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656 積極性があることはいいことだが……ありすぎるのは

 


 今現在の部屋の空気を例えるのなら、喧嘩が始まる五秒前と言えばいいのだろうか。


 チリチリするとかピリピリするとか表現される時があるけど、そんな生易しいモノではない。


 社長の言った言葉を耳が拾い、脳が認識する前から体中に暴風が吹きつけているかのような圧が襲い掛かった。


 戦争の守りの主軸は社長の鶴の一声でアミリさんに決まった。


 そこに異論は挟まれず、むしろ順当に決まったと言ってもいい。


 アミリさんは現在妊娠中で、そんな重要な立場になってもいいのかと思わなくはないが、彼女自身も問題ないと思っている様子でたいして気にしている素振りはない。


 社長もきっとこの議題はすぐに片付くと思って先に終わらせたのだろう。


 この戦闘に入るのではと思わせる空気になることがわかり切っているからこそ、疲れる前に終わらせたかった。


 この部屋に同席したメイドや執事、そして護衛の騎士たちでさえも体が強張っているのが分かる。


 その緊張の原因であり、一触即発の空気を作り出した原因。


 防衛から攻めに転じるときの先鋒とでも言える一番槍。

 それを誰がするかの話題になった途端に、自発的に立候補する俺とアミリさんを除く将軍たち。


 人間離れした身体能力を持っている俺だからこそ分かる。


 コンマ一秒たりともずれなく、遅れなく、五人の将軍が攻め手に名乗りを上げた。


 同時にこの部屋の重力が、二倍、いや三倍になったのではと錯覚するほどの圧を感じ取ったのだ。


 大人しそうな樹王と巨人王すら、好戦的な教官二人と竜王に後れを取らなかった。


 物理的に感じ取れる意気込みって、どれだけ戦いたいんだよ。


「まぁまぁ、落ち着きたまえ。君たちは平気かもしれないが兵たちや彼らは平気ではない。気を沈めたまえ」


 そのやる気を見て嬉しそうに笑えるのは世界中を探しても社長くらいだろうな。

 軽くたしなめて、ようやく圧を収める将軍たちを見てにこやかに笑っている。


「皆のやる気は十分に感じ取れた。そうだね、私の考えとしては攻め手は二人と考えている。人王が攻め手と守り手のサポートをしてくれるからこその二人だ。残りは予備戦力として待機、そして事の推移次第で柔軟に対応してもらう」


 こうなることを見越していた社長は苦笑交じりに、攻め手に回る将軍の振り分けを説明する。


 相手の攻め手をアミリさんが防ぎ、相手が苦戦している間にダンジョンを伸ばして相手の土地に逆撃を仕掛ける。


 その初手攻防の戦力割り振りで将軍を三人も投入するのはかなりの大盤振る舞いだ。


 さりげなく俺の役割もしっかりと固定してくれるのは助かります。


 だけど、俺の問題は最早どうでもよく。


「なら、俺とノーライフで決まりだな。俺が物理、ノーライフが術、バランスがいいじゃねぇか!」

『妥当であり王道の攻め、盤石と言っても過言ではない。これ以外の選択肢はあるまいて』


 戦い大好き魔王軍が、絶対に戦えることを保証されている初手。

 それも戦の花形である先鋒を簡単に譲ると思うか?


「その提案には異論があります。術に関しては土地を有効に活用できる私こそ最初の攻め手に重要だと言えます。我らがダークエルフの誇る精霊術を駆使すれば瞬く間に占領地を要塞に化すことも不可能ではありません」

