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658 言葉に責任と説明を

 


「そうだね、説明を頼む。おそらく私を含めてここにいる全員が君の説明を求めているはずだ」


 社長ですら若干の動揺を隠しきれていない。


 それほどまでにキオ教官を暗躍に回すと言う言葉に驚いている様子。


「はい、ではまず、なぜ鬼王を攻め手ではなく裏手に回したかという理由ですが……二つあります」

「聞こうか」


 その様子は正直意外だったけど、そこを指摘している暇はない。


 変な理由だったらただでは済まさないぞと睨みつけるキオ教官をいかにして納得させるかそして怒りを喜びに変えさせるかは俺のこれから吐き出す言葉にかかっている。


「一つ目は、鬼王の見た目です。鬼王の風貌は他者に圧力をかけることに関して言えばこの中で竜王と並び一番向いていると思います」

「確かにその通りだが、それが暗躍とつながるのかい?」

「はい、イスアルの現状を報告書で確認するに当たり、小国が大国に対して色々と不満を抱え込んでいるケースが多いと把握しています。その理由の大半は、大国に軍事力には敵わずそこで仕方なく従っているというパターンがほとんどです。好きで従順になっているという狂信的なパターンもありますが、その場合民に不満が募っているケースが多いです。俺はそんな彼らに対して鬼王の力を使って用心棒としての立場をつくることが可能だと考えています」

「用心棒?」


 暗躍と聞けば裏取引的な意味合いが強く、裏で交渉し密約を基本として様々な分野での行動範囲を拡大する行動を指していると思っていた。


 だけど、別の方法で活動する方法があるのではとも思ったのだ。

 参考にしたのは日本にある暴力団組織、通称ヤクザな人たちのことだ。


 彼らは夜のお店や居酒屋など、人の欲求に従うことのバックにいるケースが多い。

 それはなぜか、そこでトラブルになることが多いからだ。


 いざという時トラブルになったとき、警察を頼りにくいと言う店も結構ある。


 その時物理的恐怖によって対処するのが彼らの生業だ。

 色々と法規制がかかってそう言った面で活躍ができにくくなっていることもあるが、それでも完全になくなったわけではない。


「いざという時の武力の貸与。そして戦後のことを考え我々との関係の懸け橋になれる協力国の確保、それができるのは鬼王だと俺は考えます」

「ふむ、潜在的なコウモリを作り出すと言うことか」


 コウモリ、敵と味方を行き来し保身に長けた存在たちのことを指す言葉だ。

 本来であればあまりいい表現ではなく、信用もできない存在である。


 だけど、意図的に生み出し、首輪をはめることができればそのコウモリにも使い道を作り出すことができる


「君の言いたいことはわかるが、それなら交渉の得意なノーライフとルナリアでも構わないのではないかね?彼らの実力でも十分に対応ができるはずだ」

「俺が一つ目の鬼王を押す理由は、その見た目が一番重要なんです。実力的に言えば誰であれ俺の言っていることは可能です。ですが、もし仮に先ほど魔王様が言った将軍を三人横一列に並べた際に、普通の人間が一番強そうと外見だけで決めた場合に、筋肉質であり高身長で鬼族という三拍子が揃った鬼王を第一印象で強そうと思うはずです。不死王の場合は不気味さと怪しさが目立ち、樹王の場合は申し訳ないですが相手が男の場合は下心の方が優先してしまい、そっちの方面の色合いが強くなってしまう。その点を加味すれば純粋に武力的内容で交渉できるのは鬼王だけだと思います」

「なるほど、第一印象に重点を置いたわけだね?」

「はい、少なくとも鬼王に相手が抱く印象は強者からくる純粋な恐怖、不死王と樹王も恐怖を与えることはできますが、不死王の場合得体の知れなさからくる未知からの恐怖、樹王の場合はその容姿からくる下心を跳ね除けるためという第一印象が混ざる恐怖です」


