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640 たまにはスムーズに事を終わらせたい

 


「『なんだ、その力は』」


 俺が力を開放したことによって、さっきまでのカーターの威勢に陰りが見えた。


「そこまで驚くことか?何の変哲もない、竜の力だよ」


 竜の血の開放、これをやると色々と体に負担がかかるけど、そのリスクに見合う力が出る。


 その力が神剣を開放した力と釣り合ってしまう。


「驚くことか?」


 その事実に、大したことはないと言う風に言ってみたが、実際は何となく理由は察している。


 たぶんだけど、魔力適正の差だ。


 たった一違うだけで、出力の差が段違いに変わる。


 成長しきったステータスに明確な差が生まれるのがこの魔力適正の差だ。


 カーターの魔力適正はかなり高い。

 後で知った話だが、奴の魔力適正は八と記録されていたらしい。


 本来であれば将軍クラス、時代によっては魔王にもなれる才能を秘めている。


 基本的には変動する事のない魔力適正だが、俺のような例外がいるのだから変化してもおかしくはない。


「まぁ、俺には関係ない」


 だけど、見た限り神剣の力を完全に引き出しているようには見えない。

 それが現実だ。


 スッと鉱樹を水平にするように横に伸ばした後。


 タンっと軽く地面を蹴った。


 普通だったら、それは軽く体を浮かす程度の動作だけど。


 もし、人の形をした生物が音速の領域を超える速度で移動ができるのなら話は変わる。


 軽く聞こえた音は単純に、音が置き去りにされただけのこと。


 動体視力までもが強化された俺の視界には開いた間合いが瞬く間に埋まる光景が映し出されている。


「『舐めるな!』」

「舐める気は一切ない」


 相手も流石に切り札を切っただけあって、能力が向上している。

 さっきよりも反応が早い、そして力強く、熱も強い。


 だけど。


「『なぜ、この体に傷が』」


 斬れるなら問題ない。

 様子見も何もない。


 相手の体を寸断する凶刃を躊躇いもなく振るった。


 その結果、神の炎を纏った体から出ないはずのカーターの血が噴き出た。


 揺らぐ神炎、そこに質量的な概念は存在しないはずなのだ。


 今のカーターは神剣によって神炎と同化している。


 概念的存在で言えば、生物を超越した存在になる。


 なら普通の斬撃など無効化され、魔法であっても下位魔法は吸収され中位魔法は無効化され、上位魔法になってようやく効果が出始める。


 あれはそういう物だとさっき斬った時に理解できた。


 最近、斬ることによって相手がどういう存在なのか理解できている段階で、人云々じゃなくて変人染みて来たなと思うようになった。


 切っ先の感触、そして魔力の気配、その他諸々の情報が剣戟に集約されて理解できる。


 大半がフィーリング的な直感染みた感覚の情報なんだけど、それがまぁ的を射るような情報に早変わりする。


 ぶっちゃけて、下手に会話で情報を収集するよりも手っ取り早い時がある。


「なるほど、なるほど、だいぶ存在がこっちの世界の次元からずれている。普通に斬ってもダメだから概念の方で攻めてみたが正解だったな。だけど、まだずれがある」

「『お前、いったい何を言って』」

「何って、お前の体を斬った方法を教えているんだよ。お前の力はさっき斬ったときに大体理解した。神炎の本質は、何もかも燃やし尽くす熱じゃない。神の世界にその体を次元的に近づけることによって神の世界のエネルギーをこの世界に放出し、上位次元による超エネルギーによる強制的な消滅だ。おかしいと思った。燃やすにしても、燃焼過程が一切ない。いかな高温であろうとも瞬間的には燃焼過程が存在する。だが、お前の炎は対抗策がなければ燃えたと同時に消滅している」


 さっきまでの攻撃での違和感を淡々と話しながら、俺はクルリクルリと鉱樹の切っ先を回転させる。

 ここでもない、あそこでもない。


 空間に振れ、そして切っ先に感じる違和感を探り当てるための行為。


 傍から見ればただの手悪戯。


 無意味にして無駄な行為。


「だったら、ここではないどこかで燃やしていると考えるのが妥当だ。ただ単純に強いだけの炎が神の炎と呼ばれるわけがない。神域にある炎だから神の炎なんだ。そう考えるとしっくりくる。すなわち、俺の世界、地球で起こりえる物理現象の炎ともイスアルや魔大陸で起きる魔法的な炎とも違う、別の概念の炎。神の世界での炎がイコールこちら側の世界の炎と考えるのがまず前提として間違っていた」


