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659 参考資料は常に用意を

 

 異世界であっても戦争の打ち合わせなんて言うだいそれたことは一朝一夕には決まらない。


 会議自体はスムーズに進んだが、結局決まったのは防衛担当の代表がアミリさんになり、補給や支援関係の統括が俺に決まったと言うことだけだ。


「ふむ、皆の意見は全部いいモノばかりだ。すべてを採用したいけど、流石にそれはできない。困った」


 決まらないのは、攻め手。


 俺の意見を言ってからそれを参考にそれぞれ将軍たちがプランを提示して、それを聞いた社長の言葉がこれだ。


 どれも経験と知識が広くそして深く使われていて、俺の提案がまだまだだと思わされるような提案ばかり。


 誰に任せても、成し遂げてくれる。


 それを確信してくれるがゆえに、誰にするか本気で社長は悩んでいる


 やる気も十分にある、もし仮に社長が止めなかったら今でもアピール合戦は止まらなかっただろう。


「魔王様、遅れました」

「いいや、エヴィアいいタイミングだよ。頼んでいた物は用意できたかい?」

「はい、こちらに、他の者にも配りますか?」

「ああ、頼むよ」


 そんな停滞の空気が充満しそうなタイミングで、換気するかのようにエヴィアがこの会議室に入室した。


 お腹を締め付けないように気を配った服装に、ハイヒールもやめて歩きやすい靴にした彼女は迷わず社長の隣に歩み寄り、封筒に入れていた紙を手渡した。


 それを見た社長は、同じものを配るように手配しそれを聞いた執事とメイドが動き、エヴィアは彼らに持ってきた封筒を渡す。


 ここで中身を見るような従者はいない。

 そして抜き取るような愚か者もいない。


 無知は罪というが、世の中には知らない方がいいと言う事実もある。


 しっかりとホチキスで閉じてある資料が、俺の前に裏向きで置かれ俺はそれに手を伸ばして中身を見る。


 他の将軍たちも、それぞれ見ているから待つ必要はないと言うわけだ。


「……これは」


 それを見て俺は思わず眉間に皺が寄った。


 他の将軍たちも俺と似たり寄ったりの反応だ。


 竜王なんて舌打ちすらしている。


『ここまで腐敗しておったか』


 代表して、フシオ教官が資料の内容の感想を言ってのけた。


 資料の内容は至極単純。

 魔王大陸に存在するイスアル側に寝返る貴族たちのリストだ。


 もっと正確に言えば、先代魔王の派閥や、権力闘争に敗れた没落貴族、単純に今の立場に不満を抱えた者たちの連合軍と言うべき存在たちだ。


 その勢力総数を換算すると結構な数になる。


 それだけ不満が蓄積しているとも取れる数値だけど、その勢力がやっている証拠の数々を見ると相手に正義がないことは明白だ。


「大将、俺に命じてくだせぇ。そうすれば三日で後腐れなく消して見せますぜ」

「ケケケ、鬼王何甘いこと言ってやがる。こんな奴らに三日もいらねぇ。明日で消し炭にする」


 非合法奴隷の売買、誘拐、暗殺組織の私兵化、情報漏洩、横領、etc.


 犯罪の見本市がここにあるのならこの資料がそうだろうと語っている。

 怒りをにじませて、今にも飛び出して行きそうな二人の将軍。


 鬼と竜の怒りをくらえば、この勢力は間違いなく終わる。


 だけど、社長は俺たちにその殲滅を命じるためだけにこの資料をエヴィアに用意させたのか?

