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61 仕事のやり方は一つではない

祝150万PV突破!!

皆様ありがとうございます!!


田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士



神権国家トライス

国民の大半は太陽神を崇める信者だ。

信心深いというよりは日常的に祈るということが当たり前になっている、地球で言う中東諸国のような風習だろうか。

その首都マッハについたのはサカルの街を出て三週間後のことだった。

道中は軍が動いていることもあって盗賊も魔獣にも遭遇することはなく無事に旅路を終えることができた。

戦争が幸いしたというのがなんとも皮肉な話だ。

そして無事着いて街中に入った時に見た風景に俺が抱いた第一印象は、石造りの建物がやけに目立つということだった。

石造りが主流のこの街造りはヨーロッパに近いものを感じる。

比率としては幾分かの偏りはあるだろうが、中世のヨーロッパと中東の中間といった街造りだ。

その街のメインストリートを俺は一人で歩く。


『では、私はここまでです。太陽神の総本山だけあって万が一がありますので』


吸血鬼のメモリアはこの街に入れない。

吸血鬼である彼女は封印していても教会などの神域には近づけないので今は別行動をとっている。

いくら封印し人間だと認識させても限界はある。

相性の悪いエリアに近づいたら吸血鬼とバレて問題になる。

だから今は街の外、近くの山にある隠れ家に身を潜め、俺が勇者を連れ出した時の支援の準備をしている。

もともと誰かがこの役割を担わなければならないので、渡りに舟といったことでこうやって別行動をとっている。


『失敗したときは迷わず逃げてください』


初めて来た街で一人で行動することは、あらかじめ予定に組み込まれていたものだ。

しかし保険の有る無しは大きい。

いざとなればメモリアと合流して逃げる手筈となっているが、それでも彼女に心配をかけるのは申し訳ないと思う。

見送ってくれたメモリアの心配そうな瞳を思い出しながら外衣のフードを深く被りなおす。

戦火が遠いおかげか、この街はまだ平和だ。


「ここか」


実際に歩きながら頭にある地図と目視の風景を照らし合わせつつ目的となる終着点についた。

広場の入口に入るだけで見えてくる人の波。

毎日入れ替わりで大勢の信者が祈りを捧げていると言われる太陽神の本拠地である大聖堂だ。

広場の入口から大聖堂まではだいぶ距離があるが、それでも全容を掴めないほど巨大な建築物は、日本でもいや世界でも類を見ないほど見事なものだ。

こういった状況でもない限り観光してみたいと思わせる。


「……」


だが、今はその場所に用事はない。

人ごみに紛れるように脇道に逸れる。

華やかな表通りと違い薄暗く道幅もそこそこの道を進む。


「なぁ、兄ちゃん。酒持っていないか? 持ってたら譲ってくれよ」


そして、そんな路地に似合う怪しげな男に声をかけられる。

じっくりと上から下までその男を見る。

目元を隠す帽子に裂けているマフラー、服も靴も茶色で統一されているが何日も着た痕がある。

普段なら絶対に絡まない相手だ。


「どんな酒が好みだ?」

「ククク、話の分かるにいいちゃんだな。そうだなぁ、渋い酒がいい」

「赤か?」

「ああそうだ血のように赤いワインが好きだ」

「そうか、あいにくと手持ちがない。いい店を紹介してくれれば奢るぞ?」

「ククク、ならたかるとしようか。いいぜ、俺のおすすめの店に連れてってやるよ」


どうやらコイツが探し人のようだ。

