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629 暗躍は隠してこそ暗躍になる

 

 Another side



「さて、ダズロ、詳細を聞きましょう」


 聞いてもつまらない話し。

 それはわかっていると言わんばかりの表情でアンリ姫は、ダズロに話を促してくる。


「ええっと、とりあえずわかっているとは思いますけど、主動なのは神権国家トライスの面々、そしてそれに協力する形でエクレール王国がもろもろ手を回している様子」

「でしょうね。何かしでかすとしたらその国だと思っておりました。何せ二度も魔王軍に攻勢を仕掛けて起きながらすべて失敗。二度目の攻勢に至っては貴重な戦力を失っていますからね」

「向こうさんも後がないんでしょうね」


 優雅にお茶を飲むことすら面倒と感じるほど、予想通りの話の内容。


 アンリ姫としてはこの連合の行動に水を差すこと自体が問題だと言わんばかりに視線が冷めきっている。


 ダズロとしては完全に八つ当たりだよなと、内心で思いつつも口には出さず、個人で集めた情報を雇い主に報告する。


 紙に記録して証拠を残すなんてことはなしない。


 全て頭の中に納めているあたりダズロもなかなかの優秀さが見える。


「聖剣が何本か神殿から持ち出されているようです」

「実際に使える聖剣はないと聞いておりますが?」

「使い潰し覚悟のボロの聖剣なら何本かありますからねぇ。骨董品を出してきたんでしょうよ。天使に修理させているようですし」

「なら、それだけの戦力が必要な場所ということですか。ダズロ心当たりは?」

「僕には皆目見当もって、はいはい、わかりましたわかりました。調べます。調べますからその笑みは止めてください。おじさんにはかなり厳しいくらいに怖いんですよその優しい満面の笑みは」


