としての性能がないわけではない。

 値段が破格で、素材も貴重、さらに製法も秘匿されている故に数が出回っていない。


 おまけに長寿種族にとってはあまり意味のない代物だ。


 だからこそ使う存在は限定的になり。


「あるはずでござる」

「目が据わって怖えよ」


 その限定的な存在、人間の、それも若さを維持できると言う文言に興味を持つ女性はこれ以上とないくらいに興味を引く代物だろう。


 若いから必要ではないだろうなんてこのタイミングでこぼせば、ただでは済まないのは漏れる魔力から察することができる。


 海堂と勝に助けを求めても。


 無言で首を左右に振られるだけで終わる。


「わかった、わかったから、俺が覚えている範囲でそれっぽい物は教える」


 それなら俺ができることなんて限られている。


 この女性陣たちの熱意を覚ますために必死に記憶を掘り返す作業を素直にやるしかない。


「なんと、ここまでの品が揃ってたでござるか」

「若返りの秘薬、なんてあからさまな物があるからもしかしてって思ってたけど」

「これがあったら、世界中の女性たちが血で血を洗う戦争になるネ」


 その結果がこれだ。

 課長という役職にできる物資調達権限の中から、獲得できる美容品ぽい代物を連ねたら真剣に顔を見合わせて女性会議を始めてしまった。


「いやぁ、これなら先輩の思惑通りになるんじゃないっすか?」


 その物資を手に入れるためには課長になるしかない。

 そして課長になれる可能性を秘めているのは、今のところ南だけだ。


「お前はいいのか?後輩に抜かれることになるが」

「いいっすよ。南ちゃんなら悪いようにはしないと思うっす」


 もしかしたら南が課長になるかもしれない、そんな流れになると海堂的に面白くないのではと確認してみるが、海堂自体は気にした様子はない。


「それに正直、ここで俺が課長になるって宣言する方が命知らずになると思わないっすか?」

「確かにな」


 職権乱用はできないが、合法的な理由があれば、女性からしたら喉から手が出るほど欲しい代物が手に入るチャンス。


「しかし、熱意がすごいっすね」

「そこまでの価値があるんだろうさ」


 それに対しての熱意が男である俺たちにはわからない。


 精々できるのが、こうやって身を寄せ合って酒を飲むくらいだ。


「それにしても勝、まさかお前もこっち側に来るとはな」


 そう、身を寄せ合うだ。


 女性陣が集まるのなら、男衆も集まる。


 俺と海堂、だけではなく、そこに勝も加わった男衆。


 俺が酒を一口飲んで、どうするか決まるのに時間がかかるだろうなと思って、それならと選んだ話題はこっち側に踏み込んできた勝への質問だ。


 それがどういう意図を含んだ質問なのかわかった勝は思わずビクッと背筋を伸ばす。


「いや、その。なんて言いますか」

「なんか、汚職がバレたような政治家みたいな反応っすね」

「そこまで気負う必要はねえよ。俺も海堂も似たようなものだしな。むしろ俺なんて今じゃ五人も娶る予定が入っているからな」


 常識枠の勝が、年上の女性二人と良い仲になる。


 南の方は何となく、収まるべき鞘に収まったなという印象になるが北宮まで手を伸ばすと言うのは正直言ってもう少し時間がかかると思った。


「海堂は経緯を知っているのか?」

「いや、知らないっす。気づいたら距離感が縮んでるなぁって思ったくらいっすね。そこら辺はプライベートっすから話してくれるまで待ってたっすけど。先輩が言ったのなら俺も聞きたいっす」


 だけど、現実は違った。

 何かきっかけがあったとは思うのだけど、それを知る余裕が俺にはなかった。


「いえ、そこまで大したことは」


 だからこそ、このタイミングで聞いたのだが、まさか海堂まで知らないとは思わなかった。

 距離感と雰囲気、三人が特別な関係になっているのはわかっている。


 照れる勝と言う貴重な姿を見つつ。


 さて、ここからどう聞いたものか。



 今日の一言


 モチベーションを上げるに越したことはない







毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば、不老長寿の黄金リンゴなんてのも既出でしたね。 20歳の南、22歳の香恋、17歳のアメリア……(ひょっとしたら経過時間的にもう+1歳ぐらいしているのかな?)……そろそろ美容にもいろ…
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