バースに教えられた符丁の通りに話すと、それがとんとん拍子で進んでいく。

そして、店に案内されることになったのだが、普段から酒を飲んでいる人間なのだろう。

その足取りは不安定だ。

だが、自然と転ぶというイメージは湧かなかった。

俺はその男の後を黙ってついていく。


「入りな」


ふらりふらりと酔っ払いについて行き、右に行って右に行って左に行ってと複雑な道の先にその店はあった。

古いがきちんと手入れされた酒樽が描かれた看板と紅い木ノ実が生った観葉植物。どうやらここが目的地のようだ。

その扉の前に立つ男はさっきまでの不安定さとはかけ離れたまともな声だ。

その声に従い男によって開けられた扉をくぐる。

中は小奇麗に掃除されていて、潰れはしないが繁盛しているとも言えない程度の客入りの様子だ。


「ようこそ裏ギルドに、異世界からのお客人。バースから話は聞いている。言われたメンバーは揃ってるぜ」


どうやらその客も客ではないらしい。

案内人の男は手慣れた手つきで看板をクローズに変え扉を閉める。

裏ギルド、文字通り裏稼業を生業とする非合法的集団だ。

どんな世界でもそういった輩は存在し、このギルドは魔王軍とも関わりを持つ古い組織の一つ。

金次第でなんでもやるというギルドと言うわけではないが、場合によっては手段を選ばない組織である。

スルリと俺を追い越すと帽子を取り払いキザに会釈して椅子を引いてみせる男も、案内中の動きはかけらも伺えない。

夜のない世界での闇が彼らだ。


「まずは状況から聞こうか」


互いに自己紹介は必要ない。

互いに名乗らず仕事をするのが暗黙のルールだ。

裏とは利用し利用される者同士の場だと教えられた俺は、引かれた椅子に座り向かいに案内人の男が着くのを待って話を切り出す。

俺が持っている情報は過去のもので、最新の情報となんらかの差異はある。


「状況はいたってシンプル、国全体で戦意は上々でこれは聖戦だと毎日が祭りさわぎだ」


この男の行動は一つ一つの動作が演技じみている。

内心を悟らせないための仕草だろう。

しかし、戦争しているのに喜ぶというのは昔の日本かと突っ込みたい。


「封印されていた魔王様とやらの情報はどうなってる?」

「それがさっぱり、不思議なくらいに情報が入ってこない」

「は?」


思わず疑問の声が上がり、睨みつけてしまう。


「まぁ、落ち着け。ほとんどの情報が自然消滅したんじゃないかって話だよ。何せ数千年も前の魂だ。残ってる方がおかしいって話だな」

「……確かにな」

「トライスの軍の方でも、無駄な資金を使ったって愚痴が裏にまで聞こえてきたくらいだ。なかには本当は魔王を封印してなかったって話も出てる」

「だが、封印されていた事実と封印があった」

「そう、だからみんな封印されている間に消滅したって話しているわけだ」

「情報の確度は?」

「確かな情報筋ではあるがな……そもそも見つかっていないという状況じゃどうしようもねぇ」

「そうか・・・」


ないものを確認する術はない。

バースの情報網にも会社の情報網にも引っかかってない。

この状況だと、この話は頭の片隅にとどめておくしかない……か。


「わかった。本命の勇者は見たか?」

「そっちは全員ではないが見たね。何人かは『護衛』付きで街にも出てるな」

「護衛、ね」

「監視の間違いか?」


俺の含みのある言い方に反応して男は訂正する。


「あんたの考え通りであれは護衛『も』しているだろうけど本命は違うだろう、余計な知識を与えないようにあそこは危険だと心配してるように道を誘導している。勇者様たちからすれば、親切でいい人のように映るだろうよ。その手の人間が見れば一目で監視だとわかる」

