63 交渉?の時間だ(邪笑)
指摘され内容を読み直し修正しました。
かなり内容が変わってしまい申し訳ありません。
Another side
早朝、カツンカツンと石畳の上を煌びやかな刺繍を施された白い法衣を着た身分の高そうな男が早歩きで突き進む。
その表情は焦ってはいないが、口元は固く歪み不機嫌であるのを表していた。
そして男は、背中越しに聞こえる報告を聞く。
報告は、当初の順調に進んでいた計画をひっくり返すような内容で、返す口調も自然と厳しくなっていく。
「勇者の教育が上手く進んでいないというのはどういうことだ!」
「それが……教義に対して疑問視する者が現れ、その者が中心になって質問に回答しない限り力を貸さないと……」
「馬鹿な! 神の使徒たる勇者が神の教えを否定することなどあってはならんというのに、それがわからんというのか!!」
「何分異世界の子供ということで、認識の違いがあるだろうというのが騎士たちの意見です」
「それをどうにかするのが貴様たちの役目だろうが!」
クソッと吐き捨てるのをこらえるように男は石畳を踏みしめる。
最初は順調であった。
教皇や聖女、同盟国の国王や第二王女の言葉によって勇者は従順にこちらの言葉を受け入れていた。
刃引きしていない武器も興味津々に手に取り、魔法を見せたときは年相応の明るい表情も見せ積極的に学んでいた。
一緒に召喚された大人も最初は邪魔だったが、女で篭絡した今では大した脅威ではない。
先月には勇者を披露するための式典を、決して少ないとは言えない量の金貨を使って行い大いに盛り上げた。
計画は順調だとその全てをお膳立てした司教は腹の底も表面上も笑顔であった。
これならどうにかなるとあの時は思っていた。
しかしその歩みにも陰りが見えた。
「全く手間をかけおって」
勇者への不満を聞かれないように小声でこぼし、こんな苦労をする羽目になった事実を思い返す。
帝国は、遥か昔から神を信仰する神権国家トライスと違い、王族、貴族、民衆に至るまで実力主義の風習がある。
その軍事力は大国の中でも抜きん出ていると言わざるを得ない。
今代の皇帝になってからはさらに軍事に力を入れ、いずれはこの大陸を統べるとも噂されていた。
しかるに、帝国の話は噂だけではなかった。
それを知る地位にいるこの男は、水面下で繰り広げられていた情報戦の中で得た確かな内容を確認している。
そして、当然男よりも上にいる地位の存在たちもその話を知っている。
その中で、魔王の遺骸を使ったゴーレムを制御したという情報にはまさに激震が走ったとも言える。
たとえ、一度倒したとは言えど、勇者でなくては勝てない存在である魔王をだ。
この情報から、帝国が次に取るであろう動きなど、滝の水が上から下へ流れ落ちるのと同じくらいに明白だ。
直ぐにトライスを含む各国の上層部にその情報が入ってきた。
すなわち、帝国の軍事行動の開始だ。
このまま何もせずにいたら、魔王の力を得た帝国に蹂躙されるのは目に見えている。
座して死を待つくらいならば、無理にでも対応すべきだと判断するのも当然の帰結だろう。
そして、各国の動きの中で最も早く対処を開始したのは神権国家トライスだった。
魔王という存在に対して最もノウハウが有り、加えて不幸中の幸いというべきかトライスには歴代最高と謳われる聖女がいた。
神権国家トライスは、初期の段階で勇者召喚を決断した。
そして、その決断は功を奏したと言える。
トライスの教皇は勇者召喚に万全を期すために、かねてより進めていた王国との同盟の締結に力を入れる。
結果、帝国の動きもあってか先行きに不安のあった王国も呼応したことで、予定よりも早く締結することができた。
それによって勇者召喚の儀式に、魔道士としても歴代に名を残すだろうと言われる王国の第二王女の協力が加わることになる。
人間というのは欲深いものだ。
歴代最高峰の二人が揃い、国二つ分の財力を使うならと、二国の上層部はさらに一計を案じる。
前代未聞の勇者の複数召喚に挑戦だ。
賭けに勝てば大戦力を得られ、負ければ戦にも負けてしまう大博打、こんな状況でなければ決してやらないような内容だが両国は必要と断じた。
そして、賭けは勝った。
成功してしまったとも言える。