 しかしその優秀さもアンリ姫にとっては満足のいく結果ではなかった。


 普通にダズロは味方の暗躍の行動をつかみ取った。

 それ自体が快挙と言ってもいい行動なのだ。


 それ以上を求める。

 ある意味では酷とも取れる。


 しかし、アンリ姫にはダズロが手を抜いているように見える。


 故に、春の兆しのような暖かな笑みで微笑むのだが、ダズロからしたら竜に睨みつけられるよりも怖い何かを見ているような錯覚に陥って、働く宣言。


「でしたら最初から、もっと勤勉に働いてください」

「無茶言わないでくださいよ。僕一人で異端審問官と王国の第一騎士団を相手取るなんて割に合わな過ぎです」

「出来ないと言わなかった辺りは高評価ですよダズロ」

「褒めるだけで喜ぶのは犬だけですよ~」


 その働く相手が本当だったら、味方と呼べるような相手なのだからダズロは悲しくなる。

 加えて、ダズロの得た情報の中でも一番相手にしたくない宗教国家最恐の集団である異端審問官と、王国最強と名高い騎士団長がいる第一騎士団の組み合わせ。


 ストレスで胃がキリキリと痛みだすのがわかる。


「では問題ありませんね。あなたは私の犬のような物ですから」

「訂正します。犬も餌を与えられなければ尻尾を振りませんって」

「あら、餌が欲しいんですか?」

「ぼかぁ、褒められたり報酬が約束されていればそれなりに頑張る大人ですからね」

「その言葉、トライスの信者の方々に聞かせたいですね」

「止めてくださいね?そんなことしたら僕、全力で引きこもりますよ。いかにお嬢の無茶振りでも三日は持ちこたえますよ」

「三日も仕事を遅らせたくないので我慢しますが……」


 ダズロはそっとお腹を抑えつつ、懐に入れている丸薬を取り出してそれを一錠飲む。


 水を飲まなくていい薬のようで、それ以外に飲む様子はない。


 しかし、すぐに効く薬でもないようで片手は腹に固定されたままだ。


 これ以上ストレスを増やすなら、ダズロ自身もストライキを起こすとジト目をアンリ姫に向ける。


 そのダズロの本気も三日間という短い時間だ。


 けれども、アンリ姫にとってはその三日も貴重な時間だ。


 長寿のエルフであっても、三日を貴重と感じる。


「魔王の動きがわかりにくくなっている。それに関して何か情報を得れていますか?」

「そっちもさっぱり、前までは異端審問官共が次々に魔王関係者を捕まえてましたが、ここ一ヵ月は末端中の末端くらいの構成員しか捕まえてねぇすねぇ」

「組織もいくつか潰しましたが、本陣と言えるような組織にはたどり着けていません。おかげで魔王の動きの手掛かりが完全に途絶えました」


 魔王の動きがつかめない。

 連合側が前を進んでいるのか、それとも追いかける形になっているのか。


「遺跡のダンジョン経路も軒並み潰されましたしねぇ。向こう側の入り口が完全に潰されたか、こっち側の出入り口に何か細工を施されたか」


 それすら、今はつかめなくなっている。


 ダズロがせっかく作ったダンジョン経路。


「はぁ、あの方々は本当に面倒なことをしますね。本来であればあと数年はダズロを潜伏させて、こちらの勢力を整え一気に攻め込む算段でしたのに」

「こらえ性のない仲間は苦労しますなぁ。なんで、皆そんなに働きたいんでしょうね。僕には理解できませんよ」


 その経路も、あの大攻勢によってバレて使える経路は全て封鎖されてしまった。


 そうなってしまった原因を理解しているアンリ姫はあからさまと言えるほど大きなため息を吐いて見せる。


「見栄というのがよほど大事なんでしょうね」

「それ、あの人たちに聞かせることができる?」

「最後の最後に帝国のみで魔王軍と戦わなければならない時に、あの方々を盾にする際に使いましょうか」

「そうならない日をおじさん切に祈っているよ」


 そして盛大な皮肉を込めて、神権国家と王国がしでかしたことにダメ出しをする。


「でしたら、キリキリと働きなさい。そろそろ薬の効果も出てきた頃合いでしょう?」

「あの、その薬って普通の胃薬なだけですよ?胃が痛まないってだけで、僕自身の疲れが抜けるなんて便利な薬じゃないんですけど」

「あとでポーションの差し入れを入れておきます。今は二国間で起きている暗躍を早急に知る必要があるとだけ理解しなさい」

「はぁい、本当にお嬢は人使いが荒いんだから、ねぇ、そう思わない黒騎士君?」


 そんな雇い主の残業を仰せつかりそうになっているのを避けるべく、わずかな願いを込めてアンリ姫の背後に立ち、室内にも関わらず黒い全身鎧を着ている人物に声をかける。


『……』

「相変わらず無口だねぇ」


 だけど、その鎧から返答が来ることはなかった。

 中身がないただの飾りというわけではない。


 その証拠にちらっとダズロの方を見る動きはある。


 逆を返せばそれ以外に動いた様子はない。


 その中身の正体を知る身として、もう少し仲良くしたいんだけどなとダズロは心の中で思いつつ、あんな状態じゃ仕方ないと割り切っている。


「ダズロ」


 ダズロの心を見透かすように、スッと冷めた口調でアンリ姫が名前を呼ぶ。


 その声色を聞いて、あ、ヤバいとダズロの直感が警鐘を鳴らす。


 こと黒騎士にはアンリ姫のお気に入りだ。

 下手にちょっかいをかけると容赦のない制裁が待っている。


 ダズロとしても線引きはしっかりとしていたつもりだったが、ちょっと踏み越えてしまったらしい。


「わかってますって、それじゃ僕はお仕事をしなくちゃいけませんのでここいらで失礼しますわ」

「吉報を待っていますわよ、具体的には、あの二国の目的と魔王軍の新しい情報伝達手段とか」

「うへ、それはまた無理難題を、というか仕事増えてません?」


 そのお仕置きで仕事が増えてしまったら世話がない。

 そう思いつつダズロは、席から立ち、そのまま外に出る。


 きっとアンリ姫はこの後も書類と情報精査に精を出す。


 口だけではなく、盤面を整えることに余念のない雇い主の姿を知る身として、堕落の境地に至りたいダズロとて多少の勤労意欲に芽生える。


「はぁ、と言ってもどこから手を付けたモノか」


 しかし、その勤労意欲程度じゃこの情勢はどうにもならない。


「同じ方向を見ているはずなのに、見ている山が違う。まとまっているように見えて歩幅が違う。はぁ、本当に国というか集団と言うか、人だからこそと言うべきか。面倒な輩ばかりですねぇ」