「建築技術においてジャイアントが後れを取るわけもない。自給自足が安定して行える巨人族の軍こそ最初の戦の基盤を作るのに重要だ。故に私こそ先鋒にふさわしい」

「面倒なことをごたごたと言ってるんじゃねぇよ。戦いは強い奴が勝つんだよ。最初に俺が行って全部薙ぎ払えば済む話だ。殲滅力で俺たち竜族にかなうやつなんかいねぇだろ」


 攻め手の席が二人とわかった途端にすぐにタッグを組んだ教官たちに反論する将軍たちの言葉を聞けばわかるだろう。


 遠慮など皆無、引く気など生まれる余地もないほど堂々とした言い回しだ。


 これ、絶対に長引くことが決まった話題だろ。


 二人組で最強なのは俺的に教官コンビなのは間違いない。

 現魔王軍の結成当初からいる古参組。


 その安定感は群を抜いて高い。


 それ故に先陣を切らせて間違いのない安心感がある。

 だけど、それだけで他の将軍を選ばないのかという理由になるかと聞かれれば決定打にはならないと断言できる。


 俺が見ても、教官たちの言葉と同等の説得力を他の将軍からも感じる。


 竜王だけは脳筋過ぎてもう少し言葉を選んだ方がいいとは思うが実力が裏打ちされているから否定できる要素がない。


「ふむ、皆の意見も尤もだ。では、各々意見を聞いてそれを参考にさせてもらおう。機王、人王、君たちには彼らの意見を聞いて感じたことを私に教えてほしい」

「了解」

「わかりました」


 最後の決定権は間違いなく社長にあるが、その社長の決定に影響を及ぼしかねない役割を振られてしまった。


 教官たちからわかっているな?という眼光で体がすくみそうですよ社長。


 でも、仕事を振られたのならしっかりとこなす。


「では、まずは目的と目標を明確にすべきです」

「ほう」


 意見を具申せよと命じられたのならその提案をこなす。

 現状、必要なのは戦うと言う過程ではなく、戦果という結果だ。


 それはこの場にいる誰もが理解していることだけど、明確に口にして共通意識を持つことが会議では地味に必要だったりする。


 互いにわかっているだろうと、憶測で物事を進めるとちょっとした誤差で対立を生み出してしまう。


 それで時間を消費するのはもったいない。


 それを避けるための言葉だったんだが、意外と言わんばかりに社長は面白そうに笑い、他の将軍は何を今更と言う雰囲気を醸し出した。


「人王、何か考えがあるのかい?」

「考えというほどのモノではないですが、明確に目的を持つことで最効率で物事を進められることは世の常です。例えこの場にいる将軍全員に同じ仕事を振ったとしても誰もが達成してくるでしょう。それは魔王軍として成果はでます。ですが、過程で生み出された費用、この場合は物的損害、人的損害、そして時間的損害の三つの観点で考慮しますが、この三つの要素で大きく差が出るかと」

「真理、時間が早くともその他の被害が大きくては後の統治に支障が出る、さりとて被害を気にしすぎて侵攻が遅々として進まないのも問題。それは私を含め他の将軍たちにも言えること」


 けれども、俺が口で説明し何を言いたいかを明確にすることによって将軍たちも、何を決めるべきか考慮し始めている。


「社長にお聞きしたいのは、まずはどこまで攻めて、どこを占領するのか。第一段階の最終目標をお聞きしたいです」


 言っては何だけど、何をするべきか決まっていないのに挙手する将軍たちの自信は凄いと思う。


 だけれども、せめて明確にどこを攻めるかを決めてからの方がいいと思うんだよね。


「そうだね、現状厄介なのはどこからでも大陸に軍を出せる状況だ。正直どこの国を攻めてもその国が耐えている間は他の国が大陸を攻めることができるし、耐える国を支援できる関係を相手は作り出した」