 だけど、その無駄な行為が着々と俺にとある感覚を掴ませる。


「神剣はその概念を生み出す機構だ。魔力を神の概念を生み出すエネルギーに変換させ、それを一時的にこちらの世界で顕現させる。神炎に能力を限定したのは多様化できるほど、この世界は頑丈ではないと言うことだ」


 学んだことを、現実に実行するのは並大抵の努力じゃすまない。

 だけど、努力は裏切らない。


 切っ先が、ほんのわずかに求めていた感触を捕らえて、俺の手に伝える。


「これを理解したら、あとは簡単。その神の領域に踏み込んで斬ればお前の体は斬れると言うことだ」

『カカカカ、理屈だけで言えばその通りだが、それが普通はできないんじゃよ。それにたった一振りの攻撃で理解できる概念でもない』


 愉快痛快、そんな声で俺の説明を聞いていた教官は高笑いを響かせ、そしてせっかく切り札を披露したカーターは呆然とした顔で俺を見ている。


「さて、〝少し〟斬るのに面倒な体質になったようだけどやることは変わらない。唯々斬るだけ、お前はそれを防いで俺と教官を倒すだけ」


 そんな彼に、もう次はないと教官譲りの三日月の笑みを見せつける。


 剣の腕は把握できた。

 そして不透明だった神剣の性質も把握できた。


 隠している能力も出してきたことによって、もう相手に手札はほぼ残っていない。


「簡単だろ?」

『クカカカカカ!そうじゃな、単純にして簡単、主のさっきの威勢ならそう言ってもおかしくはないの』


 これ以上があるのなら早々に出した方が身のためだ。


 俺の斬撃を防いだ結界。

 そのからくりも、さっきの説明に答えはあった。


 硬いと思った防御は世界の境界を断つための次元の壁。


 世界の均衡を保つための概念障壁。


 それを意図的にずらして防御に回したのだ。


 神剣とは、魔力を神の力に変える能力を持っているがそれはメインではなく副次的な能力。


 本命は神の世界にアクセスするための鍵のような物だ。


「『クソが!』」


 その本質さえ理解していれば、意外と対処は簡単だ。


 全てを理解していると言うことではない。

 だけど概要だけでも理解できるのなら、こうやって自暴自棄染みた突撃をしてくるカーターの攻撃を防ぐことはできる。


 全てを燃やす神の炎。

 神の世界から流出しているその力は神の力そのもの。


 いかに俺の鉱樹であっても魔力のコーティング無しで受け止めれば溶ける。


 だが、それを理解し、魔力のコーティングを何重にも施せば普通に防げる。


 概念防御、刀身に施されたアドサエルの杖の周囲の魔力を吸収する能力がそれを助ける。


 神の炎を吸収するのではない。


 燃やされ崩れたコーティングを燃やされていない部分を吸収して魔力を補填し、新しいコーティングを生み出す補助をする。


 斬り結べば斬り結ぶほど、カーターの瞳の奥にある困惑の色は強くなる。

 万物を両断出来る神剣に斬れないものがあるのかと。


 その迷い、その思考は、ダメだ。


 瞳に迷いがあっては斬れるものも斬れなくなる。


 剣士として、その迷いは持ってはいけない。


 常に万物を斬れると考え、そして挑み続けなければならない。


 縦横無尽に動きまわる俺とカーター。


 そして、その高速移動に追従する教官の魔法。


 大半は神の炎によって打ち消されているが、炎の勢いを抑えている。


 俺が動きやすいようにアシストしてくれている。


 カーターの身体能力は中々の物。


 あの時、確かにわずかな時間とはいえ社長と攻防を繰り広げられただけの事はある。


 神剣の力で能力が増しているのもあってか、あの時見たカーターよりも強く感じる。


「『なぜだ!?なぜ斬れない!?なぜ防ぐことができる!?こんな人間にこの俺が後れを取っているというのか!?』」

「お前の事情なんて知るかボケ、こっちはただでさえ多忙な時間を割いてここに来ているんだ。邪魔するお前の事情なんて知ったこっちゃない」