 まとまりがないとまではいかないが、ダズロの雇い主であるアンリ姫が動いて歪なまとまり程度の関係にしかならないほどの関係にダズロは大きくため息を吐く。


 自分の雇い主の優秀さはダズロ自身がよく理解している。

 好奇心が旺盛、気に入った輩は意地でも手に入れる。


 しかし、その分仕事はきっちりとする。


 そんな雇い主だからこそ、彼女に囲われた部下は良く働く。


 ダズロと黒騎士だけが例外。


 普段は箱入りだけど優秀な姫を演じているが、二人の前だけではああやって黒い部分を見せてくる。


「おっと、さっそく仕事ですかね」


 闇の包まれた大陸と違い暗くなることがないイスアルでは、姿が隠れるほど暗くなると言うことがない。


 故に情報を集めるときに一番厄介な人目というのを中々切らすことが難しい。


 しかし、そこは生まれ育った環境というやつだ。


 ダズロからしたら隠れやすい大陸の方がすごしやすいなと思う所はあるが、だからと言ってこちらでの諜報活動が苦手というわけではない。


 屋敷から出てわずか数分で、必要な情報を得る場所につくはずもない。


 それなのにも関わらずダズロは仕事と言った。


「ええと、精鋭部隊の配置が……」


 まるで何もない場所から声がささやかれるかのように次から次へと情報が彼の中に入り込んでいる。


 魔力による盗聴ではない。


 かと言って魔王軍のように取り入れた機械による盗聴でもない。


 ではどうやってか。


 数分間、歩きながら、ブツブツとつぶやく姿が誰かに見られないように周囲に気を配りながら散歩のようにダズロは歩き回す。


「……はぁ、読唇術って疲れるんですよねぇ。けどまぁ、魔力の波長がバレにくいから情報収集は遠距離からの盗撮に限ります」


 その移動も、使役している使い魔との距離を測り、情報を受信しやすいように立ち回っている。


 いったい何をやっていたのかダズロに聞けば、単純に鳥といった小動物を使い魔にして、視力強化と視力共有の魔法を複数個所当ててすべての口元を読んでいるだけと答えただろう。


 常人が聞けば、は?と何を言っているのだと思うような神業。


 一つの場所に集中するならおそらくできただろう。


「騎士団に動きあり、陽動と本命をきっちり分けてくれているあたり親切ですねぇ。おかげで行動が読みやすい。そして、ああ、気分が悪い。異端審問官の行動ってなんでこうも気持ちが悪いことしかしてくれないんですかねぇ。生き物をミンチにしないと気が済まない性格なんだろうかね」


 しかし、このつぶやきをもし誰かが聞けば、この男は複数の場所を監視していたことに気づいたかもしれない。


 けれども、常識という縛りからそう言う発想には至らない。


 いや、至れる人材が少ないと言っていい。


「しかし、助かりますね。手足の動きを読めばある程度の動きの予測ができる。おかげで誰を監視すればいいかもわかりやすくなる」


 そしてダズロは徹底して、そう言う発想に至れる輩への接触を減らしている。


 それだと情報の精度が下がるのではと思われるが、発想の逆転。


 どんなにすごい輩であっても、一人でできることは少ない。


 頭脳には手足が必要なのだ。


 その手足を読み切ってしまえば、頭脳が何をしたいかを推測することができる。


 そして手足には目も、耳も、鼻も、口もない。


 故に監視しやすい。


「さぁて、お仕事お仕事、つまらないけどお仕事しないと好きなことができませんからねぇ」


 着眼点の違いの差をダズロは持っているのであった。



 今日の一言


 こっそりとやることに意味がある。


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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