 その首輪をつけることをキオ教官にやってほしい。

 背後にかなわないと思わせる存在を伏せて、面従腹背の国を生み出す。


 小国のバックに教官の武力を置くことでその国は大国と戦争するための武力を得ることができた。


 それはちょっとした野心をその国の王に抱かせることができる。

 不平不満を抱えていればいるほど、その野心の炎は大きくなるだろう。


 相手国はいざという時に魔王軍の力を借りることができ自由を欲し大国への協力を小出しにする、小国の援助が少なくなればいかに大国であろうと倒れる日が来る。


 そしてその倒れる日に保身に走れると言う保険ができると言うわけだ。


 キオ教官もやってほしいことが面倒な謀ではなく用心棒という役割を聞いて少しだけ怒りを収めてくれた様子。

 だけど、社長を含め、他の将軍はまだ納得は行っていない。

 俺だって、この説明だけで納得してもらえるとは思っていない。


「恐怖による支配は理解できた。だけど、そのやり方ならやはりライドウである必要性は感じないね。もし私が先ほどの君の作戦をやるなら潜むのはノーライフとルナリアあとはアミリの三人だろう。そしてライドウは彼の本領を発揮できる前線に回す。それが妥当でありベストである」


 正直、二つ目の理由は俺の主観的な印象でしかない。


 社長の言いたいこともわかるし、一つ目の理由では弱いと言うことも理解している。


 試すような視線で社長はこれ以上私に何を見せてくれるのか、と問いかけてくる。


「それを踏まえて、人王、二つ目の理由を聞こうか」

「はい」


 本当にこれを言うのか、それを踏まえて一瞬の迷いを振り払って俺は口を開く。


「二つ目の理由、それは鬼王の純粋な前向きな姿勢です」

「は?」

「ほう」


 俺が二つ目の理由を語ったときキオ教官は何を言っているんだと目を見開き、社長はまた面白そうなことを言い始めたと笑みを深めた。


「自分が鬼王を教官と仰ぎ、教育を受け、そのまま様々なことで交流を深めてきましたが、もし戦場でここにいるいずれかの将軍と敵対した場合、一番信用できる敵は鬼王だと思っています」


 遮られないなら最後まで言い切れ。

 俺がこの作戦を考えた際に、一番重要になるのは相手にどうやって信用させるか。

 そして相手がどれだけの利益で釣れるかを考えた。


 敵を裏切らせる場合に一番重要なものは何かと考えた。


 莫大な財。

 確固たる地位。

 その者の信念。


 大まかに分けてこの三つだと俺は思った。


「そして自分が一番鬼王を尊敬しているところ、それは敵であろうと自分で言った約束は破らないと言う信念です。彼は確かに粗野な部分は目立ちますが、基本、義理に厚く、挑戦者を好み、強者を歓迎します。それとは反対に、嘘を嫌い、謀をせず、卑怯を軽蔑します。敵にとって、鬼王は純粋な武力で正々堂々と戦い自分たちを打倒する存在です。策を弄せず、正面から純粋な武力で、卑怯という言葉から一番離れた存在。敵であるならこの鬼に負けたのなら本望と言える武人です」


 その中で一度味方につけたらしっかりとした仲間になってくれるものは何かと考えた。


 俺はその中で心意気、精神的な面が一番いいのではと思った。


 金は、金の切れ目が縁の切れ目ともいうからあまり信用できない。

 地位に関して言えば、権力を与えてしまった瞬間何をするかわからない。

 であるなら、心で酔わせてしまえばいい。


「加えて、鬼王は酒宴のプロです。さらに戦闘に携わる者の心の機微には聡い。酒の席で距離を詰めて心酔させることも難しくはないと考えます」


 正直、これは俺の実体験だ。

 最初は怖く、恐ろしい存在だと思ったが、キオ教官は基本的には曲がったことが大嫌い。

 厳しくはあったが、俺にできないことはしなかったし、身内にはしっかりと向き合ってくれた。


「暗躍と聞けば相手を騙し、駒を作るような発想もありますが、自分は戦後のことで少しでもイスアルと魔王軍の仲が健全になれるように味方を作ることも重要だと考えます。戦時中にすることではないかもしれませんが、逆に戦時中にそれができれば今後にも残る大きなアドバンテージになるのではないでしょうか」