「順調に状況は悪化しているということか」

「その通り」


勇者は順調に勇者になるための道を進んでいる。

俺からしてみれば順調に常識が変わっている話を聞かされればため息の一つは出てくる。

それを嬉しそうに眺める男の性格は言わなくても察せる。


「予定通り劇薬が必要というわけか」

「俺らとしては都合がいいからいいんだけどな」

「こっちは勇者を連れ帰ることができて、そっちは国が混乱するときに自由に動ける。互いの目的は違うが利害は一致する」

「だからこそこれだけの人数が揃ったわけだ」


話が早くて助かると男は笑う。

その腹の中に一体どれほどのものを抱え込んでいるのかと思うが、今はその腹の中は覗かないでおこう。


「なら、その仕事ぶりを見せてもらおうか」

「ククク、気の早い兄ちゃんだ。仕込みは済んでるぜ?」


用意周到なこういった手合いは報酬をしっかり払えば仕事はこなす。

あとは裏切られないように注意するだけだと言われた。

バースの紹介故にその手の話は大丈夫かもしれないが無警戒というのも問題だ。


「なら決行は」

「ああ、今夜だ」


しかし、慎重に行動するための時間はない。

準備ができているなら足を止める理由はない。

とりあえず今は。


「ククク、時間はある。今のうちに頭の中に叩き込んどけよ」

「……わかった」


もうしばらく書類仕事と行くとしようか。

街中の情報と計画内容を徹底的に頭に叩き込む作業に入るとしよう。




深夜、といっても曇天の覆う俺からしてみれば薄暗いだけの昼間のような空間で、曇天の色に似せたグレーの外衣を着て俺は屋根の上に立っていた。

こんな時間だから街は静かで、動いているのは兵士とごく一部の住人だけだ。


「ククク、準備はできてるか?」

「ああ、頼むぞ?」

「わかってる。ついてきな」


同じような格好をした案内人の男は、昼間の千鳥足など思わせない身軽な仕草で屋根と屋根の間を飛び走り出す。

俺もあとに続くが、忍者のようにスパイ映画のようにとスムーズにはいかない。

せいぜい目立たぬよう音を立ずに走るのが精一杯だ。

建物が乱立して足場には困らないが高さも幅も違う。

ふとした拍子で足を踏み外して落下したのでは洒落にならない。

いかに魔紋で強化されているからといって、落ちたら痛いものは痛いのだ。


「ククク、ここでひとまず休憩だ」

「案外となんとかなるな」

「俺が安全な道を選んでるからな。当然だ」


着地は穏やかに大聖堂前の広場より少し離れた屋根の上で立ち止まる。


「時間通りか」

「クククク、抜かりはねぇよ」


その場に待機していたのは一分も満たない。

遠くから聞こえる警鐘の音で俺たちはそっちへと視線を向ける。

曇天の薄暗い時にも見える黒い煙とその下に見える炎の光だ。

そして、響いている警鐘はどんどん伝播していく。


「行くぞ」

「ああ」


騒ぎは広がり注目は向こうへ移る。

闇に紛れ騒ぎに乗じる。

使い古された手ではあるが鉄板でもある。

誰が起こしたかどうやって起こしたかは知っている。

次に何をするべきか俺は知っている。

止まっていた足を動かし一気に大聖堂に向かう。

屋根を伝い向かうのは、本殿の方ではなく使用人が使っている宿舎の方だ。


「道案内はここまで、俺は帰るぞ。あとはお前次第だ。精々気張りな」

「ああ」


屋根裏部屋に続く窓だろう。

特殊なリズムで窓を叩くこと三回でその窓は開けられた。

案内人の男はそれを確認すると、俺の役目は終わったとばかり振り向かず挨拶も交わすこともなく静かに走り去っていった。

俺もそれ以上追うことはなく黙ってスルリと中に入る。

俺が中に入ってすぐに窓は閉められる。

その窓以外に中を照らす光源はなく、隙間から入る光で不十分であるが人がいるというのがわかった。


「こっちです」


その影は迷うことなく下へと降りる場所に俺を誘導してくれる。

そこに近づくとゴソゴソと床を手探りでいじり始め、取っ手を見つけるとそのままそっと床にある扉を開ける。

そこから下へ続く梯子が見えてくる。

影の格好もその際に見えたが、どうやらここの教会に勤める修道僧らしき女性が入口からの光で照らされる。