 それなら単純に社長からの命令で済む話、ここにいる全員に資料を配る必要はない。


 なにか、何かある。


 そう思って、資料を読み直すとふと気づくことがある。


「魔王様、一つ質問をしてもよろしいですか?」

「ああ、構わないよ」


 教官と竜王の言葉に割り込むようなことはしたくないけど、このままだと彼らはこの組織を潰しに行きかねない。


 邪魔をするのかという視線を浴びながらも、俺は態度を崩さず質問を続ける。


「この資料を読む限り、集まっている面々は明らかに烏合の衆。ですが、資金繰り、人材集め、拠点や兵站確保……思想が違い仲違いしてもおかしくない面々が集まっているのにも関わらず、組織として成り立っているのがおかしいくらいに組織化されている。この組織を率いる頭は判明しているんですか?」


 資料はかなり詳しく組織を調べているけど、肝心かなめのトップの情報が書かれていない。

 一応、各派閥のトップが議会制を利用して統治しているような組織図にも見えなくはないけど、それだとこの面々ではあっという間に瓦解してしまう。


 開戦間近になるまで、本格的に見つからなかった秘匿性もおかしい。


 いや、むしろ。


「いや、生憎とわかっていないね。密偵も何人か行方不明になっていると聞いているよ」


 このタイミングで表に出してきたように俺には見えてしまう。


 烏合の衆を最大限に使いたい、そう言った意志を感じてしまう。


 トップが見えない、イスアルのてこ入れなのかそれとも貴族派閥の差し金なのかもわからない。


 わかるのは、戦争になれば間違いなくこの組織は魔王軍の足を引っ張ると言う事実だけ。


 これではまるで……


「人王、君には何が見えている?」


 その言葉が脳裏に浮かぶ手前で社長はニッコリと笑って、またなにか面白いことを考えているのだろうと表情で伝えてくる。


 その笑顔には何もと考えを秘すると言う選択肢を無くす何かを感じさせた。


「……憶測ですが、このタイミングでこの情報が手に入ることに悪意があるように自分は感じます。イスアルにしろ貴族派閥にしろ、自分たちの都合のいいように足並みを崩そうということを第一に考えているように感じます。開戦時に蜂起して出鼻をくじくこともできたのにも関わらず、ここで伏せ札を見せて来た。そこら辺の考えに気持ち悪さを感じます」


 であるなら、そこに逆らうことはせず違和感を口にする。


 何かあると思わせることが目的なのかもしれない、疑心暗鬼にしてこちらの足を遅らせることが目的なのか。


「確かに、私もそれは感じました」

『然様、ワシもジロウに同意じゃ。ここでこの証拠を掴ませても時間稼ぎにしかならん』


 樹王とフシオ教官という知略担当の将軍も同じ意見か。


 となると、本格的にこの違和感を探っていった方がいいかもしれない。


「ふむ、人王に続き、樹王と不死王も感じているとなるとやはり私の勘違いではなかったか。エヴィア、本格的に調査できるかい?」

「正直現状動かせている人材が限界です。私見になりますがこちらの情報収集をさせることで暗部の稼働率を上げて情報収集の能率を妨害する意図があるとも思っています」

「視線を集めて、ほかに気を逸らしたい何かがあるということか。エヴィアが調べきれていないとなると、相手は限られる。しかし、証拠がでてこないからこちらとしても動けない。素直に殲滅してもトカゲの尻尾切り。ふむ、おそらくこの段階で見せてきたと言うことは相手はその見せたくないものを開戦まで隠しきるつもりということか……」


 将軍たちが揃うこの席でのエヴィアが持ってきた資料を踏まえると、ますます持って攻め手を決めるのが難しくなる。


 後顧の憂いが生み出されてしまった段階で、イスアルと真正面から戦うことが困難になってしまった。


 いや、それでも強行しそうな将軍が若干名存在する。


「となると、それを踏まえて戦争への対策をするしかないか。いやいや、敵が多いのは困りものだね」


 その雰囲気を察しても社長は笑みを崩さない。


 トントンとテーブルを指で叩き、数秒の思考するための時間を空けた。


「イスアル側からの情報で、近いうちに攻め入られることは間違いない。だけど、それよりも先に蜂起されることは明白。蜂起を事前に潰せば情報源が断たれて本命を察知できなくなる。いやはや、相手側は随分とタヌキだ」