 だけど、斬り結べば斬り結ぶほど理解できる。


 顔にかかるのでは思えるほど近距離でつばぜり合いをして、神炎を見るが俺の魔力で十分に防げる。

 すなわち、カーターが神剣の力を引き出せている力はそこまで高くはない。


 徐々に勝敗の天秤は俺の方に傾いている。


 向こうが一撃繰り出すためには、こっちが斬撃を三回は打ち込んだ後だ。


 その比率も段々広がっている。


 普段から神剣の力を開放しているわけじゃないのだろう。


 慣れない力加減の所為で、技術にほころびが出始めている。


 力に振り回されているんだ。


 俺は普段からこの竜の力に慣らしを行っている。


 どれくらいの力の増量が行われるか、そしてどれくらい体に負担がかかるか。


 そのどちらも把握するかしないかで絶対的な差が出る。


 漫画やゲームみたいに、いきなり力に覚醒してそれを使いこなすなんて芸当は本来ならできない。


 慣れる時間に差はあるけどな。


 少なくとも、こんな感情に任せている時点で冷静ではない。


 神剣を使いこなせると過信していた。


 実力があるなら、過剰な力は逆に枷になるとなぜわからないのか。


『過ぎた力は身を亡ぼす。その典型例じゃの』


 教官が、興が冷めたとため息とともに一つの魔法を展開させる。


『なれば、もう貴様に関わる時間は無駄じゃ。早々に死ね』


 壁の一面が黒く染まったと思ったら瞬く間に液状化した。


「『混沌魔法か!?』」

『然様、そして余所見をしていていいのかの?』


 脇目に見て、教官の脇に大型の黒いスライムのような存在が出現し、カーターの意識が俺からそっちに向く。


 そんな状況、どうぞ斬ってくれと言っているようなものだ。


 燕返しをした後の再度の切り返し、飛燕のように軽やかに鉱樹の刃は弧を描き、そして神剣を握る手に迫る。


 神剣の刃を間に差し込む時間はない。


 鉱樹の刃はそのまま、神剣を掴むカーターの指を切り飛ばす。


「『ああああああ!?』」


 指先の神経を一気に切断され激痛に苛まれて悲鳴を上げるが、瞬時に欠けた指を炎によって補完され、痛みは一瞬で終わった。


 だけど、その一瞬があれば十分だ。


 相手の体が硬直する、一呼吸の間。


 そこに翻る刃の数は、十を超える。


 痛みでの硬直は一瞬にも満たない。


 そこに差し込めるタイミングを教官が作り上げた。


 その結果として、カーターの首が宙を舞った。


 何が起きたと目を見開いている。


 吸血鬼の生命力はメモリアから聞いている。


 首をはねた程度では死にはしない。

 吸血鬼を殺すには、心臓を潰し、そして。


「これで終わりだ」


 魂を消し飛ばさなければならない。


 首をはねたことによって体の動きが完全に止まり、棒立ちとなったカーターの左胸に鉱樹を突き立て、溜め込んでいた建御雷を開放する。


 いかに神炎を纏っていようとも、生身の体を晒され、その体内から心臓を中心に特大の魔力を込められた雷を放電されてしまえば。


 肉体は滅び、そしてゴーストになったカーターがそこに現れる。


「『俺は滅びない!俺は、俺はぁ!?』」


 神炎によって無理矢理人としての形を保つカーターは肉体を失った。


 その事実を知らず、神剣を振るおうとしたがその動きは完全に劣化している。


『醜い』


 そんなカーターは教官の一言によって黒い物体に包み込まれたのであった。


 今日の一言

 厄介事はあっさりと終わらせるのに限る。






毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] なろう版、最新話到達~! そろそろ「木刀を持った男」が出てくるかな? 黄金剣や風林火山じゃなくて阿修羅ですよw
[一言] 想像以上に凄い使用だった神剣 そして技量がなければそれもゴミか…
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