もはやこの出来事は神の啓示かと両国でも話題になり、戦争への士気向上に役立った。
さらに、儀式に使った魔力の源である霊峰に封印されていた魔王の魂も姿を現さない。
トライスにとって都合のいいことが重なり、帝国など恐るるに足らずという風潮が流れ、もはや戦争への歯止めなど利かない状況となった。
三国の大戦は秒読みに入ってしまった。
その矢先に、要である勇者に問題が出た。
正確に言えば、問題が出始めたといったところだろう。
「……」
いくら魔王へのノウハウのあるトライスでも、一気に勇者を育てるという経験はない。
一人に注視すればいい過去と違い、今回は目を配る範囲が広がってしまった。
戦力が増えた代償と言うべき問題だろう。
その問題を解決する手段を講じるために原因を探る必要があると司教の男は思い、チラリと異端審問官を動かす考えが頭によぎるが時期尚早であると踏みとどまっている。
それらを視野に入れて雑事を済ませ、このあとに会う勇者たちとの話の展開を考えている。
信仰だけで成り上がったのではないこの男は、数々の業績を積み上げてこの地位にいる分、裏に色々と黒い噂が絶えない。
今回の勇者召喚も、自分がもっと上に行くためのワンステップにすぎないと思っている節がある。
そんな中、問題の雑事がこの先に控えている。
「それで、勇者の国から来たと言った不届き者の男は例の部屋にいるのだな?」
「はい、司祭の一人が事にあたっていますが、その者は勇者と責任者と会わせろと」
「報告の話は真か?」
「間違いないとのことで、その者は勇者の秘密を知っていると。司教様これは」
「わかっておる」
国の機密である勇者と国での頭脳である枢機卿や教皇を、そんな世迷言を言うような人間に、はいそうですかと簡単に会わせるわけがない。
常識的に考えてもありえない。
国王やそれに近い地位にいる者の伝で話が来るならまだ話はわかる。
少なくともこんな礼儀知らずは、通常であればつまみ出すか異端として処罰するだけでこの話は終わる。
だが、それにもかかわらず今回は司教という高い地位にいる人物を呼び出し動かしているのが、事実、名も知らない世迷言を言う男だという。
何事にも例外は存在する。
勇者の秘密、召喚の過程を知っていると仄めかしている段階で、その人間を放置するわけには組織上いかなくなった。
その男がただのホラ吹きならいいが、万が一という可能性があるということで慎重に動かざるを得ない。
結果、トップとは言えないがそれなりの地位である司教が駆り出されることとなったわけだ。
勇者の問題を解決しなければいけないという矢先にわけのわからない呼び出しを受けた司教の腹は、仕方ないとは言え納得できる訳もなく煮えたぎるほどドロドロしている。
その司祭の再教育と男の処分を検討しながら歩んでいた先、騎士たちが見張りをしている一室の前で一度足を止め、すっと優しそうな笑顔を貼り付ける。
この部屋に、司教である自分を呼び出した輩がいるという事実を前にして、先程まで見せていた怒りの感情は厚い皮に覆われた。
「騎士の準備は?」
「二個中隊を周囲に待機させています」
「異端審問官も呼んでおけ、その男には聞かねばならないことがあるのでな」
「は」
タダで返すつもりはない。
そんな言葉を司教は裏に潜ませる。
出すべき指示を出した司教は司祭の一人が立ち去るのも見届けず、部屋の前で見張りをしていた騎士に扉を開けさせると中に入る。
ここは、それなりの地位の者を待たせる待合室だ。
当然秘匿性は高い。
そしてそれは本来の目的とは別に、ここで何があっても内々で処理ができる最適な場所という意味も付属される。
そんな部屋で、出された飲み物に手をつけず司祭の話を無視するように目を瞑り腕を組む男が座っている。
コイツかと、司教の目は一瞬鷹のように鋭くなるがすぐに元の温和な笑顔に戻る。
「司教様」
「よい、あとはワシが話を聞く。貴殿が勇者の秘密を知る男か?」
「……正確には違いますが、今はその認識でよろしいですよ」
司教の入室に反応を示した男は、腕を解きすっと立ち上がった。
姿を見て声を聞いた印象では若い。
だが、確かにこれは司教である自分が呼び出された理由も納得できる。
すっと立ち上がり笑顔を見せてくる男は、一目で異常だと断ずることができる。