「では、まずはその関係性である連合の瓦解を狙うと?であれば宗主国である帝国か、王国、あるいは神のひざ元であるトライスを?」


 厄介な部分を明確にしてこっちに有利になるように形どる。

 闇雲に攻めてパワーゲームに持ち込むのも悪くはないが、今回の敵はそれを狙っているようにも感じる。


 樹王が、連合の瓦解を狙うなら大国をターゲットにするのがセオリーだと言う。


「いや、まずは周辺の小国、それも力で従わされ不平不満を持っている国から攻める」


 しかし、それは相手も理解している。


「盤石な地盤をつくるならまずは闇に潜む。小国一つを手中に収められても大したことはないと高を括っているだろうが、それが増えればねぇ?」


 いつもは派手に明確に動いている魔王軍であるが、暗躍ができないとはだれが言ったか。


 あくどい笑みを浮かべる社長は正しく魔王だ。


「こっちは地球というあっちにはない手札も存分にある。国の一つや二つ、戦わずして陥落させてあげようじゃないか」


 優し気な笑みに隠された一国の長の顔。

 甘い囁きも時には武器になる。


 飴と鞭をうまく使えてこそ一国の長になる価値があると豪語する御仁だ。


 本当に口だけで国の行く末を変えそうだ。


『であれば一番距離が遠い国が最良かと、東部には王国とトライスが陣取り、西に帝国がいますな。ならば、狙うは北か南か、あるいは』

「両方かだ」


 そしてその魔王の目が向くのはどこか、二兎追う者は一兎を得ずと言う。

 安全策を考えるならどちらか一方にするのだけど、教官たちのにやけ顔から察するに。


「うん、迷わず両方に行こうか。戦線拡大は本来は好ましくないけど、今は時間が惜しい、小国を少しでも早く陥落させて影響力を増やしたい」


 社長の選択はキオ教官が提案した南北への同時侵攻。


「なら、今回優先すべきは戦闘能力よりも知計に長けたモノが参加すべきですね」

『であれば、ワシと樹王か』


 そしてやることは隠密による暗躍、逆撃の地盤づくり。

 暴れることが大好物な竜王、鬼王は除外され、暗躍が得意ではない巨人王も除外される。


「いや、暗躍は片方だけだね。まずは目立つ方法で国を落としたい。そちらに注意を向け暗躍する側には背後を突いてもらう必要があるね」


 一瞬、役割を無くされたかと思ったキオ教官と竜王が拗ねそうになったが、社長の言葉で息を吹き返す。


 派手に暴れるとなるとこの二人以上に長けている将軍はいない。


 ここで北と南の二択に加えて、暗躍する側と暴れる側で分かれる。


 攻める場所と目的は決まった。

 では残るは誰がやるかだ。


「暴れる側は、撤退も視野に入れて兵力を温存しつつ戦線の拡大が目的。反対側に視線を向けさせないように積極的かつ継戦能力が必要。対して、暗躍する側は交渉能力と隠密性に長けた者が適切」


 必要なことはアミリさんがまとめた通りだ。


 必要な要素はこの場にいる将軍が誰でも持っている。


「俺は暗躍なんて面倒なことはしたくねぇ、やるなら暴れる方一択だ」

「奇遇だな竜王、俺もだ」

「私も暗躍は性に合わん」


 しかしここで好みがわかれることになる。


『カカカ、ワシはどちらでもいいの。なればどちらにも立候補させてもらうか』

「不死王と同意見です。いかような方でも私は万全を期します」


 暴れることを好む将軍と、暴れること〝も〟好む将軍。


 どちらが使いやすいかは明確だ。

 だけどここで使いやすい将軍を二人も消費してしまうことは避けたいと俺は思う。


「ふむ、ではそれに関してもう少し詳細に詰めよう。地図を」


 ここで誰かを使うかは社長の裁量に任されるが、今すぐに決めることではない。


 社長の指示で、護衛の兵士の一人がイスアルの地図を持ってくる。


 持ってこられたのはイスアルの世界地図と、北部と南部の拡大地図だ。


 地球の技術が取り入れられ、だいぶ詳細な地形も書き込まれている。


 少なくとも俺の知っているファンタジー系統で見るような地図ではない。


「南部ははるか昔になるが、この大陸が繋がっていたとされる土地だ。対して北は昔から敵対しているトライスが統治している小国が数多く存在する。暗躍をするなら南部がしやすく、注目を集めるために暴れるなら北部が適していると言える」


 それを見て、ここからどう決めるかが問題だ。


「さて、諸君ならどう攻める?」


 無い知恵を絞る時だ。



 今日の一言

 積極性は時と場合による。



毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 才能が無い。
[気になる点] 今の章に入ってからずっと後書きに 「今話で今章は以上となります。次話から新章突入です!」 と書いてあるので修正した方がいいと思います。
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