一回下を覗き込み誰も来ないことを確認してから下へ降りていき、俺を手招きする。

足音を立てないように下に降りた俺は、そっと喋らないようにと指示され案内されるままにその後をついていく。

チラリチラリと時折見える外の風景を確認しながらついていくと、目的の場所にあっという間に到着する。

従うままに開かれた扉に入ると、そこは四人部屋なのか二段ベットが二つだけ並んでいた。


「ここならしばらくは気づかれないでしょう」

「……あんたは?」

「ギルドの一員とだけ名乗っておきます。ギルドの指示であなたに協力するようにと」


ようやくの自己紹介だが、ここでも必要最低限のコミュニケーションだけでそれ以上深くは互いに詮索をしない。

極端なビジネスパートナーということだろう。

天下の太陽神が治める場所にもこういった人材は潜めるものだという現実を目の前に見せられてそういう態度でこられたら、俺もそういうものだと思うしかない。


「あなたの目的は勇者とコネクションを取るということですが間違いはありませんか?」

「ああ、正面から行っても門前払いを喰らうだけだろうからな」


今の勇者は言わばアイドルのようなものだ。

民衆はここぞと集って勇者に会いたがり、国は危険を回避するために接触を防ぎにかかる。

その中には、同郷だから会わせてくれという輩もいるだろう。

俺が仮に同じようなことを言ってアポイントを取ろうとしても無駄だろう。

そして、この国からしても俺みたいな招かれざる客を素直に合わせるとは到底思えない。

良くて門前払い最悪の場合は文字通り闇に葬られるだけだ。

ならどうすればいいかという話になる。


「彼らに会うこと自体はそう難しくはありませんが、会話となると少々難しいかと。彼らは修行と称して本殿にある住居から出てきません。出てきたとしても神殿騎士と行動を共にしていますので一般人が接触するのは不可能でしょう」

「だが、抜け道はある」


古来より外側から崩せない砦でも内側からなら崩せるというパターンが多い。

今回は、それに倣って俺も行動する。

俺の発言に対してコクりと彼女も頷く。


「早朝に中庭で鍛錬をしている勇者が何人かおります。その時間帯なら護衛も少なく監視の目も少ないでしょう。他にも個々で動いている勇者が何人かおりますので、その誰かと接触できればあなたの目的は達成できるでしょう。そして、毎朝欠かさず踊りの練習をしている勇者が一人います。早速ですが彼女と接触してもらいます」

「ああ」


窓の外を見れば段々と雲が晴れ始めているのがわかる。

もう間もなく夜が明けることを指している。

再び移動するために先に彼女が扉を開け誰もいないことを確認する。

その間に俺は外衣を脱ぎ捨てる。

今の俺の格好はこの教会の下働きが着る作業着姿だ。

建物内を移動するにもある程度の誤魔化しが利く。

慌てず次から次へと行動に移すのは仕方がないこととは言え、緊張は隠せない。

潜入作業なんて、やったこともなければ訓練もしたこともない。

能力任せの付け焼刃で失敗を連想しないわけがない。

自然と流れた汗を拭って、移動を始めた彼女についていく。

仕事中に無理でもやらなければいけないという時は確かにあるし、過去に何度か経験したこともある。

だが前の会社にいた時の俺なら、将来こんなスパイじみたことをする羽目になるとは思わなかっただろうなと歩きながら思った。

そして


「彼女です」

「……?」


着いた先の中庭でまさか既視感を感じるとは思わなかった。

日の出を示す陽光がまるで街灯のように彼女を照らす。

その下で踊る彼女を見て俺は資料に載っていた彼女があの時の少女だということに気づいた。

運命の神様とやらはもしかしたらいるかもしれないと、この時初めて実感した。




田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性八(将軍クラス)

役職 戦士


今日の一言

あるときはある、それが巡り合わせというものだ!


今回は以上となります。

これからも本作をよろしくお願いします!!

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