見たこともない光沢を放つ黒い服を着込み、こちらでは珍しい黒髪に黒い目、そしてなにより直に感じることができるほどの膨大な魔力だ。
一目見るだけで勇者たちと類似する箇所が多数見受けられる。
もしやこの男も勇者なのではという予感が司教の頭によぎるが、直ぐにその可能性を否定する。
勇者の召喚は秘中の秘。そう簡単に真似できる代物ではないのは、なにより召喚に立ち会った司教が一番理解している。
物腰のやわらかそうなこの若い男に対して警戒をしながら、先程まで会話をしていただろう司祭を背後に控えさせ席に着く。
「なら貴殿の正体を知るために話を聞かせてもらおうか」
Another side END
次郎 side
教会に潜入しアメリアにファイルを渡してから一週間目。
俺は準備が完了したので行動を開始した。
早朝といってもこっちでは雲が晴れれば誰しもが動き出すイスアルで、人目につかないようにスーツを外衣で隠して教会に出向いた。
そして、地位の高い人物に会うためにアポイントを取ろうとしたが予想通り門前払い。
どうやら、貴族でもなんでもない俺では会うどころか遠目に眺めるのも難しいとのことだ。
ことさら丁寧に対応し、俺を可哀想なやつを見るような尼さんの顔は殴りたくなったが我慢する。
ならば裏技でと外衣を取り払いしっかりと皺を伸ばしたスーツを見せつけ、勇者の関係者でいつなら地位のある人間と会えるかと聞く。
その時に一緒にあらわになった染め直した黒髪と黒い瞳を見て、何とも言えない尼さんの表情でさっきの鬱憤の溜飲を下げつつその場で待っていたらこの部屋に通された。
最初に司祭の役職に就いてるという男が対応してきたが、俺の見たところ会社で言う課長クラスの人間だろう。
役割としては偵察だろうと、こちらを探るような会話から当たりを付ける。
ならば俺としては必要以上の情報を与えるつもりはない。
魔力を魔紋に流し練り込み非常事態に備え、必要最低限の情報を与えて釣りをするかのように大物が出てくるのを待つ。
鯛を海老で釣る感覚で出された飲み物にも手をつけずじっくり待つこと一時間。
結果として目の前に現れたのが、豪華な杖を持ち肥えた躰を高級なソファーに沈める狸親父だというのは正直出来過ぎではないのかと思う。
どうやら俺は、海老でたぬきを呼び寄せてしまったらしい。
その存在感は、さっきまで必死に話しかけていた中間管理職のような司祭よりも格上だと腹の底で思う。
まさか、アポイントを取ろうとした段階でここまでの存在と会えるとは思わなかった。
釣れたという手応えと、面倒だという感情が入り混じる。
見るからに腹に一つや二つで済まない代物を抱えていそうな雰囲気は、前の会社で無理難題をこちら側に了承させようとしていた年配の営業を思い出させる。
だからこそ、こっちも営業用の笑顔で口調も同じように営業用に合わせている。
「そうですね、ではまず自己紹介を。田中次郎、いえこちらで言えばジロウ・タナカです。端的に言えば、私は次元を越えて、あなたがたの言う勇者と同じ国から来ました」
まずはジャブ、既に司祭にも話した内容を小出しで流す。
しかし、向こうも場慣れしている。
この程度のジャブでは何の反応も見せない。
「そのようだな。しかしいかんせん、その話はワシには信じられないのだよ。過去の歴史を遡っても勇者の世界から来たのは我が国で召喚した者だけだ。我が国の召喚の義は秘中の秘、そう簡単に同じことができるとは思わん」
逆に俺はニセモノだと、日本人を語る不届きものだと疑ってきた。
まさか人生の中、日本人であることを疑われる日が来るとは思わなかったよ。
心の内で貴重な体験をしたと苦笑しつつ、もちろん、俺もこの程度のジャブで表情を変えたりはしない。
「ならば私は、密偵や勇者の地位を得ようとしている不届きものだと?」
「そのように考えるのが妥当であろう」
「そうなると、私は相当の愚者であなたはそんな愚者に応対する暇人か心の広い司教様ということになりますね」
「貴様! 司教様になんて言葉を!!」
「良い」
「はっ、しかし」
「良いと言っている。この者が言っている言葉に間違いはない。この者の言葉に偽りがなければ、な」
ああ、清濁を飲める奴っていうのはこれだから面倒だ。