 その点を鑑みれば、教官は部下を作るのがうまいのではないかと考える。

 あと意外と子供好きである所も加味した。


「……ふむ、なるほど。随分と鬼王のことをべた褒めするんだね」


 二つの推挙理由を語った後に空気は何とも言えないモノになっていた。


 キオ教官は照れくさくなったのか明後日の方向を見ているし、フシオ教官は納得できないと不満を伝える気配を纏っている。


 他の将軍は、竜王は好みの前線配置に推挙されているから特に問題なし。


 樹王と巨人王は、ああとどこか納得した様子。


「いえ、自分の主観の入ったことなので参考になれば」


 冷静に考えれば、俺は主要幹部が揃ったところで本心でキオ教官をべた褒めしただけだ。

 本心とは言え、そこまでしっかりという必要はあっただろうか?


 ないとは言わないが、流石に照れくさすぎる。


 なので、さっさと話を終わらすために頭を下げ、社長に次の話に振ってもらおうと思った。


「いや、ライドウの性格、特に彼の真っすぐさは武器になる。私は長年彼に仕えてもらっている身だけど、そう言う部分を武器にすると言う発想はなかった。参考どころじゃない、しっかりと利用させてもらおうか」


 しかし、流すどころかさらに深堀し始める始末。


 その発想はなかったと、感動すらしている。


「そこまで驚くようなことでしょうか?」

「うん、こう言っちゃなんだけど戦争とは武力と武力のぶつけ合いだからね。その中にある罠を仕込む、策略をする。そう言った面を嫌うライドウを参加させる方法は考えていたが思いつかなかったのさ。だから、懐柔に近いけど、やっていることは実質的には交流な君の策は正直感心したよ」


 ぱちぱちと拍手すらもらってしまった。

 何というか、このままいくとこの作戦が本決まりになりそうな雰囲気。


「どうだいライドウ、人王の言う方法だったら暗躍やってみるかい?」

「……まぁ、俺に方法を任せてくれるって言うなら考えなくはないですぜ」

「ハハハハ!なるほどなるほど!!そうか、そうか、これだけでもこの会議を開いた甲斐があったよ。流石に今この場でやれと決定するわけにはいかないけど、今後の作戦で使うかもしれない。良い手札ができた!!」


 おまけに根っからの策略嫌いのキオ教官が、否定しなかったのが決まり手となった。


 本当に作戦で使用されるのではと、言い出しっぺながらいいのかなと思わなくはない。


 だけど、この場にいる将軍は無理だと思ったり、無茶だと思ったら反対意見を言える猛者たちだ。

 その彼らが沈黙を保っていると言うのは遠回しの肯定ということになる。


「うんうん、いやぁいいね。その調子で他にも意見を聞いていこうか。人王の意見を聞いている間に色々と考えはまとまった様子だしね。どんどん行こうか」


 結果としては、良好。

 評価してもらえたと考え、話の流れにそってそれぞれ将軍が考えた攻め手を披露していく。


 正直そのどれもが俺の先ほどの発想よりも優れていると言えるような内容ばかり。


 素人に毛が生えた程度の俺の意見では太刀打ちできないと思わされる。


 本当だったらこの会議で俺は自分の役割を説明すると思っていたのだが、こういう展開になるとは思わなかった。


 その後はちょくちょくと俺にできることが質問されつつ、将軍たちの立案を聞くこととなった。



 今日の一言

 発言したことには責任を持て



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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[一言] あーなるほど…… 相手も一枚岩じゃないから心を取りに行ったのか
[気になる点] 次郎ー フシオ教官の不満を解消させてあげてー。 鬼王ばかり褒めてちゃダメだよ。
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