 情報をまとめただけで、不利になった情勢が見えてくる。


 追い込まれているわけではないけど、片足を掴まれて身動きがしづらい状況になっている。


 しかし。


「だけど、噛みつく相手を選ばなかったのは愚かと言うべきだろうね」


 その程度の不利など、うちの社長には何のその。


 社長だけじゃない俺を含めて、メイドや執事たちが若干引くほど将軍たちも迫力のある穏やかとは程遠い黒々とした笑みを社長につられて浮かべている段階でこの謀も歯牙にもかけていない。


「さて、前線を含めてやるべき事が増えてしまったわけだ。だが、本命が控えている」


 この程度の修羅場ならなんとかなるって思っている段階で俺もだいぶ染まったな。


 他の将軍たちは戦場が増えたと言う程度の認識なんだろうけど……あれ?こんなことで喜ぶ人種が日本にもいたような気がするぞ、九州の方だったか?


 異世界とは昔から繋がっていたから、もしかして異世界の血筋がそっちに逆輸入されたから?


 まぁ、今は良いか。


「ノーライフ復帰早々悪いけど、君はこの件に対処に回ってもらっていいかな?」

『カカカカ、こういう悪意にはワシの出番ということですな。なにブランクを埋めるにはちょうどいい肩慣らしですな。委細承知いたしました。処理の方はいかがいたします?』

「君に任せるよ」


 ピンチはチャンスというわけではないが、ここいらでちょっというにはかなり思い切った決断を社長は下した。


 魔王軍の風通しを良く置きたいと言ったところか。


 流れる血の量は生半可な量では済まないだろうけど、今後の地球との付き合いやイスアルとの戦いに向けてのことを考えるのならそれも理解できる。


「補佐に誰かつけるかい?」

『いえ、ワシ一人で問題はないかと、戦に人員が必要でしょう』

「そうかい、なら、そっちは任せるよ」


 これで前線を任せられる人員が一人減った。


 残りは、正面切って戦える鬼王と竜王、防衛に関しては魔王軍一の巨人王、攻防のバランスがいい樹王。


 この四人の中から二人選ぶと言うことになる。


 さてさて、社長は誰を選ぶのやら。


「おや?ウォーロックどうしたんだい?」


 そう思っていたのだが、その決断を先に出すよりも先に巨人王が挙手をした。


「発言をよろしいでしょうか」

「かまわないよ」

「感謝します。先の件、不死王だけではなく私も参加する許可をいただきたい」


 何かあるのかと思ったが、まさかの反乱分子の鎮圧に参加したいとは。


 先ほどまで前線を希望していた彼が、手のひらを返すかのような決断を下した。


 この資料に彼を動かすほどの何かがあると言うことだ。


「その理由は?」

「はっ、今回の騒動の背後にいる存在に心当たりがあるからとだけ」

「それはこの場で言えないような内容なのかい?」

「ご勘弁いただければ幸いです」


 素早く資料を読み返すが、それらしい情報はない。


 だけど、巨人王の言う心当たりとは何なのか。


 巨人族関連なのが濃厚なのだが、それはそれで安直すぎるかもしれない。


 だけど少なくとも言えるのは、この資料で何か勘づいたと言う点。


 社長の鋭い視線が巨人の王を貫くが、彼はそこから逃げず真正面から受け止めた。


「わかった、けれど、指揮権はノーライフにゆだねるよ。それで納得してくれ」

「感謝します」

「そう言うことで、ノーライフ、ウォーロックと一緒に事に当たってくれ」

『わかりました。人手が増える分には文句はありませんな』


 そこにはしっかりとした信頼関係がある。


 それを感じさせるやり取り。


「さて、流れで動ける人材がどんどん減ってしまった。となるとだ、私としては先ほどの人王の案を具体的に詰めていくのがありだと思うのだが」


 そして、話の流れが俺の言葉に責任を求めてくるような流れになっている。


 つーっと嫌な汗が背中に流れ。


「皆どう思う?」


 あ、これ無理な流れだと社長の顔を見て早々に諦めモードに入るのであった。



 今日の一言

 用意できるものはしっかりと事前に





毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[良い点] さぁ面白くなってきましたよ。 今後の展開に期待大。 [気になる点] ウォーロックは何を勘付いたのかな。
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