客観的に見て最初に思いつくのは、俺はアホな密偵か身の丈に合わない地位を得ようとする馬鹿だろう。
それをこの司教は、自分の言葉ではなくあくまで第三者の視点で語ってきた。
ならばと俺も、そんな馬鹿に対応する奴は余程の暇人か何も考えていない馬鹿だと皮肉混じりの言葉で返す。
それに対して怒りを見せるなんて初歩的なミスは司祭殿のようには見せてはくれないようだ。
この司教は、あくまで俺が馬鹿な奴ならという前提で話しているということで、本心は別だと思っているということだ。
狸親父がそうくるなら、俺も迂闊に自分の言葉を消費するわけにはいかない。
今の俺の言葉は諸刃の剣、相手の立場を切り捨てることも俺の立場を傷つけることもできてしまう。
言葉は慎重に選ぶ必要がある。
実戦とは違った粘着くような駆け引きに保守的な考えが湧き出てくる。
だが、ひるんで出し惜しんでいてはあっという間に飲み込まれる。
行ける時には行かなければと覚悟をしっかりと決めて、それでと話を目で促してくる司教から目をそらさず言葉を発する。
「では、貴方がたが私を勇者の世界からきたと信用できるであろう情報を一つ開示しましょう」
「ほう」
「現在確認できている段階で行方不明になっているのは二十三名です。内大人が一名に子供が二十二名、男女比率で言えば男が十三名、女が十名です」
「よく調べているな」
あくまでこの場でも調べられるという言葉を返す司教には返事をせず話を続ける。
「そして彼らが所属していた高校、こちらで言う学舎のようなものです。その場の名称は」
これから言うのはこちらの世界の一般では決して知られていない。
密偵でも調べられるだろうが一々調べるような内容ではない。
だが、日本のニュースでは日常的に語られる名前だ。
そこで初めて司教の眉毛がピクリと動いた。
「五月雨高校、彼らはそこの生徒です」
「……貴様」
「どうやらわずかでも私が別の世界から来たと信じてもらえたようですね」
「……あくまで可能性の話である」
それは、俺を信用はできないが完全に否定するには難しい存在だと認めたということだ。
高校の名前は言わば捨て札だ。
でたらめだと断じられれば彼らはその情報を知らないということである。
仮にでたらめだと断じた姿が演技だとしても、この情報を知る俺を無視できる存在ではないと思わせることができる。
そして俺は、知られても問題ない内容でほかにも勇者の情報を持っていると仄めかせればいいと思っていた。
そんな札を使ったリスクの少ない賭けであったが、想像よりも効果的なようで俺からしたらこの成果は儲けものだ。
しっかりと反応を示したということは、この司教はアメリアたちがどんな存在かある程度知っているということになる。
うまく話を持っていけば、勇者と公式に接触する機会を設ける権限をこの狸親父が持っているかどうかを知ることができる。
まぁ、それを確認する代わりにこれで俺の退路も危うくなったのだがな。
それは想定済み、気にせず切り込んでいく。
「ならば、可能性の話をしましょう。仮に私が勇者の国から来た存在だとしましょう。その目的はなんだと思いますか司教様」
「いくつか考えられるが、勇者との接触を求めたということはその伝を使った我が国との交易であろう」
「そうですね、それも一つの目的となりうる理由ですね」
避けた。
この司教は悪い予想をしっかりとしたにもかかわらずその話題を避けた。
「ですが、あいにくと私の目的は違いまして」
「……その方の目的は?」
「ええ、もう司教様にはお分かりのようなのではっきり言いましょう」
笑顔というのは時には脅しになる。
教官たちに強化を施された俺の営業用の表情は威圧的な笑みを浮かべ。
俺の口はどもらず、なめらかに力強い言葉を放つ。
「日本から拉致された子供たちを連れ戻しに来ました」
「な、何を!!「黙れ」っ」
「おや? 聞こえませんでしたか?」
俺の言葉は、ある意味でこの国に対して真っ向から否定しているようなものだ。
なにせ、勇者の召喚は神による選抜を受けた神聖なるものだ。
それを拉致と表現すれば、神への冒涜にほかならない。
この司祭のように激昂するのも無理はない。
感情的になろうとする司祭の言葉を、狸親父は振り向かず言葉だけで押さえ込んでみせた。
「貴殿は、その言葉の意味を理解して言っているのか?」
「理解せずこの言葉は選べませんよ」
さて、この司教様の頭では、俺はどういう評価になっているのだろうか。
うつけか、危険な存在か。
概ねこの二択だろうか、そうなれば次に待っているのは武力制圧なのだが、
「司教様、あなたには子供はいますか?」
「いるが、それがどうした」
「こちらでは彼らは神に選ばれし勇者ということになっているようですが、日本では親どころか誰にも行き先を告げられず突如として消え去ってしまった子供たちということで大騒ぎになっています。これがあなたの国で起きたとしたらどう考えますかね?」
その様子がないうちに俺はタイミングをずらすために話を進める。
「ここからは仮定の話です。あなたの信じる神とは別の神によって連れ去られ、あなたのお子さんがあなたに何も告げられず行方不明になります。こことは別の国で正義のために戦争の道具にさせられそうになるのを知ったらどうでしょうかね」
情に訴えかけられれば儲けものだが、それも効かないようだな。
表情一つ動かさず逆に俺の話から情報を抜き取ろうとするほど貪欲な目をしている。
まぁ、それでもこの話の目的はそれではないからいいのだがね。
「さらにその世界に渡る術が有り、あなたはその国に向かいそれを行った神の下僕である組織に接触した」
「それが、貴殿ということか」
「ええ」
あとは野となれ山となれだ。
「我が国にはこの世界に渡る術が有り、国の問題としてあなた方の召喚の儀は取り上げられている。それに対してあなたがたはどういった対応をとられるか、お聞かせ願いたい」
「……」
嘘は言っていないが、実質嘘のようなものだ。
次元を越える術を持っている組織の建物が日本にあるだけで、そんな術が日本にあるかどうか定かではない。
国の問題としてあげられているのは間違いではないが、俺はその動きの中にいるわけではない。
言葉って難しいな。この言葉、聞き方によっては俺はまるで国の使者のように聞こえるぞ。
俺の舌も前の狸親父の腹のようによく脂がのっているためかよく動く。
「……」
「時間はあまり取れませんのでお早めの返答を、私どもとしては今回の行方不明者を返還してもらうことを第一と考えております」
いやぁ、嘘しかないのって命綱なしで綱渡りをしているようでドキドキするな。
ハッタリで局面をどうにかする主人公の心臓は鉄でできているだろうな。
「……」
そして、イエスともノーとも言えない司教の心理はいかほどか?
俺としては偽物と断じられ武力行使されるのが一番問題なのだが、向こうには俺を偽物と断じるには情報が欠如しすぎているのでそれもできない。
対して異国の使者の可能性がある情報が散りばめられて与えられている。
俺を向こうの立場から見たら、すごく曖昧で対処に困る迷惑な客であろう。
「どうやら私の存在の判断に困るようですね」
交渉の場でそんな人種と相対している時に相手側から妥協してくると、人間は自然と自分が優位になったと思わされる。
「ではどうでしょう、あなたがたの立会の下で勇者たちと私を引き合わせてみませんか? 同郷の人物から確認されればさすがに私が本物か偽物かわかるのではないでしょうか。司教様にも立場がおありでしょうから、確認を済ませてから再度話し合いの場を設けましょう」
ここで天秤にかけられるのは、勇者と俺を会わせることによるデメリットと俺の正体を確認できるかもしれないメリット、そして時間を稼ぐか稼がないかの選択だ。
そして、こうやって相手が時間をかけてもいいと妥協してきた時の人間の反応は大抵は決まっている。
「……よかろう、ワシの権限で勇者との会談の場を設けよう」
時は金なり。
司教に現状を打開する時間を稼ぐことを選択させた俺は心の中でガッツポーズを取った。
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性八(将軍クラス)
役職 戦士
今日の一言
予定は予定、理想の予定など紙くずで最悪を想定しいくつかの計画を練るべし。
今回はこれで以上となります。
ようやく次郎君を動かせた。
次回は久しぶりの戦闘パートになると思います。
これからも本作をよろしくお願い致します。




